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第六章 雪の国
偽る狂人
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ジャック達がボロボロに崩れ始めている館を捜索して一時間、館の外にも人気が無く森に囲まれているという事が分かった。
この館の内部の捜索もしたが何も発見されなかった。勿論帰る手段も
屋敷で一番広い部屋に四人で集まり作戦会議をする
「私達の他にどうやら飛ばされた人も居なさそうだね」
「心配だな、一体何処に……」
「森の方に飛ばされたのかもね、それかもっと別の場所に飛ばされたか……まぁ分からないね、なんせ情報がないんだし」
「なら、これから森の方へ捜索に向かうかい?」
「ん~もう暗くなりそうだし捜索は明日にしよう、今日は此処に寝泊まりって事で良いね?」
「……マリア様やネルヒム様それにジェシカちゃんが森で一夜を過ごせると思えないよ」
とローラがジャックに反対の意を示す。
「だよねぇ」
とジークもローラに同意
「だからって夜に捜索は危険、しかも此処の事を知ってる訳じゃないでしょ? 夜に危険な動物が現れるかもしれない」
「だからと言って放って置けないよ」
ローラの決意は固い
「行くなら勝手に行けばいいよ、そこまでは付き合いきれないよ」
「君達今日は此処で寝泊まりするつもりなんだ……ふーん……まぁいいや、行こうジーク」
「あいよ」
ローラとジークが部屋から出て行く
「いいんですかい? 行かせて」
「彼女の眼を視れば分かるよ、行かせる以外の選択肢はないでしょ、さてナイロン適当に何か食べられそうな物探して来てよ」
「え、でも単独行動は危険って……」
「あの二人はね、僕達は特殊な力を持ってるから別でしょ? 行って来て」
「へ、へい……」
渋々とジャックの要求を呑み、部屋から出て行くナイロン
部屋に残されたジャックも暇なので館の探索をもう一回行う
そして館の書庫のような場所を見つける
ボロボロになっている本棚にボロボロの本、本を手に取って中を見ても虫食いだらけで見れたものではない
大人しく本棚に本を返し部屋を後にしようとした時
「何をしている」
と誰も居ない筈の書庫から男の声がした。
急ぎ振り返るジャック
そこには片目に傷跡がある初老の男性が立って居た。
「おや、失礼……ここは貴方の館でしたか、いや申し訳ない、呼んでも誰も来なかったものですからてっきり無人なのかと思っていましたよ」
「無人では無い、私が居る……それで? なんの用だ?」
「此処に一晩泊めて欲しくて伺った次第です。駄目でしょうか?」
「……いいだろう、だが条件がある、お前、私と戦い、勝て、そして私を殺せ、出来たらここに泊めてやろう」
「ほぉ、貴方を殺せと……? 確かにそうすれば此処に誰が泊まろうと誰も気にしないでしょうけど、宜しいのですか?」
「構わない……来い」
初老の男は剣を構える
「おやおや、血気盛んですね」
ジャックも懐からナイフを取り出す。
対立する二人
先に仕掛けたのは初老の男、魔法で剣に稲妻を走らせ、ジャックに斬りかかる
しかしジャックに与えられた最強の防御魔法、『拒絶』が発動する
初老の男の雷魔法は勿論無効化され、ジャックに斬りかかったという事実まで無効化され
初老の男は最初に立って居た地点まで戻される
「……!?」
少しの空白の後、異常を理解する初老
「貴様……何をした?」
「何をしたんだと思う? まぁ、それはどうでもいいじゃない、それより私は貴方の事を知りたい、行き成りこんな片手を失った男を襲って戦闘狂のフリかい?」
「私は戦いを愛しているフリとはどういう事だ?」
「戦いを愛する者は片手の男を態々襲わないよ」
「何を言っている貴様を最初に襲ったのは偶々だ……次はあの三人を襲う」
「ふーん、最初の三人って事は私達が四人でこの館に居たという事も知っていたという訳だね? さっきは私の事を知らないフリして話し掛けて来たのに……あれは演出だったて訳だね、何の為にそんな演出をしたのかも何となく察しがつくよ、あなたは戦闘狂ではない、言ってしまえば戦闘狂のような狂人に憧れた哀れな老人という所かな?」
「私を侮辱するつもりか!」
「戦闘狂なら何故私達が四人の時に襲わなかったの? 戦闘狂ならあんな状況、放って置ける訳無いでしょう?」
「私は一対一を好む」
「違うな、それは言い訳だよ、一対一を好む男なら絶対に私は襲わない、さっき言った通り私には片手が無いからね、戦闘好きがそんなのと戦ったってつまらないでしょう? だから君は戦闘狂じゃなくて単に勝算が高い相手を選んで挑んだだけ、悪く言うと弱い者いじめが好きな陰気野郎って所かな?」
「……その五月蠅い口を今切り刻んでやる」
「やってみなよ、やれるものならね」
片手を広げ挑発をするジャック
「貴方は臆病者だ。弱い者を踏みにじり少しでも高い位置に行こうとする愚かな人間だ」
「私は狂人だ。見境なし、死ね!」
ジャックを斬ろうとする初老だが結果は同じ
「学習能力ないなぁ、さっきと同じ攻撃じゃないか……もう少し別の方法で攻撃するとか色々あるでしょ? 何してんの」
「く、くそ……貴様は何者だ! 何故私の攻撃が通用しない!」
「そんなの答える訳無いでしょ……自分で考えなよ、ね? 狂人さん?」
「ぐっ……」
ジャックは初老に歩み寄る
「しかし自分で狂人を名乗っちゃうなんて驚きだね、狂うという事はつまり異端という事だよ、異端者の行動はその世界の常識人からすると気が触れて見えるからね、つまり君は自分で自分の事を異端だと言ったんだ。自分は異端児ですってね、だけどね知ってるかい? 狂っているという言葉は自分に使うものじゃない相手に使うものだよ、何故かというと本当に狂ってる奴はそんな事は言わないからさ、何故なら自分こそ王道だと思ってるから彼等は自分の人生に誇りと確信を持っている、自分の人生に誇りと確信を持っているならまず自分は狂っているとは言わないし言えない……自分が狂っているなんて言ってしまうのは自分の行いは異端なのを知っている常識人だよ、君は狂人に憧れた常識人……そうなんでしょ? 君は狂ってなんかいない」
ジャックは初老の目の前まで近付く
「君は正常さ、だからさ……君、私達の仲間にならないか?」
雪の国にて
ジョンはアーリンの元に向いダラサダ討伐の事を伝える
「まぁ、いいでしょう、私も彼女には世話になりましたから、で? そのダラサダとか言うのの詳細は?」
「暗い所でしか行動出来ないという事以外はほぼ分からない、形も大型の動物らしいという事以外分からん」
「随分と大雑把ね」
「この村の奴等はそいつを神だと思ってるんだ。余計な詮索は出来なかったのさ」
「で? どうするの? 奇襲でも掛けるの?」
「奴は夜まであの洞窟から動かないだろうつまり奇襲を掛けるのなら洞窟の中か夜に洞窟から出て来た所を空かさず襲うかの二択だ。
だが洞窟で戦うのはこちらに不利だ。奴は触手を振り回して戦うからな、戦うなら広い所だ」
「つまり、夜まで待って出てきた所を襲うという事だね?」
「そうなる、奇襲を掛けるのは俺とアンタそしてもう一人の三人だ」
「少ないね、大丈夫なの?」
「こっちには不老不死が居るんだ。大丈夫だ、そうだろ?」
そう言ってジョンはクククッと笑う
「まぁ、気楽にやろうや」
と言いジョンは部屋を出て行こうとする
「待って」
とアーリンが呼び止める
