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第2章 街暮らし 冒険者編
第57話 市場調査
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昼過ぎ。俺は冒険者ギルドに行き事務所内の部屋に案内された。
ギルドマスターのジルの隣には見知らぬ豹獣人の女性が座っている。服装からするとギルド職員だが、カウンターで見る受付嬢とは違い地味な制服だな。
「ユヅキ、呼び出してすまんな。昨日言っていた魔道弓の担当者を決めたので紹介しておく」
豹獣人の女性が、ニコリと笑顔で挨拶してくる。
「初めまして、私はエルーアといいます。よろしくお願い致します」
「俺はユヅキだ。よろしく」
「専任ではないが貸し出し者の人選から対応まで、全てをこいつにやってもらう」
エルーアさんは俺より年下のようだが、しっかりしたお姉さんといった感じの人だ。
「今回の件は俺もこいつも初めての事だ。ユヅキから色々と教えてやってくれ。できれば今後も相談に乗ってくれんか」
「俺は冒険者としての仕事もある。職員のように働くことはできないぞ」
「ああ、分かっている。ユヅキの仕事が終わった後に、こいつの話を聞いて助言してもらえば、それでいい」
まあ、その程度ならアイシャに迷惑はかけないだろう。俺も魔道弓に関わった人間だからな、最後まで面倒は見たい。
「それじゃ後は任せる。弓の試射をするなら裏庭を使ってくれ」
そう言い残して、ジルは事務所に戻っていった。
「ユヅキさん。私は事務専門で武器の事はあまり知りません。弓の取り扱いから教えてもらえますか」
既に貸し出す魔道弓のサンプルを3つ受け取っているそうで、テーブルの上に並べてくれた。
「この3台は弓の強さ、先端にあるこの部分が違うだけで後は全部一緒だ。力の強さや好みで、どれを使うかを決めてもらう」
「私が決めるのではなく、使う人が決めるのですか」
「そうだ。エルーアさんは貸し出す人の人選をして、どれを使うか商業ギルドに連絡すれば、その弓を用意してくれるはずだ」
貸し出し手順などは、後で確認すると言っている。
「この武器の扱い方だが、自分で使った方が早いな。裏庭で試射をしよう」
裏庭に出て、俺が手を添えながら実際に撃ってもらうと、ちゃんと的の板に突き刺さる。
「なんだか怖いですけど、私でもちゃんと撃てましたね」
もう一度、基本的な操作を説明して覚えてもらった後、さっきの部屋に戻り重要な点について説明する。
「エルーアさんが弓に詳しくなる必要はない。貸し出し者に手順と注意する点だけを説明すれば、武器の扱いに慣れた冒険者なら充分使いこなすことができる」
貸し出し者に下手な先入観を与えない方がいいしな。
エルーアさんにこの弓の特徴である安全装置や照準器の説明をしたが、取扱説明書をもらっていないのか、手書きでメモしているな。俺が書いた物を職人ギルドに置いていたはずだが。
「手順や注意事項を書いたものがある。商業ギルドに取扱説明書が欲しいと言えば送ってもらえるはずだ」
「分かりました。後で連絡してみます」
エルーアさんひとりが担当者だと言っていた。直接商業ギルドと連絡を取り合ってもらえば、話も早い。
「次に人選だが、どのように聞いている?」
「冒険者の割合に合わせて、各ランクから選べと言われています」
「ギルドに登録している冒険者は全員で何人だ」
「約200人です。こちらに来ていただけますか」
事務所に入りエルーアさんの席に椅子を用意してもらった。机の上に台帳開き見せてもらう。
「総数214名、内青銅が104名、鉄が83名、白銀が24名、黄金が3名です」
貸し出しは10台だから約5%だな。
「それなら青銅が5名、鉄が4名、白銀が1名、黄金は無しだな。青銅と鉄は各レベルから1名ずつ、青銅の残りは武器知識のあるレベル4の者を選べばいいだろう」
俺が紙にメモを取りながら話す。
「後は信頼のおける人物かを、実績などでエルーアさんに判断してもらうしかないな」
話していると、エルーアさんが不思議そうな顔で尋ねてきた。
「あの、ユヅキさんは貴族学校を卒業されているのですか?」
「いいや。だから字の読み書きもできないんだ」
「でも計算が……」
「数字なら俺にも分かるからな。それより貸し出し用の名簿を別に作った方がいい」
「は、はい。そうですね」
エルーアさんも、台帳を見ながら別の紙を用意し名簿の作成をしていく。
「内部にはすべての情報を書いてもいいが、商業ギルドに渡す名簿は名前など出さずに、ランク、レベル、経験年数ぐらいに限定した方がいい」
「それはなぜですか?」
「不必要な情報は向こうを混乱させるだけだ。個人名まで教えるなら調査に参加しないという冒険者もいるだろう。協力してくれる人の了解が取りやすくなる」
「なるほど」
人の管理は冒険者ギルドで、物の管理は商業ギルドと分けた方がいいな。
「向こうが欲しい情報は何かを、事前に聞いておいた方がいいな」
「分かりました」
「今日のところは、こんなものでいいか?」
「はい。分からない事があれば、明日以降ユヅキさんに連絡すればいいですか?」
「いつも来れる訳じゃないが、仕事が終わったらこちらから声をかけるよ」
不在の場合はデンデン貝で連絡を取り合うようにしようと打ち合わせた。職人ギルドでしていた方法と同じだ。
もう外は暗くなってきたな。俺は冒険者ギルドを出て家路につく。
