中年中太り成金アロハシャツおじさんを地獄の底へ叩き落とす所から始まる異世界転移物語

トムボーイ

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第五章 神の暇潰し

狩人と獲物

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 ジョンは今死に掛けている、昨日は交渉の末、惨敗、ジェシカを抱く事になりしかも挙句の果てにネルヒムも眠れないと言い出しジョンの左側にネルヒムが抱き付き勝手に眠ってしまったのだ……
普通の人間なら心温まったり、安らいだりする場面のハズだが、ジョンは違いまず顔が青ざめ、熱くもないのに汗が出る、心なんて温まらず休まらず、只々冷えていくだけ
マリアが目を覚ますとジョンの顔は青白くなっており重病人の様な顔をしていた。

「ハ、ハヤクハナレテ」
「だ、大丈夫!? どうしたの!?」
「キャー!!?」

悲鳴を上げるジェシカ、起きないネルヒム
その後何とかジョンは窮地を乗り越え、再び旅立つ、目的地も決まらぬまま
窮地を乗り越えたからといってジョンの容態が良くなった訳ではない相変わらず手は震えるし顔は青い
そんなジョンを見てマリア達はジョンの歩く後ろでジョンに聞こえない様に小声で相談を始める

「どうしたのかしらあの人? 病気?」
「私……臭かったのかな……?」
「そんな事ないよ! 大丈夫だよ!」
「そうだといいんだけど……」

完璧なる見当違いをしている三人を尻目に先へ進むジョン
そして次の瞬間ジョンが言う

「誰か来るぞ!」

そう言いジョンは三人の元に向かい
そして一点を見詰め警戒をする
そして木が犇めく森の中からスキンヘッドの大男と黒髪の少女が現れる

「あぁ、居た居た、ようやく見つけた。全く……なんで儂がこんなでくの坊を押し付けられたんだか……」

とその見た目に似つかわしくない毒を吐く少女

「すいやせん」

とその見た目に相応しくない程申し訳なさそうに少女に謝る大男


「まぁいい、だがおかしいな、連れて来られるのは子供だけのハズじゃなかったのか? あの男……大人の様に見えるが」
「あぁ!? 確かに……」
「おい、お前! どうやって此処に来た?」

と少女がジョンに話し掛ける

「何だ? 俺は此処に来ちゃ不味かったのか?」
「どうやって来たかを聞いている、それ以外何も言うな」

威圧する少女

(この女普通の子供じゃねぇな……恐らくメイヴィスと同じ特殊な奴なんだろう……カランダーンは早々メイヴィスの様な奴とは出会えないと言っていたがこんなすぐに出会えるとはな、神様の言う事も信用出来ねぇという事か?)

「言う気は無い、何でも聞いて帰って来ると思わない事だな、オチビさん」

(こいつらが俺達を呼び寄せたのは間違いない……が俺が此処に来るのはこいつ等にとって想定外だったらしい、こいつ等に敵意があるか分からんが俺の事は謎にして置いておいた方が吉だな)

「ほう、生意気な奴だな……近辺に住んでいた者か? それとも別か? どう思う? でくの坊」
「さぁ、分かりやせん」
「だろうな……まぁどっちでも良しだ。どうせ死ぬのは変わりないのだからな」

(なるほど……敵という訳ね、なら不味いなこっちは非戦闘員が三人それに手の震えでナイフを投げてもこれじゃ当たらないだろう、つまりこちらの攻撃手段は近接攻撃しかないという訳だ……その上こいつ等がどんな攻撃が出来て何が得意で何が苦手なのか、相手の情報も全くないこの状況かなりピンチだ。打破する方法は何かないか……?)

「死ぬ? 死ぬって何だよオチビさんが俺を殺すのかい?」

大男が両手をパキパキと鳴らす

「待って勘弁してくれよ! 冗談じゃない! 俺はこのガキを偶々見つけただけだ! 」

(無関係を装おう、俺は近辺に住む一般人、戦闘経験も無いただの人)

