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第八章 国家エスカルド
苦悩
しおりを挟む「やぁやぁ、お嬢様、お元気してましたか?」
マリアの気も大分落ち着き稽古が再開された時、館から陽気な声を発しながらマリア達に近付く隻眼の男その後ろには氷の様に顔を凍らしている女性がついて来ている
「あ! ジェイク! おはよう!」
と今まで膨れっ面だったマリアの顔がパァーと明るくなり稽古を中断してジェイクに近付いて行く
「元気そうですね、良かった。剣の稽古途中だったんですか? 邪魔してしまったかな?」
「いいえ、良いのよ、丁度休もうと思ってた頃だから」
「そうですか、それは良かった。お嬢様に話したい土産話が沢山あるんですよ」
「え!? 本当に? やったぁ!」
と今まで見せた事の無いような笑顔で大喜びするマリア
「でも今は駄目よ、私これから十分休んだらすぐにまた稽古を再開しなくちゃいけないの」
「なるほどそうですか、十分では余りにも短すぎる……それでは続きは今夜にしましょう!」
「えぇ! 楽しみにしてるわね」
「そうしていて下さい」
とここでナサルが割り込む
「団長、今日も此処に泊まるんですか? そんなに留守にして都市の方は大丈夫なんですか?」
「大丈夫さ、俺が居なくたってあの組織は動ける」
「……ただ、面倒な仕事をしたくないだけよ」
と氷の女性キュベルがチクリとそう言う
「おいおい、自分の上司をそう悪く言うものでは無いよ……」
と怒る訳でも無く宥めるジェイク
そんなジェイクを見て、何かを思い出したのかジョンの方をジトーと睨むマリア
「何睨んでるんです? まさか、さっきの事をまだ根に持ってるんですか? 心が狭いお方だ」
「な!? 違うわよ!!」
「どうだか、クククッ」
「お互い部下に苦労しますね、お嬢様」
「全くよ!」
こんなやり取りをしていたら休憩時間がすぐに終わり、ジェイクも何か用があるようで屋敷に戻って行った。その後ろをキュベルはついて行く
再会される稽古、この時マリアには始めにあった意識の乱れは一抹も無く、稽古に集中していた。
「お嬢様、段々と良くなって来ましたよ」
ジェシカとキャロは筋肉トレーニングをしている
「ジェシカ、腕が下がりきっていないぞ」
「は、はい」
息切れし始めているジェシカ、キャロは余裕の表情
「ほぉ、キャロは素養があるようだな」
「えへへ、ありがとう」
キャロが褒められて嫉妬をするジェシカ、キャロに負けられないと必死にキャロについて行くがダメ
「大丈夫か? ジェシカ?」
「はい……だいじょうぶです」
「水を持ってくる、それまで休んでいろ」
「ジェシカちゃん、無理しちゃダメだよ?」
キャロに心配され尚更惨めになるジェシカ、思わずキャロを睨んでしまう
「? どうしたの?」
キャロはジェシカの敵意には気が付かず、無垢にそう質問をする
そんな純粋無垢なキャロを見て自分の単なる嫉妬でキャロを睨んでしまった自分が嫌になるジェシカ
「いえ、ごめんなさい、何でもないの」
「そうなんだ。えへへ、大丈夫だよ、ジェシカちゃん、トレーニングを毎日していればその内こんなもの何でもなくなるよ」
「キャロは此処に来る前からこんなトレーニングをやっていたの?」
「うん、お父さんに言われたからね」
「すごいのね、キャロは私は今日だけでもうんざりなのにこれを毎日なんて……」
「それは大げさだよ慣れだよ、慣れ」
「それでも私は貴方を尊敬するわ」
「だ、だから大げさだよぉ……そんなすごい事なんかじゃないんだよ」
ジェシカに真っ直ぐ見つめられ褒められ、照れるキャロ
稽古は昼に終わり、マリア達の食事を見届けた後、ジョン達も昼食にありついた。
ジョンは自分の部屋(ロウヤ)で食事を取ろうとしたがローラに呼び止められ仕方がなく一緒に食事する事になった。
客間で二人黙々と食事を取る
「ねぇ」
沈黙を破ったのはローラ
「何だ?」
うんざりしたような様子のジョン
「ナサルの事なんだけどもう少し優しく接して上げられないかな? 彼女だって強がっては居るけど一人の人間なんだよ? 嫌味を言われれば傷付くし泣きたくもなるよ」
