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第七章 怨敵との再会

海の都

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 砂漠の彼方にて三人の女性が汗だくになりながら歩いていた。
 
 「ここ何処なんですか……皆は何処に……」
 
 降り注ぐ灼熱の光を浴びている桃色の髪の騎士、エルが吸血鬼の姉・カタリナを両手に抱きかかえて
 
 「黙って歩くんだ。余計な体力を消費するんじゃない」
 
 と首だけになった。カタリナに注意されてしまう
 その生首を不気味だと思いながらもエルは抱きかかえている切断面からは血は出てこず、プニプニとした感触と切断面が若干湿っている関係で少しベタベタとしている感触が合わさった感触を生み出している、それが非常に気持ちが悪いのでエルは出来るだけ切断面は触らない様にカタリナの頬を両手で挟むような形にして抱えている
 
 「それで、メイヴィスさんそれにカタリナさんこれからどうするんですか? ボクもう喉カラカラで死んじゃいそうなんですけど」
 「お前騎士だろう? 少しくらい我慢しろ」
 「もし限界になったら最悪、我の血を飲ませる、それで我慢しろ」
 「血!? じょ、冗談ですよね? 嫌だな~こんな時に冗談なんて言わないで下さいよ~」
 
 今の発言は冗談であって欲しいという願いも込めてメイヴィスにおちゃらけ雰囲気でそう言うエル
 
 「冗談では無いぞ、我は本気だ」
 「……」
 
 願いも崩れ去り言葉を失うエル
 
 「お前の血など誰も飲みたくないとさ」
 
 と意地悪でメイヴィスにそう言うカタリナしかしそんな事気にする素振りも見せず無視し先に淡々と進むメイヴィス
そんなメイヴィスを見て逆に苛つきを覚えるカタリナ
そんな二人を額に汗を流しながら見守るエル

「しかし、お前の仲間のあの黒服、あいつ何者だ? 人間なのか?」

黒服とはジョンの事を指している

「喋ることなど無い、黙れ」
「メイヴィスお前あの男を気に入っているだろ?」

それを聞いたメイヴィスが溜息を漏らす。

「そうだとしてそれが何だ? お前に何の関係が有るんだ? 黙って歩けと言ったのはお前だろう?」
「そう怒るなよ、メイヴィス、儂は単に世間話をしたかっただけだ。暇だからな」
「我はお前なんかと話したくない」

口調は落ち着いていて大人びているが見た目と声は子供
一聴するだけなら子供同士の他愛のない喧嘩に聞こえなくもない、カタリナが首だけで会話さえしていなければだが
それから一言も発する事も無く砂漠を歩く
身体が熱を吸収する、汗を出す。
日は沈まず傾かない


 この世界には海の中に国がある、名をアルプラニア 別名 深海の国
その国に住む種族の名は人魚と呼ばれている上半身は地上に住む人間と同じような容姿をしており下半身は魚の尾ようになっている
その尾で海中を縦横無尽に突き泳ぐのだ。
そしてこの国は戦争を起こした事の無い唯一の国、何故ならこれ程攻めにくい国は無いからだ。水中に入ってしまえばもうそこは人魚のテリトリー人間の敵う余地なし、そして地上の生物達は思う、彼等とは争わず、利用しようと人魚は決して攻められない絶対の水の防壁がある代わりに決して地上を攻める事は出来ないのだ。何故なら当然、彼等には大地を踏みしめる”足”が無いからだ。だから決して地上には出れない、態々彼らの国に突撃でもしない限り一切の脅威に成り得ない種族
だからこの国は戦争を起こさない起こせないのだ。
そんな国の海中に沈む王宮の中で二人の人物が転移して現れる
一人はエフィー・セルフィン
一人は騎士 ナサル・パララグ
ナサルは水中に転移され息が出来ずもがき苦しみ気絶してしまう
だがエフィーは違う彼女は水中でも呼吸が出来ていた。それは何故かと言うとエフィー・セルフィンが”元”人魚の姫だからであった。

