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第1章 異世界暮らし 山の家
第4話 獣人の女の子
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まだ若いと思われる獣人の娘に驚愕しながらも、足の傷に目をやった。
左足太ももの上の方に爪で引き裂かれたような傷があり、ズボンに大量の血がこびり付いている。右足も負傷しているのか動けないでいる。
――ここじゃ、治療はできんな。あの扉まで運ぶか?
いやダメだ。距離があるし帰っても寝かせるためのベッドすらない。
この河原で治療した方がましだ。そう躊躇していると、獣人がこちらを見て苦しそうに何か喋っている。
「☆☆※◇、※○△//※☆※、XX&#☆*※」
言っている言葉は分からないが、身振りから指差す方に運んでほしいようだ。その方向に家や他の人がいるのかもしれない。
まずはここで応急処置をして、獣人の言う方向に運んだ方がいいのだろう。
怪我した獣人をそっとその場に寝かせ、俺は放り出した鞄などの荷物を取りに走った。
まずは足の血を止めないといけない。鞄の中から布を取り出し、強く足に巻き付けた。
獣人を背負い、何処に行けばいいのか尋ねたが言葉が通じない。獣人は腕を上げ震える手で指差す。
「こっちか。こっちに行けばいいのか!」
俺は急ぎ怪我した獣人を背中に担いで下流に向かい、浅瀬で川を渡って対岸に辿り着く。
獣人の指し示すまま、林に入り少し坂を登ると小さな道に出た。獣人は苦しそうな息づかいではあるが道の右、下る方向を指し示してくれた。
「もう少し頑張ってくれ」
獣人はそれほど重くなかったが、人ひとりを背負いながら、これほど早く走れる体力が自分にあったのかと驚く。
火事場の馬鹿力か女神様のチートか分からないが、木の間を縫い山道を下ってなんとか獣人の家らしき場所に辿り着くことができた。
獣人の家は洞窟なのか、ゴツゴツした岩壁に木でできた扉が取り付けられていた。背中の獣人は、もうグッタリしていて喋ることもできない様子だ。
これは危ないかもしれない。俺は急ぎ入り口を開け中に入る。
「誰か居ないか!!」
声を掛けたが反応はない。この家には誰も居ないのか。
鞄に括り付けていたローブを床に敷き、その上に獣人の娘を寝かせてやるが、苦しそうな息づかいで顔をしかめている。少しでも楽になるよう上着の革のベストを脱がせておく。
何か、治療に役立つ物はないか?
部屋には四角いテーブルと椅子、壁には何の動物か分からないが、数匹分の毛皮が吊してあるだけだ。
右手にはかまどと、水瓶か? 蓋を開けてみるとたっぷりの水が入っていた。
奥にも部屋があるようだ。女性の部屋を物色するようで気が引けたが、そうも言ってられない。
「ここは寝室か?」
布で仕切られた奥の部屋にはベッドが2つある。
その奥には扉があり中は洞窟の壁がむき出しで、動物らしき肉が1本吊してあった。
棚や大きな箱の中も何か無いか急いで探してみたが、医療品らしき物はない。ベッドのシーツを裂いて包帯代わりにするぐらいか……。
一方のベッドからシーツを剥がし、獣人の所に戻ってみると浅く苦しい息づかいで、もう意識もないようだ。
「これは、急がないとまずい事になるな」
かまどに行き、上に置いてある鍋の中に水を入れる。
箱の中にあったワラを下に敷き、横に積まれている薪を入れて、鞄から火打ち棒を取り出し火を熾す。
鞄には針と糸があったはずだ。これで傷を縫合しないと出血が止まらないぞ。
医療経験はないが、できる限りの事をしなければこの獣人の娘は死んでしまう。
俺は獣人の娘の傷を縫合する決意を固めた。医学の知識はないが、何とかしないと……。
針に糸を通してから、火にかけている鍋の中に入れて消毒をする。
沸騰するまでの間、獣人の足を水で洗う。綺麗な水の方がいいだろうと水筒の水で傷口を洗う。
意識はないが痛むのか、獣人の娘はうめき声を上げている。
「もう少し我慢してくれ」
膝までのズボンが血で張り付いて固まり、黒く太いシッポも赤黒く血に染まっていた。
ベルトを外してから獣人の娘をうつむけにし、ナイフでズボンを切り裂いていく。
「すまないな、下着も切らせてもらうぞ」
深い傷が太ももからお尻のあたりまで続いて、まだ出血している。
この傷を俺が縫い合わせるのか!
