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第2章 街暮らし 冒険者編
第53話 初めての狼討伐1
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「さて挨拶も済んだことだし、早速だが今日の仕事の話をしよう」
リーダーのニックが話し出す。
「西にある魔の森近くの牧場で、最近狼による被害が多発している。魔獣ではないただの狼だが、群れを成しているので厄介だ。今回はこの狼の討伐で鉄ランクの依頼となる」
魔獣……魔法で攻撃してくる獣。そんな恐ろしい動物の討伐など、俺達にはまだ無理だ。狼なら何とかできるか。
「昨日までに狼の巣穴は見つけてある。この辺りの森の中であまり深くない場所だ。今日はその巣穴から狼を追い出して倒していく」
ニックが地図を指差しながら説明してくれる。
「君たち魔法は使えるのか?」
「生活魔法程度で獣を倒す程の威力はない。武器はふたりとも弓だ。俺は少しなら剣が扱える程度だ」
「その手に持っている木の武器も弓なの。変わった武器ね」
「ちょっと訳ありでな。俺専用の弓だ」
魔道弓はまだ完成していない。俺が自分で作ったクロスボウを今日は持ってきている。
「今回は巣穴を取り囲んで、ネトの魔法で追い出してから仕留める。狼を魔の森の奥に逃がさないようにしてくれ」
なるほど平原側に狼を追い出して倒すという事か。こういう作戦もあるんだな。その後もニックは討伐についての注意事項を話す。
「森の奥に逃げた狼は追わなくていい。追いかけると他の魔獣に襲われる危険があるからな」
「すまないが俺達は初心者なんで、アイシャと二人一組で行動させてもらいたい」
「そうだな、君達はこの位置で狼を追い立ててくれ。狼に襲われないよう木の上から狙ってくれればいい。今回は安全第一で行動してくれるかな」
そう言ってもらえると助かるな。剣士のロボスが作戦の修正を申し出る。
「それなら俺とネトでこの位置から攻撃と牽制をしよう。リーダーとリアトルが攻撃と援護の魔法を使ってくれ」
「そうだな、草原の俺の方に誘導してくれるか。リアトルは森を出たところで狼の足止めを頼む」
「そうね、この位置に沼を作りましょう。足止めしている間に遠距離から攻撃して数を減らせば大丈夫だと思うわ」
「狼は6、7匹程度だが成獣ばかりの群れだ。速くて力の強い個体なので気を抜かないようにしてくれ」
なんだか魔法を駆使した戦い方をするようだな。俺達も役立てるように頑張らないと。作戦会議を終えて俺達は魔の森へと向かう。
町の西門を出て街道を歩いて行くが、途中山への道しるべの所でふたり立ち止まり、アイシャの家の方を見てしまう。引っ越して2週間程しか経っていないが、懐かしく思う。
俺達は道しるべを越えて、さらに街道を西へ向かい魔の森へと近づいていく。
「ねえ、あなた達。猟師していたって言ってたけど、人族のユヅキさんも猟師をしてたの?」
「俺は最近この国に来たが、縁あってアイシャの家に住まわせてもらい、猟師の手伝いをしていた」
「そうだよね。ボクも小さい頃から人族は遠くに住んでいて、変な魔道具を作っているって聞いてたもの。怖い人達だって聞いてるよ」
「こらネト、そんな噂話で人を判断したらダメだぞ」
ネトが剣士のロボスにまた怒られている。
「冒険者は他人の素性を詮索しないのがマナーなんだが、やはり人族となるとどうしてもな……すまんな」
「いや別に気にしていない。目が赤いとか人族の噂をアイシャからも聞いているが、皆本当に信じているのか?」
この世界に俺と同じ人族が居ると聞いてはいるが、この町で実際に会った獣人はいないようで噂だけが流れている。
