そして、燻む。美しく。

頭痛

文字の大きさ
上 下
9 / 14
第二章

眩暈

しおりを挟む
 「クロ、待って」
公園から出ようと荷物を纏めていたら、アヤから呼び止められた。
 アヤは鞄から取り出したハンドタオルを水で濡らし、少し絞ったそれを僕の頰に優しく当てた。
「いてっ」僕は反射的に顔をずらす。
 「ほっぺた、赤くなってるわよ?軽い火傷かな」
そういえば踏切で倒れ込んだ時、頰が熱い地面に触れたのだった。
 「あー、ホントだ。髪の毛で隠れてて気付かなかったけど、クロは色白だから赤いのが判るな」
 「それ、今のシロには言われたくないでしょうよ」
アヤはシロに皮肉を言いながら、僕の頰にハンドタオルを当てて言う。
 「とりあえずそのまま家まで冷やしておいた方がいいわよ。そのタオル、貸したげるから」
「ありがとう」
──二人とも本当に優しい。
僕達はそのまま公園で別れ、後で各々が連絡する約束を交わした。

 公園から少し歩き、僕はやっと自分の家に着いた。玄関の鍵を回し、ドアを開ける。
「はぁー、ただいま」
僕の両親は共働きの為この時間は誰も家に居ないが、一人言の様に帰宅を報せる。
 溜息が出てしまうくらいに、今日は色々あり過ぎて疲れた。
お腹も減ったが、とにかく汗や砂埃や血を洗い流したいので、まずシャワーを浴びよう。

 しっかりと戸締りのされた熱気の籠る自室に入り、エアコンを起動し床に鞄を投げ置く。
そのまま脱衣所に向かい、脱いだ服と巻いて貰った包帯を洗濯カゴに放り込み、シャワーを浴びた。
 シャワーのぬるいお湯で、ちくちくと身体中が痛む。よくよく見てみると、身体にはちらほらと擦り傷ができている。
そうだ、消毒しないと。

 浴室を出て身体を拭き新しい服に着替える。
とりあえずアヤに言われた通り応急処置を施し、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出してコップに注ぐ。コップの麦茶を飲み干すと、疲れたからなのかやっと落ち着いたからなのか、少し眠くなってきた。
 母が帰って来るのは夕方頃なので、それまで少し寝よう。
自室に戻ると、起動しておいたエアコンで丁度よく部屋が涼しくなっている。
 僕はベッドに倒れ込み、ウトウトし始めた時、鞄が振動している音がした。
多分、鞄の中のマナーモードのスマホがメッセージかゲームアプリの通知を知らせているのだろう。いや、もしかしたら着信かも知れない。
スマホを取り出さなきゃ。
──でも、眠い。

 僕はそのまま、すぅっと眠ってしまった。


────────。

 どれくらい眠っていたのだろう。
目が醒めると、部屋も窓の外も暗くなっていた。部屋の外では、母が料理をしている音が微かに聞こえる。

「今何時だ・・・」
暗がりの中、枕元を探る。だが、スマホが無い。
ああ、そうだ。鞄の中にあるのだった。

 鞄からスマホを取り出し、スリープ状態を解除した画面を見て、僕は小さい叫声を発した。
──アヤから何件も着信とメッセージが来ていたのだ。
 「クロ、電話に出て」という最後のメッセージの本文だけがロック画面に表示されている。

何だ。
何が起きた。

ロック画面を開き、メッセージを全部読もうとした矢先、アヤから電話の着信が来る。

「もしもし」

 「ああ、クロ、やっと出た・・・良かった・・・」
僕が電話に出ると、アヤはとても安心したような口ぶりで言った。

「どうしたの?何かあったの?」
 「それが──」

胸騒ぎがする。

 「シロと、連絡が取れないの」
「えっ?」

とても、嫌な、胸騒ぎがする。

 「おかしいと思ってシロの家に行ってみたんだけど、まだ帰って来てないって」
「え・・・でも、アヤはシロと一緒に帰ったよね?」
 「うん・・・家に入って行く所も見た。でも、帰ってないって」

何が起きてるんだ。

 「シロのおばさん、今日は仕事休みだから一日家に居たらしいの。でも・・・まだ帰って来てないって・・・どうしよう・・・どうなってるの・・・」

頭が働かない。
思考が追いつかない。
眩暈がする。

──夏休み初日。
 僕の中で、僕達の中で何かが音を立て、崩れていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

短な恐怖(怖い話 短編集)

邪神 白猫
ホラー
怪談・怖い話・不思議な話のオムニバス。 ゾクッと怖い話から、ちょっぴり切ない話まで。 なかには意味怖的なお話も。 ※完結としますが、追加次第更新中※ YouTubeにて、怪談・怖い話の朗読公開中📕 https://youtube.com/@yuachanRio

罪の果実、腐った種

華周夏
現代文学
『僕は腐った種なんだよ』悠人が咲哉に出会ったのは中学三年の時だった。 優等生の裏に隠されたぞっとするほど妖艶な残酷な咲哉の素顔とは。何故、咲哉はこうなったのか。

ピエロの嘲笑が消えない

葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美から奇妙な相談を受ける。彼女の叔母が入院している精神科診療所「クロウ・ハウス」で、不可解な現象が続いているというのだ。患者たちは一様に「ピエロを見た」と怯え、精神を病んでいく。葉羽は、彩由美と共に診療所を訪れ、調査を開始する。だが、そこは常識では計り知れない恐怖が支配する場所だった。患者たちの証言、院長の怪しい行動、そして診療所に隠された秘密。葉羽は持ち前の推理力で謎に挑むが、見えない敵は彼の想像を遥かに超える狡猾さで迫ってくる。ピエロの正体は何なのか? 診療所で何が行われているのか? そして、葉羽は愛する彩由美を守り抜き、この悪夢を終わらせることができるのか? 深層心理に潜む恐怖を暴き出す、戦慄の本格推理ホラー。

【本当にあった怖い話】

ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、 取材や実体験を元に構成されております。 【ご朗読について】 申請などは特に必要ありませんが、 引用元への記載をお願い致します。

7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。 7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。 ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。 ※よくある話で設定はゆるいです。 誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。

【厳選】意味怖・呟怖

ねこぽて
ホラー
● 意味が分かると怖い話、ゾッとする話、Twitterに投稿した呟怖のまとめです。 ※考察大歓迎です✨ ※こちらの作品は全て、ねこぽてが創作したものになります。

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

【拾話怪異譚】盲目の語り部

凪瀬夜霧
ホラー
「昔々の事でございます」 紙が貴重な世界。世を旅歩き集めた話を語り歩く「語り部」と言われる人々がいる。 語り部は驚異的な記憶力を持つ他、目を見る事で人の心を覗く力があった。 だがここに、盲目の語り部がいた。 瞳の力を失った彼が語るのは世にも恐ろしい怪異の物語。 人の魂が歪み魔物となって災い成す世で、魔物の心を覗きその過去を語り歩く異端の語り部ヨリ。 現を映さぬその眼に映るのはこの世にあらざるモノの悲哀。 愛憎、絶望、嫉妬、憤怒。何故彼らは異形と成り果てたのか? 怪異語りヨリと、その用心棒キョウの怪異物語です。 こちらはエブリスタにて三村薔様主催のシェアワールド「語り部企画」にて書かせて頂いた作品です。 2023年1月31日に同人誌にて頒布予定というのもあり、こちらにWeb掲載分を投稿いたします。 更新は毎日16時を予定しております。 全年齢ですので、怪談がお好きな方はどうぞご覧ください。

処理中です...