振り返るジョン
「これ」
とアーリンがジョンのナイフを取り出す。
「やるよ」
「駄目よ、貴方の元に帰りたがっている、信頼関係の無い者とは一緒に戦えないわ、これは信頼の証、貴方がこれを受け取ればそれは貴方が私の事を信頼したと受け取るわ、勿論私も貴方の事は信頼している、一時的だけど」
ジョンは一間を置いて
「……分かった。受け取らせて貰う」
ナイフを受け取る
「ふふ、嬉しいわ、じゃあ、夜に会いましょう、ジョン」
そう言いアーリンは目を瞑り瞑想を再開する
部屋を出てキャロの元に向かうジョン
キャロは部屋で一人編み物をしていた。
「寝てなくていいのか? さっきまで死にそうな顔をしていたが……」
「うん、大丈夫だよ、心配してくれてありがとう、ジョンさん」
「何を手でごちゃごちゃしてるんだ? 何だか卑猥だな」
「? 編み物だよ、今日の夜、外に出るんでしょ? だからマフラーを作ってるんだぁ」
「マジかよ、そいつはスーパーウルトラハッピーだな」
「えへへ、そう言ってくれるとうれしいな、今日の夜には三つ出来るから待っててね」
「礼は言わないぜ」
「ううん、お礼を言うのは私の方だよだって命を助けてもらったんだもん! これくらいは当然だよ! 私はこんな事しか出来ないけど……頑張ってね? 死んじゃいやだよ? 必ず帰って来てね? 約束だよ?」
「残念ながら俺は約束はしない、死んだら死んだ、だ。後はお前達がどうにかするんだな」
「そんな事言わないでよ……あっ! そうだ! ご飯も作ったんだよ、食べて行ってね」
「ご飯?」
「うん! 野菜スープだよ」
「此処でどうやって野菜を手に入れたんだ? 店でもあるのか?」
「ううん、私の畑から採って来たんだ」
「畑? そんなの何処に有るっていうんだ?」
「こっちだよ」
編み途中のマフラーを置いてキャロは立ち上がりジョンに畑の場所を教える
畑はキャロの家の中にある
「な、なんだこれは……?」
畑を見て驚くジョン
何故ならそれはジョンの知っている土で行う畑とは違い氷の中に野菜が埋まっている
「えへへ、すごいでしょ? 全部私が最初から育てたんだ」
こちらの野菜は土では無く氷の中で育つのだ。
そんな不思議な光景を見て本当に此処は異世界なのだと再確認する
そして夜になる
ダラサダの洞窟前に匍匐状態で待機するジョン、アーリン、ダラス、全員首にはピンクのマフラーをしている
「来たぞ」
穴からドシッドシッと何かが登って来るような音が聞こえ始める
「いいな? 必ず最初に矢に火をつけて射ろよ?」
「OK」
「分かった」
穴から複数の触手が現れ、その本体がようやく姿を見せる
口の中に大量の触手を飼っている大ガエル、それがダラサダの正体
何も知らない怒り狂ったダラサダに三つの火の矢が飛んでくる
悲鳴を上げるダラサダ、自分を狙う不届きものが居ると知り、ジョン達を睨むダラサダ
「よぉ、ヒキガエルぶっ潰してやるよ」
「貴様だな、俺を斬ったのは……覚えているぞ」
あの暗い中捉えたジョンの顔をしっかりと覚えていたダラサダ、目は憎悪に溢れている
「そいつは嬉しいね、憎しみの一つ二つあった方が叩き潰し甲斐があるってもんだ」
「生意気を!!」
触手がジョンを襲う、が逆に触手はジョンのナイフで返り討ちにされてしまう
悲鳴を上げるダラサダ
「触手を斬られると相当痛いらしいな、しかも触手自体もそんなに速く動けないみたいだな、その上お前の武器はその触手のみと見た。そしてその事を総評した結果をお伝えするぞ……さてはお前弱いだろ?」
「な!? ふざけるな! 俺には切り札がある! 舐めるな!!」
「なら見せてみろ……さぁ!」
ジョンは奴にはもう切り札が無いという事に確信を得ていた。
まずジョンはダラサダの正体を見る前からダラサダは戦闘能力が低い可能性が高いと憶測を立てていた。何故ならもし彼が戦闘が得意だとしたら態々救世主を名乗り村人に食料を貢がせる必要が皆無だからだ、そんな事しなくても村人を蹴散らせる自信があるのであれば直接村に行って蹂躙してしまえばいいからだ。
態々面倒な手を使ったのは戦闘能力が低く複数の人間に囲まれてしまえば返り討ちにされてしまう程の実力だと本人が自覚している他無し、そしてキャロを救った時に見た触手の動き……それらを全て合わせて行き着いた。「奴は弱いのではないのか?」という憶測
しかし憶測は憶測、確固たる証拠は無いのだ。だから万が一の為に万全を期した。だがその必要は無かったようだ。ダラサダの正体を見て、彼の言動を見てジョンは確信する「奴は弱い」と
そしてその確信の通りダラサダは切り札など持っておらず攻めあぐねている
「やっぱりな、お前は何も持っていない、お前にあるのはそのトロい触手だけだ。さて、どうする? 潰されるか? 切り刻まれるか? 選べ」
「ま、待て見逃してくれ」
「この質問に答えたら考えてやるよ、吹雪を止めたのはお前か?」
「ち、違う、吹雪が丁度止んだ頃偶然、俺が此処を通りかかったんだ。その時俺を見つけた村長が勝手に俺が吹雪を止めたんだと早とちりをしただけだ……」
「その勘違いを利用してお前は安住の地を得ようとしたという事か」
「て、てめぇー! 嘘を付いてやがったのか!」
激怒するダラス
「……」
「しかし、野菜だけを食っとけばいいものを欲張って人質なんて要求するからこうなる」
「わ、分かった。次はそんな事を言わない! だから……」
「あぁ、次から気を付けな、まぁその”次”というのは来世でという意味だがな」
ジョンの眼がギラリッと危なく光る
「ヒッ……!」
そこから始まったのは惨殺、一方的な殺戮、大型生物を素早い二人の人間が刺して刺して刺したのだ。
三十回目で大量の血を流しながらバタンと倒れるダラサダ、抗う余地など無かった。
「す、すげぇな、アンタら……」
「褒めても何も出ないぞ」
ダラサダの討伐はあっさり終わり、帰宅途中にジョンがある事に気が付く
「街の方がなんだか騒がしいぞ」
「そうか? 何も聞こえないが」
「いや、間違いない……悲鳴が聞こえるぜ……!」
ジョンが走り出す。
その後を追う二人
村の中心に女性が佇んでいる、その下にはグラムが血に池を作り横たわっている
辺りには逃げ惑う人々
「村長!!?」
ダラスがそう言ってグラムに近付こうとする
「止せ!」
がジョンに止められる
「放してくれ!!」
「馬鹿野郎! 何があったのかも知らないのに迂闊に近付くな!」
剣を抜くアーリン
グラムの上で佇む女性に剣を向ける
「貴方、何者?」
「私はウェーク、元この土地の神だ」
女性は静かな瞳でアーリンを見つめる
そして次の瞬間、アーリンが凍り付きバタンッと倒れてしまう、そのまま動かないアーリン
アーリンは一瞬にして戦闘不能にされてしまったのだ。
「!? な、何!?」
「次はお前だ」
ウェークと名乗った女性が瞳をジョンに向ける
(や、やべぇ、死ぬかも)
女性の瞳は氷の様に冷たく硬い、そんな彼女の瞳がジョンを捕えている、ジョンの前に瞳に捕えられたアーリンは全身が凍ってしまった。
ジョンがそんな攻撃を喰らえば勿論即死
死ぬ! そう感じた瞬間、瞳から逃れようと瞳から逃げ出すジョン
だが間に合わず魔法が発動するだがその魔法、ジョンには届かない、無効化されてしまった。
「な!?」
今までのクールな態度を自分の魔法が無効化されてしまった事で動揺してしまい崩してしまうウェーク
「貴様、今何をした?」
「……」
(な、なんの話だ……? この女何に困惑しているんだ?)
