上 下
31 / 304
第1章 異世界暮らし 山の家

第29話 鍛冶屋

しおりを挟む
「持っていく毛皮は、これで全部か?」
「ええ、後はお金を持っていけば大丈夫よ」

 今日は町に降りて買い出しをする。いつものようにカリンの店に行った後、俺は鍛冶屋にクロスボウの部品を頼む予定だ。
 アイシャは弓を、俺はショートソードを手にして山道を降りていく。

「アイシャ、弓の矢って矢じりがあったらすぐに作れるものなのか?」
「木材もカエルの皮もすぐ手に入るからできるわよ。そういえば乾燥した木が少なくなってたわね、帰ったら木を伐りに行きましょう」

 町では金属製の矢じりだけを買って、矢自体は自分で作ると言っていたな。
 すると後は部品の値段次第か。俺の手持ちは銀貨38枚。前に大岩を切った時の報奨金の残りだ。鉄は高価だと言うし、場合によっては矢じりの数を減らす事も考えておくか。

 警戒しながら山道を降りて街道沿いまで出てきた。
 街道と山へ向かう道の分岐点には道しるべが立っていて、その影は俺の方向に伸びている。
 で、太陽はというと町の反対方向、西の方角だ。やはり太陽は西から昇っている。

「ユヅキさん何しているの? 町はこっちよ」

 道しるべを前に黄昏ている俺を見て、アイシャはあきれたように町に向かって歩き出している。

「ハァ~、そうですよね。俺が非常識なだけです。すみません」

 町の城門を通り抜けてすぐに、アイシャは城壁沿いの道を進んでいった。

「ユヅキさん。カリンのお店に行く前に鍛冶屋さんに行きましょう。今日作ってもらえるなら早い方がいいと思うの」
「そうだな、部品の説明に時間が掛かるかもしれないし、その間にアイシャはカリンの所に行っておいてくれ」
「ええ、そうしましょう。カリンのお店に行くときは、この城壁沿いに一旦門まで戻ってから行った方が迷わないと思うわ」

 鍛冶屋は城壁沿いに少し下った場所。人家からは離れた水路沿いに建っていて、その水路には水車が回っていた。

「こんにちは。親方はいますか」
「おう、なんでえ~、猟師の嬢ちゃんじゃねえか。そういや最近来てなかったが、具合でも悪かったのかよ」

 そう言って奥の工房から出てきたのは、肩幅の広い筋肉質な虎獣人だった。頭に巻いた手ぬぐいを取りながら、カウンターの向こう側に立つ。

「ちょっと大怪我して歩くこともできなくて、こちらには久しぶりになりますね」
「えっ! 怪我って、大丈夫なのかよ?」
「ええ、今はもう大丈夫です。ちゃんと歩けますし、ユヅキさんにも助けてもらっていますから」

 後ろから付いて来た俺を紹介してくれる。

「ユヅキって、その後ろの……って、人族じゃねえか! 最近町に人族がいるって噂には聞いていたが、てめえの事か」
「親方、ユヅキさんは人族だけど優しい人で、ほらほら目も赤くないでしょう」
「おう、そういえばそうだな。背中に黒い翼も生えてねえみたいだしな」

 この町の獣人の人族への認識は、どうしていつもこうなんだ?
 俺は怖くも何ともない一般人だ。俺より虎獣人のあんたの方が余程怖いんだがな。

「で、今日はなにか注文でもあんのか」
「ユヅキさんが親方に作ってほしい物があるんです。話を聞いてもらえますか」
「嬢ちゃんの知り合いだしな、まずはここで話を聞こう。物ができるできねえはその後だな」
「ええ、親方よろしくお願いします。それじゃユヅキさん、終わったらカリンの所に来てくださいね」

 アイシャは毛皮の入ったカバンを持ってカリンの店へと向かう。
 鍛冶屋の親方はカウンターの横、客対応のためのテーブルと椅子がある場所に俺を招いて、向かい合わせに座る。

「オレはエギルと言う。この工房を取り仕切っている。で、どんな物を作ってほしいんだ? 人族が昔使っていたような魔道具はオレには作れんぞ」
「大したものじゃない。鉄製の部品を数点作ってほしいだけだ」

 俺は図面を机の上に置いて親方に説明していく。

「この穴の開いた曲がった鉄の板と、丸い部品だ」
「ほ~、あんたは図面が描けるのかい。だがこんな描き方は見たことがねえ。ちょっと説明してくれるかい」

 俺は三角法で描かれた図面の説明をしていく。

「これは作る部品の正面と横、そして上から見た図だ。この3つの図が1つの部品を表している」
「するとこっちの丸い部品は、硬貨のような平たい部品ということか」
「そうだ。真ん中に穴を開けて、その穴に通す軸を作ってくれ。最後はこの図のように組み立てる」

 各部品の図と、それを組み合わせて引き金の動作をする組立図を見てもらう。

「なるほど、これは分かりやすい図面だな。で、この部品の大きさはどれぐらいだ」
「この一番下にあるのが実際の大きさを書いたものだ。これに合わせてくれればいい」
「ほぉ~、思っていたより小さな部品だな。これでいったい何を作るつもりなんだ」
「俺専用の小型の弓だ。クロスボウというやつだが知っているか?」
「弓にこんな部品を使うのは聞いたことがねえな」

 この世界では、弦を張った弓しか無いようで、金属部品は使わないらしい。

「だが、こうやって部品の図面を描いてくれるのは、ありがたい。オレ達が作った後で、これは違うとか言われるのが一番困るんでな。材質は普通の鋼でいいんだな」
「ああ、それでいい。焼く・水に入れる・焼く・冷ますもいらない」
「そんな事まで知っているのかい」

 今回の部品は熱処理をして強度や柔軟性を持たせるほどでもない。その方が手間も掛からず、安くできるだろうしな。
 後は木に穴を開ける工具と釘も頼んでおこう。
 弟子らしき獣人が、何種類かの釘を張り付けた見本の板を持って工房から出てきた。

「オレのとこで作っている釘がこれだ。ちょっと大きさが違うが、これでいいか?」
「ああ、それでいい。それを10本頼む。値段だが、全部でどれくらいでできそうだ?」
「特注の品は割高になるが、部品も小さい。工具を合わせても銀貨12枚程度でできる。……が、タダにしてやってもいい」
「無料に? どういうことだ」
「この部品で作った、そのクロスなんとかと言う弓が完成したらオレに見せてくれねえか? あんたの作るものに興味が沸いてきた。職人として新しいものを知ることは大事なことなんでな」

 なるほど、勉強のために金を払うという事だな。それならと、この鍛冶屋に部品の製作を頼むことにした。

「今日中にできるが……そうだな鐘5つの頃に来てくれればいい」
「鐘5つ?」
「時間も分からんのか? 猟師の嬢ちゃんに聞けば分かるさ」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸
ファンタジー
異世界に転生した葉菜花には前世の料理を再現するチートなスキルがあった! 食いしん坊の王国ラトニーで俺様王子様と残念聖女様を餌付けしながら、可愛い使い魔ラケル(モフモフわんこ)と一緒に頑張るよ♪ ※基本のんびりスローライフ? で、たまに事件に関わります。 ※本編は葉菜花の一人称、ときどき別視点の三人称です。 ※ひとつの話の中で視点が変わるときは★、同じ視点で場面や時間が変わるときは☆で区切っています。 ※20210114、11話内の神殿からもらったお金がおかしかったので訂正しました。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...