「実際に起きた歴史として、300年とか400年前に人族がこの世界の3分の1を支配し、その後ドラゴン族と共闘して世界を滅ぼしかけたというのは確かだと聞いているな」
「その時に勇者が現れて、ドラゴンを倒して人族を滅ぼしたんだって。ボクもそんな勇者になってみたいな」
「まあ、そのあたりになると事実かどうか怪しいのだが、帝国はその勇者が興した国だといわれているな」
なるほど。歴史としての事実があるようだな。それで皆、人族を恐れているのか。
「ネト、勇者なんておとぎ話なのよ。世界を滅ぼしかけた人族を勇者ひとりで倒せるわけないでしょう。実際ドラゴンも人族もちゃんと生き残っているもの。そういえばリーダーは昔、人族に会ったことがあるんですよね」
「ああ、俺がまだ駆け出しのころ王都に連れていってもらった時にな。男女ふたりで旅をしていて、その時は王城に住んでいるとか言っていたな」
ほほう。その人族が俺みたいに転生してきたのか、昔話の生き残りか……機会があれば会ってみたいものだな。
「君も故郷を出て旅してきたのだろう」
「ああ、ずいぶん前の事になるがな」
ここは話を合わせておかないと。
「ねえ、ねえ。どこを旅してきたの」
「それはだな、海を越えてだな……」
「こらネト、だから詮索しないの。人族はこの大陸の端、その海の向こうに住んでるの。こんな遠くまで来たんだから余程の事があるのよ」
ほほう、人族の国なのか里なのかは海の向こうにあるのか。初めて聞いたが適当に言った話が合っていて良かった。
これはあまりしゃべらん方がいいな。
「そろそろ魔の森だ。気を引き締めてくれ」
「おう!」
俺達は作戦通り配置につく。静かに巣穴に近づき木に登って待ち構える。
「ユヅキさん、巣穴から出てくる狼はここを通るわ。そこを狙って少しでも数を減らしましょう」
そうだな、来るのが分かっているんだからよく狙って当てよう。俺はクロスボウを構える。
作戦が始まった。ネトの火魔法が巣穴に放たれる。ファイヤーボールという感じの大きな炎の塊が2つ狼の巣穴に飛んでいく。
狼の叫び声と群れで疾走してくる足音が聞こえる。速い!
俺が1射、アイシャが2射矢を放った。当たったかどうか俺には分からなかったが、森の奥には逃がさず平原の方に誘導はできたようだ。
反対側のロボスとネトの組も攻撃を仕掛けているようで、金属音と魔法の爆発音が聞こえてくる。
俺達は樹上から降り平原の方に走っていく。森を抜けてリーダーのいる方向を見るとまだ相当数の狼が、ニックに襲い掛かろうとしている。
まずいな! 足止めが効かなかったのかロボス達も間に合っていない。後方のリアトルが危ない。
「アイシャ! 援護を頼む」
「はい、任せて!」
狼が1匹アイシャの矢に倒れる。さすがだな、この距離からでも当てるか。
俺は牽制のクロスボウを1射撃った後、ショートソードを握って狼に向かって走り出す。
――ブゥ~ン
超音波振動を起動させる。この音で狼が逃げるなら追えばいい。こちらに向かってくるならニックが追撃するだろう。
ニックを襲っていた内の2匹がこちらに向かってきた。牙をむき出しにして俺に迫ってくる。
ならば! 剣を水平にして狼の口に向けて剣を振る。
狼が真っ二つになって転がった。俺はその勢いのまま横に転がりもう1匹を躱す。
向き直り剣を構えた時、アイシャの矢が狼の背に突き刺さる。怯んだところを俺が剣で止めを刺す。狩りの時の連携が活きているな。
ニックの方も片が付いたようだ。ロボスとネトの組も森から出てこちらに向かっている。
アイシャもこっちに歩いてくるが、何だか怒っているぞ。