ジョン自身も何が起こったか分かっていない、何故彼女の魔法が無効化されてしまったのか? それ以前にウェークの魔法が発動しそれが無効化されたという事実をジョンは知らない
「私が聞いている! 答えろ貴様、私に何をした!」
「……何だと思う?」
(俺にもサッパリだがこれしかねぇ、知ったかぶりで何とかこの場を凌ぐ……!)
内心冷や汗ダラダラだが外見ではクールを気取り、余裕を醸し出す。
「貴様、ただの人間だな? それが何故、私の魔法を無効化出来たんだ? 答えろ」
(俺がこいつの魔法を無効化? そんな事をした覚えは無い、俺以外の誰かがやったとも思えない……どういう事だ? 何が起こっている?)
「ただの人間が神の魔法を無に返しちゃ悪いか? 人間だって進化するのさ」
「信じられない……まさか、こんなにも早く神に届くなんて」
彼女は本当に驚いているようだった。
「信じられないと言ったような感じだな、だが残念、これは現実、事実だ」
ジョンがゆっくりとウェークに近付く
「俺はお前を殺す。その間精々足掻いて見せろよ」
(何馬鹿言ってんだ俺は……)
「クッ……! そうか、お前神に力を授かったのだな? それも強大な、しかしそれ程の力を注いだというなら、お前に力を授けた神は力の殆どを失ってしまったのか?」
「どうだろうな? ま、そんな事より自分の心配をしたらどうだ? ”お嬢さん”」
徐々に神に近付くジョン、だが神に近付いてその後どうすれば良いのかは分かっていない、完璧なハッタリ、演技
だからウェークが「クッ出直しだ!」とでも言ってこの場を去るのを期待するしかない
「そうか……神に届いてしまったと言うなら仕方ない、来い人間、此処からは神の領域、覚悟はいいな……?」
「あぁ、何処からでもどうぞ」
ジョンの期待は簡単に崩れ去る
ウェークは臨戦態勢になってしまった。逃げる気配など何処にもない
(お、おいおい、次の攻撃も無効化出来るとは限らないぜ……今度こそご臨終か? いや、待て何か他に方法は――)
何か策は無いかと考えるがどれも効果的とは言えないものばかり
そして制限時間が過ぎる
ウェークは片手を天にかざし、村一つ潰せそうな程の大きさの氷塊を空中の作り出す。
(うげぇぇぇぇぇ、あんな事も出来るのか!? まっずい! 兎に角今打てる最善の策は地に潜る事)
幸運な事にジョンの足元には誰かの家の穴がある、そこに隠れようとした矢先
一瞬にして圧倒的存在感を放っていた氷塊が消える
「……信じられない……転移魔法? いやそんなハズは……」
一人問答を始めるウェーク
(あの女も状況を呑み込めていない、俺もそうだが……仕方ねぇ、何の確証も証拠も無いが行くしかねぇ……! 奴を斬る!)
ジョンは決心しウェークに近付く、走って
「……!?」
一気に間を詰め、ウェークの胸元を斬る、非常に簡単に斬れたその胸から血かあふれ出す。
「……その……短剣は……私の……」
そうジョンの持っている透明な短剣はウェークがこの村の村長に授けた短剣
次の瞬間、ウェークは突然吹いた吹雪と共に消えた。
ジョンの足元には血塗れの村長
「おい! 大丈夫か!?」
息はまだある、だが微か
「ダラス! 来い! 運ぶぞ!!」
遠くでジョン達の様子を伺っていたダラスが走ってジョン達に近付いて来る
「アーリンさんはどうする!?」
「あいつは良い! どうにでもなる、兎に角今はこいつを運ぶぞ」
「お、おぉ」
意味も分からず命令に従うダラス
一先ずグラムを安全な家の中へと運び終えたジョンとダラス
「タオルを持って来い!」
「あ、あぁ」
戸惑いながら部屋の奥へ消えるダラス
「も、もう私は駄目だ……」
意識を取り戻すグラム
「黙ってろ、止血する」
血塗れの手で止血しようとしているジョンの手を握る
「いいんだ……これは天罰だ。私は……此処で死ぬべきなんだ……」
「天罰だ? 馬鹿言ってんじゃねぇ、黙ってろ」
「君には感謝している……私は大きな過ちをする所だった……だが君が正してくれたんだ……ありがとう」
その一言を最後にグラムは力尽きた。
ダラスはその後に無用となった真っ白なタオルを持って帰って来る
「村長!!?」
「……もう駄目だ。死んでる、他にも怪我人が居ないかどうか調査するぞ、着いて来い」
「先に行っててくれないか……後で行く」
村長の前で佇むダラス、そんなダラスを見てとても調査なぞ出来ると思えなかったので置いて行く
地上に戻りまずアーリンの元に行く、彼女はまだ凍っていたが意識は戻ったようだ。
「さ、寒いわ……た、助けて」
「お前は寒くても死なないだろ、我慢してろ」
そう言って、ジョンはまずキャロの家に向かう
「おい! キャロ! 生きてるか!」
返事は無い、部屋には誰も居ないようだ。
(外に逃げたのか?)
