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第2章 街暮らし 冒険者編

第47話 魔道部品2

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「アイシャ、今日はどうするんだ?」
「手持ちの毛皮を売って、その後冒険者ギルドを覗いてみようと思うの」

 冒険者ギルドは、ならず者の集まりだとカリンが言っていたな。

「あそこには、危険な奴がいるかもしれないから注意しろよ」
「ええ、危ないと思ったら帰ってくるわ。心配しないで」

 そろそろ俺はギルドに行く時間だ。

「アイシャ、行ってくるよ。くれぐれも注意してくれよ」
「ええ、いってらっしゃい。ユヅキさんもお仕事頑張ってね」


 今日は新型弓クロスボウの問い合わせの対応をするため、ギルドに顔を出す。

「おはようございます」

 自分の席に座って、俺宛の問い合わせが無いか確認すると、魔道具店のシルスさんから、新型弓の矢の飛ばし方を教えてほしいと伝言が入っていた。

 弓の操作なら、直接出向いて話をした方が早いな。棚にある町の地図を見たが、このギルドに登録している職人さんしか記入されていない。

「ボアンさん。魔道具店のシルスさんの所に行きたいんだが、場所は分かるか?」
「君は専門店街を知っているかね? その中のこのあたりだ」

 ボアンは簡単な地図を書いて説明してくれた。メモを頼りに専門店街を歩き見つけた魔道具店。この町に一軒しかないという店内は、奥の棚に数点の魔道部品とカウンターがあるだけの小さな店だった。

「こんにちは。シルスさんいるかい、ユヅキだ」

 奥から返事がして、シルスさんが出てきてくれる。

「わざわざ来ていただけたんですね。どうぞこちらへ」

 商談用のテーブルに案内されて座る。

「今作っている新型の弓がどうやって矢を飛ばすかよく分からなくて。教えてもらえたら何かアイデアが生まれるんじゃないかと、連絡したんです」

 なるほど積極的に参加してくれているようだな。俺は持ってきた新型弓を見せながら、矢を撃つ手順を説明していく。

「そうすると矢は、この溝に沿ってまっすぐ飛んでいくということですね」
「そうだ。だから初心者でも矢を簡単に飛ばすことができるわけだ」

 魔道具の知識で、溝の滑りを良くするような事はできないかと聞いてみた。

「そうですね、水属性で濡らすか、風属性で浮かせるかでしょうか。でも風で浮いちゃうとまっすぐ飛びませんよね」
「矢自体は回転するからまっすぐ飛ぶんだが、先端だけ浮くと照準が狂うかもしれんな」
「えっ、矢って回転しながら飛んでいるんですか?」

 俺もアイシャに教えてもらうまで知らなかったが、後ろの3枚の葉で矢は回転し、安定して遠くまで飛んでくれる。ちなみに葉の数は2枚でも4枚でもダメだそうだ。

「それなら風魔法で矢に回転力を与えるというのはありですか?」

 どういうことだ。風魔法で回転力?

「ユヅキさんは風魔法使えますか? その時の風って回転してるんですよ。右手だと右向きに、左手だと左向きです。だから遠くまで風を送れるんですよ」
「え~、そうなんだ」
「だから矢に風魔法で回転を……。あ~でも、こんな単純なことで良くなりませんよね。すみません武器の事があまり分かってなくて」

 いや、この発想はすごいぞ。拳銃やライフルの銃身内側に螺旋状の溝を作って回転させるのと同じ考えじゃないか。
 だがどうやって風魔法で矢を回転させる? 矢の後ろから風を送るのか。

「そういう使い方もできますが、この場合は矢に風魔法を付与する方がいいと思います」

 風魔法を付与? 付与とは何だ、初めて聞いたぞ。

「物に触れたり近づけて魔力を流し続けると魔法特性がその物に宿ります。まあこの方法だと定着はできないので一時的な付与となりますが」
「一時的でも、矢に風属性が付くということか?」
「そうですね。矢に一番近い溝の部分に魔道部品を取り付けて、魔力を流すと矢に回転する力が現れると思います」

 なんだか簡単な事のようにシルスさんは言うが、魔法の素人の俺からすると画期的な事だ。溝部分だけじゃなくて、回転する力がずっと矢に宿るのか? 早速実験してみなくては。

「その魔道部品は、今ありますか? 矢に風が付与できるか一度試してみましょう」
「部品はありますので試せますよ。右回転の魔道部品でいいですか?」
「回転の種類があるんですか?」
「右も左もありますが、大部分は右回転の部品です。左は特殊な場合だけですね」

 俺やアイシャの作った矢は右回転だが、弓職人のルフトは2種類の矢があると言っていたな。今は付与できるかだけを実験してみよう。
 手持ちの矢を2本の糸で水平に吊るして、魔道部品を矢に接触するぎりぎりの所で固定する。
 これで銀の糸に魔力を流せば風が付与されるそうだ。シルスさんが魔力を流し始める。

「では魔力を流します。矢を見ていてくださいね」

 魔力を流すと矢が少し揺れてからゆっくり回転し始めた。矢の周りに風がまとわり付いているような感じだ。
 魔力を止めた後も回転は続くが、数秒で止まって普通の矢と同じになる。

「回転しましたがゆっくりでしたね。これじゃだめですかね~」

 こんなのは前の世界の弓や拳銃でもできない事だ。新型弓の溝付近ならこの微妙な位置に魔道部品を固定することも簡単だ。
 だがやはり回転力が弱いか……。

「シルスさん。ここで諦めずに少し研究をしてもらえませんか?」
「諦めずに……。なるほど私は今まで諦めてばかりだったような気がします。ユヅキさん、研究とはどのようにすればいいのですか」

 実験をやり慣れていない人は、一度ダメだとそこで終わってしまう。色々なパターンを試すと、違う結果も生まれてくるものだ。

「矢を吊るした状態で魔道部品の位置だけを変えて試してみて、前とどう違ったかを記録します。次に角度や矢との隙間など部品の取付方法を変えて同じことをするという感じです」

 研究とは、そのものの仕組みや法則を理解して、最適解を見つける事だ。数式化できれば最大値や最小値などの特性を見抜くことができる。
 本来は正確な数値を元に厳密に実験を繰り返して考察するが、そこまで要求するのは無理だろうな。
 色々試してもらって、どんな方法がいいかを考えてもらうだけでも充分だ。

「なかなか難しいのですね。でも頑張ってみます」
「次の会議で実際に組み込んで試してみましょう。もし一番いい位置が分かれば、その時に言ってください」
「はい、分かりました。では次回までに良い報告ができるように頑張ります」
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