「ユヅキさん、獣を斬るとき一刀両断はダメだって言ったでしょう。毛皮の価値が下がるの!」
「すみません。ごめんなさい。私が悪かったです」
「はい、分かればよろしい」
俺達は倒した狼を持ってニックの元に集まる。
リーダーのニックが話し出す。
「西にある魔の森近くの牧場で、最近狼による被害が多発している。魔獣ではないただの狼だが、群れを成しているので厄介だ。今回はこの狼の討伐で鉄ランクの依頼となる」
魔獣……魔法で攻撃してくる獣。そんな恐ろしい動物の討伐など、俺達にはまだ無理だ。狼なら何とかできるか。
「昨日までに狼の巣穴は見つけてある。この辺りの森の中であまり深くない場所だ。今日はその巣穴から狼を追い出して倒していく」
ニックが地図を指差しながら説明してくれる。
「君たち魔法は使えるのか?」
「生活魔法程度で獣を倒す程の威力はない。武器はふたりとも弓だ。俺は少しなら剣が扱える程度だ」
「その手に持っている木の武器も弓なの。変わった武器ね」
「ちょっと訳ありでな。俺専用の弓だ」
魔道弓はまだ完成していない。俺が自分で作ったクロスボウを今日は持ってきている。
「今回は巣穴を取り囲んで、ネトの魔法で追い出してから仕留める。狼を魔の森の奥に逃がさないようにしてくれ」
なるほど平原側に狼を追い出して倒すという事か。こういう作戦もあるんだな。その後もニックは討伐についての注意事項を話す。
「森の奥に逃げた狼は追わなくていい。追いかけると他の魔獣に襲われる危険があるからな」
「すまないが俺達は初心者なんで、アイシャと二人一組で行動させてもらいたい」
「そうだな、君達はこの位置で狼を追い立ててくれ。狼に襲われないよう木の上から狙ってくれればいい。今回は安全第一で行動してくれるかな」
そう言ってもらえると助かるな。剣士のロボスが作戦の修正を申し出る。
「それなら俺とネトでこの位置から攻撃と牽制をしよう。リーダーとリアトルが攻撃と援護の魔法を使ってくれ」
「そうだな、草原の俺の方に誘導してくれるか。リアトルは森を出たところで狼の足止めを頼む」
「そうね、この位置に沼を作りましょう。足止めしている間に遠距離から攻撃して数を減らせば大丈夫だと思うわ」
「狼は6、7匹程度だが成獣ばかりの群れだ。速くて力の強い個体なので気を抜かないようにしてくれ」
なんだか魔法を駆使した戦い方をするようだな。俺達も役立てるように頑張らないと。作戦会議を終えて俺達は魔の森へと向かう。
町の西門を出て街道を歩いて行くが、途中山への道しるべの所でふたり立ち止まり、アイシャの家の方を見てしまう。引っ越して2週間程しか経っていないが、懐かしく思う。
俺達は道しるべを越えて、さらに街道を西へ向かい魔の森へと近づいていく。
「ねえ、あなた達。猟師していたって言ってたけど、人族のユヅキさんも猟師をしてたの?」
「俺は最近この国に来たが、縁あってアイシャの家に住まわせてもらい、猟師の手伝いをしていた」
「そうだよね。ボクも小さい頃から人族は遠くに住んでいて、変な魔道具を作っているって聞いてたもの。怖い人達だって聞いてるよ」
「こらネト、そんな噂話で人を判断したらダメだぞ」
ネトが剣士のロボスにまた怒られている。
「冒険者は他人の素性を詮索しないのがマナーなんだが、やはり人族となるとどうしてもな……すまんな」
「いや別に気にしていない。目が赤いとか人族の噂をアイシャからも聞いているが、皆本当に信じているのか?」
この世界に俺と同じ人族が居ると聞いてはいるが、この町で実際に会った獣人はいないようで噂だけが流れている。
「実際に起きた歴史として、300年とか400年前に人族がこの世界の3分の1を支配し、その後ドラゴン族と共闘して世界を滅ぼしかけたというのは確かだと聞いているな」