そう思いまた地上に上がる、しかし周りには凍ったアーリン以外見えない
「アーリン、キャロを見なかったか?」
「み、みていない」
「あ、そう」
「村人共は一体何処に行ったんだ? 気配を感じないな」
「し、しらないわ」
「だろうな……分かった分かった。そんな眼で俺を見るな、すぐ溶かす」
アーリンをキャロの家に持ち帰りお湯を沸かしアーリンに掛ける
「助かったわ、ありがとうジョン、でも次からはもう少し早く助けて頂戴」
「我が儘だな」
「貴方が意地悪なのよ」
「そんな事言い合ってる場合じゃなかったな、村人を探そう、行くぞアーリン」
「えぇ、そういえば村長の様子はどうなの?」
「村長は死んだ」
「そう……残念ね」
「ダラスに聞いてみるか、もしかしたら村人しか知らない秘密の隠し部屋みたいなのがあるのかもしれないからな」
ダラスの元に向かった二人だがダラスの姿はもう無く村長の亡骸だけが横たわっていた。
「……おかしいぜ、確かにさっきまでそこに居たはずだ。何処に行った?」
何か異常を感じ始めるジョン
「この部屋に隠し通路のようなものがあるのかもしれないわ探してみましょう」
しかしそんな物は見つからずまた地上に戻るジョンとアーリン
「アーリン、俺の意見を言うぞ、これは異常だ。俺は最初、村人達が息を潜めて何処かに隠れているのかと思っていたが違うのかもしれない」
「誰かに攫われたという事?」
「かもしれないな」
「村人全員をあんな一瞬で攫ったとしたら犯人は自ずと神という事になるわね」
「ウェークとかいう奴の仕業か?」
「……私は気絶していたからどうやってあの女をどうやって撃退したか分からないの、教えてくれる? そこに何かヒントがあるかもしれないわ」
「近付いて斬ったんだ。そしたら消えた吹雪と共にな」
「斬った? 斬ったって刃物で斬ったと言う事?」
「それ以外あるか?」
「……それで撃退出来る程軟じゃないわよ、伊達に神を名乗っている訳ではないのよ? 一応それなりの力が有るわ、物理攻撃が通用しない程のね」
「だが嘘じゃない、本当に斬ったら血が出て来てその後奴は消えたんだ」
「本当だとしたらとんでもない事よ、人間が神を傷つけるなんて……もしそれが本当だったら私も見たかったわね」
と残念そうな顔をする
彼女はこの世界で神と名乗っているあの種族に嫌悪感を抱いているのだ。
「で? 何かのヒントにはなったのか?」
「いえ、何も分からなかったわ」
「そりゃ残念」
と操作も行き詰まりを見せ始めた頃
「やぁ、君達、待たせたね」
ワープしてカランダーン達が現れたのだった。
「さぁ、家に帰ろう」
とカランダーンがジョン達に笑顔で言う、しかしジョンは帰る訳には行かないとその理由を含めてカランダーンに伝える
「ウェークがこの村を襲ったのかい? 本当に?」
「あぁ、この目で見たんだ間違いない」
「……ウェークは此処五年ほど行方不明だったんだけどな……まさか急に現れて人を襲い消えてしまうとは驚いたよ、しかもそれを君が追い出したと聞いてもっと驚いたよ」
「忘れるな村人全員を誘拐した疑いもある」
「それもあったね」
「今すぐ奴を捜索する必要がある、でなきゃこの村人達の命が危ないかもしれないぜ」
「……面倒だね」
「おいおい、神だろ救済してくれよ」
「分かったよ、探してみるよ、ジョン君も一緒に来てくれるかな?」
「いいぜ」
「アーリン、君は保護という形でパーラが預かる事になってるからよろしくね」
「保護? 冗談じゃないわ、私は帰らさせて貰うわよ」
「そうはいかないよ、君はもう普通の人間じゃないんだ。元の生活に戻る事は出来ない、分かるよね?」
「ふざけないで! 貴方達の勝手に振り回されるのはもうたくさんなのよ!」
「ザッラーから話は聞いているよ、半ば強引に不老不死にされてしまったんだってね、残念だね」
とカランダーンは他人事
そんなカランダーンの態度に憤慨するアーリン
「残念……? 残念ですって!? そんな一言で済ませる気なの!?」
「だって私が君に何かした訳でも無いし、私は関係無いでしょ、それは君とザッラーとで解消してよ、私は巻き込まないでね」
冷たくあしらうカランダーンを見て隣でずっと黙っていたパーラが我慢できず声を上げる
「その言い方はあんまりだわ! カランダーン! 私達もザッラーの暴走を感知出来なかった以上間違いなく責任があります。彼女に謝罪しましょう一緒に」
「そう思っているのは君だけ、私はそう思っていないよ、謝罪だけして満足するならそうするけど君はそんなものじゃ満足しないでしょ? 私達が死にでもしなきゃ満足しないんだよ、それにこういう人は私達が何をしてもまた文句を言って来るよ、何したって無駄、怒りは鎮まらない」
「貴方はそんなだから自分の管轄の人間からも尊敬も敬愛もされないのですよ? 貴方は冷たすぎる」
「だからってザッラーみたく迷惑は掛けていないよ、ブルークリスタルとか欲しいと言われればあげる、それ以上の接触も必要ないと思ってるし人間は私達みたいなのが居なくてもやっていけるよ、よっぽどの事が無い限りね、それとも君みたいに人間を溺愛して堕落させる事が正解だとでも言う気?」
「確かに一時期やり過ぎた時はありました。しかし今は違います」
「根本は変わってないでしょ、その内我慢できなくなってまた同じことを繰り返すよ、君は」
「いいえ、そんな事は有り得ません」
喧嘩を始める二人、そんな二人に割って入ったのはジョン
「止せよ、今重要なのは此処の村人が”何処に行ったか?” だろ? お前等の下らない喧嘩を聞いている場合じゃない、アーリンお前もいつまでもぷんぷんしてるな、喧嘩がしたいなら村人を救出した後好きなだけやれ少なくとも俺は巻き込むな、OK? 分かったなら深呼吸して右手を上げろ、上げなければ俺がお前等の唇を奪う」
三人即右手を上げる
「これはこれで腹が立つな」
「彼の言う通りだわ、今優先すべきなのは此処の村人を見つけ出し救出する事、貴方、ジョンと言ったわよね?」
「あぁ」
「ありがとう、ジョン貴方のお陰で本来の目的を思い出す事が出来たわ」
と笑顔でジョンにそう言い右手を差し出す。しかしそれを無視するジョン
「そんな事より捜査を再開しようぜ、それとアーリンも今回の捜査に必要、保護はまだ待ってくれよ」
「うーん、でもなぁ」
「いいじゃないのカランダーン実際人手は一人でも多く欲しい所なのは間違いないのだから」
「君がそう言うならいいんだけど私は責任を取らないよ」
「分かってます。責任は私が取るわ、安心して」
「あっそ、ならいいんだけど」
カランダーンはそう言って不機嫌そうに腕を組む
「で? どうやって捜索する? 俺達は手詰まり状態でね」
「ウェークの魔力を辿るよ、確かに此処に彼女は居たみたいだからね、ウェークはこっちの方に行ったみたいだね」
とカランダーンがその方向を指差す。しかしそこにあるのはだだっ広い雪原が広がっているだけ
「このずーーっと向こうだよ」
「そのずーーっと向こうまで歩て行けと?」
「ワープを使おう……と言いたい所だけどちょっと試したことが有るんだ。その為にジョンを実験体にしなくちゃいけないんだけど、良い?」
「実験の内容は? それ次第だ」
「君、ウェークの魔法を無効化したと言ってたよね? どうして無効化出来たのかハッキリとさせたいんだよ」
「どうやって?」
「私が一度君に魔法を掛ける、そしてどうなるかを確認したいんだよ」
「どんな魔法を掛ける? 全身がバラバラになる魔法とかは勘弁だぜ?」
カランダーンはハハハと笑い
「そんな魔法は使わないよ、使うのは治癒の魔法、君の手の切り傷でも治してあげるよ」