「ナサルの事が心配なのか? 随分とお節介なお姉さんだな」
「お節介にもなるよ、私の”最後”の妹なんだもん」
「そう言う割にはナサルが居なくなった時、随分と冷静だったじゃないか」
「あのね、私だって長年人の上に立っているんだよ? そう簡単にパニックになる訳にはいかないよ」
「へぇ、それはそれは、隊長の鏡だな」
「ありがとう、そう言って貰えると嬉しいな」
ジョンの皮肉を正面から受け取るローラ、笑顔で礼を言う
「それでさ、ナサルと仲直りして欲しいからさ午後、ナサルと一緒に森で子供達と遊んであげてよ」
「は? 子供だと? キャロ達の事か?」
「キャロやお嬢様、ジェシカ、ネルヒム、それに村の子供達、全員だよ」
「……嘘だろ?」
「つまりナサルは週に一度、子供達と遊ぶ会を開いているんだ。それに君も参加して欲しい、簡単な話でしょ?」
普通の人間にとっては簡単でもジョンにとってはそうでは無い
「げぇ! 冗談じゃねぇ!」
「君が何を言ってもダメだよ、やってさもなくば……」
「さもなくば……?」
「君をあの牢屋から追い出すよ」
「牢屋と呼ぶな部屋と呼べ、部屋と」
「なんでもいいよ、兎に角、今日の午後ナサルと一緒に子供達と遊んであげてね」
「……はぁ」
この先の行く末を考え、溜息を吐くジョン
約束通りジョンは昼食後、村の湖周辺にてナサルと合流した。
ジョンの顔を見た瞬間またナサルは顔を顰める
「俺だって来たく無かったさ」
「全く……隊長は何を考えている?」
「さぁね、お前が直接聞けよ」
「私が話したところで正直な事は言わない」
「そりゃ残念、それで? 子供達は何処だ? 早く遊びたくて仕方が無いんだ。とっとと此処へ呼べ、八つ裂きにしてやる」
「ジョン、その言葉使いを止めろ、もし子供たちの前でそんな言葉を使ったら、私がお前を八つ裂きにする」
「おぉっと、そいつは……楽しみだな」
といつも通りの会話をし
その後二人共口を噤む
その後合流したのは子供達では無く騎士のファング
「よ、よぉ、何かあった?」
ジョンとナサルの間に途轍もないモノを感じたファングが困惑気味にそう問いかける
「何かあったとしてそれをお前は本当に聞きたいのか?」
「いや、やっぱ話さなくていい聞きたくない、聞いたらなにされるか分からないしな……」
「別に何もしないぞ……私を何だと思っているんだ」
「そんな事言ったって先輩、凄い顔しているぜ?」
「……そうか」
とんでもない所に来てしまった。早く帰りたいと願うファング
「そ、それでよ、お嬢様はまだ来ていないのか?」
「まだだ、もう少しで来る待って居ろ」
「へ、へい……」
早く来てくれ、この状況をどうにか緩和出来るのは子供達しか居ないのだから、一刻も早い子供達の到着を待つファング
マリアが着いた頃にはファングは抜け殻になっていた。
「どうしたの? ファング? 何か悪い物でも食べたの?」
「えへ、へへへ、大丈夫ですよ、お嬢様……」
「そ、そうならいいのだけど……」
「マリアお嬢様、他は?」
「そ、そうそう、私は貴方達を呼びに来たのよ」
「? どういう事です?」
「皆でネネを励ます為に歌を作っているのそれで貴方達にも協力して欲しいのよ」
ネネとは数日前に父を亡くし塞ぎ込んでいる少女の事そしてその父親はジョンが殺した。ネネはその事を知らずマリアも知らない、この場でその事を知っているのはジョンとナサルのみ
「歌ですって?」
「えぇ、そうなの、今歌詞と曲を作っている所なのよ」
「何も出来上がっていないじゃないですか……」
「だって仕方がないじゃない、歌を作るって物凄い難しいのよ!」
「だからお嬢様は俺達に協力を求めてるって訳だ」
「その通り、ファングは話が早くて助かるわ、私の執事とは大違い」
「そりゃすいませんね、で、歌は何処で作っているんですか?」
「八百屋さんの前の空き地で作ってるの、だから早く来て頂戴」
「らしいぜ? 行こうか」
「おう」
と気前よく返事をするファングに変わって返事をしないナサル
「どうした? ナサル? 腹でも壊したのか?」
違う、ナサルは子供達がネネを励ます為に歌を作ろうとした事に感動し声が出ないのだ。