子供たちは並々ならぬ状況に恐怖し三人で身を寄せ黙って震えている

「こいつ等が目的なんだろ!? 子供は差し出す! だから俺の命は助けてくれ!」

と言いジョンは震えているマリアを無理矢理抱き大男達が居る方へ差し出す。
そんなジョンを裏切られたのだと思ったマリアは心底ジョンを軽蔑する

「し、信じられない、裏切るつもりなの……!?」
「最初から他人みたいなものだろ?」

マリアはどうしようもないくらい悔しくなる、こんな男を私は信じてしまったのかと……悔しくて涙が出る
そしてジョンはマリアを抱えたまま大男と少女に近付く

「なぁ、頼む俺に敵意は無いんだ……だから助けてくれ」

ジリジリと距離を縮めるジョン

(相手の実力云々の前に射程圏内に入らなきゃ話にならねぇ、魔法戦では魔法が使えないこっちが圧倒的不利それは覆らない)

しかしジョンの作戦はネルヒムとジェシカによって妨害される、二人はジョンの両足にしがみ付いたのだ。

「やめて! 何を考えているの!?」
「マリアちゃんを連れて行かないで! 殺されちゃう!!」

(うっ!? 不味い! しがみ付かれている両足、マリアを抱えている両手、四肢を縛られた! 今攻撃されたら……俺だけは逃げれるだろうがこいつ等は……)

「ほぉ勇ましい子供達だ。それに比べお前は何だ? 臆病者め、安心しろ子供は殺さない、気に入った。お前は違うぞ、黒髪」

ジョンはそれを聞き安堵する、だが悠長にはしていられない大男がゆっくりと近づいて来る……
ゆっくりとマリアを降ろす……これで両手は空く
残りは両足だがマリアを放したと同時に二人はマリアに抱きついたので勝手に空いた。
これで自由に身体が動く
そして大男はジョンの射程圏内に入った……!
ジョンの眼と大男の目が合う、その瞬間ジョンの目つきは獲物から狩人の眼に変わる、それにいち早く気が付いた少女

「ナイロン! そいつから離れろ!!」
「!?」

その声に気を取られたナイロンと呼ばれた大男、大きな隙が出来るその一瞬をジョンは見逃さず一瞬で間を詰めナイフで首を斬る、悲鳴すら上がらない
次に少女に斬りかかろうとするが少女はナイフが触れる前に消える
空を切るナイフ、咄嗟にマリア達の元に戻り警戒する、周りを視るが誰も居ない

「驚いた……」

少女は木の陰から姿を現す。

「儂とした事が……耄碌したな、敵を見誤るとは」
「軽率だったな」

今度は狩人同士の戦い
それを震えて見守る三人
しかし恐れているのは彼女達だけでは無かった……
黒髪の少女の名はカタリナと言う、カタリナも内心恐怖を覚えていた。

(さっきの一閃……儂の眼でも追いきれんかった。この男……かなりの手練れ、儂の腕で接近戦を挑んでも負ける可能性が高い、なら遠距離から仕掛けてやるか)

カタリナは魔法で小さな黒い渦を二個空中に作り出しジョンに投げる
その黒い渦の速さに驚くジョン、何故ならそれは前に感じたお菓子の国の兵士や盗賊団やクララから放たれた魔法とは一線を画す速さだったからだ。
それを何とか避けきるジョン
避けられまたカタリナはまた恐怖する

(い、今のを避けるのか……何という男だ……信じられん、だが良かったまだ儂の方に分がある、奴は子供三人を庇いながら戦わねばならない……もしもの時は子供を人質に取ってしまうのも手、まだ儂の方が有利だ)

実際その通りだった。ジョンも焦っている

(や、やべぇ……何だ今の? 今までの奴らの魔法とは比べ物にならない速さ、あんなのを何発も撃たれたんじゃ堪ったもんじゃないぜ……それにこっちは三人を庇いながら戦わなきゃならない、圧倒的こちらの不利、どうする?)

ジョンは子供三人を一気に抱え木の裏に隠れる、しかし木はそれ程大きく無くジョンの身体がはみ出てしまう
そこにカタリナが黒い渦を二個飛ばす。
その黒い渦は木に穴が開く程の威力、木は穴が開き耐え切れず折れてしまう……ジョン達は渦が到着する前に次の木に移動していた。

(奴が接近してくる前に仕留めなくてはならない、少なくとも奴が接近して来ない様に『黒弾』を撃って牽制しなくては……!)