「それが実験?」
「そうだよ、さぁ、納得したんだったら左手を出して」
ジョンが渋々と左手を差し出すとカランダーンがジョンの左手に右手を翳す。すると
「痛て!? 何しやがる!」
「おっと、ごめんごめん、痛かった?」
ジョンが左手を見る、すると左手の傷は綺麗に治っていた。
「カランダーンどういう事です? 治癒に痛みが伴うなんて聞いた事がありませんよ?」
「そうだね、有り得ないよ、なのに起こった……ジョン君、別の魔法も使ってみてもいいかい?」
「また痛い目に合わなきゃならないのか?」
「次はさっきの比じゃないかもしれないよ」
「なんだって?」
「もしこの実験が失敗したら……君、死ぬかもね」
この館の内部の捜索もしたが何も発見されなかった。勿論帰る手段も
屋敷で一番広い部屋に四人で集まり作戦会議をする
「私達の他にどうやら飛ばされた人も居なさそうだね」
「心配だな、一体何処に……」
「森の方に飛ばされたのかもね、それかもっと別の場所に飛ばされたか……まぁ分からないね、なんせ情報がないんだし」
「なら、これから森の方へ捜索に向かうかい?」
「ん~もう暗くなりそうだし捜索は明日にしよう、今日は此処に寝泊まりって事で良いね?」
「……マリア様やネルヒム様それにジェシカちゃんが森で一夜を過ごせると思えないよ」
とローラがジャックに反対の意を示す。
「だよねぇ」
とジークもローラに同意
「だからって夜に捜索は危険、しかも此処の事を知ってる訳じゃないでしょ? 夜に危険な動物が現れるかもしれない」
「だからと言って放って置けないよ」
ローラの決意は固い
「行くなら勝手に行けばいいよ、そこまでは付き合いきれないよ」
「君達今日は此処で寝泊まりするつもりなんだ……ふーん……まぁいいや、行こうジーク」
「あいよ」
ローラとジークが部屋から出て行く
「いいんですかい? 行かせて」
「彼女の眼を視れば分かるよ、行かせる以外の選択肢はないでしょ、さてナイロン適当に何か食べられそうな物探して来てよ」
「え、でも単独行動は危険って……」
「あの二人はね、僕達は特殊な力を持ってるから別でしょ? 行って来て」
「へ、へい……」
渋々とジャックの要求を呑み、部屋から出て行くナイロン
部屋に残されたジャックも暇なので館の探索をもう一回行う
そして館の書庫のような場所を見つける
ボロボロになっている本棚にボロボロの本、本を手に取って中を見ても虫食いだらけで見れたものではない
大人しく本棚に本を返し部屋を後にしようとした時
「何をしている」
と誰も居ない筈の書庫から男の声がした。
急ぎ振り返るジャック
そこには片目に傷跡がある初老の男性が立って居た。
「おや、失礼……ここは貴方の館でしたか、いや申し訳ない、呼んでも誰も来なかったものですからてっきり無人なのかと思っていましたよ」
「無人では無い、私が居る……それで? なんの用だ?」
「此処に一晩泊めて欲しくて伺った次第です。駄目でしょうか?」
「……いいだろう、だが条件がある、お前、私と戦い、勝て、そして私を殺せ、出来たらここに泊めてやろう」
「ほぉ、貴方を殺せと……? 確かにそうすれば此処に誰が泊まろうと誰も気にしないでしょうけど、宜しいのですか?」
「構わない……来い」
初老の男は剣を構える
「おやおや、血気盛んですね」
ジャックも懐からナイフを取り出す。
対立する二人
先に仕掛けたのは初老の男、魔法で剣に稲妻を走らせ、ジャックに斬りかかる
しかしジャックに与えられた最強の防御魔法、『拒絶』が発動する
初老の男の雷魔法は勿論無効化され、ジャックに斬りかかったという事実まで無効化され
初老の男は最初に立って居た地点まで戻される
「……!?」
少しの空白の後、異常を理解する初老
「貴様……何をした?」
「何をしたんだと思う? まぁ、それはどうでもいいじゃない、それより私は貴方の事を知りたい、行き成りこんな片手を失った男を襲って戦闘狂のフリかい?」
「私は戦いを愛しているフリとはどういう事だ?」
「戦いを愛する者は片手の男を態々襲わないよ」
「何を言っている貴様を最初に襲ったのは偶々だ……次はあの三人を襲う」
「ふーん、最初の三人って事は私達が四人でこの館に居たという事も知っていたという訳だね? さっきは私の事を知らないフリして話し掛けて来たのに……あれは演出だったて訳だね、何の為にそんな演出をしたのかも何となく察しがつくよ、あなたは戦闘狂ではない、言ってしまえば戦闘狂のような狂人に憧れた哀れな老人という所かな?」
「私を侮辱するつもりか!」
「戦闘狂なら何故私達が四人の時に襲わなかったの? 戦闘狂ならあんな状況、放って置ける訳無いでしょう?」
「私は一対一を好む」
「違うな、それは言い訳だよ、一対一を好む男なら絶対に私は襲わない、さっき言った通り私には片手が無いからね、戦闘好きがそんなのと戦ったってつまらないでしょう? だから君は戦闘狂じゃなくて単に勝算が高い相手を選んで挑んだだけ、悪く言うと弱い者いじめが好きな陰気野郎って所かな?」
「……その五月蠅い口を今切り刻んでやる」
「やってみなよ、やれるものならね」
片手を広げ挑発をするジャック
「貴方は臆病者だ。弱い者を踏みにじり少しでも高い位置に行こうとする愚かな人間だ」
「私は狂人だ。見境なし、死ね!」
ジャックを斬ろうとする初老だが結果は同じ
「学習能力ないなぁ、さっきと同じ攻撃じゃないか……もう少し別の方法で攻撃するとか色々あるでしょ? 何してんの」
「く、くそ……貴様は何者だ! 何故私の攻撃が通用しない!」
「そんなの答える訳無いでしょ……自分で考えなよ、ね? 狂人さん?」
「ぐっ……」
ジャックは初老に歩み寄る
「しかし自分で狂人を名乗っちゃうなんて驚きだね、狂うという事はつまり異端という事だよ、異端者の行動はその世界の常識人からすると気が触れて見えるからね、つまり君は自分で自分の事を異端だと言ったんだ。自分は異端児ですってね、だけどね知ってるかい? 狂っているという言葉は自分に使うものじゃない相手に使うものだよ、何故かというと本当に狂ってる奴はそんな事は言わないからさ、何故なら自分こそ王道だと思ってるから彼等は自分の人生に誇りと確信を持っている、自分の人生に誇りと確信を持っているならまず自分は狂っているとは言わないし言えない……自分が狂っているなんて言ってしまうのは自分の行いは異端なのを知っている常識人だよ、君は狂人に憧れた常識人……そうなんでしょ? 君は狂ってなんかいない」
ジャックは初老の目の前まで近付く
「君は正常さ、だからさ……君、私達の仲間にならないか?」
雪の国にて
ジョンはアーリンの元に向いダラサダ討伐の事を伝える
「まぁ、いいでしょう、私も彼女には世話になりましたから、で? そのダラサダとか言うのの詳細は?」
「暗い所でしか行動出来ないという事以外はほぼ分からない、形も大型の動物らしいという事以外分からん」
「随分と大雑把ね」
「この村の奴等はそいつを神だと思ってるんだ。余計な詮索は出来なかったのさ」
「で? どうするの? 奇襲でも掛けるの?」
「奴は夜まであの洞窟から動かないだろうつまり奇襲を掛けるのなら洞窟の中か夜に洞窟から出て来た所を空かさず襲うかの二択だ。
だが洞窟で戦うのはこちらに不利だ。奴は触手を振り回して戦うからな、戦うなら広い所だ」
「つまり、夜まで待って出てきた所を襲うという事だね?」
「そうなる、奇襲を掛けるのは俺とアンタそしてもう一人の三人だ」
「少ないね、大丈夫なの?」
「こっちには不老不死が居るんだ。大丈夫だ、そうだろ?」
