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第1章 異世界暮らし 山の家
第43話 下宿部屋1
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今日のギルドの仕事は昼からだ。朝食後、ゆっくりしてからでも充分間に合うが、その前にカリンの店に行って町の事で相談しようと思っている。
「アイシャが町で暮らしていたのは、いつの頃なんだ」
「私がまだ小さかった頃、冬の時期になると教会でお世話になっていたの。同じような子供達が一緒に暮らしていたわ」
孤児院とか保育施設みたいなものか。
「雪が多く降った年には何度かお父さんと一緒に、町で1ヶ月ほど生活したことがあるの」
この世界の1ヶ月は45日、1年は8ヶ月だとアイシャに教えてもらった。年360日なら、前世より少し短いぐらいでほぼ同じだな。季節も今は、春から夏に向かっている最中らしい。
冬場の厳しい時期、山の中で雪に閉ざされるのがその程度なら、ここは極端に寒い地方でもないのだろう。だが町で暮らした方が安全なのは間違いない。
「その時に住んでいたのが、昨日言っていた下宿屋か」
「ええ、そうよ。おじいさんとおばあさんのご夫婦で、家の空いた部屋を貸してくれていたの」
やはりまずは、カリンの店へ行って相談だな。
「こんにちは」
「やあ、アイシャちゃん。今日は毛皮の納品だったかな?」
「トマスおじさん、今日はカリンに会いに来たの。カリンはいますか?」
「今、店の裏で倉庫整理しているよ。ちょっと呼ぼうか?」
「いいえ、それなら裏手に回りますから」
店の裏口から入るとカリンが大きな箱を持って歩いていた。
「カリン」
「あれ、アイシャ。今日はどうしたの? 毛皮の納品はまだ先だったよね?」
「ちょっと相談したいことがあって来たんだけど、忙しそうね」
「今、倉庫整理やってて、これが終わってからでいい?」
どうも忙しい時に来てしまったようだな。
「よし、それなら俺が手伝ってやるから早いとこ片付けてしまおう。カリン、その箱を渡せ。これをどこに持って行くんだ」
「それは助かるわね。こっちよ、この棚に置いて」
アイシャも一緒に倉庫整理を手伝う。俺はカリンにこき使われたが、お陰で片付けは早く終わってくれた。椅子に座り水を持ってきてくれたカリンに、町の生活について相談する。
「カリン。私ね、町に住もうと思っているの」
「やっと決めてくれたのね。でもなんで今なの? 前から町に住むように言ってたのに、断ってたじゃない」
「ええ、お父さんとの家を離れるのが嫌だったんだけど、ユヅキさんの今の仕事だと町に住んだ方が都合いいから。それで私も町で生活しようと思っているの」
「げっ、こいつのために!」
げっ、とは何だよ。ほんと失礼な奴だな。
「まあ、それでもいいわ。危険な山に独りで住むより町で生活してくれた方が安心するもの」
「それで、冬の間お世話になった下宿屋さんの所に住もうと思うんだけど、どう思う?」
「確か父さんの紹介で住んでた家よね、でも今は下宿やってなかったと思うけど……。ちょっと待ってて父さんに聞いてくるわ」
そうか、当てにしてた下宿屋はもう無いのか、それなら安い宿屋か他を当たるかだな。
「あのね、下宿屋のおばあさんがもうすぐ引っ越すそうよ。それで家を売るか誰かに貸すか迷ってるんだって」
なるほど。そんな事情なら交渉もできそうだな。
「もう少ししたら、その近くに配達に行くから、その時一緒に行って相談してみない?」
「そうね。もし部屋を借りられるなら、その方がいいし。カリンお願いできるかしら」
「ええ、いいわよ」
俺は、そろそろギルドに行く時間だな。
「アイシャ、すまんが下宿屋の事は頼めるか。後日また来てもいいし、様子だけでも見てきてくれ」
「分かったわ。じゃあ、お仕事終わったらここに戻ってきて」
「ああ、それじゃ頼む。カリンもよろしくな」
俺も一緒に行って話を聞きたいが、今は仕方がない。俺はカリンの店を後にして職人ギルドに向かう。
今日はクロスボウの打ち合わせだ。
「こんにちは、ボアンさん」
「よく来てくれたね。もうすぐ職人達が集まってくれる、君は上の会議室で待っていてくれ。ミアン君、会議室の準備をしてくれるか」
すぐに会議室に向かったが、後から追いかけて来たミアンが珍しく俺に話しかけてきた。
「ユヅキ、この前会ったあの女の子達とはどういう関係なの」
そういえばこの前広場で会って、こいつ変なこと言ってたな。
「お前、何か勘違いしているようだが、あの人達は俺の大事な友人なんだからな。変なこと言うなよ」
「ワタシは別に変なこと言ってないの! 両手に花で鼻の下伸ばしていたのはユヅキの方なの!」
「バ、バカ野郎。俺はそんなことしてねえよ。ほれ、さっさと準備しろ」
そんなデレデレしてたか。まあ、アイシャはいつも綺麗だし、カリンも可愛い一面はあるしな……。などと思いながらテーブルを並べていたら、ミアンが大きな音を立てて椅子を置きながら、こっちを睨んでいるぞ。
