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第1章 異世界暮らし 山の家
第19話 カリン帰還
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翌朝、少し早めに起きた。外は薄明るいが日はまだ昇っていない。今日から剣の稽古を朝の日課にしようと思っている。
剣に慣れるのも体を鍛えるのも、この世界で生きる俺にとって必要だと考えたからだ。
小学生の頃。警官だった父親に言われて、好きでもない剣道と空手の道場に通わされた。
「多くの人を守るため、弱い人を助けるため、まずは自分が強くないとダメだ。正義を示すため、悪事を暴くためには勇気が必要だ。精神も鍛えなさい」
言っていることは正しいのだろう。しかし多くの人のためにと、正義感を振りかざす父を俺は好きになれなかった。
俺は今、誰に言われるまでもなく自分のために必要なことをしている。助けるのは目の前にいる手の届く範囲だけでいいじゃないか。
多くの人のため、国のため、世界のため……勇者じゃあるまいし、そんなこと知ったこっちゃない。
ショートソードで剣の素振りをしていたら、いつの間にかカリンが入り口前に立ってこちらを見ていた。
鍛錬を終えてカリンに近づくと
「※XX、&&☆※◇◇※X」
鼻の頭にしわを寄せて、俺を汚い物でも見るように顔を背ける。グイッと手を引かれて食料庫奥の水汲み場まで引っ張られた。
右奥のイノシシ肉を放り込んだ場所まで連れていかれ、体を洗えだの洗濯しろだのと身振り手振りで伝えてくる。
周りには手桶やタライだとかが置かれているな。なるほどここは洗濯や水浴びをする所でもあるようだ。
そんな臭かったか? 今まであまり気にならなかったのだが。
俺が上着のシャツを脱ぎ肌を見せると、カリンはピューと走って部屋の方に帰っていった。乙女かよ?
ここにタオルはあるようだが石鹸が無い。箱に灰のような物が入っているが、これで洗うのか? よく分からん。
まずは水浴びだ。服や靴を全部脱いで頭から水をかぶる。
「うおー、冷めてー」
水だけだがタオルでゴシゴシ体を洗っていく。次は洗濯だが全自動洗濯機しか知らない俺はどう洗濯するのか分からん。
桶に水を入れて衣類をバシャバシャしてみるが、あまり綺麗になったように思えない。一度灰を使ってみるか。灰をシャツに付けてゴシゴシすると黒くなった。当たり前か。
水で洗うと色は薄くなったが、黒いのが残っている。まあ元から真っ白ではないし別にこのままでもいいかと洗濯を終える。
ズボンだけ穿いて洗濯物とタオルを持って部屋に向かう。
途中寝室でアイシャとカリンがおしゃべりしていたが、上半身裸の俺を見てふたりとも俯いてしまった。乙女だな。
かまどの部屋でノースリーブの革ジャケットだけを着たが、どこかの芸人みたいになって様になっていない。
外の平らな岩の上に濡れた洗濯物を置いて石を乗せておいた。この日差しならすぐ乾くだろう。
部屋に戻るとすでに朝食の準備はできていて、もう手伝うこともなさそうなのでテーブルを寝室に移動させておこう。
3人で朝食を食べているが今日は少し静かだな。まあいいかパンもスープもすごく美味しい。これで今日も一日頑張れるぞ。
昨日アイシャの傷を見たが、完全に出血は止まり傷口は塞がっていた。抜糸をしなければならないが、普通の糸を使ったからか傷と癒着している。
麻酔無しで抜糸するのはアイシャも痛いし俺も辛い。朝食後、そのことをアイシャに伝える。
「アイシャ・ 傷・ 糸・ 抜く・ イタイイタイ・ どうすればいい?」
カリン、可哀想な人を見るような目は止めろ。
「※○△※、☆☆※◇◇※」
アイシャ~、分かってくれたか。ありがとう~。
少し考えてふたりが相談した後、カリンはあからさまにイヤそうな顔をこちらに向けてくる。
そんなカリンが付いて来いとばかりに隣の部屋に行き、俺に剣を渡してきた。
小さな籠を持って外に出ていくので、慌てて一緒に付いていくと、左の方の林を指差している。
何かを採りに行くので護衛しろということらしい。多分麻酔用の薬草でも採取するんだろう。
「ちょっと待ってろ。林に行くなら服を着ていかんとな」
革のジャケットを脱いで、乾かしてあった長袖のシャツを着た。少し濡れているが構わん、そのうち乾く。ジャケットを着なおして、林へ向かうカリンの後ろに付いて行く。
護衛か……これは責任重大だぞ。緊張しながら周りに気を配る。
近くの藪からガサッと音がした。バッと飛び退き剣を構えると小さなウサギが飛び出してきた。
ビックリするじゃね~か。隣でカリンが大笑いしていやがる。この林はな怖え~んだぞ。大イノシシが出て来るんだからな!
