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第1章 異世界暮らし 山の家

第2話 異世界サバイバル1

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 女神様の居る白い部屋から、いきなり落とされ滑り降りた先は、乾いた土の上。辺りは薄暗く3メートル四方ほどの壁に囲まれた狭い場所。

「イテテテ~。何の説明もなくこれかよ」

 柔らかい土の上で助かったが、もっと優しく異世界に案内してもらいたいものだ。少し先には扉のようなものがあり、そこから光が漏れてきているようだな。
 もらった鞄やら剣やらを抱えて扉の近くまで行く。扉は傾いていて下の方が少し土に埋もれていた。

 僅かに開いた扉の隙間から、外の様子が垣間見える。

「森なのか? 木のようなものが何本も見えるが、ここは安全なのか?」

 独りごちてみたが、誰からも返事はない。

 ま~、そらそうか。これからは独りで頑張りなさいということだろうな。
 でもよ~、女神様。この世界について、もう少し丁寧な説明があってもいいんじゃないのか。
 まあ女神様の言うままに、勇者になって世界を救うなんて、まっぴらゴメンだけどな。

 ぶつくさ言ってふて腐れてみたが、実際何もかもが分からないこの世界。一歩外に出てすぐ死ぬなんて事にならないように注意だけはしておかないとな。

 斜めに傾いた2枚の扉、引き戸になっているが一方を少し引いてみると、堅いが何とか開きそうだ。少し体を出し周りの様子を観察してみる。

「ここは山の中か?」

 扉のすぐ外は少し開けた平地のようだが、その先は下っていて木が段々に連なっている。
 周りには動物や人などの気配はない。山の中だが鳥の声さえも聞こえず、静寂が広がっている。

 まずはここを起点にして周りの様子を探って、ここがどんな世界なのかを把握しておかないと。
 扉を押し開いて、警戒しつつ外に出てみる。

「下の方は木が邪魔で、よく見えんな」

 後ろは遙か先に山の頂上が見えるが、相当に高い山のようだ。3000m級の山々なのか、連なっている山頂には雪が積もっているのが見える。

 今の気候は春か秋のようで暑くも寒くもない感じではあるが、この先どのように変化していくのかは不明だ。

「あそこの丘の上なら、周りが見えるかもしれんな」

 草に覆われた丘。あそこなら見通しもいいようだが、その丘に行くまでもちろん道など無い。藪が生い茂った木の間を抜けて進んで行くしかないようだ。

 今手元にあるのは女神様にもらった、ナイフとショートソードだ。藪や小枝を払いながら進むには、このナイフでは少し短いか……。

 「仕方ないな。このショートソードで木の枝を払いながら進んで行くか」

 でもこんな大きな剣は扱ったことがない。俺は小さな頃に空手と剣道をやらされたが、竹刀や木刀とは勝手が違う。

 一応腰に剣を差し、ショートソードを抜いてみるが、西洋の剣など触るのも初めてだ。なんという名の剣か知らんが、ピカピカに光った長さ80cmぐらいの片刃で幅広の剣だ。少し重いが、なんとか片手で扱えそうだな。

 帰り道が分かるように、左右の枝を払いながら道なき道を木の根に躓きながら、何とか丘の上まで登ってきた。

「おお~、ここなら山の麓の様子がよく見えるぞ」

 左手の方に小さな湖が見える。その近くには町のような物があるじゃないか。この世界にも人がいたんだな~、とホッとする。

 麓の町の周りには畑か牧草地帯のような整備された緑地が見える。大勢の人が住んでいるんだろうな。

「町の周囲にあるのは城壁か? 建物も割と多いな」

 遠くて細部まで見えんが、町からは街道のような道も見えるし、他にも町があって頻繁に行き来しているのかもしれん。

「高い建物は見えんな。生活水準は中世ぐらいの感じか? 知っているラノベでもそんな感じだったが、本当に異世界なのかね~」

 山から湖に流れ込んでいる川も見えた。それなら、ここから左手に進めば川が見つかるかもしれんな。
 やはりまずは水の確保だよな。サバイバルの基本だよ。そう思っていると、なんだか喉が渇いてきた。

「確か水筒のような物があったはずだが」

 腰まである草を倒して土の上に敷き、座り込んで女神様にもらった肩掛けの鞄の中身を確かめてみる。

「おっと、これだな」

 金属製の筒はやはり水筒で、その半分以上が凍っている冷たい水を蓋のコップに注ぐ。

「ん~。うまい!」

 久しぶりに動かした体に染み渡るぜ。
 そういや空気もうまいな。山の中だからか異世界で汚染されてないからか、前世の都会とは雲泥の差だ。こんな清々しい場所に来たのはいつ以来だろう。

 しかしここで、のんびりとピクニック気分を味わっている余裕はないか。
 もうそろそろ陽も傾いてきたし、これから先は明日にして一旦さっきの扉の所まで戻るか。

 俺の感覚では日が沈むまで2時間以上あるようだが、余裕を持って行動しないと。この世界の1日が24時間かどうかも分からんしな。

 今来た道を戻る途中、火を熾せるように枯れ枝も拾っていこう。帰りは早く、半時間も歩けば扉の前まで到着していた。
 中に入り扉は少しだけ隙間を開け、光と空気を入れるようにして閉めておく。

 少し落ち着いたところで、もう一度鞄の中を確認してみる。そういえば俺の私物のような物は何もなかったな。
 携帯電話や時計のような物は一切無い。鞄の半分程を占める黒い布製の袋には、白い粉と黄色や緑色の四角い粒、乾燥野菜のような物が混ざっている。

「この粉は非常食のようだな。後は小さな金属の箱の中に医薬品か?」

 薬のような物と包帯があった。鞄の中はサバイバルグッズが詰め込まれているようで、針と糸と布などもあったが、俺に裁縫などできるはずないじゃないかと胸を張る。

 鞄に引っかけていたローブを着てみる。頭をすっぽり覆うフードが付いた、黒に近い濃い藍色のローブだ。
 僅かにキラキラ光っているようにも見える。こんな上等なローブを用意して、女神様は俺を木こりにしたいのか魔法使いにしたいのか良く分からんな。

 だが冷える夜にこれは助かると、ローブにくるまって横になってみる。クッション性もあるし、なかなかの着心地だ。

 ふと上を見上げた。

 俺は、ここから落ちて来たんだよな。登ればまた女神様に会えるのか?
 いやこの急坂を上るのは無理だし、俺を異世界に突き落とした女神様がまだ居るとは思えん。
 白い部屋から落とされた時、真っ暗な中に星のような光が通り過ぎて行くのが見えた。やはり別世界に放り出されたのだろう。

 今日はあまりにも色々なことが起こり過ぎた。これから先、俺は生きていけるのだろうか? 家族は今頃どうしているだろう。
 俺がいなくなって悲しんでいるだろうか。もしかしたら戻れる方法があるのかも……。

 ウツラウツラ考えているうちに、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
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