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第2章 街暮らし 冒険者編

第63話 火魔法・風魔法

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 翌朝、俺は日課にしている素振りと一通りの形で剣を振る。汗をかいたので水浴びをしようと、工事の終わった洗い場に初めて入る。

「確かに床もツルツル、壁も綺麗に補修してあるな」

 井戸から水を出して水浴びするが、ちゃんと排水されて洗い場に水が溜まる様子はない。

「キャッ! ごめんなさい、ユヅキさん」

 アイシャが洗い場のドアを開けてしまったようだ。

「野菜を洗おうとしたの。まだ裏庭にいるものだと思って……」

 まあ、そういうこともあるさ。

「すまないな、アイシャ。すぐに出るよ」

 体を拭いて、服を着て外に出る。入れ替わりに、籠に野菜を入れて少し顔を赤らめたアイシャが洗い場に入っていく。

 俺は椅子に座って頭をタオルで拭いていくが、やはりドライヤーが欲しいな。この世界に来て髪を切っていないから、かなり伸びてきて乾かすのが手間だ。
 ドライヤー……魔法で何とかならんか。要は、炎の熱を風に乗せればいいわけだ。

 風と火の魔法を同時に発動させたがダメだった。前にアイシャに教えてもらった、魔法属性の相性というやつだな。属性が合わないと発動しないか、どちらか一方の小さな魔法にしかならない。
 そういえば魔道弓を作った時、魔道具店のシルスさんが同じ場所でないなら大丈夫だと言っていたな。

 「それなら、左右別々ならいいんじゃないか?」 

 右手と左手で火と風を発動させたが、やはり打ち消されている。
 あれやこれやと魔法を発動させていると、洗い場から出てきたアイシャに「遊んでないでパンでも焼いて」と怒られてしまった。


 今日の冒険者の依頼は薬草採取を選ぶ。季節は初夏。山腹の林の中はまだマシだが、日に日に暑くなってきているな。そのお陰か、薬草はよく育ち群生地はすぐに見つかった。

「ユヅキさん。沢山生えているからと、全部採ってはダメよ」

 林を護るため、必ず一部を残して次の群生地へと向かう。これが最低限のマナーなのだが、根こそぎ採取していく冒険者もいる。アルヘナの町の住民から苦情が来て、この前も掲示板にマナーを守るようにと貼り出されていたな。

 林の中を歩いていると、そんな荒れ地を見つけた。

「ほんと仕方のない人達ね」

 そう言ってアイシャは、土がむき出しの一角に土魔法で指1本分の穴を掘り、さっき採取した薬草を植える。俺も手伝おうと穴を掘るが、耕すようなデコボコの穴にしかならない。   

「アイシャのように、薬草の根に合わせた、細くて深い穴は俺には無理だな」
「ユヅキさんは植えた後、水魔法で土を固めてくれるかしら」

 15本ほどの薬草を植えた後、一帯に雨のように水を降らす。この魔法の水もしばらくすると消えて無くなるが、土が固まり薬草が根付く手助けになる。

「さすが、ユヅキさんね。全属性が使えるなんて羨ましいわ」
「アイシャのような繊細な魔法が使える方が、すごいと思うぞ」

 俺ももっと魔法の練習をしないとな。
 その後も、林の中を歩き回り指定された数の薬草を集めた。仕事ではあるが、ピクニック気分でアイシャと林の中を歩くのは楽しい。

 夕食後、1階でアイシャは矢を作り、俺は魔法の練習だ。朝の続きで火と風を発動させて色々確かめてみる。
 よくよく観察してみると、指先で魔法が発動している最中に反発する属性は全く使えなくなる。だが指先から離れて炎となって発現した魔法は、反発属性の風の力で吹き消されているように見える。

 魔術師のネトも発動と発現は違うと言っていたな。指先で発動している間に、魔法を丸い球や細長い槍の形に変えて撃ち出すのが魔術、魔法技術だと言っていた。そのような事を魔術師学園で教えてもらうそうだ。

 それなら炎を飛ばしたすぐ後に風を飛ばせば、ドライヤーにならないか?

 もちろん普通の大きさで連続しても、温風にならず炎で髪が燃えてしまうだろう。でも微小の時間で切り替えれば、あたかも火と風が同時に飛ぶ形になるんじゃないだろうか。

 パソコンや携帯端末でも同じような仕組みがある。時分割じぶんかつだとかマルチタスクといった手法だ。

「これは使えるかもしれんな」

 片手で小さな炎と小さな風を交互に飛ばそうとするが、なかなか難しい。飛ばすときに指を弾くのだが飛んだり飛ばなかったりする。
 ならば指は固定して魔力をパッパッとオンとオフを切り替えたらどうなる。指を弾くのと同じように魔力が放出されないか?

 試してみたがやはり難しいな。人差し指と中指の感覚が分からなくなる。
 親指を人差し指にくっつけてみる。ここが人差し指か。感覚として分かりやすくなった。そこに魔力を注ぐ。次に親指で中指を確かめ魔力を切り替えて注ぐ。繰り返すと感覚が掴めてきたぞ。

 親指を左右に細かく動かしそれに合わせて、魔力もパッパッと切り替えると指先に炎と風の魔法が発動している。指先を顔に向けると温かい風が顔に吹き付けてきた。

「おぉ~、成功したぞ!」

 魔力を上げると、さらに暖かい風が顔に当たる。
 体の力が少し抜けてきた。そろそろ魔力切れか。今日はここまでとしよう。

 アイシャも矢を作り終えたようだな。

「アイシャ。そろそろ上で休もうか」
「ユヅキさん。何か叫んでいたけど、どうしたの」
「うん、うん。明日になれば分かるよ」

 明日には、このドライヤー魔法を完成させるぞ。
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