その後も音がするたび、ビビリまくっていた。
そうこうしているうちに、薬草の採取は終わったから帰ろうと手招きしてくる。ホッと胸をなで下ろしていると、
「キャッ」
うずくまるカリンに駆け寄ると、赤い縞模様のヘビが足に咬みついている。とっさに剣を振ろうとしたが、その前にヘビは逃げ出していた。
「毒ヘビか!」
小さなヘビだったが、毒ヘビならまずい事になる。薬なんか効かない! ハブのような毒だったら血清がないと死んでしまうぞ。
カリンのズボンの裾をたくし上げて、咬まれて血が出ている傷口から毒を吸い出す。
吸っては吐き、吸っては吐きを繰り返す。痛そうにしているが、血を絞り出すように指で押しながら吸い出す。
「カリン、家はどっちだ!」
大きな声を出して、怯えさせてしまったか、震える手で指し示した。
カリンを背負って家の方へと走り出す。
手が塞がるのでお姫様ダッコはできないが許してくれ。
指し示す方向へ走り続けやっと家が見えてきた。入り口を開け寝室に飛び込む。
俺がゼーゼーと息をついている間に、涙目のカリンがアイシャに事情を説明してくれたようだ。
アイシャは最初驚いていたが、ほっとした顔になりカリンを慰めている。
「/*&%#」
俺の頬に手を添えて笑顔で見つめてくる。どうやら咬まれたのは毒蛇ではなかったようだな。
その場に座り込んでしまった俺に、アイシャがベッド横に置いていた水を差しだしてくれた。
一息ついたところで、カリンの傷を手当てしておこう。傷は小さいが化膿する恐れもある。傷を洗い軟膏を塗り包帯を巻く。念のためカプセル錠剤も渡したが、見慣れないのかキョトンとしている。
アイシャが飲むように言ってくれたようで、素直に飲んでくれた。
カリンが帰った後に何かあっても、俺は駆けつけてやれんからな。できるだけの事はしておこう。
「☆※◇&%」
カリンが小さな声で何か言ったが、お礼でも言ったのだろう。
俺にできるのはこの程度の事だ、感謝される程でもない。もし毒ヘビだったら助けられたかどうかも分からん。今回は幸運だっただけだ。
昼を過ぎてしばらくした頃、入り口からノックの音がする。カリンが嬉しそうに走って入り口を開けて、外にいる人と話をしている。
アイシャもゆっくりと松葉杖を突きながら入り口に向かっているので、俺も寄り添う。
入り口に立っていたのは虎獣人の青年だった。カリンの兄妹か? どことなく似ているな。
アイシャと青年が話している間にカリンは食料庫に置いていた空箱と自分の鞄を持ってきていた。
青年はカリンを迎えに来たのだろう。帰るにしてもカリンひとりで山の中は危険だからな。カリンは名残惜しそうに、アイシャと話していたが、こっちに向き直り真剣な顔を向けて来る。
「アイシャ&%#☆※」
俺にアイシャのことを頼んでいるようだな。
青年も笑顔で俺に握手を求めてきた。カリンがちゃんと紹介してくれたのか人間である俺にも好意的だ。
カリンはブンブンと大きく手を振って荷馬車に乗り帰っていった。なんだか嵐のような奴だったな。
剣に慣れるのも体を鍛えるのも、この世界で生きる俺にとって必要だと考えたからだ。
小学生の頃。警官だった父親に言われて、好きでもない剣道と空手の道場に通わされた。
「多くの人を守るため、弱い人を助けるため、まずは自分が強くないとダメだ。正義を示すため、悪事を暴くためには勇気が必要だ。精神も鍛えなさい」
言っていることは正しいのだろう。しかし多くの人のためにと、正義感を振りかざす父を俺は好きになれなかった。
俺は今、誰に言われるまでもなく自分のために必要なことをしている。助けるのは目の前にいる手の届く範囲だけでいいじゃないか。
