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第2章 街暮らし 冒険者編

第50話 今日もカエル

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 今日もカエルを狩るために山に入る。

「ユヅキさん、今日は弓だけでカエルを捕りましょう」

 それは助かる。もうあのカエルの下敷きになるのは絶対嫌だ。
 昨日とは違う沼に向かい山道を歩く。途中で薬草の群生地も見つかり、薬草採取もできた。
 沼に近づくと相変わらず「ゲコゲコ」とカエルがうるさい。

「同時に矢を放ちましょう。私に合わせてくださいね」

 アイシャが小さな声で、「イチニのサン」と掛け声をかける。
 アイシャは2本、俺は1本矢を放つ。さすがアイシャだ、瞬時に放った矢を2本とも当てている。仕留めた3匹を小川まで持って行き下処理をする。

「いつもこんな依頼があればいいのにね~」
「そうだな。今日の掲示板には、やたら魔獣の討伐依頼が多かったな」

 町を出る前にギルドに寄って掲示板を確認したが、薬草の採取か、魔獣討伐だけだった。今の俺達にできる事は少ない。薬草だけじゃ報酬が少ないからな~。
 俺達はカエルの血抜きが終わるまで、のんびりとおしゃべりする。

「ユヅキさんのお仕事は、どうなの?」
「今のところは順調だよ。でもずっと続くわけじゃないからな~」

 正規の職員じゃないから仕方ないのだが。

「せっかく冒険者になったんだ。魔獣討伐もやってみたいよな~」
「そうね、いずれは討伐もしないとね。そうだユヅキさん、今日捕ったカエルのうち1匹は家に持ち帰りましょうか。干し肉しかなかったから、新鮮なお肉を食べましょうよ」
「そうだな、こいつらは割と美味いからな」
「さてと、そろそろ町に戻りましょうか」

 カエルを3匹背負って山を降りる。冒険者としての初めて受けた依頼を、これで完了できそうだ。


「おっ、今日もカエルを捕ってきたな」
「ええ。カエル3匹のうち、1匹は家に持ち帰ります。それと薬草の100枚も確認お願いします」

 男の獣人が捕ってきた獲物と薬草を確認していく。

「よし、依頼分は揃っている。これで依頼完了だな。この書類を受け付けカウンターに持っていって報酬を受け取ってくれ」

 俺達は昨日と同じ受付嬢のいる列に並んで順番を待つ。

「いらっしゃいませ。あれ、昨日登録したアイシャさんですよね。依頼順調ですか?」
「はい、この書類を見せなさいって、向こうのカウンターの人が言ってました」
「それでは確認しますね。えっ、カエルを8匹も! ふたりだけで捕ったの? しかも優良が付いてますよ」
「優良?」
「捕獲した獣や魔獣の肉とか毛皮の状態がいい場合は、報酬が上乗せされるんですよ。猟師をしていたと言ってましたね。それだからでしょうか」

 フムフムと感心しつつ書類を見ながら、カウンター下の引き出しから報酬分の銀貨を取り出す。

「ではカエルの報酬、優良付きで銀貨36枚と、薬草の報酬が銀貨5枚です。確認してください」

 おお~、初めての報酬だよ。予定よりも多くのお金を手にして、アイシャもホクホク顔だ。

「それでは、おふたりの冒険者プレートをこの板の上に置いてください。今回の依頼完了分を記録します」

 プレートを置いて受付嬢が魔力を流すと一瞬光ってすぐに消えた。
 これも魔道具か。プレートに何かを焼き付けたように見えたが、プレートを手に取り裏を見ても何も書かれた様子はない。

「それはこの特殊な光を当てないと見えない文字なんですよ」

 受付嬢がプレートを置いた板に触ると、今度はほのかな青い光が出てプレートの表面に文字が浮かび上がる。
 個人の情報は他人には分からないようになっているのか、すごい仕組みだな。

 俺達は報酬を受け取りギルドを後にする。
 家に帰り、仕留めたカエルを解体して肉にする。半分はお世話になったカリンに渡そうと、カリンの店に持っていく。

「こんにちは。カリンいる?」
「アイシャ、冒険者になったんでしょう。どうだった?」
「うん、依頼を受けてお金もらっちゃった」
「へぇ~、幸先いいわね。その調子で頑張んなさいよ」
「それでね、これ仕留めたカエルのお肉なの。カリンの家で食べて」
「え~、いいの。ありがとう。これ、なかなか美味しいのよね」

 カリンの店を出ての帰り道。

「アイシャ、初めて冒険者としての仕事ができたから、帰ってお祝いをしよう」
「そうね、私達の初仕事だものね。カエルのお肉もあるし、少し豪勢な食事にしましょうか」
「それとお酒も買って帰ろう。アイシャはお酒を飲んだことはあるのか?」
「お酒は飲める年齢だけど、飲んだことはないわ」

 この世界では16歳で成人らしく、成人すればお酒も飲むことができる。アイシャは去年成人式を済ませたと言っていたな。
 冷えたエールがいいんだが、エールの持ち帰りはできなかった。

「それじゃ、ワインを買って帰ろうか」

 酒屋で甘めの赤ワインを頼む。ふたりで飲むだけなので少量の革袋に入ったワインだ。
 家に着いたアイシャは、食事の用意をしてくれる。その横で俺は小さな鍋に水と、ワインの革袋を入れて水魔法で水を冷やす。

 最近、水魔法の一種である冷気を作り出せるようになった。魔法を発動させると極々小さな氷が出てくる。これを鍋の水の中に入れて冷やす。

 今日の料理はカエルの肉入りの野菜スープ。それとカエルのから揚げを作る。
 無発酵パンも焼いてテーブルに並べて、椅子に座って2つのコップにワインを注いでいく。アイシャはお酒が初めてだから、ワインは少し水で薄めておこう。

「アイシャの初仕事を祝って乾杯!」
「乾杯! ワインって初めてだけど、甘くておいしいわね」
「アイシャ、お酒は少しずつ飲むんだぞ。一気に飲むと目を回しちゃうからな」
「うん、そうするわ」
「それにしても、このカエルのから揚げは美味いな」

 小麦粉をまぶして揚げて、塩で味付けしただけのから揚げだが、これはいけるぞ。 

「町だと油も手に入れやすいし、いろんな料理も作れるからいいわね」
「そうだな、町での生活もいいもんだ」

 アイシャと楽しくおしゃべりしながら夜が更けていく。
 アイシャの目がトロンとなってきた。お酒も入っているし眠くなってきたか。

「アイシャ、そろそろ寝ようか」

 アイシャはこちらを見つめ、両手を広げてダッコのポーズをしてくる。

「仕方ないな、アイシャは甘えん坊だな」
「フニャン。ユヅキさんならいいにょ。甘えてもだいじょうびゅなにょ」

 首にしがみついてくる。仕方ないな、お姫様ダッコをしてアイシャの部屋のベッドまで運ぶ。

「おやすみ、アイシャ」
「おやしゅみなしゃい」

 俺も自分のベッドで横になる。まだ始まったばかりの町での生活だが、これからも頑張っていこう。
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