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第2章 街暮らし 冒険者編
第62話 灰色熊の討伐2
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倒れた灰色熊の魔獣を確かめに行くと、ピクリとも動かない。胸には3本の矢が深々と刺さり、目と肩口には1本ずつの矢が刺さっている。目に刺さっていたのはアイシャの矢だ。さすがアイシャだな。
「すごいです。魔法を使わせることなく倒してしまうなんて」
他のふたりもこっちに走ってきて、熊を見て驚いている。
ネウス達3人に周りを警戒してもらって、俺とアイシャは熊の内臓など不要な部分をその場に捨ててから熊を平原に引きずり出す。
土に埋めなくても森の中なら他の獣が食べてくれるだろう。
熊をそのまま川まで運んで、血抜きのため川に沈めておく。
「すごかったんだ! 熊がこっちに向かってきた時は怖かったけど、矢が飛んで熊が立ち上がったと思ったら、またすぐに矢が飛んで熊が倒れたんだ!」
ニッチが興奮しながら、討伐の様子を他のふたりに話している。
「ユヅキさん、アイシャさん、ありがとうございます。今回もダメなら依頼失敗を覚悟していたんです。僕の魔法で倒せなかった熊をあっさり倒してしまうなんて」
「あの、ユヅキさん。その手にしているのは弓ですよね」
リーダーのネウスが俺の持ってる弓を見て尋ねてくる。
「魔道弓といってまだ販売されていないが、特別に手に入れた物でな。君達でも使える操作の簡単な弓だ」
「すごい威力なんですね。灰色熊を倒してしまうなんて」
「しかし弓の腕前ならアイシャの方が上だ。熊の胸にアイシャの矢が2本当たっていただろう。それで倒せたんだ」
「ユヅキさんの弓も、前よりかなり威力が増していたわよ」
「改良されているからな。命中精度も上がっている」
市場調査のための貸し出しは、もう始まっているようだ。前に魔道弓を持った冒険者を見掛けた。販売されればネウス達も手に入れる事ができるだろう。
陽が東の空に傾いてきたな。そろそろ町に帰らんと。熊を木の棒に縛って男4人で担いで帰る。相当な重さだ。
ギルド横の入り口から入って、受け取り用の大きなカウンターに熊を置く。
「今日は大物じゃないか。よくやったな坊主ども」
3人は照れ笑いを浮かべながらも、元気よく頷いていた。依頼完了の報告書をもらって、受付カウンターで報酬をもらう。
「実績の配分はどうされますか?」
リーダーのネウスが置いたプレートを指差し。
「4・4・1・1でお願いします」
俺とアイシャが4割の実績だというのか? ネウスがこちらを見ながら小さな笑顔で口にする。
「これでいいんです」
自分のプレートは出さずに、パーティーメンバーだけに実績を付けたようだな。
「今日はありがとうございました。報酬も4・4で受け取ってください」
「少し多すぎないかしら、あなた達が受けた依頼だし、今日までにも戦ってきたんでしょう」
「いいんです。本当なら依頼を失敗して報酬もなく評価も下がっていたでしょう。無理な依頼を受けたのはオレです。他のふたりにも危険な目に合わせてしまいました」
そんなリーダーの言葉にパーティーメンバーも反省を口にする。
「僕達もこれぐらいならできると思って、反対もしなかったんですから」
「そうです。魔法の威力がもっとあれば倒せていたんです」
「そうだな、これから力をつけていけばオレ達だけでも倒せるようになるさ。頑張っていこうな」
これも勉強のひとつなんだろう。こいつらなら失敗を重ねながらも成長していけるさ。
ふと顔を上げ部屋の隅を見るとニックがニヤッとしてこちらを見ていやがる。やっぱり俺達に押し付けてやがったんだな。回りくどいやり方をする。
ギルドを後にしてアイシャと家に向かう途中、今日は熊の魔獣を倒したんだからお祝いでもしようと思いつき、酒店の前で立ち止まる。
「アイシャ。今日は灰色熊を討伐したお祝いに、ワインを買っていこうか」
