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第1章 異世界暮らし 山の家

第20話 カリン襲来 カリン1

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「兄さん、この箱と鞄もお願いね」

 アイシャの怪我も心配だけど、この前来た人族の男、ユヅキって言ったっけ。どうも胡散臭い。
 依頼を受けた冒険者だろうけど、まさかまだアイシャの家にいるんじゃないでしょうね。渡した商品、ちゃんとアイシャに届いているといいんだけど。

 魔の森に比べたら、アイシャの住んでいるカウスの林は安全だけど、私ひとりで行くのは無理だわ。
 店の仕入れのついでに、兄さんが家まで荷馬車で送ってくれるというので、連れて行ってもらう。

「箱はここに置いてくれたらいいわ。ありがとう兄さん。また明日お願いね」

 アイシャの家の前で兄さんと別れる。
 入り口を開けると奥の方からアイシャのくぐもった声が聞こえてきた。寝室であの男がアイシャの服を脱がせてお尻を撫でまわしている。

「このド変態野郎! アイシャに何してんのよ~~~」

 渾身の右ストレートがあいつのアゴにクリーンヒットする。一発KOね。


「キャー! カリンなんてことするのよ~」
「へ?」
「今この人に治療してもらってたのよ! ユヅキさん大丈夫?」
「えっ、何? この人お医者さんなの? え? 人族だよ?」

 男が気がついた。

「あの、ごめんなさい。治療中だって知らなくて」
「$※、△☆☆※」

 男が何か言って頭に手を置こうとする。私はバッと飛び退いた。

「なにすんのよ。女の子の耳を触ろうだなんて! やっぱりあんた、ただの変態ね」

 やはり人族だ。信用できない。

 その後、治療の続きをすると言って、アイシャがベッドに俯きになり服をたくし上げた。えっ、そんな恰好すんの? お尻が丸出しよ。
 近寄って見てみると、左足の腿のあたりからお尻にかけて、すごい傷跡が見えた。

「うわぁ、すごい痛そう。アイシャ、ねえ、大丈夫なの、ねえ」

 少し涙目になる。これは思っていたよりもすごい怪我だ。よくこれで命が助かったと思うほどの。
 治療が終わって、アイシャとふたりっきりになって話を聞いた。

「私がサーベルタイガーに襲われているところを、ユヅキさんに助けてもらったの」
「えっ! サーベルに!!」
「怪我の治療もしてもらって、今は少しだけ歩けるようになったのよ」
「うんうん、良かったわ。デンデン貝を聞いたときは、ほんと心配したんだから」

 半年ほど前。アイシャのお父さんが大怪我をして、町まで来てお医者様に診てもらった事がある。その時でもこれほど酷くなかったと思うけど、結局亡くなってしまった。

 あの男は、それなりの腕のあるお医者さんかもしれないけど、サーベルタイガーを撃退するお医者さんって聞いたことがない。

「じゃー、大イノシシを狩ったのもあの人? 牙を店に持ち込んできたの」
「そうだと思うわ。町から帰ってきた時に大イノシシの肉を持って帰って来たから」

 凄腕の冒険者で、お医者様で、人族で。でも強そうには見えないわね。よく分からなくなってきたわ。
 まあいいわ、男手があるなら使わなくっちゃ。

「ねえ、ユヅキ。こっちに来て」

 入り口に置いていた木箱を寝室まで運んでもらう。

「アイシャ。追加の食料とか着替えとか持ってきたの。前に渡した分じゃ足りないと思って」

 山の中で不便していると思って、色んな物を持ってきている。

「食料のお金は店で立て替えてくれるって父さんが言ってたから、次回の納品の時でいいわよ。着替えは私のだし使ってよ」

 替えの下着とかも持ってきている。

「あっ、これはユヅキに触らせちゃダメね。こっちの鞄に入れとくね」
「うん、分かった。ユヅキさん、すみませんがこの袋を食料庫に運んでもらえますか?」

 箱の中にある物をあの男に運ばせた後、アイシャが頼み事を言って来た。

「ねえ。カリンお願いがあるんだけど、私、最近水浴びができてなくて、体を拭いてほしいの」
「そうよね、この怪我じゃね~。いいわよ、奥の洗い場ね」

 するとアイシャが男に向かって両手を広げている。げっ! ユヅキにお姫様ダッコしてもらってる。いつもそんなことしてるの!

 洗い場で、ユヅキを追い払ったところで、アイシャに服を脱いでもらう。タオルを水に濡らして体を拭いていく。

「アイシャまた胸大きくなってない?」
「えー、やだ、何言ってるのよ」

 アイシャは私より胸は大きいし腰もくびれていて、スタイル抜群だ。これをユヅキが好色の目で見るようなら私が許さないから。

「髪はどうする」
「包帯を濡らさないようにできる?」
「それなら、こっちに足を向けて寝転んで」

 足に水が掛からないように、丁寧に洗っていく。動きやすそうなショートヘアの黒髪。耳元だけ伸ばした髪型は女の子らしくてかわいい。背中のたてがみはピンとしてて精悍で猟師っぽいわ。
 洗い終えた髪と体を乾いたタオルで拭いていく。

「ありがとう。カリン」
「ウン。どういたしまして」

 すっきりした顔のアイシャ。私も役に立てて嬉しいよ。

「じゃー、ユヅキを呼んでくるから、ちょっと待っててね」

 ユヅキにアイシャを寝室まで運んでもらったけど、またもお姫様ダッコだ。歩けないから仕方ないんだけど……。
 その後は寝室で、アイシャと今後の事について話す。

「それでね、アイシャ。傷見せてもらったけど、すごい大怪我だよね。これからも傷の手当てするのに、町に降りてお医者様に診てもらうのはどうかしら?」

 こんな山の中より、アイシャには町にいてもらった方が安心する。

「町なら身の回りのお世話とか、私がいつでもお手伝いできるしさ」
「ううん、私はここでいいわ。カリンの気持ちは嬉しいけど、ユヅキさんとなら、なんとかできると思うの」

 アイシャは足の傷をさすりながら、愛おしそうに話す。

「私も最初もう死ぬんじゃないかって思ってたけど、ユヅキさんが頑張ってくれたから……。これからも治療はユヅキさんに任せて、完全に治るまで一緒に頑張っていきたいの」
「そっか。私はまだあいつが信用できないけど、アイシャがそう言うならそれでいいよ」

 アイシャのこんな大人びた顔は見たことないなと思いつつ、その後は他愛もないおしゃべりを楽しんだ。

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【あとがき】
 お読みいただき、ありがとうございます。
 今回と次回の2話分は、第17話~第19話 のカリン視点となっています。

 次回もよろしくお願いいたします。
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