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第1章 異世界暮らし 山の家
第9話 治療3
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アイシャの隣のベッドでぐっすりと眠った朝、目覚めは清々しいものだった。やはり疲労が溜まっていたんだろう。ベッドを使わせてくれたアイシャの気遣いに感謝しないとな。
アイシャはまだ寝ているようなので、起こさないように静かにベッドを出て隣の部屋に行く。
テーブルの上に置いてある鞄の中身を確認してみると、薬品の軟膏や錠剤はまだ充分あるが、包帯やガーゼがもう無い。
「今日はシーツを切って包帯を作っておくか」
傷に巻いた包帯もそろそろ交換した方がいいだろうな。残っているシーツも余裕はないが、2回分の包帯とガーゼなら作れそうだ。
寝室からゴソゴソとアイシャの起きる音がしてきた。そろそろ食事の用意をするか。
朝食を一緒にしている時に、少し気になってアイシャに聞いてみた。同居人がいるんじゃないかと。
すると悲しそうな顔をして、ひとりでここに住んでいると伝えてくれた。
言葉が分からないので詳しい事情まで聴けなかったが、親しい人が亡くなったのかもしれない。あんな悲しそうな目は初めてだ。あまり同居人の事には触れない方が良いのかもしれんな。
アイシャとの食事を済ませた後、隣の部屋でシーツを使って包帯作りをする。
前世のように物が溢れた世界ではない。布製品がどの程度の価値なのか知らないが、この家に代わりになる布はもうないようだ。無駄にしないように、慎重にゆっくりと切り包帯とガーゼを作る。
消毒するため鍋の水を沸騰させ、できた包帯とガーゼを入れてしばらく待つ。
「かまどで火を熾すのも、慣れてきたものだな~」
前世の家ではスイッチひとつでコンロに火が入る。屋外のキャンプでもライター1本で簡単に着火剤に火をつけていたな。火のついた炭を用意してくれる所もあったし、便利だったよな~としみじみ思い出してみる。
アイシャのこの家を見る限り質素で何もない。この世界の標準的な生活がどの程度なのか分からないが、前世とは比べ物にならないだろうな。
だが山腹から見た麓の町はそれなりの大きさだった。この世界の人々は周りに便利な物が無くても、ちゃんと生活してる。
「俺もその中に入ってやっていけるのか~」
この世界で生きていこうと決めたものの、やはり不安は拭えない。だが経験したことのない火熾しも、料理も作れるようになってきている。努力していけば何とかなるか。
おっと、包帯とガーゼの消毒ができたようだな。壁際に吊してある毛皮の近くに一緒に吊しておくか。
昼過ぎアイシャが起きたが、少し足が痛むようだ。傷の方ではなく腫れていた足首が痛いらしい。
添え木を外して湿布を塗ったガーゼを取り去る。腫れは引いてきているが内出血した跡がある。
湿布は固まってて役に立ってないようだ。急遽非常食で作った、なんちゃって湿布だから仕方ないか。
アイシャが壁際にある棚の下の方を指差して、何か取ってきてほしいような仕草をする。棚には手のひらほどの木の箱があり、緑色のクリームのような物が入っていた。
「ユヅキ※☆、※○△※、☆☆※○△※☆※○」
草のツンとした匂いがするが、どうもこれが湿布薬のようだな。薬を塗ったガーゼを腫れた足首に巻いて、その上から包帯を巻く。これで少しは楽になるか。
人間とは違い肉球のある足。走れば人間なんかまったく追いつけない強靱な足のように見える。
その足裏の肉球を見ているとプニプニしたい衝動に駆られたが、今はしっかりと固定しておかねば。添え木を痛くならない位置で固定して布でしっかり巻いておこう。
ついでなので、左足の傷の包帯も取り替えるか。
「足の包帯も取り替えるから、ベッドに横になってくれないか」
言った事が分かってくれたのか、恥ずかしそうにしながらも、俯きに寝てポンチョの裾をたくし上げてシッポも横に動かしてくれた。
血が滲んだ包帯をベリベリと剥がして傷跡を見てみる。ガーゼはべったり張り付いていたので、皮膚を傷つけないようにナイフで切り裂いて外す。
傷口は少し洗った方がいいか。沸騰したお湯にシーツの切れ端を入れて消毒し、その布で傷口を綺麗にしていく。少し痛んだのか、声を押し殺すように呻いている。
「すまないな。痛むだろうが勘弁してくれ」
素人の俺がした下手な縫合では、たぶん傷跡は消えないだろう。医術の心得もなく処置したことを思い出し、本当に申し訳ない気持ちで一杯になる。
傷口に軟膏を塗って、新しいガーゼを貼り包帯を巻く。全て終わったので部屋を出て行こうとしたら。
「ユヅキ※☆、☆※○、☆。△※☆☆※○☆」
自分のシッポを手に持って何か訴えてくる。仕草をよく見ると、シッポを拭いて綺麗にしてほしいらしい。
確かに半分ほどが血で固まった状態になっている。折角の太くてモフモフであろうシッポが棒のようだ。
服に着いた血は水じゃないと綺麗にならないと聞いたことがある。水を入れた鍋を寝室に持って行き、布に水を染みこませて丁寧にシッポを拭いていく。
根元を拭いた時は「キャッ」と悲鳴を上げられてしまったが、どうも弱い所のようだな。拭き終わるとモフモフとまではいかないが、少しはオオカミのシッポらしくなってくれた。
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