「何で先輩涙目何すか……?」
「ち、違うぞ! 泣いてなんかいないぞ!」
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「貴方達! 何グズグズしているの!? 早く行くわよ!!」
マリアはジョン達より気が早く既に先に向かって居た。ジョンは仕方が無く、ファングは気前よく、ナサルは涙ぐみながらマリアの元へ向かう
空き地にはマリアの言った通り村中の子供とキャロ、ジェシカ、ネルヒムが集まっていた。
村中と言ってもこの村は小さいので屋敷に住んでいる以外の子供は総勢で五人しかいない
「あ、マリアちゃん連れて来てくれたの?」
と赤い髪の少女が言う
「えぇ、連れて来たわ、それで、どのくらい進んだの?」
と歌の制作経過について聞くマリア
「ううん、全然さっきと変わらないよ」
「あら、そうなの、ジョン何か案を出しなさいよ」
「俺は歌のプロって訳でも無いのに役に立つと思うんですか?」
「まぁ、兎に角お嬢様、歌はどれくらい出来ているのか、教えて貰っていいか?」
「ラネット、その紙をファング達に見せて上げて」
とマリアが地べたに座り紙の前で思い悩んでいた黒髪の少年に話し掛ける
「いいよ」
と快くマリアに紙を手渡す。
マリアがファング達の前にその紙を持って行く、紙を覗き込むファング達
「白紙じゃねぇか!?」
とファングが白紙の紙を見て思わず突っ込む
「言ったじゃない、歌は作るのが難しいって」
「いや、だからってこれは……俺はてっきり三割ぐらいは出来ているのかと思ってたぜ……」
「最初なのですから出来なくて当たり前ですよ、ネネを気遣おうとするその心意義が大切なのですから」
と熱弁するナサル
「親バカめ」
とその隣でナサルに聞こえる様に言うジョン
ナサルはそれを無視
その後ナサルはピアノが有った方が曲作りがし易いだろうと屋敷まで子供達を引き連れて向かう
「ピアノが有ってもな、奏者は誰がするんだ?」
「私がやる」
「おいおい、ピアノなんて弾けたのか? あんた?」
「先輩、楽器なら何でも弾けるぜ」
「……驚きだな」
「ジョン、知らなかったのか? 先輩は料理、洗濯、裁縫、清掃何でもござれのスーパーメイドなんだぞ」
「おい! そういう事を言うのは止めないか!」
ナサルは顔を赤くする
「照れるな照れるな」
「五月蠅いぞ! ジョン!」
「先輩は将来、良いお嫁さんになるな」
そんな揶揄うファングの両頬を思いっ切り引っ張るナサル
「イデデデデ!!! すんませんすんませんでした!!」
それを見て笑う子供達
そんなこんなで屋敷に着く一行
「わー! すごーい! ピアノだ!」
黒いグランドピアノを見てはしゃぐ子供達
それを後目にジョンが
「音楽は分かりません、俺は外に出てますね」
「あら、何よ付き合いが悪いわね」
「そりゃ失敬」
と言いながらジョンは音楽室を出て行く
呪縛から解放されたジョンは外に出て伸びをする
「あ~あ、良い天気だな、こんな日は仕事をサボって散歩でもするかね」
とその通り仕事をサボり、村の散歩を始める
八百屋の前を通り、ネネの家の前を通る、そして何か感じるモノがあり家の前で止まりジョンは家を見つめる
ネネの家の扉が突然開き中から女性が飛び出して来る、彼女は顔を青くし汗をかいている
「おっと、どうしたんだ? そんな急いで」
とジョンが外でその女性を出迎える
「あ、あなた! 此処からアリエナが出て来なかった!?」
アリエナとはネネの母親の事である
「いや、見ていない、まさか消えたのか?」
「え、えぇ、私が料理をしている間に……」
アリエナは夫が死んでから精神を病んでしまい、何度も自殺未遂をした為、近所の住民が交代で面倒を見る事になったのだ。
そしてその病んだ未亡人が人の目を盗んで消えてしまったのだ。それは血相を変えてしまうだろう
「俺はこっちを探す。アンタはそっちを探してくれよ」
と彼女が行くべき道筋を指差す。
「わ、分かったわ! そっちはお願いね!」
とあたふたしたまま、その道筋を走って行く
ジョンもその道とは別の道を行く
道は渇いており足跡はついていなかった。匂いも無し
(……もしかして、あそこに行ったのか?)