ミアンは俺の心が読めるのか!? 女の嫉妬というのは怖え~な。
「アイシャが町で暮らしていたのは、いつの頃なんだ」
「私がまだ小さかった頃、冬の時期になると教会でお世話になっていたの。同じような子供達が一緒に暮らしていたわ」
孤児院とか保育施設みたいなものか。
「雪が多く降った年には何度かお父さんと一緒に、町で1ヶ月ほど生活したことがあるの」
この世界の1ヶ月は45日、1年は8ヶ月だとアイシャに教えてもらった。年360日なら、前世より少し短いぐらいでほぼ同じだな。季節も今は、春から夏に向かっている最中らしい。
冬場の厳しい時期、山の中で雪に閉ざされるのがその程度なら、ここは極端に寒い地方でもないのだろう。だが町で暮らした方が安全なのは間違いない。
「その時に住んでいたのが、昨日言っていた下宿屋か」
「ええ、そうよ。おじいさんとおばあさんのご夫婦で、家の空いた部屋を貸してくれていたの」
やはりまずは、カリンの店へ行って相談だな。
「こんにちは」
「やあ、アイシャちゃん。今日は毛皮の納品だったかな?」
「トマスおじさん、今日はカリンに会いに来たの。カリンはいますか?」
「今、店の裏で倉庫整理しているよ。ちょっと呼ぼうか?」
「いいえ、それなら裏手に回りますから」
店の裏口から入るとカリンが大きな箱を持って歩いていた。
「カリン」
「あれ、アイシャ。今日はどうしたの? 毛皮の納品はまだ先だったよね?」
「ちょっと相談したいことがあって来たんだけど、忙しそうね」
「今、倉庫整理やってて、これが終わってからでいい?」
どうも忙しい時に来てしまったようだな。
「よし、それなら俺が手伝ってやるから早いとこ片付けてしまおう。カリン、その箱を渡せ。これをどこに持って行くんだ」
「それは助かるわね。こっちよ、この棚に置いて」
アイシャも一緒に倉庫整理を手伝う。俺はカリンにこき使われたが、お陰で片付けは早く終わってくれた。椅子に座り水を持ってきてくれたカリンに、町の生活について相談する。
「カリン。私ね、町に住もうと思っているの」
「やっと決めてくれたのね。でもなんで今なの? 前から町に住むように言ってたのに、断ってたじゃない」
「ええ、お父さんとの家を離れるのが嫌だったんだけど、ユヅキさんの今の仕事だと町に住んだ方が都合いいから。それで私も町で生活しようと思っているの」
「げっ、こいつのために!」
げっ、とは何だよ。ほんと失礼な奴だな。
「まあ、それでもいいわ。危険な山に独りで住むより町で生活してくれた方が安心するもの」
「それで、冬の間お世話になった下宿屋さんの所に住もうと思うんだけど、どう思う?」
「確か父さんの紹介で住んでた家よね、でも今は下宿やってなかったと思うけど……。ちょっと待ってて父さんに聞いてくるわ」
そうか、当てにしてた下宿屋はもう無いのか、それなら安い宿屋か他を当たるかだな。
「あのね、下宿屋のおばあさんがもうすぐ引っ越すそうよ。それで家を売るか誰かに貸すか迷ってるんだって」
なるほど。そんな事情なら交渉もできそうだな。
「もう少ししたら、その近くに配達に行くから、その時一緒に行って相談してみない?」
「そうね。もし部屋を借りられるなら、その方がいいし。カリンお願いできるかしら」
「ええ、いいわよ」
俺は、そろそろギルドに行く時間だな。
「アイシャ、すまんが下宿屋の事は頼めるか。後日また来てもいいし、様子だけでも見てきてくれ」
「分かったわ。じゃあ、お仕事終わったらここに戻ってきて」
「ああ、それじゃ頼む。カリンもよろしくな」
俺も一緒に行って話を聞きたいが、今は仕方がない。俺はカリンの店を後にして職人ギルドに向かう。
今日はクロスボウの打ち合わせだ。
「こんにちは、ボアンさん」
「よく来てくれたね。もうすぐ職人達が集まってくれる、君は上の会議室で待っていてくれ。ミアン君、会議室の準備をしてくれるか」
すぐに会議室に向かったが、後から追いかけて来たミアンが珍しく俺に話しかけてきた。
「ユヅキ、この前会ったあの女の子達とはどういう関係なの」
そういえばこの前広場で会って、こいつ変なこと言ってたな。
「お前、何か勘違いしているようだが、あの人達は俺の大事な友人なんだからな。変なこと言うなよ」
「ワタシは別に変なこと言ってないの! 両手に花で鼻の下伸ばしていたのはユヅキの方なの!」
「バ、バカ野郎。俺はそんなことしてねえよ。ほれ、さっさと準備しろ」
そんなデレデレしてたか。まあ、アイシャはいつも綺麗だし、カリンも可愛い一面はあるしな……。などと思いながらテーブルを並べていたら、ミアンが大きな音を立てて椅子を置きながら、こっちを睨んでいるぞ。
ミアンは俺の心が読めるのか!? 女の嫉妬というのは怖え~な。
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