【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~

水瀬 とろん

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第1章 異世界暮らし 山の家

第15話 初めてのお使い 完了

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 カリンの店を出て街中を歩く。

 まだ時間もあるし、折角ここまで来たんだから少し寄り道をして街を見ていこう。日本とは違って石造りの家ばかりだ。2階建て、いや3階建ても多いな~。

「おっ、向こうの方に塔みたいな建物があるぞ。あれは結構高いな~」

 やはり中世のヨーロッパといった感じか。ファンタジー世界みたいだし魔法もあるんだろうな。ランプだったり録音機、あれも魔法か魔道具といった物なんだろう。

 この町がどのくらいの規模なのか知らないが、結構な人……、いや獣人が通りを歩いている。おっと、トラブルに遭わないようにフードを被っておくか。どうも人間ってだけで目を引くみたいだしな。

 通りを歩いて行くと、ちょっとした広い場所に出てきた。

「少し休憩するか」

 住宅に囲まれた小さな公園のような空き地。周囲に置かれている石のベンチにどっかと腰掛ける。
 カリンの店で買った食品は鞄に入りきらず、袋をひもで結んでもらい肩から掛けられるようにしてもらった。その荷物も横に下ろして公園を眺める。

 中央には水飲み場があって、獣人の子供達がキャッキャ言いながら、水を飲んだり水を掛け合って遊んでいる。木でできた蛇口のようだが、常に水が出ていて周囲の桶の部分に水が溜まっている。
 この近くには湖もあるからな、水は豊富なようだ。見ていると大人達も水を汲みに来たり、飲んだりしている。この地区の水源のようだな。

「俺もちょっと飲んでくるか」

 歩き回って少し喉が渇いた。生水は危ないと言うが、一口二口なら大丈夫そうだ。

 この広場の周りには商店が建ち並んでいるようだが、店先の看板には絵が描いてある。カリンの店もそうだったが、靴の絵だったりコップの絵だったりだ。
 この世界には文字がないのか? いや、城門での取り調べでは書類があったな。庶民は読み書きができないのかもしれん。巻き貝の録音機があれば手紙の必要もないしな。

「そういえば、カリンの店で商品の下に何か文字らしきものがあった気がする……。あれは数字か?」

 商品の値段が書かれていたのかもしれないな。
 やはり言葉や文字を教えてもらわなければ、この世界を独りで生きていくことはできそうにない。

 今の俺は赤子と同じか……。いくら前の世界の記憶や知識があっても、ここでは通用しない。女神様からもらった品も、医薬品と剣とナイフぐらいしか残っていない。
 それらを売って金にすることはできるかもしれんが一時しのぎだ。生活する手段がなければいずれ野垂れ死ぬだけだ。

 なるほど、ここにも死があるというわけか。

 それを考えるとアイシャは強い子だな。あの山の中で独りで暮らし生活している。俺がイノシシに襲われた道を通り、この町に何度も来ているんだろう。
 山での生活は危険なはずだ。実際にサーベルタイガーに襲われて死にかけている。でも俺といる時には明るい笑顔を見せてくれる。

 俺の力など要らんのかもしれんが、怪我が治るまでは少しでも助けになってやらんとな。

 アイシャがいてくれたお陰で、街でも買い物ができ食料も調達できる。自分ひとりなら非常食が無くなった時点で終わりだったな~。
 アイシャには感謝してもしきれない。

「おっと、まだお使いの途中だったな」

 お使いは家に帰るまでがお使いだと、誰かが言っていた。さて家に帰るとするか。
 帰りの城門で門番さんは何も言ってこなかった。出るときはフリーパスのようで助かるよ。

 山脈を右手に見ながら街道を進んで行く。山に入る分岐点で道しるべをもう一度よく見てみるが、書かれているのが文字のはずだ。
 英語でも、フランス語でもない、どちらかというとアラビア文字に似ているな。

 さあ後は山道を登るだけだ。ここからは獣などに注意しながら行かないとな。

 山道の途中、イノシシに襲われた場所に着いた。真っ二つになったイノシシがまだ転がっている。やはり食料になるのなら肉を持って帰るべきだろう。

 イノシシに近づくと嫌な臭いがしてきたが我慢だ。後ろ足のところを剣で切り裂き、足先を掴んで引きずり出す。結構な重さのもも肉だ。

「おっ! こんな所にイノシシの牙が落ちてるぞ」

 これも拾っておこう。カリンの店でまた売れば金になる。

 行きに目印で立てた木が見えてきたぞ。これを下ればもうすぐアイシャの家だ。なんだかウキウキしてきた。
 家の入り口の前で肉を降ろしていると、家の中でガタンと何か落ちるような音がした。

 中に入るとアイシャが椅子に座って、すまし顔でこちらを見てくる。さっきの音は松葉杖が倒れた音みたいだな。
 水でも飲みに来ていたのか? そういえば床も濡れているな。

「ただいま、アイシャ」

 笑顔で声をかけると、なんだか硬い笑顔が帰ってきた。もっと「わ~、お帰り~」みたいな反応を期待していたのだが。
 寝室に戻るか? と指差したら、ニコッとして両手を広げてきた。うん、いつものアイシャだ。


 カリンの店で買ってきた物を寝室に広げ、どこに何を置くかアイシャに指示してもらう。次に入り口に置いていたイノシシの肉を持ってくる。

「※◇◇、△※※◇」

 『わ~、すごい』と言っているみたいだ。最近なんとなく分かるようになってきた。なんだか嬉しい。

 でもその後、怪訝な顔を向けてきた。何かマズイ事をしてしまったのか?
 こちらを見て両手を広げた。ダッコかな? 違った。オンブの方である。

 アイシャを背負い、片手にイノシシの肉を持つ、というより引きずっていく。結構重い。
 食料庫の奥の水汲み場まで行くとその右手の奥、大きな桶や手桶が置かれ、壁には棚があった。何をする所か知らないが、アイシャは奥の岩に括り付けられたロープを指差している。

 アイシャを床に降ろしてロープを渡すと、イノシシの肉にロープを括り付けて、俺にその肉を奥に投げるように指示している。
 肉を奥に投げ込むとバシャンと水音がした。

 これで良かったようだが、肉として食べるには何かしらの下準備がいるのだろう。
 スーパーやコンビニでパック詰めされたお肉しか知らない俺には、何をしているのか全く分からんな。

 寝室に戻ったところで、アイシャから預かった巻き貝を渡す。ここにはカリンからの伝言が録音されている。
 それを耳に当てて、ウンウンと頷きながら聞いている。

「ユヅキ※☆。□□※、カリン□※☆※/X*□※。※△☆□□○△※」

 俺を見ながら何か嬉しそうにしゃべっている。

「俺も早く言葉を覚えなくっちゃな」

 ひとり決意する。
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