そう言ってジョンはクククッと笑う
「まぁ、気楽にやろうや」
と言いジョンは部屋を出て行こうとする
「待って」
とアーリンが呼び止める
振り返るジョン
「これ」
とアーリンがジョンのナイフを取り出す。
「やるよ」
「駄目よ、貴方の元に帰りたがっている、信頼関係の無い者とは一緒に戦えないわ、これは信頼の証、貴方がこれを受け取ればそれは貴方が私の事を信頼したと受け取るわ、勿論私も貴方の事は信頼している、一時的だけど」
ジョンは一間を置いて
「……分かった。受け取らせて貰う」
ナイフを受け取る
「ふふ、嬉しいわ、じゃあ、夜に会いましょう、ジョン」
そう言いアーリンは目を瞑り瞑想を再開する
部屋を出てキャロの元に向かうジョン
キャロは部屋で一人編み物をしていた。
「寝てなくていいのか? さっきまで死にそうな顔をしていたが……」
「うん、大丈夫だよ、心配してくれてありがとう、ジョンさん」
「何を手でごちゃごちゃしてるんだ? 何だか卑猥だな」
「? 編み物だよ、今日の夜、外に出るんでしょ? だからマフラーを作ってるんだぁ」
「マジかよ、そいつはスーパーウルトラハッピーだな」
「えへへ、そう言ってくれるとうれしいな、今日の夜には三つ出来るから待っててね」
「礼は言わないぜ」
「ううん、お礼を言うのは私の方だよだって命を助けてもらったんだもん! これくらいは当然だよ! 私はこんな事しか出来ないけど……頑張ってね? 死んじゃいやだよ? 必ず帰って来てね? 約束だよ?」
「残念ながら俺は約束はしない、死んだら死んだ、だ。後はお前達がどうにかするんだな」
「そんな事言わないでよ……あっ! そうだ! ご飯も作ったんだよ、食べて行ってね」
「ご飯?」
「うん! 野菜スープだよ」
「此処でどうやって野菜を手に入れたんだ? 店でもあるのか?」
「ううん、私の畑から採って来たんだ」
「畑? そんなの何処に有るっていうんだ?」
「こっちだよ」
編み途中のマフラーを置いてキャロは立ち上がりジョンに畑の場所を教える
畑はキャロの家の中にある
「な、なんだこれは……?」
畑を見て驚くジョン
何故ならそれはジョンの知っている土で行う畑とは違い氷の中に野菜が埋まっている
「えへへ、すごいでしょ? 全部私が最初から育てたんだ」
こちらの野菜は土では無く氷の中で育つのだ。
そんな不思議な光景を見て本当に此処は異世界なのだと再確認する
そして夜になる
ダラサダの洞窟前に匍匐状態で待機するジョン、アーリン、ダラス、全員首にはピンクのマフラーをしている
「来たぞ」
穴からドシッドシッと何かが登って来るような音が聞こえ始める
「いいな? 必ず最初に矢に火をつけて射ろよ?」
「OK」
「分かった」
穴から複数の触手が現れ、その本体がようやく姿を見せる
口の中に大量の触手を飼っている大ガエル、それがダラサダの正体
何も知らない怒り狂ったダラサダに三つの火の矢が飛んでくる
悲鳴を上げるダラサダ、自分を狙う不届きものが居ると知り、ジョン達を睨むダラサダ
「よぉ、ヒキガエルぶっ潰してやるよ」
「貴様だな、俺を斬ったのは……覚えているぞ」
あの暗い中捉えたジョンの顔をしっかりと覚えていたダラサダ、目は憎悪に溢れている
「そいつは嬉しいね、憎しみの一つ二つあった方が叩き潰し甲斐があるってもんだ」
「生意気を!!」
触手がジョンを襲う、が逆に触手はジョンのナイフで返り討ちにされてしまう
悲鳴を上げるダラサダ
「触手を斬られると相当痛いらしいな、しかも触手自体もそんなに速く動けないみたいだな、その上お前の武器はその触手のみと見た。そしてその事を総評した結果をお伝えするぞ……さてはお前弱いだろ?」
「な!? ふざけるな! 俺には切り札がある! 舐めるな!!」
「なら見せてみろ……さぁ!」
ジョンは奴にはもう切り札が無いという事に確信を得ていた。
まずジョンはダラサダの正体を見る前からダラサダは戦闘能力が低い可能性が高いと憶測を立てていた。何故ならもし彼が戦闘が得意だとしたら態々救世主を名乗り村人に食料を貢がせる必要が皆無だからだ、そんな事しなくても村人を蹴散らせる自信があるのであれば直接村に行って蹂躙してしまえばいいからだ。
態々面倒な手を使ったのは戦闘能力が低く複数の人間に囲まれてしまえば返り討ちにされてしまう程の実力だと本人が自覚している他無し、そしてキャロを救った時に見た触手の動き……それらを全て合わせて行き着いた。「奴は弱いのではないのか?」という憶測
しかし憶測は憶測、確固たる証拠は無いのだ。だから万が一の為に万全を期した。だがその必要は無かったようだ。ダラサダの正体を見て、彼の言動を見てジョンは確信する「奴は弱い」と
そしてその確信の通りダラサダは切り札など持っておらず攻めあぐねている
「やっぱりな、お前は何も持っていない、お前にあるのはそのトロい触手だけだ。さて、どうする? 潰されるか? 切り刻まれるか? 選べ」
「ま、待て見逃してくれ」
「この質問に答えたら考えてやるよ、吹雪を止めたのはお前か?」
「ち、違う、吹雪が丁度止んだ頃偶然、俺が此処を通りかかったんだ。その時俺を見つけた村長が勝手に俺が吹雪を止めたんだと早とちりをしただけだ……」
「その勘違いを利用してお前は安住の地を得ようとしたという事か」
「て、てめぇー! 嘘を付いてやがったのか!」
激怒するダラス
「……」
「しかし、野菜だけを食っとけばいいものを欲張って人質なんて要求するからこうなる」
「わ、分かった。次はそんな事を言わない! だから……」
「あぁ、次から気を付けな、まぁその”次”というのは来世でという意味だがな」
ジョンの眼がギラリッと危なく光る
「ヒッ……!」
そこから始まったのは惨殺、一方的な殺戮、大型生物を素早い二人の人間が刺して刺して刺したのだ。
三十回目で大量の血を流しながらバタンと倒れるダラサダ、抗う余地など無かった。
「す、すげぇな、アンタら……」
「褒めても何も出ないぞ」
ダラサダの討伐はあっさり終わり、帰宅途中にジョンがある事に気が付く
「街の方がなんだか騒がしいぞ」
「そうか? 何も聞こえないが」
「いや、間違いない……悲鳴が聞こえるぜ……!」
ジョンが走り出す。
その後を追う二人
村の中心に女性が佇んでいる、その下にはグラムが血に池を作り横たわっている
辺りには逃げ惑う人々
「村長!!?」
ダラスがそう言ってグラムに近付こうとする
「止せ!」
がジョンに止められる
「放してくれ!!」
「馬鹿野郎! 何があったのかも知らないのに迂闊に近付くな!」
剣を抜くアーリン
グラムの上で佇む女性に剣を向ける
「貴方、何者?」
「私はウェーク、元この土地の神だ」
女性は静かな瞳でアーリンを見つめる
そして次の瞬間、アーリンが凍り付きバタンッと倒れてしまう、そのまま動かないアーリン
アーリンは一瞬にして戦闘不能にされてしまったのだ。
「!? な、何!?」
「次はお前だ」
ウェークと名乗った女性が瞳をジョンに向ける
(や、やべぇ、死ぬかも)
女性の瞳は氷の様に冷たく硬い、そんな彼女の瞳がジョンを捕えている、ジョンの前に瞳に捕えられたアーリンは全身が凍ってしまった。
ジョンがそんな攻撃を喰らえば勿論即死
死ぬ! そう感じた瞬間、瞳から逃れようと瞳から逃げ出すジョン
だが間に合わず魔法が発動するだがその魔法、ジョンには届かない、無効化されてしまった。
「な!?」
今までのクールな態度を自分の魔法が無効化されてしまった事で動揺してしまい崩してしまうウェーク
「貴様、今何をした?」
「……」
(な、なんの話だ……? この女何に困惑しているんだ?)