「そうね。たまには贅沢してもいいわよね」
たしか家には、前に買った赤ワインが少し残っていたはずだ。
「今日は白ワインにしよう」
「白ワイン?」
「前に買ったのが赤ワインで白く透き通ったのが白なんだけど」
店の中を見渡したが瓶に入ったワインは無かった。樽か革袋に入ったものだけだ。
ガラスは貴重なのか、窓ガラス以外はコップなどの食器でもガラス製は見た事がない。
「どんな色かは帰ってからのお楽しみだ」
店員に言って、革袋に入った白ワインを買う。露店で売っていた肉の串焼きも4本買って、夕食も少し豪華にしてみよう。たまにはこういう楽しみもないとな。
家に帰って、今日買った白ワインと前の赤ワインを冷やす。
「そうだ、洗い場はもう使えるわよね。私、先に水浴びしてくるね」
「それなら俺は夕食の準備をしておくよ」
洗い場から水音がしてきた。やっぱり洗い場に井戸があれば便利だよな。俺も少し汗をかいたが、一緒に入る訳にもいかんし、湿らせたタオルで体を拭く程度で済ませるか。
野菜を切って干し肉と豆を一緒に入れてスープを作る。パンは捏ねておいて、食べる前に焼こう。買ってきた串焼きも少し炙れば美味しくなるな。
洗い場のドアが開いて、部屋着姿のアイシャが出てくる。
水浴びを終えたアイシャは椅子に座り、しっとりとしたしっぽを丁寧にタオルで拭いていく。う~ん、体を捻ってしっぽを拭くこの仕草がいいんだよな~。
猫が背中やしっぽを毛づくろいしている動画を思い出すぜ。
「ユヅキさん、どうしたの? 洗い場、空いたわよ」
「いや、俺はさっき体を拭いたから」
などと言って、しっぽを拭き終わるまで堪能させてもらった。モフモフ最高~。
「さて、灰色熊の討伐を祝して、乾杯しよう」
「はい、乾杯。これが白ワイン? 少し酸っぱいけど渋みがなくてすっきりしてるわね」
アイシャのワインはいつものように水で薄めているが、美味しいようだ。
「そうだろ、色も綺麗だし」
木のコップの中をランプで照らして色を確かめてみる。
「そうね、透明で綺麗ね」
「そういえば、新しい洗い場はどうだった」
「うん、綺麗でね、井戸が便利で、それでね……」
今日も楽しかった一日が暮れていく。
「すごいです。魔法を使わせることなく倒してしまうなんて」
他のふたりもこっちに走ってきて、熊を見て驚いている。
ネウス達3人に周りを警戒してもらって、俺とアイシャは熊の内臓など不要な部分をその場に捨ててから熊を平原に引きずり出す。
土に埋めなくても森の中なら他の獣が食べてくれるだろう。
熊をそのまま川まで運んで、血抜きのため川に沈めておく。
「すごかったんだ! 熊がこっちに向かってきた時は怖かったけど、矢が飛んで熊が立ち上がったと思ったら、またすぐに矢が飛んで熊が倒れたんだ!」
ニッチが興奮しながら、討伐の様子を他のふたりに話している。
「ユヅキさん、アイシャさん、ありがとうございます。今回もダメなら依頼失敗を覚悟していたんです。僕の魔法で倒せなかった熊をあっさり倒してしまうなんて」
「あの、ユヅキさん。その手にしているのは弓ですよね」
リーダーのネウスが俺の持ってる弓を見て尋ねてくる。
「魔道弓といってまだ販売されていないが、特別に手に入れた物でな。君達でも使える操作の簡単な弓だ」
「すごい威力なんですね。灰色熊を倒してしまうなんて」
「しかし弓の腕前ならアイシャの方が上だ。熊の胸にアイシャの矢が2本当たっていただろう。それで倒せたんだ」
「ユヅキさんの弓も、前よりかなり威力が増していたわよ」
「改良されているからな。命中精度も上がっている」
市場調査のための貸し出しは、もう始まっているようだ。前に魔道弓を持った冒険者を見掛けた。販売されればネウス達も手に入れる事ができるだろう。
陽が東の空に傾いてきたな。そろそろ町に帰らんと。熊を木の棒に縛って男4人で担いで帰る。相当な重さだ。
ギルド横の入り口から入って、受け取り用の大きなカウンターに熊を置く。
「今日は大物じゃないか。よくやったな坊主ども」