「きゃあああ!?」

悲鳴を上げる三人を抱きかかえながら必死に逃げ惑うジョン

「やべぇ! やべぇ!! マジかよ!!?」

木々が次々となぎ倒されていく

(クソ! 近づけねぇ、どうする! どうする!? 考えろ、何かある筈だ。この攻撃にだってリズムがある、一回撃ったら三秒間を開けなくては次を撃てないようだ……それに必ず弾は二発ずつしか発射されないみたいだな、今分かるこの攻撃の弱点はクールタイムに三秒掛かる事それに二発ずつしか発射出来ない事だ。こいつ等が居なければ何とかなっただろうが……見捨てる訳にもいかねぇ、こいつ等を放置して人質に取られたらそれこそ終わる、置いとく訳にも行かない、こいつ等を抱きかかえた状態で奴に接近する……!! そうすれば奴に下手な事をさせずに無力化出来る……奴があれを発射して俺を近づけずにいるのは接近戦では勝てないと踏んだからだろうしな)

ジョンの考察は当たっている

(くっ!? 奴め、儂の『黒弾』の弱点を知ったな……儂が一回『黒弾』を使うと次使うまでに必ず間を置かなければならない、それに奴は勘づいた。儂が『黒弾』を一回撃つごとに奴は確実にこちらに近付いてきている、あと三回、儂が『黒弾』を使って当てる事が出来なければ奴のナイフが儂の喉を斬る)

ジョンも同じ事を考えていた。

(あと三回……三回凌げば奴に届く……! しかし、両手が塞がっているナイフは使えない、何とか足だけで奴を無効化してやる……! と言いたい所だが疑問がある、さっき奴を斬ろうとした時どうやって避けた? 魔法だろうな、魔法だとしたらどうする? どうすれば奴に攻撃が当たる? いや、待てよ落ち着け、もし奴が次も避けれるとしたらこんな必死に俺を近づけない様にする必要が無いハズ……つまり奴はあの魔法を何かしらの理由があって使えないと考えるが常)

カタリナは三回の攻撃で必ずジョンを仕留めなければならない
ジョンは三回の攻撃を全て躱し尚且つカタリナに接近しなければならないその上ナイフは使えないので足のみでカタリナを無効化しなければいけない

まずは一回目の攻撃、二個の黒い渦はジョンに目掛けて飛んで行くが避けられる
しかしそれはカタリナも想定済み最初の一回目と二回目は『黒弾』を命中させやすい場所に誘導させる為の撒き餌、本命は三回目の攻撃これでカタリナはジョンを仕留めるつもりなのである

なので二回目も外れる

そして三回目、三回目を撃つ頃にはジョンはカタリナのすぐそこ『黒弾』を撃つ為にジョンに手をかざすカタリナ
一回目と二回目の時とは違う……ジョンの周りは木に覆われており移動出来るルートも限られており足場も緩く動きが若干鈍くなる、そこに誘い込むのがカタリナの作戦そしてその作戦は間違いなくジョンを苦しめる、ジョンの両手には三人の子供、ジョンの体重に加え子供達の体重も合わさりジョンの足がより緩い地面に沈む、今から発射される『黒弾』これを避ければジョンの勝利だがそれは至難……そこでジョンの取った行動は
先ず靴先から仕込みナイフを出しその靴を思いっ切り靴を脱ぎ飛ばしカタリナにまで飛ばす。これはカタリナを想定外、靴先から鋭利なナイフが飛び出した靴がこちらに向かってやって来るのだ動揺してしまう……

(な、なにぃ!? 靴を飛ばしただと!? しかもよく見ればつま先から刃が出ている……!? 避けるか? いやそんな事をしたらその一瞬にこの男にやられる……なら受けるか? 儂が黒弾を撃てばこんな靴程度簡単に消せる! 撃――)

その動揺が命取りだった。カタリナの『黒弾』の発射は一瞬遅れ、その一瞬の間にジョンの足は先に蹴り投げた靴を飛び越しカタリナの顔に飛ぶ――
勝敗が決まる
顔に決まった蹴りはカタリナの意識を完全に吹き飛ばしジョンは勝利する

「か、勝ったの……?」

恐る恐るジョンにそう聞くマリア

「えぇ、恐らく、でも油断しない事ですまだ仲間が居るかもしれない」

三人はお互い身を寄せ合いながらジョンを見ている

「どうしたんです? マリアお嬢様」

マリアは一歩ジョンの前に出て

「ジョ、ジョン……ごめんなさい、貴方を裏切り者なんて呼んでしまって……あれは作戦だったのね? 本当にごめんなさい……でもあなたも悪いのよ? 行き成りあんな事言うから……私がどれだけ心細かったか分かる? 泣いてしまいそうだったんだから……」