ジョン自身も何が起こったか分かっていない、何故彼女の魔法が無効化されてしまったのか? それ以前にウェークの魔法が発動しそれが無効化されたという事実をジョンは知らない
「私が聞いている! 答えろ貴様、私に何をした!」
「……何だと思う?」
(俺にもサッパリだがこれしかねぇ、知ったかぶりで何とかこの場を凌ぐ……!)
内心冷や汗ダラダラだが外見ではクールを気取り、余裕を醸し出す。
「貴様、ただの人間だな? それが何故、私の魔法を無効化出来たんだ? 答えろ」
(俺がこいつの魔法を無効化? そんな事をした覚えは無い、俺以外の誰かがやったとも思えない……どういう事だ? 何が起こっている?)
「ただの人間が神の魔法を無に返しちゃ悪いか? 人間だって進化するのさ」
「信じられない……まさか、こんなにも早く神に届くなんて」
彼女は本当に驚いているようだった。
「信じられないと言ったような感じだな、だが残念、これは現実、事実だ」
ジョンがゆっくりとウェークに近付く
「俺はお前を殺す。その間精々足掻いて見せろよ」
(何馬鹿言ってんだ俺は……)
「クッ……! そうか、お前神に力を授かったのだな? それも強大な、しかしそれ程の力を注いだというなら、お前に力を授けた神は力の殆どを失ってしまったのか?」
「どうだろうな? ま、そんな事より自分の心配をしたらどうだ? ”お嬢さん”」
徐々に神に近付くジョン、だが神に近付いてその後どうすれば良いのかは分かっていない、完璧なハッタリ、演技
だからウェークが「クッ出直しだ!」とでも言ってこの場を去るのを期待するしかない
「そうか……神に届いてしまったと言うなら仕方ない、来い人間、此処からは神の領域、覚悟はいいな……?」
「あぁ、何処からでもどうぞ」
ジョンの期待は簡単に崩れ去る
ウェークは臨戦態勢になってしまった。逃げる気配など何処にもない
(お、おいおい、次の攻撃も無効化出来るとは限らないぜ……今度こそご臨終か? いや、待て何か他に方法は――)
何か策は無いかと考えるがどれも効果的とは言えないものばかり
そして制限時間が過ぎる
ウェークは片手を天にかざし、村一つ潰せそうな程の大きさの氷塊を空中の作り出す。
(うげぇぇぇぇぇ、あんな事も出来るのか!? まっずい! 兎に角今打てる最善の策は地に潜る事)
幸運な事にジョンの足元には誰かの家の穴がある、そこに隠れようとした矢先
一瞬にして圧倒的存在感を放っていた氷塊が消える
「……信じられない……転移魔法? いやそんなハズは……」
一人問答を始めるウェーク
(あの女も状況を呑み込めていない、俺もそうだが……仕方ねぇ、何の確証も証拠も無いが行くしかねぇ……! 奴を斬る!)
ジョンは決心しウェークに近付く、走って
「……!?」
一気に間を詰め、ウェークの胸元を斬る、非常に簡単に斬れたその胸から血かあふれ出す。
「……その……短剣は……私の……」
そうジョンの持っている透明な短剣はウェークがこの村の村長に授けた短剣
次の瞬間、ウェークは突然吹いた吹雪と共に消えた。
ジョンの足元には血塗れの村長
「おい! 大丈夫か!?」
息はまだある、だが微か
「ダラス! 来い! 運ぶぞ!!」
遠くでジョン達の様子を伺っていたダラスが走ってジョン達に近付いて来る
「アーリンさんはどうする!?」
「あいつは良い! どうにでもなる、兎に角今はこいつを運ぶぞ」
「お、おぉ」
意味も分からず命令に従うダラス
一先ずグラムを安全な家の中へと運び終えたジョンとダラス
「タオルを持って来い!」
「あ、あぁ」
戸惑いながら部屋の奥へ消えるダラス
「も、もう私は駄目だ……」
意識を取り戻すグラム
「黙ってろ、止血する」
血塗れの手で止血しようとしているジョンの手を握る
「いいんだ……これは天罰だ。私は……此処で死ぬべきなんだ……」
「天罰だ? 馬鹿言ってんじゃねぇ、黙ってろ」
「君には感謝している……私は大きな過ちをする所だった……だが君が正してくれたんだ……ありがとう」
その一言を最後にグラムは力尽きた。
ダラスはその後に無用となった真っ白なタオルを持って帰って来る
「村長!!?」
「……もう駄目だ。死んでる、他にも怪我人が居ないかどうか調査するぞ、着いて来い」
「先に行っててくれないか……後で行く」
村長の前で佇むダラス、そんなダラスを見てとても調査なぞ出来ると思えなかったので置いて行く
地上に戻りまずアーリンの元に行く、彼女はまだ凍っていたが意識は戻ったようだ。
「さ、寒いわ……た、助けて」
「お前は寒くても死なないだろ、我慢してろ」
そう言って、ジョンはまずキャロの家に向かう
「おい! キャロ! 生きてるか!」
返事は無い、部屋には誰も居ないようだ。
(外に逃げたのか?)