 気絶したナサル……そのまま呼吸も出来ずに水に飲み込まれ途絶えてしまうかと思われたがそこはエフィーが救った。
エフィーは人魚の風属性魔法使いに頼み水中の世界に適量の酸素を誘い込み一つ丸い酸素玉を作り出しそこにナサルを入れたのだ。その酸素玉には必ず風魔法使いが付き添い二酸化炭素の排出、酸素の吸入を繰り返さなければならない面倒な代物
その酸素玉の中で目を覚ますナサル

「あら? おはよう、ナサルさん」

エフィーが笑顔でナサルを迎える

「!? な!? なに!?」

飛び上がり混乱を隠す気も無く混乱するナサル

「そう慌てないで頂戴よ、襲う気は無いわ」

ナサルは自分の周りの環境を見て事態の異常性を悟り、何とか混乱を治める

「攻撃して来ない? それを信用しろと?」
「信用して貰うしかないわ、でなければ貴方は溺死してしまう事になるのだもの、そうは思わない?」

とナサルを脅すエフィー
そしてナサルはそれに屈せざる終えない
仕方なくエフィーを”信用”する事になったナサル

「話を分かってくれて嬉しいわ、これからは仲良くしましょ? ね?」

と右手を差し向けられる
しかしそれにはナサルは応えない

「あら、頑固さんね、フフフかわいい」

(勘弁してくれ)

心でそう叫ぶナサルであった。

「此処は私の部屋なの素敵でしょ? 苦労したのよ貴方を此処に連れて来るの私のお父様が貴方を捕縛しようとして大変だったんだから」

エフィーはナサルの隣に座る、離れるナサル、それを追ってまた近付くエフィーそれをナサルの肩が壁にぶつかるまで続ける

「もう逃げられないわよ」
「止せ! 何をするつもりだ!」

エフィーは顔をグイッとナサルの顔へと近付ける
 
 「ふふふ、何だと思う?」
 
 (他の皆は何処に行ったんだ……!?)
 
 
  朽ちた館にて殺気を放つ二人の神に怯える神
 
 「離れた方が良さそうだな……いや離れても一緒か」
 「だから嫌いなのよ……身勝手で傲慢」
 
 愚痴を零すアーリン
 部屋の中にはカランダーンにパーラにウェークの三神
 ジョン、アーリン、ジャック、ジーク、ローラの五人が残っていた。ナイロンと初老はとっくに逃げ出していた。
 そしてウェークは一大決心をする
 
 「人質全員返すから帰ってくれ」
 「ウェーク様、それは譲歩し過ぎでは?」
 「仕方がないだろう……こうなっては」
 
  こんなハズでは無かった。ウェークは内心そう思う
 
 「らしいからやめないか? 戦いはまた今度でいいだろ? 後日俺の居ない所でやってくれ」
 
 ジョンの発言に一切耳を貸さない神
 仕方ないとジョンは二体の間に割って入る
 
 「どういうつもり? 死にたい?」
 「此処でのんびり観戦してたってどうせ死ぬだろ? カランダーン俺の”力”について何か忘れていないか?」
 
 そうカランダーンの攻撃はジョンには届かない、その言葉を聞いてカランダーンは観念して
 
 「……分かったよ、今は勘弁して上げる、命拾いしたね、パーラ」
 「ありがとう、助かりました。ジョン」
 「はぁ、勘弁してくれよ、全く、それじゃ約束通り人質を返してくれ」
 「ぐっ……分かった連れて来る」
 「また”喧嘩”されては困りますからね」
 
 そう言いウェークは部屋を出て行く
 ジャックだけがその場に残る
 
 「……クククッあの一瞬でよく考えたものだね、君達さっきのは演技でしょ? 私達を脅す為のね」
 
 ジャックのこの推理は当たっている、さっきまでのカランダーンの凶行は演技、それを演技だと分かった上でジョンとパーラはそれに乗っかったのだ。
 
 「さぁな、それよりいいのかよ、俺の目の前で一人になって今なら簡単にお前を殺せるぜ、ジャック」
 「やれるものならね」
 
 そう言いジャックはジョンを挑発し始める
 今度は二人の”人”が両者睨み合う
 先に視線を外したのはジャック

「さ、二人共おいで」

ジャックが部屋の外に見える様に手招きをする
そして部屋の外から現れる、ネルヒムとマリア

「……!? マリアお嬢様、何をしているんですか!?」
「ジョン……」

マリアとネルヒムが出て来るとは想定外だった。
何故マリアとネルヒムが捕まってしまったのかと言うとカランダーンとパーラがザッラーを捕縛する瞬間にザッラーがマリアとネルヒムを転送したのだ。
カランダーンとパーラはその不意打ちを完全に見逃してしまった。
そしてマリア達が転移された場所というのがこの朽ちた館だったのだ。