多くの人のため、国のため、世界のため……勇者じゃあるまいし、そんなこと知ったこっちゃない。
ショートソードで剣の素振りをしていたら、いつの間にかカリンが入り口前に立ってこちらを見ていた。
鍛錬を終えてカリンに近づくと
「※XX、&&☆※◇◇※X」
鼻の頭にしわを寄せて、俺を汚い物でも見るように顔を背ける。グイッと手を引かれて食料庫奥の水汲み場まで引っ張られた。
右奥のイノシシ肉を放り込んだ場所まで連れていかれ、体を洗えだの洗濯しろだのと身振り手振りで伝えてくる。
周りには手桶やタライだとかが置かれているな。なるほどここは洗濯や水浴びをする所でもあるようだ。
そんな臭かったか? 今まであまり気にならなかったのだが。
俺が上着のシャツを脱ぎ肌を見せると、カリンはピューと走って部屋の方に帰っていった。乙女かよ?
ここにタオルはあるようだが石鹸が無い。箱に灰のような物が入っているが、これで洗うのか? よく分からん。
まずは水浴びだ。服や靴を全部脱いで頭から水をかぶる。
「うおー、冷めてー」
水だけだがタオルでゴシゴシ体を洗っていく。次は洗濯だが全自動洗濯機しか知らない俺はどう洗濯するのか分からん。
桶に水を入れて衣類をバシャバシャしてみるが、あまり綺麗になったように思えない。一度灰を使ってみるか。灰をシャツに付けてゴシゴシすると黒くなった。当たり前か。
水で洗うと色は薄くなったが、黒いのが残っている。まあ元から真っ白ではないし別にこのままでもいいかと洗濯を終える。
ズボンだけ穿いて洗濯物とタオルを持って部屋に向かう。
途中寝室でアイシャとカリンがおしゃべりしていたが、上半身裸の俺を見てふたりとも俯いてしまった。乙女だな。
かまどの部屋でノースリーブの革ジャケットだけを着たが、どこかの芸人みたいになって様になっていない。
外の平らな岩の上に濡れた洗濯物を置いて石を乗せておいた。この日差しならすぐ乾くだろう。
部屋に戻るとすでに朝食の準備はできていて、もう手伝うこともなさそうなのでテーブルを寝室に移動させておこう。
3人で朝食を食べているが今日は少し静かだな。まあいいかパンもスープもすごく美味しい。これで今日も一日頑張れるぞ。
昨日アイシャの傷を見たが、完全に出血は止まり傷口は塞がっていた。抜糸をしなければならないが、普通の糸を使ったからか傷と癒着している。
麻酔無しで抜糸するのはアイシャも痛いし俺も辛い。朝食後、そのことをアイシャに伝える。
「アイシャ・ 傷・ 糸・ 抜く・ イタイイタイ・ どうすればいい?」
カリン、可哀想な人を見るような目は止めろ。
「※○△※、☆☆※◇◇※」
アイシャ~、分かってくれたか。ありがとう~。
少し考えてふたりが相談した後、カリンはあからさまにイヤそうな顔をこちらに向けてくる。
そんなカリンが付いて来いとばかりに隣の部屋に行き、俺に剣を渡してきた。
小さな籠を持って外に出ていくので、慌てて一緒に付いていくと、左の方の林を指差している。
何かを採りに行くので護衛しろということらしい。多分麻酔用の薬草でも採取するんだろう。
「ちょっと待ってろ。林に行くなら服を着ていかんとな」
革のジャケットを脱いで、乾かしてあった長袖のシャツを着た。少し濡れているが構わん、そのうち乾く。ジャケットを着なおして、林へ向かうカリンの後ろに付いて行く。
護衛か……これは責任重大だぞ。緊張しながら周りに気を配る。
近くの藪からガサッと音がした。バッと飛び退き剣を構えると小さなウサギが飛び出してきた。
ビックリするじゃね~か。隣でカリンが大笑いしていやがる。この林はな怖え~んだぞ。大イノシシが出て来るんだからな!