「その時に勇者が現れて、ドラゴンを倒して人族を滅ぼしたんだって。ボクもそんな勇者になってみたいな」
「まあ、そのあたりになると事実かどうか怪しいのだが、帝国はその勇者が興した国だといわれているな」
なるほど。歴史としての事実があるようだな。それで皆、人族を恐れているのか。
「ネト、勇者なんておとぎ話なのよ。世界を滅ぼしかけた人族を勇者ひとりで倒せるわけないでしょう。実際ドラゴンも人族もちゃんと生き残っているもの。そういえばリーダーは昔、人族に会ったことがあるんですよね」
「ああ、俺がまだ駆け出しのころ王都に連れていってもらった時にな。男女ふたりで旅をしていて、その時は王城に住んでいるとか言っていたな」
ほほう。その人族が俺みたいに転生してきたのか、昔話の生き残りか……機会があれば会ってみたいものだな。
「君も故郷を出て旅してきたのだろう」
「ああ、ずいぶん前の事になるがな」
ここは話を合わせておかないと。
「ねえ、ねえ。どこを旅してきたの」
「それはだな、海を越えてだな……」
「こらネト、だから詮索しないの。人族はこの大陸の端、その海の向こうに住んでるの。こんな遠くまで来たんだから余程の事があるのよ」
ほほう、人族の国なのか里なのかは海の向こうにあるのか。初めて聞いたが適当に言った話が合っていて良かった。
これはあまりしゃべらん方がいいな。
「そろそろ魔の森だ。気を引き締めてくれ」
「おう!」
俺達は作戦通り配置につく。静かに巣穴に近づき木に登って待ち構える。
「ユヅキさん、巣穴から出てくる狼はここを通るわ。そこを狙って少しでも数を減らしましょう」
そうだな、来るのが分かっているんだからよく狙って当てよう。俺はクロスボウを構える。
作戦が始まった。ネトの火魔法が巣穴に放たれる。ファイヤーボールという感じの大きな炎の塊が2つ狼の巣穴に飛んでいく。
狼の叫び声と群れで疾走してくる足音が聞こえる。速い!
俺が1射、アイシャが2射矢を放った。当たったかどうか俺には分からなかったが、森の奥には逃がさず平原の方に誘導はできたようだ。
反対側のロボスとネトの組も攻撃を仕掛けているようで、金属音と魔法の爆発音が聞こえてくる。
俺達は樹上から降り平原の方に走っていく。森を抜けてリーダーのいる方向を見るとまだ相当数の狼が、ニックに襲い掛かろうとしている。
まずいな! 足止めが効かなかったのかロボス達も間に合っていない。後方のリアトルが危ない。
「アイシャ! 援護を頼む」
「はい、任せて!」
狼が1匹アイシャの矢に倒れる。さすがだな、この距離からでも当てるか。
俺は牽制のクロスボウを1射撃った後、ショートソードを握って狼に向かって走り出す。
――ブゥ~ン
超音波振動を起動させる。この音で狼が逃げるなら追えばいい。こちらに向かってくるならニックが追撃するだろう。
ニックを襲っていた内の2匹がこちらに向かってきた。牙をむき出しにして俺に迫ってくる。
ならば! 剣を水平にして狼の口に向けて剣を振る。
狼が真っ二つになって転がった。俺はその勢いのまま横に転がりもう1匹を躱す。
向き直り剣を構えた時、アイシャの矢が狼の背に突き刺さる。怯んだところを俺が剣で止めを刺す。狩りの時の連携が活きているな。
ニックの方も片が付いたようだ。ロボスとネトの組も森から出てこちらに向かっている。
アイシャもこっちに歩いてくるが、何だか怒っているぞ。
「ユヅキさん、獣を斬るとき一刀両断はダメだって言ったでしょう。毛皮の価値が下がるの!」
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