明日以降の更新時間を、お昼の12時とさせてもらいます。
毎日更新、2~3話を更新予定です。今後ともよろしくお願いいたします。
アイシャはまだ寝ているようなので、起こさないように静かにベッドを出て隣の部屋に行く。
テーブルの上に置いてある鞄の中身を確認してみると、薬品の軟膏や錠剤はまだ充分あるが、包帯やガーゼがもう無い。
「今日はシーツを切って包帯を作っておくか」
傷に巻いた包帯もそろそろ交換した方がいいだろうな。残っているシーツも余裕はないが、2回分の包帯とガーゼなら作れそうだ。
寝室からゴソゴソとアイシャの起きる音がしてきた。そろそろ食事の用意をするか。
朝食を一緒にしている時に、少し気になってアイシャに聞いてみた。同居人がいるんじゃないかと。
すると悲しそうな顔をして、ひとりでここに住んでいると伝えてくれた。
言葉が分からないので詳しい事情まで聴けなかったが、親しい人が亡くなったのかもしれない。あんな悲しそうな目は初めてだ。あまり同居人の事には触れない方が良いのかもしれんな。
アイシャとの食事を済ませた後、隣の部屋でシーツを使って包帯作りをする。
前世のように物が溢れた世界ではない。布製品がどの程度の価値なのか知らないが、この家に代わりになる布はもうないようだ。無駄にしないように、慎重にゆっくりと切り包帯とガーゼを作る。
消毒するため鍋の水を沸騰させ、できた包帯とガーゼを入れてしばらく待つ。
「かまどで火を熾すのも、慣れてきたものだな~」
前世の家ではスイッチひとつでコンロに火が入る。屋外のキャンプでもライター1本で簡単に着火剤に火をつけていたな。火のついた炭を用意してくれる所もあったし、便利だったよな~としみじみ思い出してみる。
アイシャのこの家を見る限り質素で何もない。この世界の標準的な生活がどの程度なのか分からないが、前世とは比べ物にならないだろうな。
だが山腹から見た麓の町はそれなりの大きさだった。この世界の人々は周りに便利な物が無くても、ちゃんと生活してる。
「俺もその中に入ってやっていけるのか~」
この世界で生きていこうと決めたものの、やはり不安は拭えない。だが経験したことのない火熾しも、料理も作れるようになってきている。努力していけば何とかなるか。
おっと、包帯とガーゼの消毒ができたようだな。壁際に吊してある毛皮の近くに一緒に吊しておくか。
昼過ぎアイシャが起きたが、少し足が痛むようだ。傷の方ではなく腫れていた足首が痛いらしい。
添え木を外して湿布を塗ったガーゼを取り去る。腫れは引いてきているが内出血した跡がある。
湿布は固まってて役に立ってないようだ。急遽非常食で作った、なんちゃって湿布だから仕方ないか。
アイシャが壁際にある棚の下の方を指差して、何か取ってきてほしいような仕草をする。棚には手のひらほどの木の箱があり、緑色のクリームのような物が入っていた。
「ユヅキ※☆、※○△※、☆☆※○△※☆※○」
草のツンとした匂いがするが、どうもこれが湿布薬のようだな。薬を塗ったガーゼを腫れた足首に巻いて、その上から包帯を巻く。これで少しは楽になるか。
人間とは違い肉球のある足。走れば人間なんかまったく追いつけない強靱な足のように見える。
その足裏の肉球を見ているとプニプニしたい衝動に駆られたが、今はしっかりと固定しておかねば。添え木を痛くならない位置で固定して布でしっかり巻いておこう。
ついでなので、左足の傷の包帯も取り替えるか。
「足の包帯も取り替えるから、ベッドに横になってくれないか」
言った事が分かってくれたのか、恥ずかしそうにしながらも、俯きに寝てポンチョの裾をたくし上げてシッポも横に動かしてくれた。
血が滲んだ包帯をベリベリと剥がして傷跡を見てみる。ガーゼはべったり張り付いていたので、皮膚を傷つけないようにナイフで切り裂いて外す。
傷口は少し洗った方がいいか。沸騰したお湯にシーツの切れ端を入れて消毒し、その布で傷口を綺麗にしていく。少し痛んだのか、声を押し殺すように呻いている。
「すまないな。痛むだろうが勘弁してくれ」
素人の俺がした下手な縫合では、たぶん傷跡は消えないだろう。医術の心得もなく処置したことを思い出し、本当に申し訳ない気持ちで一杯になる。
傷口に軟膏を塗って、新しいガーゼを貼り包帯を巻く。全て終わったので部屋を出て行こうとしたら。
「ユヅキ※☆、☆※○、☆。△※☆☆※○☆」
自分のシッポを手に持って何か訴えてくる。仕草をよく見ると、シッポを拭いて綺麗にしてほしいらしい。
確かに半分ほどが血で固まった状態になっている。折角の太くてモフモフであろうシッポが棒のようだ。
服に着いた血は水じゃないと綺麗にならないと聞いたことがある。水を入れた鍋を寝室に持って行き、布に水を染みこませて丁寧にシッポを拭いていく。
根元を拭いた時は「キャッ」と悲鳴を上げられてしまったが、どうも弱い所のようだな。拭き終わるとモフモフとまではいかないが、少しはオオカミのシッポらしくなってくれた。
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【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
明日以降の更新時間を、お昼の12時とさせてもらいます。
毎日更新、2~3話を更新予定です。今後ともよろしくお願いいたします。
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