そう思いまた地上に上がる、しかし周りには凍ったアーリン以外見えない
「アーリン、キャロを見なかったか?」
「み、みていない」
「あ、そう」
「村人共は一体何処に行ったんだ? 気配を感じないな」
「し、しらないわ」
「だろうな……分かった分かった。そんな眼で俺を見るな、すぐ溶かす」
アーリンをキャロの家に持ち帰りお湯を沸かしアーリンに掛ける
「助かったわ、ありがとうジョン、でも次からはもう少し早く助けて頂戴」
「我が儘だな」
「貴方が意地悪なのよ」
「そんな事言い合ってる場合じゃなかったな、村人を探そう、行くぞアーリン」
「えぇ、そういえば村長の様子はどうなの?」
「村長は死んだ」
「そう……残念ね」
「ダラスに聞いてみるか、もしかしたら村人しか知らない秘密の隠し部屋みたいなのがあるのかもしれないからな」
ダラスの元に向かった二人だがダラスの姿はもう無く村長の亡骸だけが横たわっていた。
「……おかしいぜ、確かにさっきまでそこに居たはずだ。何処に行った?」
何か異常を感じ始めるジョン
「この部屋に隠し通路のようなものがあるのかもしれないわ探してみましょう」
しかしそんな物は見つからずまた地上に戻るジョンとアーリン
「アーリン、俺の意見を言うぞ、これは異常だ。俺は最初、村人達が息を潜めて何処かに隠れているのかと思っていたが違うのかもしれない」
「誰かに攫われたという事?」
「かもしれないな」
「村人全員をあんな一瞬で攫ったとしたら犯人は自ずと神という事になるわね」
「ウェークとかいう奴の仕業か?」
「……私は気絶していたからどうやってあの女をどうやって撃退したか分からないの、教えてくれる? そこに何かヒントがあるかもしれないわ」
「近付いて斬ったんだ。そしたら消えた吹雪と共にな」
「斬った? 斬ったって刃物で斬ったと言う事?」
「それ以外あるか?」
「……それで撃退出来る程軟じゃないわよ、伊達に神を名乗っている訳ではないのよ? 一応それなりの力が有るわ、物理攻撃が通用しない程のね」
「だが嘘じゃない、本当に斬ったら血が出て来てその後奴は消えたんだ」
「本当だとしたらとんでもない事よ、人間が神を傷つけるなんて……もしそれが本当だったら私も見たかったわね」
と残念そうな顔をする
彼女はこの世界で神と名乗っているあの種族に嫌悪感を抱いているのだ。
「で? 何かのヒントにはなったのか?」
「いえ、何も分からなかったわ」
「そりゃ残念」
と操作も行き詰まりを見せ始めた頃
「やぁ、君達、待たせたね」
ワープしてカランダーン達が現れたのだった。
「さぁ、家に帰ろう」
とカランダーンがジョン達に笑顔で言う、しかしジョンは帰る訳には行かないとその理由を含めてカランダーンに伝える
「ウェークがこの村を襲ったのかい? 本当に?」
「あぁ、この目で見たんだ間違いない」
「……ウェークは此処五年ほど行方不明だったんだけどな……まさか急に現れて人を襲い消えてしまうとは驚いたよ、しかもそれを君が追い出したと聞いてもっと驚いたよ」
「忘れるな村人全員を誘拐した疑いもある」
「それもあったね」
「今すぐ奴を捜索する必要がある、でなきゃこの村人達の命が危ないかもしれないぜ」
「……面倒だね」
「おいおい、神だろ救済してくれよ」
「分かったよ、探してみるよ、ジョン君も一緒に来てくれるかな?」
「いいぜ」
「アーリン、君は保護という形でパーラが預かる事になってるからよろしくね」
「保護? 冗談じゃないわ、私は帰らさせて貰うわよ」
「そうはいかないよ、君はもう普通の人間じゃないんだ。元の生活に戻る事は出来ない、分かるよね?」
「ふざけないで! 貴方達の勝手に振り回されるのはもうたくさんなのよ!」
「ザッラーから話は聞いているよ、半ば強引に不老不死にされてしまったんだってね、残念だね」
とカランダーンは他人事
そんなカランダーンの態度に憤慨するアーリン
「残念……? 残念ですって!? そんな一言で済ませる気なの!?」
「だって私が君に何かした訳でも無いし、私は関係無いでしょ、それは君とザッラーとで解消してよ、私は巻き込まないでね」
冷たくあしらうカランダーンを見て隣でずっと黙っていたパーラが我慢できず声を上げる
「その言い方はあんまりだわ! カランダーン! 私達もザッラーの暴走を感知出来なかった以上間違いなく責任があります。彼女に謝罪しましょう一緒に」
「そう思っているのは君だけ、私はそう思っていないよ、謝罪だけして満足するならそうするけど君はそんなものじゃ満足しないでしょ? 私達が死にでもしなきゃ満足しないんだよ、それにこういう人は私達が何をしてもまた文句を言って来るよ、何したって無駄、怒りは鎮まらない」
「貴方はそんなだから自分の管轄の人間からも尊敬も敬愛もされないのですよ? 貴方は冷たすぎる」
「だからってザッラーみたく迷惑は掛けていないよ、ブルークリスタルとか欲しいと言われればあげる、それ以上の接触も必要ないと思ってるし人間は私達みたいなのが居なくてもやっていけるよ、よっぽどの事が無い限りね、それとも君みたいに人間を溺愛して堕落させる事が正解だとでも言う気?」
「確かに一時期やり過ぎた時はありました。しかし今は違います」
「根本は変わってないでしょ、その内我慢できなくなってまた同じことを繰り返すよ、君は」
「いいえ、そんな事は有り得ません」
喧嘩を始める二人、そんな二人に割って入ったのはジョン
「止せよ、今重要なのは此処の村人が”何処に行ったか?” だろ? お前等の下らない喧嘩を聞いている場合じゃない、アーリンお前もいつまでもぷんぷんしてるな、喧嘩がしたいなら村人を救出した後好きなだけやれ少なくとも俺は巻き込むな、OK? 分かったなら深呼吸して右手を上げろ、上げなければ俺がお前等の唇を奪う」
三人即右手を上げる
「これはこれで腹が立つな」
「彼の言う通りだわ、今優先すべきなのは此処の村人を見つけ出し救出する事、貴方、ジョンと言ったわよね?」
「あぁ」
「ありがとう、ジョン貴方のお陰で本来の目的を思い出す事が出来たわ」
と笑顔でジョンにそう言い右手を差し出す。しかしそれを無視するジョン
「そんな事より捜査を再開しようぜ、それとアーリンも今回の捜査に必要、保護はまだ待ってくれよ」
「うーん、でもなぁ」
「いいじゃないのカランダーン実際人手は一人でも多く欲しい所なのは間違いないのだから」
「君がそう言うならいいんだけど私は責任を取らないよ」
「分かってます。責任は私が取るわ、安心して」
「あっそ、ならいいんだけど」
カランダーンはそう言って不機嫌そうに腕を組む
「で? どうやって捜索する? 俺達は手詰まり状態でね」
「ウェークの魔力を辿るよ、確かに此処に彼女は居たみたいだからね、ウェークはこっちの方に行ったみたいだね」
とカランダーンがその方向を指差す。しかしそこにあるのはだだっ広い雪原が広がっているだけ
「このずーーっと向こうだよ」
「そのずーーっと向こうまで歩て行けと?」
「ワープを使おう……と言いたい所だけどちょっと試したことが有るんだ。その為にジョンを実験体にしなくちゃいけないんだけど、良い?」
「実験の内容は? それ次第だ」
「君、ウェークの魔法を無効化したと言ってたよね? どうして無効化出来たのかハッキリとさせたいんだよ」
「どうやって?」
「私が一度君に魔法を掛ける、そしてどうなるかを確認したいんだよ」
「どんな魔法を掛ける? 全身がバラバラになる魔法とかは勘弁だぜ?」
カランダーンはハハハと笑い
「そんな魔法は使わないよ、使うのは治癒の魔法、君の手の切り傷でも治してあげるよ」
「それが実験?」
「そうだよ、さぁ、納得したんだったら左手を出して」
ジョンが渋々と左手を差し出すとカランダーンがジョンの左手に右手を翳す。すると
「痛て!? 何しやがる!」
「おっと、ごめんごめん、痛かった?」
ジョンが左手を見る、すると左手の傷は綺麗に治っていた。
「カランダーンどういう事です? 治癒に痛みが伴うなんて聞いた事がありませんよ?」
「そうだね、有り得ないよ、なのに起こった……ジョン君、別の魔法も使ってみてもいいかい?」
「また痛い目に合わなきゃならないのか?」
「次はさっきの比じゃないかもしれないよ」
「なんだって?」
「もしこの実験が失敗したら……君、死ぬかもね」
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長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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