【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~

水瀬 とろん

文字の大きさ
上 下
46 / 352
第1章 異世界暮らし 山の家

第44話 下宿部屋2

しおりを挟む
 その日の会議も終わり、俺はギルドを後にしてカリンの店に向かった。
 カリンの店の裏口を開けると、アイシャはもう戻っていて興奮気味に話してくる。

「あのねユヅキさん、家借りられたの、2階なの、それでね安かったの」

 うんうん、2階の部屋が借りられたのか。言っている事あまりよく分からないぞ。少し落ち着こうな。
 店の方から、カリンの父親のトマスさんがこちらに歩いてくる。

「ユヅキ君、ちょうど良かった。今から下宿屋のおばあさんの所に行くので、一緒に来てくれないか」

 アイシャも一緒に下宿屋へ向かいながら、詳しい話をトマスさんから聞く。

「カリンから聞いた話だと、下宿屋のおばあさんと話をして一軒丸ごと貸してくれると言っているそうだ」
「えっ、一軒丸ごとですか」

 なるほど、家を借りたのね。アイシャが興奮するのも分かるな。

「貸すにあたり、条件があるそうだ。私が保証人になる事と、あと2つ、3つ条件があるらしい。保証人になるのは構わないんだが、こういう事は我々大人が聞いた方がいいと思ってね」
「そうだな。トマスさんに来てもらうと助かるよ」
「家主のおばあさんとは昔から付き合いはあるんだが、去年に旦那さんを亡くされてな、あの家をどうするか迷っているとは聞いていたんだけどね」

 町外れの外壁に近い所に、その下宿屋は建っていた。石造りで2階建ての一般的な家だ。

「おばあさん、元気にしているかい」
「ああ、トマスかい。元気とは言えないが、なんとかやってるよ」
「この家を貸してくれるということで来たんだが」
「その事かい。わたしゃ隣町に住んでいる息子の家に引っ越すんだが、おじいさんと過ごしたこの家を手放したくなくてね」

 もう引っ越し先は決まっていて、引っ越す準備もできているそうだ。

「アイシャちゃんが、ここに住んでくれるなら貸そうと決めたんだよ。アイシャちゃんの亡くなったお父さんのことも良く知っているし、この子なら安心して任せられると思ってね」

 そうトマスさんに話をして、後ろから入って来た俺に目を向ける。

「もうひとり同居人がいるという事だったが、その後にいる……、あんた人族じゃないか!!」
「おばあさん、この人は大丈夫だよ。この前街道で私も助けてもらったし、いい人だ」
「そうよ、おばあちゃん。この人は私の命の恩人なの。今も一緒に住んでいるのよ。優しい人よ」

 俺もアピールしなければ。

「ボク わるい人族じゃないよ」
「???」

 クソ! こちらでは通用しないか。


「まあ、お前さん達がそこまで言うなら信用しよう。人を見た目だけで判断するのは良くないことだからね」

 なんとか信用してもらえたようだな。

「トマス。あんたが毎月隣町の私の所に家賃を持ってきてもらいたいのじゃが、良いかね」
「隣町には仕入れでよく行くから、大丈夫だよ」
「そうかい、助かるよ。2階の4部屋は自由に使ってくれて構わんが、1階のこの部屋には手を触れないでほしい。おじいさんとの思い出が詰まっとるんでな」

 1階の居間になっている部屋。そのままの状態で保存し、おばあさんがこの町を訪れた時にその部屋を使いたいそうだ。

「分かった、そうしよう」
「かまどと洗い場は長年使ってヒビなどが入っておる。使うのならすまんが自分達で修理してくれ」

 なるほど。綺麗に使ってはいるが、年季の入ったかまどだな。

「家の事が決まれば、わしは2、3日で引っ越すとしよう。息子達にも早く来るように言われとるんでな。町を出る時に鍵はトマスの所に預ける。その後はお前さんらに任せるよ」
「それじゃおばあさん、契約書は私が書くよ。この家一軒の家賃がひと月銀貨80枚と聞いているが、それでいいんだね」
「ああ、家を貸すだけで何もしないからのう。それに家を守ってくれるなら、それで充分じゃよ」
「アイシャ達もそれでいいかい?」

 ここの1ヶ月は45日だ。ふたりが住む家を一軒借りられるなら充分に安い価格だ。

「はい、私はそれでいいです。ユヅキさんは?」
「ああ、俺もそれで結構だ。3日後に契約書のサインをしに、トマスさんの店に寄らせてもらう」
「そうしてくれ。それまでには作っておくよ」

 俺達はトマスさんとここで別れて門に向かう。すぐに帰らないと夜になってしまう。

「アイシャ。俺はギルドに行く日もあるが、引っ越しはいつにする?」
「そうね。1週間後くらいまでには引っ越しましょうか。それまでには荷物をまとめておくわ」

 山道に入ってからは警戒しつつ早足で家路を急ぐ。
 日が落ちる前に無事家にたどり着き、夕食を摂ってその日は早く眠りについた。

 翌日からは予定通り2日間狩りをする。その後俺はギルドに、アイシャは毛皮作りなど途中になっている作業を済ませる。ギルドの仕事の合間に、カリンの店で契約書のサインをし家の鍵を受け取り、アイシャと一緒に掃除や荷物をまとめたりと、忙しい日々を送る。

 そして引っ越しの当日。俺の荷物は少ないが余った食料やテーブル、道具など割と大荷物になったな。この分だと3往復しないと運べないか。

「アイシャ、引っ越しの手伝いに来たわよ」

 カリンがドアを開けて入ってきた。えっ、手伝いに? そういえばカリンの店に行った時デンデン貝を持って行ったな。

「カリン、ありがとう。都合がついたのね」
「今日は休みだし、兄さんも荷馬車を出すって言ってくれたの」

 荷馬車もあるのか、それは助かる。俺達は荷物を荷馬車の停めている道まで運んでいく。

 荷物を積んだ後、アイシャと一緒に一旦家に戻り、家の入り口と右手奥にあるトイレの入り口に岩を積み上げて閉鎖する。
 中に獣が入ってこないようにするためで、冬の間家を離れる時はこうするそうだ。

 この家に住んだのは短い間だったが、俺の人生を変える事ばかりだった。アイシャもしんみりした顔をしている。色んな思い出があるのだろう。

 俺は一礼してアイシャの家を後にした。

 ---------------------
【あとがき】
 お読みいただき、ありがとうございます。
 今回で 第1章は終了となります。
 次回からは 第2章 街暮らし 冒険者編 です。お楽しみに。

 お気に入りや応援、感想など頂けるとありがたいです。
 今後ともよろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

処理中です...