どうすればいい。裁縫は小学校で習ったか? いや、あんな裁縫とは違う。テレビドラマなどで医者が手術している場面を見たことがあるだろう。
思い出せ!!
手を綺麗に洗ってから、沸騰した鍋から針と糸を細い棒を使って取り出す。傷の端で皮膚に針を刺して一針目を縫い、糸がほどけないように縛っておく。
血で真っ赤な筋肉の組織が傷口から見えて、少し嘔吐きそうになるが堪えて二針目を縫っていく。
縫い合わせるたびにうめき声が聞こえるが、麻酔も無しでやっているんだ。そりゃ痛いだろ。
「すまん! 我慢してくれ!」
縫合を続けるが、本当にこれでいいのか? 今まで見てきたものを……俺の知識の全てを総動員しろ!!
消毒はこれでいいのか? 縫い方はこれで? 途中で糸が無くなるぞ。一旦縛って次の糸だ。
本当にこれでいいのか? 俺で良かったのか? もっと医療について勉強しておけば良かった……。
泣きそうになりながら必死で傷口を縫っていく。助かってくれ! 助かってくれ!
・
・
……なんとか最後まで縫い合わせることができた。
まだ血が滲んでいる。鞄の中に軟膏があったはずだ。白いガーゼのような物もあったので、軟膏を塗ってガーゼを貼り包帯を巻いた。
フゥーと大きな息を吐き、床に座り込む。
獣人の娘の縫合が終わったばかりで、まだ頭がボーとする。
いや……まだだ。確か右足も負傷していたはずだ。他にも傷があるかもしれない。俺はいくら疲れても大丈夫だ、回復できる。だがこの娘は下手をすれば帰って来れなくなる。
獣人の足先は人間とは違い犬や猫と同じように指先を接地し、かかとを浮かせる形だ。足首付近には白い毛が生えていて肉球もある。左足に比べ右足のかかと部分が腫れ上がっていた。
「捻挫ならいいんだが、骨が折れているのかもしれんな」
細かな骨の構造は分からんが、どちらにしても冷やして固定しなければ。確か湿布は小麦粉で代用できたはずだ。
「非常食の粉を使って何とかしてみるか」
もうガーゼや包帯は無いので、ベッドのシーツを裂いて非常食の粉をくるむ。それに水を加えて練ってシーツの布に塗りつける。
腫れた右足首に湿布を貼り、シーツの包帯で巻く。添え木は小さめの薪で足首を固定して縛っておいた。
「他の怪我も確かめんとな」
血が張り付いた上着のシャツを切り裂かせてもらう。やはり獣人なんだな、首から背中にかけてタテガミのような黒色の毛が生えている。
肩や胸などにも怪我がないか確かめるが、小さな擦り傷以外に大きな怪我はないようだ。この傷には軟膏を塗っておけば大丈夫だろう。
「よく頑張ってくれたな」
処置が終わり、獣人の娘をベッドまで運んで寝かせて掛け布団をかけてやる。息は少し楽になったようだが、顔色は良くない。
「何とかできたが、これで良かったんだろうか……」
まったく自信がない。河原で猛獣と相対した時もそうだったが、死をこんなにも身近に感じたことはない。
今までにも祖父や祖母の死を見てきているが、そのときは病院の中で家族が見守っていた。
上司の親が亡くなり、葬式に何回か行った事はある。年をとって亡くなる、これは順番で俺もいずれ死ぬのだろう。だがまだまだ先で、死とは他人事のように感じていた。
この異世界では隣り合わせの死を感じながら、皆生活しているのかもしれない。
この娘は獣人だが言葉もしゃべり、家を構えて俺たち人間と同じように生活している。それに俺よりかなり若い、死ぬには早過ぎる。
「何とか助けてやりたいな」
今まで神様に祈ったことはないが、あの女神様でもこの世界の神様でもいい。この娘を助けてやってくれ。
陽が落ちてきたのか部屋の中が暗くなってきた。獣人の娘の横で様子を見ていたが、俺も少し休まないと体がきしむように痛い。
一旦隣の部屋にあった椅子に座って落ち着く。とたんに眠気が襲ってきた。
「今日は色々なことが……、あり過ぎたからな……、明日はもっとちゃんと……」
俺は眠気に抗うこともできず、ストンと意識を手放した。
左足太ももの上の方に爪で引き裂かれたような傷があり、ズボンに大量の血がこびり付いている。右足も負傷しているのか動けないでいる。
――ここじゃ、治療はできんな。あの扉まで運ぶか?