その後も音がするたび、ビビリまくっていた。
そうこうしているうちに、薬草の採取は終わったから帰ろうと手招きしてくる。ホッと胸をなで下ろしていると、
「キャッ」
うずくまるカリンに駆け寄ると、赤い縞模様のヘビが足に咬みついている。とっさに剣を振ろうとしたが、その前にヘビは逃げ出していた。
「毒ヘビか!」
小さなヘビだったが、毒ヘビならまずい事になる。薬なんか効かない! ハブのような毒だったら血清がないと死んでしまうぞ。
カリンのズボンの裾をたくし上げて、咬まれて血が出ている傷口から毒を吸い出す。
吸っては吐き、吸っては吐きを繰り返す。痛そうにしているが、血を絞り出すように指で押しながら吸い出す。
「カリン、家はどっちだ!」
大きな声を出して、怯えさせてしまったか、震える手で指し示した。
カリンを背負って家の方へと走り出す。
手が塞がるのでお姫様ダッコはできないが許してくれ。
指し示す方向へ走り続けやっと家が見えてきた。入り口を開け寝室に飛び込む。
俺がゼーゼーと息をついている間に、涙目のカリンがアイシャに事情を説明してくれたようだ。
アイシャは最初驚いていたが、ほっとした顔になりカリンを慰めている。
「/*&%#」
俺の頬に手を添えて笑顔で見つめてくる。どうやら咬まれたのは毒蛇ではなかったようだな。
その場に座り込んでしまった俺に、アイシャがベッド横に置いていた水を差しだしてくれた。
一息ついたところで、カリンの傷を手当てしておこう。傷は小さいが化膿する恐れもある。傷を洗い軟膏を塗り包帯を巻く。念のためカプセル錠剤も渡したが、見慣れないのかキョトンとしている。
アイシャが飲むように言ってくれたようで、素直に飲んでくれた。
カリンが帰った後に何かあっても、俺は駆けつけてやれんからな。できるだけの事はしておこう。
「☆※◇&%」
カリンが小さな声で何か言ったが、お礼でも言ったのだろう。
俺にできるのはこの程度の事だ、感謝される程でもない。もし毒ヘビだったら助けられたかどうかも分からん。今回は幸運だっただけだ。
昼を過ぎてしばらくした頃、入り口からノックの音がする。カリンが嬉しそうに走って入り口を開けて、外にいる人と話をしている。
アイシャもゆっくりと松葉杖を突きながら入り口に向かっているので、俺も寄り添う。
入り口に立っていたのは虎獣人の青年だった。カリンの兄妹か? どことなく似ているな。
アイシャと青年が話している間にカリンは食料庫に置いていた空箱と自分の鞄を持ってきていた。
青年はカリンを迎えに来たのだろう。帰るにしてもカリンひとりで山の中は危険だからな。カリンは名残惜しそうに、アイシャと話していたが、こっちに向き直り真剣な顔を向けて来る。
「アイシャ&%#☆※」
俺にアイシャのことを頼んでいるようだな。
青年も笑顔で俺に握手を求めてきた。カリンがちゃんと紹介してくれたのか人間である俺にも好意的だ。
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