「なるほど……。ギルドマスターがユヅキさんの仕事の様子を報告するようにと、言っていた意味が分かったような気がするわ」
エルーアはひとり呟いた。
ギルドマスターのジルの隣には見知らぬ豹獣人の女性が座っている。服装からするとギルド職員だが、カウンターで見る受付嬢とは違い地味な制服だな。
「ユヅキ、呼び出してすまんな。昨日言っていた魔道弓の担当者を決めたので紹介しておく」
豹獣人の女性が、ニコリと笑顔で挨拶してくる。
「初めまして、私はエルーアといいます。よろしくお願い致します」
「俺はユヅキだ。よろしく」
「専任ではないが貸し出し者の人選から対応まで、全てをこいつにやってもらう」
エルーアさんは俺より年下のようだが、しっかりしたお姉さんといった感じの人だ。
「今回の件は俺もこいつも初めての事だ。ユヅキから色々と教えてやってくれ。できれば今後も相談に乗ってくれんか」
「俺は冒険者としての仕事もある。職員のように働くことはできないぞ」
「ああ、分かっている。ユヅキの仕事が終わった後に、こいつの話を聞いて助言してもらえば、それでいい」
まあ、その程度ならアイシャに迷惑はかけないだろう。俺も魔道弓に関わった人間だからな、最後まで面倒は見たい。
「それじゃ後は任せる。弓の試射をするなら裏庭を使ってくれ」
そう言い残して、ジルは事務所に戻っていった。
「ユヅキさん。私は事務専門で武器の事はあまり知りません。弓の取り扱いから教えてもらえますか」
既に貸し出す魔道弓のサンプルを3つ受け取っているそうで、テーブルの上に並べてくれた。
「この3台は弓の強さ、先端にあるこの部分が違うだけで後は全部一緒だ。力の強さや好みで、どれを使うかを決めてもらう」
「私が決めるのではなく、使う人が決めるのですか」
「そうだ。エルーアさんは貸し出す人の人選をして、どれを使うか商業ギルドに連絡すれば、その弓を用意してくれるはずだ」
貸し出し手順などは、後で確認すると言っている。
「この武器の扱い方だが、自分で使った方が早いな。裏庭で試射をしよう」
裏庭に出て、俺が手を添えながら実際に撃ってもらうと、ちゃんと的の板に突き刺さる。
「なんだか怖いですけど、私でもちゃんと撃てましたね」
もう一度、基本的な操作を説明して覚えてもらった後、さっきの部屋に戻り重要な点について説明する。
「エルーアさんが弓に詳しくなる必要はない。貸し出し者に手順と注意する点だけを説明すれば、武器の扱いに慣れた冒険者なら充分使いこなすことができる」
貸し出し者に下手な先入観を与えない方がいいしな。
エルーアさんにこの弓の特徴である安全装置や照準器の説明をしたが、取扱説明書をもらっていないのか、手書きでメモしているな。俺が書いた物を職人ギルドに置いていたはずだが。
「手順や注意事項を書いたものがある。商業ギルドに取扱説明書が欲しいと言えば送ってもらえるはずだ」
「分かりました。後で連絡してみます」
エルーアさんひとりが担当者だと言っていた。直接商業ギルドと連絡を取り合ってもらえば、話も早い。
「次に人選だが、どのように聞いている?」
「冒険者の割合に合わせて、各ランクから選べと言われています」
「ギルドに登録している冒険者は全員で何人だ」
「約200人です。こちらに来ていただけますか」
事務所に入りエルーアさんの席に椅子を用意してもらった。机の上に台帳開き見せてもらう。
「総数214名、内青銅が104名、鉄が83名、白銀が24名、黄金が3名です」
貸し出しは10台だから約5%だな。
「それなら青銅が5名、鉄が4名、白銀が1名、黄金は無しだな。青銅と鉄は各レベルから1名ずつ、青銅の残りは武器知識のあるレベル4の者を選べばいいだろう」
俺が紙にメモを取りながら話す。
「後は信頼のおける人物かを、実績などでエルーアさんに判断してもらうしかないな」
話していると、エルーアさんが不思議そうな顔で尋ねてきた。
「あの、ユヅキさんは貴族学校を卒業されているのですか?」
「いいや。だから字の読み書きもできないんだ」
「でも計算が……」
「数字なら俺にも分かるからな。それより貸し出し用の名簿を別に作った方がいい」
「は、はい。そうですね」
エルーアさんも、台帳を見ながら別の紙を用意し名簿の作成をしていく。
「内部にはすべての情報を書いてもいいが、商業ギルドに渡す名簿は名前など出さずに、ランク、レベル、経験年数ぐらいに限定した方がいい」
「それはなぜですか?」
「不必要な情報は向こうを混乱させるだけだ。個人名まで教えるなら調査に参加しないという冒険者もいるだろう。協力してくれる人の了解が取りやすくなる」
「なるほど」
人の管理は冒険者ギルドで、物の管理は商業ギルドと分けた方がいいな。
「向こうが欲しい情報は何かを、事前に聞いておいた方がいいな」
「分かりました」
「今日のところは、こんなものでいいか?」
「はい。分からない事があれば、明日以降ユヅキさんに連絡すればいいですか?」
「いつも来れる訳じゃないが、仕事が終わったらこちらから声をかけるよ」
不在の場合はデンデン貝で連絡を取り合うようにしようと打ち合わせた。職人ギルドでしていた方法と同じだ。
もう外は暗くなってきたな。俺は冒険者ギルドを出て家路につく。
「なるほど……。ギルドマスターがユヅキさんの仕事の様子を報告するようにと、言っていた意味が分かったような気がするわ」
エルーアはひとり呟いた。
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