3人は照れ笑いを浮かべながらも、元気よく頷いていた。依頼完了の報告書をもらって、受付カウンターで報酬をもらう。
「実績の配分はどうされますか?」
リーダーのネウスが置いたプレートを指差し。
「4・4・1・1でお願いします」
俺とアイシャが4割の実績だというのか? ネウスがこちらを見ながら小さな笑顔で口にする。
「これでいいんです」
自分のプレートは出さずに、パーティーメンバーだけに実績を付けたようだな。
「今日はありがとうございました。報酬も4・4で受け取ってください」
「少し多すぎないかしら、あなた達が受けた依頼だし、今日までにも戦ってきたんでしょう」
「いいんです。本当なら依頼を失敗して報酬もなく評価も下がっていたでしょう。無理な依頼を受けたのはオレです。他のふたりにも危険な目に合わせてしまいました」
そんなリーダーの言葉にパーティーメンバーも反省を口にする。
「僕達もこれぐらいならできると思って、反対もしなかったんですから」
「そうです。魔法の威力がもっとあれば倒せていたんです」
「そうだな、これから力をつけていけばオレ達だけでも倒せるようになるさ。頑張っていこうな」
これも勉強のひとつなんだろう。こいつらなら失敗を重ねながらも成長していけるさ。
ふと顔を上げ部屋の隅を見るとニックがニヤッとしてこちらを見ていやがる。やっぱり俺達に押し付けてやがったんだな。回りくどいやり方をする。
ギルドを後にしてアイシャと家に向かう途中、今日は熊の魔獣を倒したんだからお祝いでもしようと思いつき、酒店の前で立ち止まる。
「アイシャ。今日は灰色熊を討伐したお祝いに、ワインを買っていこうか」
「そうね。たまには贅沢してもいいわよね」
たしか家には、前に買った赤ワインが少し残っていたはずだ。
「今日は白ワインにしよう」
「白ワイン?」
「前に買ったのが赤ワインで白く透き通ったのが白なんだけど」
店の中を見渡したが瓶に入ったワインは無かった。樽か革袋に入ったものだけだ。
ガラスは貴重なのか、窓ガラス以外はコップなどの食器でもガラス製は見た事がない。
「どんな色かは帰ってからのお楽しみだ」
店員に言って、革袋に入った白ワインを買う。露店で売っていた肉の串焼きも4本買って、夕食も少し豪華にしてみよう。たまにはこういう楽しみもないとな。
家に帰って、今日買った白ワインと前の赤ワインを冷やす。
「そうだ、洗い場はもう使えるわよね。私、先に水浴びしてくるね」
「それなら俺は夕食の準備をしておくよ」
洗い場から水音がしてきた。やっぱり洗い場に井戸があれば便利だよな。俺も少し汗をかいたが、一緒に入る訳にもいかんし、湿らせたタオルで体を拭く程度で済ませるか。
野菜を切って干し肉と豆を一緒に入れてスープを作る。パンは捏ねておいて、食べる前に焼こう。買ってきた串焼きも少し炙れば美味しくなるな。
洗い場のドアが開いて、部屋着姿のアイシャが出てくる。
水浴びを終えたアイシャは椅子に座り、しっとりとしたしっぽを丁寧にタオルで拭いていく。う~ん、体を捻ってしっぽを拭くこの仕草がいいんだよな~。
猫が背中やしっぽを毛づくろいしている動画を思い出すぜ。
「ユヅキさん、どうしたの? 洗い場、空いたわよ」
「いや、俺はさっき体を拭いたから」
などと言って、しっぽを拭き終わるまで堪能させてもらった。モフモフ最高~。
「さて、灰色熊の討伐を祝して、乾杯しよう」
「はい、乾杯。これが白ワイン? 少し酸っぱいけど渋みがなくてすっきりしてるわね」
アイシャのワインはいつものように水で薄めているが、美味しいようだ。
「そうだろ、色も綺麗だし」
木のコップの中をランプで照らして色を確かめてみる。
「そうね、透明で綺麗ね」
「そういえば、新しい洗い場はどうだった」
「うん、綺麗でね、井戸が便利で、それでね……」
今日も楽しかった一日が暮れていく。
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