ジョンはアリエナが行きそうな所に一つ心当たりが有った。
それは夫の死体発見現場
アリエナの夫ザラはそこで木の下地になり死んでいた。
確証も無く曖昧だがジョンは発見現場に向かう、そして居た。
彼女の隣にネネも居る、そしてアリエナの右手には赤い宝石が付いたネックレスが握られていた。
二人共生きた人間じゃ無いかの様にそこに只立ちボーとしている
そんな二人に近付き声を掛ける
「どうも、お元気?」
と一切元気の無いであろう二人に挨拶をするジョン
「……あぁ、どうも」
「あ、お兄ちゃん……」
力無く二人も辛うじて返事を返す。
「あんた等が消えたからアンタ等の家に居た奴が血相を変えてあんた達を探してたぜ?」
「ソフィには悪い事をしたわね、後で謝っておくわ」
「そうしてくれよ、今度から黙って出かけない事だな」
「そうね、そうするわ」
「で? 二人して此処に何の用なんだ?」
「……此処に来れば夫の霊にでも会えるかと思って……このネックレス悪霊を寄せ付けるんでしょ? 悪霊の姿でも良いから会いたいのだから会わせて」
ジョンに無理難題を言うアリエナ、そして右手に持っているネックレス、これには悪霊を寄せ付けるような特殊な力は無い、それはジョンの嘘である
ネネはそれを知っている、なので隣でバツの悪そうな顔をしているのだ。
「そいつは無理だ。残念ながらな」
「御免なさい、変な事を言ってしまったわね」
「いや、気にしない、水に流すさ」
ジョンはポケットに両手を入れ木に寄っかかる
「で? ”夫”は見つかったのか?」
「……いいえ、全く姿を見せてくれないのよ」
「変な言い方だな、その言い方だと姿は見せないが他は見せている、そう言っている様に聞こえるぜ」
「? 感じないの? 貴方は? 夫の気配が」
この未亡人は壊れる一歩手前に立っている、それはその虚ろな目からも感じ取れた。
その心は病みの段階は過ぎ去り壊れようとしている
ジョンは彼女の目を視てそう察する
病は治せる
しかし壊れてしまったらもう治す事は出来ない、心は見えぬが形は有るのだ。形があるから壊れる
彼女にはもう怒りも悲しみも無く、そこに立っているだけ
ジョンには心がひび割れてゆく音が聞こえた。
「此処は冷える、村に戻ろう」
とアリエナに手を差し出す。
「駄目よ、村に帰るのは夫に会ってから、それまでは……」
「お母さん、ごめんなさい!!」
と行き成りネネが声を張り上げ謝罪する
「? どうしたの? ネネ?」
「ごめんなさい……お母さん、そのネックレスにはね、ゆうれいを呼ぶ力なんてないんだよ……それはジョンお兄ちゃんが私を助ける為についた嘘だったんだよ」
「う……そ? ネネを助ける為? どうして?」
「そのネックレスはね? 本当はね? 私が持ち出して池の中に落としちゃったんだ……」
「それをこの人が庇ったの? この人が?」
アリエナは動揺する、それもそのはず、アリエナの目には目の前に居る黒服の男がそんな事をする様な奴だと写って居なかったからである
「う、うん」
「どうして? 答えて」
とジョンに答えを要求するアリエナ
(……意図せず夫の話題から離れられたな、アリエナの目にも若干だが生が戻って来た。これはネネのファインプレー、素晴らしい働きだな)
「別に俺が”優しい”から嘘をついた訳じゃない、約束したのさネックレスを何処に無くしたのか? それを聞く代わりにその事実を握りつぶす約束をな」
「そう、なの……」
「なぁ、アリエナ、村に戻らないか? お前には選択肢があるだろ?」
