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第1章 異世界暮らし 山の家
第22話 抜糸
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今日は、アイシャの縫合した傷の抜糸をすることにした。ミスしないように、できるだけ部屋が明るいお昼に行なう。
昨日、カリンが摘んできてくれた薬草で作った麻酔薬はもうできているようで、器に緑のドロッとした液体がある。
この液体は、傷口に塗るんじゃなく飲んで全身麻酔のようにするみたいだな。
麻酔薬を飲んだアイシャの目がとろんとしてきた。
「アイシャ。今から糸を抜くが我慢してくれよ」
アイシャは口にも薬草の葉っぱをくわえて「いいよ」と頷いてくれた。
アイシャはベッドの上に俯き楽な姿勢で寝てもらっている。多分それほど血は出ないと思うが、念のため俺のローブを下に敷いている。
傷表面の糸をナイフで切って傷口から離す。その糸を引っ張て抜くのだが、縫合専用の糸じゃなくて普通の糸だ。体内の傷にくっ付いているから相当痛いはずだ。アイシャが小さく呻いている。
こっちも痛い思いで体内に糸を残さないように、一針、一針縫合した糸を丁寧に抜いていく。40cm程もある長い傷だ。どうしても時間がかかってしまう。
「ごめんな。頑張ってくれ!」
なんとか全部の糸を抜き滲んだ血をふき取り綺麗にするが、やはり痛々しい傷だ。軟膏を塗り新しい包帯を巻いて、やっと終わった。
途中からアイシャは麻酔が効いたのか眠ったような状態だが、目には涙の跡が付いていた。
よく頑張ったな。仰向けに抱きかかえて、楽な姿勢にして顔を綺麗に拭いてやる。後は、ベッドでゆっくり休んでくれ。
アイシャを休ませた後、俺は隣の部屋で椅子に座って、これで良かったのかとひとりうな垂れる。
この世界の医療水準がどの程度かは分からんが、町の医者に任せることもできたんじゃないか?
いや、違うな。カリンとも傷の事で何か話をしていたみたいだ。
その上で俺を選んでくれたのだろう。カリンも俺にアイシャを託してくれた。ならば俺は俺のできる精一杯をすればいい。俺を信じてくれたアイシャを後悔させないためにも。
今夜の夕食は、前にアイシャが作ってくれた野菜スープに、肉をたっぷり入れて栄養満点のものを作ろう。
イノシシの肉がまだ沢山残っているからな。あれなら美味いトンカツが作れると思うのだが、あいにく作り方を俺は知らん。アイシャに食べさせてやりたいが諦めざるを得んか。
気を取り直して、食料庫から食材を持ってきてまず野菜の皮むきからだ。ナイフを使ってジャガイモのような野菜の皮をむくが意外と難しいぞ。アイシャのように綺麗にできんな。
ナイフの扱い方も練習をせんといかんようだ。
確か野菜は水から入れてたなと思い出し、切った野菜を鍋に入れて火に掛ける。沸騰した後に肉も入れて煮込んだが味付けがイマイチだ。塩で味付けしてみたがスープの味がしない。
非常食の粉を入れれば少しは美味くなるか……。袋の中の最後に残った非常食を入れて少し煮込む。結局、いつものおじやのような物になってしまった。一から料理するのは難しいな。
料理を寝室に運んで、早速夕食にしよう。
俺の作った、野菜スープもどきの料理は美味しかったようで、笑顔で沢山食べてくれた。
美味しく食べられるのは、体にも心にもいいことだ。俺も笑顔になる。楽しい食卓、なんだか当たり前のように馴染んできているな。
夕食後、今夜もアイシャに色々と教えてもらおうとベッドに座る。身近にある物の名前などを教えてもらう。
麓の町はアルヘナという名前だそうだ。そしてこの辺りはカウスの林、町の近くにある湖もカウスの湖と呼んでいるらしい。
だが興味を引くのは、やはり魔法の事だな。
前は炎と砂が出る魔法を教えてもらったが、指によって発現する魔法が違うようだ。それが魔法属性だそうで、アイシャは火と土の属性が使える。
発現できるかどうかは、生まれ持ってのものらしい。
今回は中指で魔法を使ってみよう。俺は気を集中し体内に巡らせる。
どうもこれが魔力というものらしい。その魔力を指から放出させて魔法を生み出すようだ。
中指を鳴らしてみる。
「あれ、何も出ないぞ」
失敗か、それとも俺には使えないのか? でもアイシャはパチパチと手を叩いている。今度は俺の顔に向けて魔法を使うように促している。
中指を鳴らすと、風が顔に当たる。「お~そうか、風か!」また叫んでしまった。
今度は小指だな。魔力を循環し指に集中、小指を鳴らす。指先から水がしたたり落ちた。今度は水か~。
魔法の属性はこの4種類だそうだ。属性には相性があって隣の指同士の魔法は同時に発動できないらしい。俺も火と風を発動させようと2本の指を鳴らしたが、両方とも発動しなかった。
「△※、☆☆※◇◇※」
アイシャが自分の手を見るように伝えてくる。手を握って指をパッと広げている。もう一度手を握ってパッ。
えっ、4本同時? そんなのできるのか。でもアイシャが言ってるんだ、やってみるか。
魔力を循環、4本の指に集中、そしてパッ。手のひらが光った。何が起きた? 4本同時だと光るのか?