いやダメだ。距離があるし帰っても寝かせるためのベッドすらない。
この河原で治療した方がましだ。そう躊躇していると、獣人がこちらを見て苦しそうに何か喋っている。
「☆☆※◇、※○△//※☆※、XX&#☆*※」
言っている言葉は分からないが、身振りから指差す方に運んでほしいようだ。その方向に家や他の人がいるのかもしれない。
まずはここで応急処置をして、獣人の言う方向に運んだ方がいいのだろう。
怪我した獣人をそっとその場に寝かせ、俺は放り出した鞄などの荷物を取りに走った。
まずは足の血を止めないといけない。鞄の中から布を取り出し、強く足に巻き付けた。
獣人を背負い、何処に行けばいいのか尋ねたが言葉が通じない。獣人は腕を上げ震える手で指差す。
「こっちか。こっちに行けばいいのか!」
俺は急ぎ怪我した獣人を背中に担いで下流に向かい、浅瀬で川を渡って対岸に辿り着く。
獣人の指し示すまま、林に入り少し坂を登ると小さな道に出た。獣人は苦しそうな息づかいではあるが道の右、下る方向を指し示してくれた。
「もう少し頑張ってくれ」
獣人はそれほど重くなかったが、人ひとりを背負いながら、これほど早く走れる体力が自分にあったのかと驚く。
火事場の馬鹿力か女神様のチートか分からないが、木の間を縫い山道を下ってなんとか獣人の家らしき場所に辿り着くことができた。
獣人の家は洞窟なのか、ゴツゴツした岩壁に木でできた扉が取り付けられていた。背中の獣人は、もうグッタリしていて喋ることもできない様子だ。
これは危ないかもしれない。俺は急ぎ入り口を開け中に入る。
「誰か居ないか!!」
声を掛けたが反応はない。この家には誰も居ないのか。
鞄に括り付けていたローブを床に敷き、その上に獣人の娘を寝かせてやるが、苦しそうな息づかいで顔をしかめている。少しでも楽になるよう上着の革のベストを脱がせておく。
何か、治療に役立つ物はないか?
部屋には四角いテーブルと椅子、壁には何の動物か分からないが、数匹分の毛皮が吊してあるだけだ。
右手にはかまどと、水瓶か? 蓋を開けてみるとたっぷりの水が入っていた。
奥にも部屋があるようだ。女性の部屋を物色するようで気が引けたが、そうも言ってられない。
「ここは寝室か?」
布で仕切られた奥の部屋にはベッドが2つある。
その奥には扉があり中は洞窟の壁がむき出しで、動物らしき肉が1本吊してあった。
棚や大きな箱の中も何か無いか急いで探してみたが、医療品らしき物はない。ベッドのシーツを裂いて包帯代わりにするぐらいか……。
一方のベッドからシーツを剥がし、獣人の所に戻ってみると浅く苦しい息づかいで、もう意識もないようだ。
「これは、急がないとまずい事になるな」
かまどに行き、上に置いてある鍋の中に水を入れる。
箱の中にあったワラを下に敷き、横に積まれている薪を入れて、鞄から火打ち棒を取り出し火を熾す。
鞄には針と糸があったはずだ。これで傷を縫合しないと出血が止まらないぞ。
医療経験はないが、できる限りの事をしなければこの獣人の娘は死んでしまう。
俺は獣人の娘の傷を縫合する決意を固めた。医学の知識はないが、何とかしないと……。
針に糸を通してから、火にかけている鍋の中に入れて消毒をする。
沸騰するまでの間、獣人の足を水で洗う。綺麗な水の方がいいだろうと水筒の水で傷口を洗う。
意識はないが痛むのか、獣人の娘はうめき声を上げている。
「もう少し我慢してくれ」
膝までのズボンが血で張り付いて固まり、黒く太いシッポも赤黒く血に染まっていた。
ベルトを外してから獣人の娘をうつむけにし、ナイフでズボンを切り裂いていく。
「すまないな、下着も切らせてもらうぞ」
深い傷が太ももからお尻のあたりまで続いて、まだ出血している。
この傷を俺が縫い合わせるのか!