「……」
ジョンは知っている、このまま彼女を放ってしまえばそのまま姿を消し二度と生きては会えないと
「お前には要る筈だ。娘もお前の為に血相を変えてくれる友人だって要る」
「私は……」
「アンタの周りには寄りかかれる人が居る、それは知って置けよ」
「私はどうしたらいいの……?」
「そんなのは”俺”は知らねぇよ、だから”お前”が選択しろ、このまま去るか留まるか? 俺はお前に事実は伝えたぜ」
一つの事実を除いては
「選択しろ、”お前”が捥ぎ取れ」
ジョンの右手にはアリエナの手が握られているそのアリエナの右手にはネネが
ジョンがアリエナを引っ張り村まで誘導しているのだ。彼女は生きる事を選択したのだ。
「ジョン、ありがとう」
と心を籠め、笑顔でジョンの方を向きアリエナは言う
ネネも同様
「お兄ちゃん、ありがとう」
しかし二人に変わりジョンは不機嫌顔
「要らねぇ」
「え?」
「礼は要らないと言ったんだ。言うな、感謝するな、分かったか?」
この台詞何度目だ? と思いながらジョンは言う
「……やっぱ、貴方変わった人ね」
「嬉しい事を言ってくれるね」
「でも、良い人ね、貴方」
「……」
彼女は夫を殺した張本人に対しそう言った。
だからジョンは言う
「馬鹿女、お前は男を見る目が無いぜ、もうちっと目を鍛えな、そうすればまたいずれ何かあるかもな」
「ふふふ、馬鹿女……か、そうよね、その通りよね? 馬鹿だったなぁ、私、沢山の人に迷惑を掛けちゃった」
「お、お母さんはバカなんかじゃないよ! すごい人だよ!」
と必死に母を庇う娘のネネ
「ふふ、ありがとう、ネネも私に最後までついて来てくれて、嬉しかったわ」
「当然だよ、だってお母さんの傍が一番好きなんだもん」
「……ありがとう、ネネ、本当に」
彼女は娘に感謝をした。そして心の中で誓う、これからはネネを護る為に生きようと彼女に全てを奉げようと
森を抜け村に出る
すると村中の人がアリエナ達を捜しまわっていたのだった。その中の一人の女性が森の中から抜けたアリエナを発見する
「アリエナ!? 何処に行ってたの!? 心配したんだからね!!?」
と一人駆け寄りアリエナを抱きしめる
「ご、ごめんなさい、心配を掛けたわね、本当にごめんなさい」
ジョンの言った通り彼女には帰れる場所が有り、寄りかかれる場所もある、それをアリエナは忘れていたが抱きしめられた衝撃で思い出す。
ぽろぽろと涙を零す。
ありがとうごめんなさい、そんな在り来たりな言葉しか出ないし出せないが彼女の心はそれ以上の感謝と謝罪に満ちていた。
ジョンはその震える右手を隠しながらその場を早々と撤退する
そして館に戻り音楽室に向かう
しかし音楽室にが既に誰も居なかった。
(歌が完成したのか? ならアイツ等は既にネネの家にでも行ったか? それともアリエナが消えたと聞かされ捜索に向かったのか?)
アリエナ捜索の線の可能性が高いと判断するジョン
しかし彼女達を捜しはせずグランドピアノの前に座る、ピアノの前に座ったからといって別にピアノを弾く訳では無い
ジョンはピアノの譜面台に取り残された白紙の楽譜を見て手に取る
「結局進んでねぇじゃねぇか……」
白紙の楽譜を戻し窓際に行き外を眺める、外は晴れ、太陽の光が窓に差し込みジョンを照らす。
(やっぱし、日光は嫌いだねぇ、眼に染みる)
ジョンは立ち去る、暗い暗い、牢の中へと
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