アイシャは手を叩いて喜んでいる。魔法すっげ~な~。
ちなみにパッチンと指を鳴らさなくても、指を弾くように伸ばせば魔法は発動するらしい。
人によって色々やり方があるようだ。これでまた色々と試せるぞ、明日からの楽しみがまた増えた。
昨日、カリンが摘んできてくれた薬草で作った麻酔薬はもうできているようで、器に緑のドロッとした液体がある。
この液体は、傷口に塗るんじゃなく飲んで全身麻酔のようにするみたいだな。
麻酔薬を飲んだアイシャの目がとろんとしてきた。
「アイシャ。今から糸を抜くが我慢してくれよ」
アイシャは口にも薬草の葉っぱをくわえて「いいよ」と頷いてくれた。
アイシャはベッドの上に俯き楽な姿勢で寝てもらっている。多分それほど血は出ないと思うが、念のため俺のローブを下に敷いている。
傷表面の糸をナイフで切って傷口から離す。その糸を引っ張て抜くのだが、縫合専用の糸じゃなくて普通の糸だ。体内の傷にくっ付いているから相当痛いはずだ。アイシャが小さく呻いている。
こっちも痛い思いで体内に糸を残さないように、一針、一針縫合した糸を丁寧に抜いていく。40cm程もある長い傷だ。どうしても時間がかかってしまう。
「ごめんな。頑張ってくれ!」
なんとか全部の糸を抜き滲んだ血をふき取り綺麗にするが、やはり痛々しい傷だ。軟膏を塗り新しい包帯を巻いて、やっと終わった。
途中からアイシャは麻酔が効いたのか眠ったような状態だが、目には涙の跡が付いていた。
よく頑張ったな。仰向けに抱きかかえて、楽な姿勢にして顔を綺麗に拭いてやる。後は、ベッドでゆっくり休んでくれ。
アイシャを休ませた後、俺は隣の部屋で椅子に座って、これで良かったのかとひとりうな垂れる。
この世界の医療水準がどの程度かは分からんが、町の医者に任せることもできたんじゃないか?
いや、違うな。カリンとも傷の事で何か話をしていたみたいだ。
その上で俺を選んでくれたのだろう。カリンも俺にアイシャを託してくれた。ならば俺は俺のできる精一杯をすればいい。俺を信じてくれたアイシャを後悔させないためにも。
今夜の夕食は、前にアイシャが作ってくれた野菜スープに、肉をたっぷり入れて栄養満点のものを作ろう。
イノシシの肉がまだ沢山残っているからな。あれなら美味いトンカツが作れると思うのだが、あいにく作り方を俺は知らん。アイシャに食べさせてやりたいが諦めざるを得んか。
気を取り直して、食料庫から食材を持ってきてまず野菜の皮むきからだ。ナイフを使ってジャガイモのような野菜の皮をむくが意外と難しいぞ。アイシャのように綺麗にできんな。
ナイフの扱い方も練習をせんといかんようだ。
確か野菜は水から入れてたなと思い出し、切った野菜を鍋に入れて火に掛ける。沸騰した後に肉も入れて煮込んだが味付けがイマイチだ。塩で味付けしてみたがスープの味がしない。
非常食の粉を入れれば少しは美味くなるか……。袋の中の最後に残った非常食を入れて少し煮込む。結局、いつものおじやのような物になってしまった。一から料理するのは難しいな。
料理を寝室に運んで、早速夕食にしよう。
俺の作った、野菜スープもどきの料理は美味しかったようで、笑顔で沢山食べてくれた。
美味しく食べられるのは、体にも心にもいいことだ。俺も笑顔になる。楽しい食卓、なんだか当たり前のように馴染んできているな。
夕食後、今夜もアイシャに色々と教えてもらおうとベッドに座る。身近にある物の名前などを教えてもらう。
麓の町はアルヘナという名前だそうだ。そしてこの辺りはカウスの林、町の近くにある湖もカウスの湖と呼んでいるらしい。
だが興味を引くのは、やはり魔法の事だな。
前は炎と砂が出る魔法を教えてもらったが、指によって発現する魔法が違うようだ。それが魔法属性だそうで、アイシャは火と土の属性が使える。
発現できるかどうかは、生まれ持ってのものらしい。
今回は中指で魔法を使ってみよう。俺は気を集中し体内に巡らせる。
どうもこれが魔力というものらしい。その魔力を指から放出させて魔法を生み出すようだ。
中指を鳴らしてみる。
「あれ、何も出ないぞ」
失敗か、それとも俺には使えないのか? でもアイシャはパチパチと手を叩いている。今度は俺の顔に向けて魔法を使うように促している。
中指を鳴らすと、風が顔に当たる。「お~そうか、風か!」また叫んでしまった。
今度は小指だな。魔力を循環し指に集中、小指を鳴らす。指先から水がしたたり落ちた。今度は水か~。
魔法の属性はこの4種類だそうだ。属性には相性があって隣の指同士の魔法は同時に発動できないらしい。俺も火と風を発動させようと2本の指を鳴らしたが、両方とも発動しなかった。
「△※、☆☆※◇◇※」
アイシャが自分の手を見るように伝えてくる。手を握って指をパッと広げている。もう一度手を握ってパッ。
えっ、4本同時? そんなのできるのか。でもアイシャが言ってるんだ、やってみるか。
魔力を循環、4本の指に集中、そしてパッ。手のひらが光った。何が起きた? 4本同時だと光るのか?
アイシャは手を叩いて喜んでいる。魔法すっげ~な~。
ちなみにパッチンと指を鳴らさなくても、指を弾くように伸ばせば魔法は発動するらしい。
人によって色々やり方があるようだ。これでまた色々と試せるぞ、明日からの楽しみがまた増えた。
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