「ジョン、彼女達の首元を見てごらん

マリア達にはジャック特製のネックレスがプレゼントされていた。
 
「ジョンこれに見覚えがあるだろう?」
「……なんだったけかな」
「小型爆弾だよ、そしてその爆弾は私のこのブレスレットが私の脈を感知しなくなったら爆発する、思い出したかい?」
「しかもその破壊力は極小、装着者がギリギリ即死しない程度の爆破で最期まで苦しめる」
「なんだ、やっぱり覚えてるじゃない」
「相変わらず持ってたんだなその悪趣味ネックレス」
「それじゃあ、私の言いたい事も分かるよね?」
「降伏しろ、とかか?」
「それもいいけどさ、それじゃあそちらのカランダーンちゃんが納得しないでしょ?」
「ジャック君の言う通り、此処で降伏を選ぶくらいなら私はその子達を犠牲にさせて貰うよ」

さっきのは演技だが、カランダーンは基本大義の為なら多少の犠牲も止む得ないという考えを持っている

「だからさ、私に協力して欲しいんだよ」
「何を?」
「ザッラーに飛ばされた仲間の捜索をさ、アーリン、キザシ、デッチェの返却プラス私の仲間を全員救出、出来たらこの子たちは返すよ、あとザッラーはこちらに返さなくていいよ」
「らしいがどうする?」
「ザッラーは返さなくていいと言ってるんだから破格の条件だと思うんだけどなぁ」
「ジョン、さっきの話だけど本当にあのネックレスには爆弾が仕掛けられているのかい?」

こちらの世界の爆弾というのはもっと大掛かりで重々しい物、だからあのネックレスに人を殺せる程の爆発を起こせるとは到底信用出来なかったカランダーン

「間違いないぜ、今アイツが死ねばマリアお嬢様もネルヒムも死ぬ、必ずな」
「そうそう、君みたいにこれの危険性を知っている人間が居ないとこのネックレスは一回爆発させて見せないと脅しの道具として全く機能しないから、困ってたんだよ、いやぁ~説明役が居ると助かるなぁ、ありがとう! ジョン!」
「なぁ、カランダーン、アンタ神様なんだろ? あのネックレスを一瞬で外せたり出来ないのか?」
「それは私から答えさせて貰うよ、一瞬で取り外す事は可能、だけど取り外すには必ずこのネックレスに指若しくは手を翳さなくてはならない、神様のタイプによっては瞳を向けただけで魔法を使える場合もあるけどそこの二体はそういうタイプじゃないよね? 魔法を発動するには手を動かす必要がある……そこの二体が今にでも手を動かしたら爆弾を手動で起爆するからそこの二体とも不自然な動きはしないでね、この子達の為にもさ」

不気味に微笑むジャック、そんな彼を前に何もできないで居る三人と二体
カランダーンとしては此処で一刻も早く決着をつける為に二人を犠牲にしてでもジャックを拘束したい所だがマリアとネルヒムをこんな窮地に立たせてしまった負い目も多少あるので今は手を出さなかった出せなかった。

「それで? 協力してくれるのかい? それとも駄目? これは君達にとっても私達にとっても”公平”な取引だと思うよ」
「公平とは脅して置いてよく言うぜ」

このジャックの提案を取り敢えず呑む事になる
そして仲間の捜索には必ずジャックを同伴する事、神は連れて行かない事等を条件に仲間の捜索が開始される事になった。

「あぁ、あとこの子達も連れて行くよ」

この子達とはマリアとネルヒムの事

「この子達を此処に置いといて私の見えない所でネックレスを解除されても困るしね、それとこのブレスレットとネックレスの通信範囲はそんな広く無くてね、もし通信が途切れてしまっても爆発する様に設定してあるから、気を付けてね」
「範囲はどれくらいだ?」
「ん~教えないでおくよ、その方が楽しそうだしね」
「……」
「それより君なんでノースリーブになってるの? 似合わないよ?」
「うるせぇ」
「ふーんまぁいいや君の趣味なんか興味ないしね、で? 何処に行く? さっきは見当なんて皆目付かないなんて言ってたけど、噓でしょ?」