どうすればいい。裁縫は小学校で習ったか? いや、あんな裁縫とは違う。テレビドラマなどで医者が手術している場面を見たことがあるだろう。
思い出せ!!
手を綺麗に洗ってから、沸騰した鍋から針と糸を細い棒を使って取り出す。傷の端で皮膚に針を刺して一針目を縫い、糸がほどけないように縛っておく。
血で真っ赤な筋肉の組織が傷口から見えて、少し嘔吐きそうになるが堪えて二針目を縫っていく。
縫い合わせるたびにうめき声が聞こえるが、麻酔も無しでやっているんだ。そりゃ痛いだろ。
「すまん! 我慢してくれ!」
縫合を続けるが、本当にこれでいいのか? 今まで見てきたものを……俺の知識の全てを総動員しろ!!
消毒はこれでいいのか? 縫い方はこれで? 途中で糸が無くなるぞ。一旦縛って次の糸だ。
本当にこれでいいのか? 俺で良かったのか? もっと医療について勉強しておけば良かった……。
泣きそうになりながら必死で傷口を縫っていく。助かってくれ! 助かってくれ!
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……なんとか最後まで縫い合わせることができた。
まだ血が滲んでいる。鞄の中に軟膏があったはずだ。白いガーゼのような物もあったので、軟膏を塗ってガーゼを貼り包帯を巻いた。
フゥーと大きな息を吐き、床に座り込む。
獣人の娘の縫合が終わったばかりで、まだ頭がボーとする。
いや……まだだ。確か右足も負傷していたはずだ。他にも傷があるかもしれない。俺はいくら疲れても大丈夫だ、回復できる。だがこの娘は下手をすれば帰って来れなくなる。
獣人の足先は人間とは違い犬や猫と同じように指先を接地し、かかとを浮かせる形だ。足首付近には白い毛が生えていて肉球もある。左足に比べ右足のかかと部分が腫れ上がっていた。
「捻挫ならいいんだが、骨が折れているのかもしれんな」
細かな骨の構造は分からんが、どちらにしても冷やして固定しなければ。確か湿布は小麦粉で代用できたはずだ。
「非常食の粉を使って何とかしてみるか」
もうガーゼや包帯は無いので、ベッドのシーツを裂いて非常食の粉をくるむ。それに水を加えて練ってシーツの布に塗りつける。
腫れた右足首に湿布を貼り、シーツの包帯で巻く。添え木は小さめの薪で足首を固定して縛っておいた。
「他の怪我も確かめんとな」
血が張り付いた上着のシャツを切り裂かせてもらう。やはり獣人なんだな、首から背中にかけてタテガミのような黒色の毛が生えている。
肩や胸などにも怪我がないか確かめるが、小さな擦り傷以外に大きな怪我はないようだ。この傷には軟膏を塗っておけば大丈夫だろう。
「よく頑張ってくれたな」
処置が終わり、獣人の娘をベッドまで運んで寝かせて掛け布団をかけてやる。息は少し楽になったようだが、顔色は良くない。
「何とかできたが、これで良かったんだろうか……」
まったく自信がない。河原で猛獣と相対した時もそうだったが、死をこんなにも身近に感じたことはない。
今までにも祖父や祖母の死を見てきているが、そのときは病院の中で家族が見守っていた。
上司の親が亡くなり、葬式に何回か行った事はある。年をとって亡くなる、これは順番で俺もいずれ死ぬのだろう。だがまだまだ先で、死とは他人事のように感じていた。
この異世界では隣り合わせの死を感じながら、皆生活しているのかもしれない。
この娘は獣人だが言葉もしゃべり、家を構えて俺たち人間と同じように生活している。それに俺よりかなり若い、死ぬには早過ぎる。
「何とか助けてやりたいな」
今まで神様に祈ったことはないが、あの女神様でもこの世界の神様でもいい。この娘を助けてやってくれ。
陽が落ちてきたのか部屋の中が暗くなってきた。獣人の娘の横で様子を見ていたが、俺も少し休まないと体がきしむように痛い。
一旦隣の部屋にあった椅子に座って落ち着く。とたんに眠気が襲ってきた。
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