マリアは目を潤ませながらジョンに言う

「泣いてしまいそうなんじゃなくて泣いてましたけどね」
「う、うるさいわよ! 泣いてないわよ!」
「まぁ、そんな事よりこの女を縛って此処を離れましょう、増援が怖いですからね」

ジョンはカタリナを縛り担ぎ上げる

「その人どうするの?」
「持って行って事情を聞きます。もしかしたら何か打開策が出来上がるかもしれない」
「で、でもその人私達の敵なんでしょ? 簡単には喋らないんじゃ……」
「俺には喋らせる方法があるって訳です。心配なさらないで下さい」

そう言ってジョンが歩き出す。
その後を恐る恐るついて行く三人、敵は居ないのかと顔をあちこちへと向ける

「そんなあんた等が警戒しなくても周りにはまだ敵は居ませんよ、余計な事に気を遣わず進むことに集中して下さい」
「そんな事言われても……」
「怖くて怖くて堪りませんか? なら三人で大声で歌でも歌えばいい」
「そんな事したら敵にバレるでしょう!?」
「それもそうでしたね、残念」

とジョンがてきとうな事を言っていると

「やぁ! 待たせたかい?」
「カ、カランダーン様!?」

ネルヒムが驚く、ジョンの達の目の前に行き成りカランダーンが現れたのだ。
驚く四人

「……来るのが遅すぎだぜ」
「すまなかったな、場所の特定に時間を喰った。しかしこれで安心だ。元に戻れるぞ」

それを聞いて安堵する子供達、しかしジョンだけは納得していない様子であった。

「待て、俺達に何があったのか教えてくれ村に居たら行き成り見た事も無い森に飛ばされて敵二人と交戦するハメになった。説明が無きゃ納得が出来ない」
「まぁそれは後でもいいじゃない、先ずは村に戻ろう」
「そうもそうだな」

そしてカランダーンは村に戻る為、神の力を揮おうとするが……小首を傾げカランダーンがジョンに言う

「……おかしいな、力が使えない、やっぱりそうか……厄介な結界だなぁ」
「は?」
「ここで残念なお知らせだよ、村には戻れない、だって私の力が此処では使えないからね」
「……神なのに?」
「そう神なのにつまり何処かの神が私の事を妨害してるんだろうね、今の人間じゃ神の妨害なんて出来ないしね」
「神が神を妨害してる……?」
「まぁそれはここに来る前から想定してた事なんだけどね、そもそもこんな遠距離ワープさせるなんて神にしか出来ない事だからね」
「何故、神が神を妨害するんだ? 縄張り争い?」
「さぁねぇ、今の所何が目的なのかは分からない、もしかしたら私の巫女が目的かもね」
「ネルヒムの事を狙ってるのか?」
「うん、私の巫女ちゃんは少し特殊な子でね、神の間でも少し有名な子なんだよ、だからそんな私の巫女ちゃんが欲しくなってこんな事をしたんじゃないのかな? なんて思ってみたりしちゃった訳」
「……そう、ネルヒムは何が特殊なんだ?」
「彼女は人間で初の時属性の魔法の使い手なんだ。だからみんな巫女ちゃんに興味津々でね」
「時属性……?」
「時間を操れるって事だね」

それを聞いて驚いたジョンはネルヒムを見るそして戻る

「そんな事が出来るのか?」
「人間の魔力の限界を考えるとそこまですごい事は出来ないだろうけどね、でも凄い事だよ、新属性が生まれるのなんて百年ぶりだからね、人間も神も彼女を好きにしたくて堪らないって訳だよ」
「巫女の横取りは神の法律的にはセーフなのか?」
「当然アウトだよね、私も実は少し怒ってるんだぁ、私の巫女ちゃんに手を出してタダで済む訳ないよね」

顔は笑っているが目は笑っていないカランダーン

「そんな強気な事言ってるがアンタ力使えないんだろ? どうするんだ?」
「心配は要らないよ、この結界を破る為の助っ人を呼んでいるからね、でも到着まで少し時間が掛かるらしいから明日まで此処で待機ね」
「……マジかよ」
「まぁまぁいいじゃない、いいじゃない、それに君が担いでるその子も気になるしさ」
「あぁ、こいつね」
「その子誰だか知ってる?」
「知る訳無いだろ、さっき初めて会って行き成り攻撃されたんだ」
「その子、メイヴィスのお姉さんだよ」


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