ジャックは嘘を見破るのが得意なのでカランダーンがついた嘘も見抜いていた。

「……まぁいいか、確かに私達はザッラーに飛ばされた人が何処に飛ばされたのか何となく分かってるよ、それを今から教えるね」
「お願いするよ」
「エルとカタリナそれにメイヴィスの三人はカララ砂漠のトーヘン地方辺りに飛ばされ、ナサル、エフィーはエルル海域にある深海の国・アルプラニア辺りに飛ばされたらしいよ、でも残念ながら分かるのはそこまで具体的に今ここに居るとは言えない状況だよ」
「申し訳ありません、私の力不足の所為です」

飛ばされた者の場所を特定するのにパーラの力を使ったのだ。カランダーンはそういう探索能力は苦手分類

「仕方がないね、現地に行って調べるしかないね、な~に余裕でしょ? 私とジョンが居れば」
「俺も行く事になってるのか?」
「当たり前でしょ、居なきゃ困るよ」
「マジかよ……なんで怨敵と一緒に仲良く探索なんてしなきゃならないんだ……」
「まぁ、そう言わないでよ、この子達の為と思ってさ」

マリアとネルヒムは震えてお互いの身体を支えにして抱き合っている
恐怖で声も出ないようだ。

「マリアお嬢様がここまで縮こまるなんて余程の事をしなきゃこうはならねぇ、何したんだ? ジャック」
「別にそのネックレスについての説明とちょっとしたお喋りをしただけさ」
「ちょっとしたねぇ、まぁいい俺もついて行ってやるよ、他は誰が行く?」
「そうだねぇ、後はアーリンだけでいいんじゃないかな?」

そこでローラが割り込む

「私も行くよ」
「要らないよぉ、だって君かなり疲労しているでしょ? そんな状況でついて来られても迷惑なだけだよ」
「こいつの言う通りだな、俺もそれに悔しながら賛成だ」
「ジョンはどっちの味方なのかな?」
「俺はどっちにも付く気は無い、ジャックにもお前にもな、勘違いするなよローラ俺はお前の事を仲間だと思った事は一度もない、だから依怙贔屓も偏見も無しに”平等”に考えた結果、足手纏いになりかねないなら連れて行かないという結論に至った。ただそれだけだ」
「これで分かったでしょ? 君が今どんなに駄々を捏ねても絶対に連れて行く事は無いから諦めなよ」

ローラはそう言われ諦めたのか黙ったまま後ろに引き下がる

「じゃあ決定だね、私とジョンとアーリンで捜索を行うって事で大丈夫かな?」

捜索隊は半ば強引にその三人に決まる

「誰が俺達を転移するんだ?」
「ウェークにお願いしよう、そこの二人じゃ信用が出来ないしね」


 人質を連れて来たウェークはジャックから捜索の件を聞き憤慨する

「お前! 私の居ない所で勝手に話を進めたのか! 何を考えている!!」
「すいませんね、でもいいじゃないですか、仲間が今どこに居るのか分かったことですし」
「そういう問題ではない!」
「分かってますよ、これからは勝手な行動は慎みますので転移お願いします」
「……全く」

文句を言いつつもジャックの言う事を聞くウェーク
ジャックの目の前に扉が行き成り現れる

「そこを通ればカララ砂漠に出れる」
「有難う御座います。ウェーク様」
「五月蠅い、いいからさっさと行け」
「じゃあ、さっさと行こうか? ジョン?」
「あぁ、そうだな、とっととお前とも離れたいしな」
「酷いなぁそんな事言わなくてもいいじゃないか」
「ジョン灼熱の砂漠に行くのに腕を出してたら火傷するよ、服治しといて上げる、上着脱いで」
「此処で? 恥ずかしくて頭が沸騰するな」
「馬鹿言ってないで早く頂戴」

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