中年中太り成金アロハシャツおじさんを地獄の底へ叩き落とす所から始まる異世界転移物語

トムボーイ

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第五章 神の暇潰し

ルートD

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 今日の月は一段と美しく見える、良い事があったからだろう
私はお父様の親戚のお兄様のピルス・ワルクルス様の家に伺って泊まらせて貰っている、今日は一日中お父様とお母様それにガルスにローラと一緒に沢山お話しして歩いてとても楽しかった。明日屋敷に帰ったらみんなにこの事を自慢するんだ。
そう部屋の一室から窓を眺めながら思う、口角が思わず上がってしまうそしてたまにフフフと声を漏らしてしまう
傍から見たら気持ち悪いだろうな、でも仕方ないわよねだって嬉しいんだもの
部屋の扉にノックが掛かる
誰だろうとノックした主の名前を聞く

「誰?」
「私よ」

お母様の声だ! どうしたんだろう?」
私は急ぎ扉に向かい扉を開ける扉の向こうには笑顔のお母様が待っていた。お母様のこの顔を見ていると私はとても癒される

「今日は楽しかったかしら?」
「えぇ! とっても!」

当然よ

「それは良かったわ、最近貴方の元気が無かったから心配していたのよ?」
「ご心配を掛けてごめんなさい」
「いいのよ、今日はゆっくりと眠りなさい、明日は早いわよ」

お母様と会話を終えるとすぐ私はベッドに潜る、ベッドは窓際にあり、少し顔を向ければ窓から無数の星々が見える、昨日は私をあざけ笑っている様に見えた星だが今日は私を見守っている様に見える、我ながら勝手だと思う、まぁでも良いわよね、私だもの
明日も良い日になるかしら?


 次の日の今朝 屋敷にて
ジョンは訓練を終えた後「そろそろか」と言ってとある場所にへと行く

「どうしたんだ?」

カランダーンからの命令でジョンを監視しているメイヴィス、訓練にもついて来た彼女がジョンにそう問う

「これからショッキングな物を見る事になる、ついて来ない方が良いぞ」
「そうはいかんついて行くぞ」
「勝手にしろ」

ジョンは途中でナサルとジークを屋敷で拾い、森に向かう、メイヴィスは二人と会う事が出来ないので物陰からジョン達の様子を伺う事にする

「どうしたんだい? こんな朝っぱらから……」
「何かあったのか?」
「ついてくれば分かる」

ジョンはそう言ったきり話さず黙々と歩いて行く、そんなジョンに仕方なく付き合う二人
そんな二人は今から森の中で太くでかい木に押しつぶされ死んでいる男の元に連れて行かされるとは夢にも思っていない……
そしてジョンに連れられその光景を見る、切れた木に足を潰され苦しみと恐怖が滲み出た表情をしたまま男、そんな光景を目撃した。

「な、なんだこれは!? もしかして木こりのザラか!?」

その通りこの男の正体はザラ・ラルク彼は選択したのだこの道を

「息はあるのか!?」
「あると思うか?」

ジョンは冷たくそう放つ、しかしそれは事実一目見ただけでそれが死んでいると分かる

「どういう事だ! お前が発見したのか!?」
「いいや、俺も初めて見た。」
「じゃあ、何故此処で男が死んでいると分かった?」
「……俺がこいつに死ぬように言ったんだ。此処でこの時間に死ねと俺がこいつに言っただからこいつは此処で死んでいるんだ」

ジョンの言った意味を一瞬理解できなかった三人、これには物陰から見ているメイヴィスも入る

「は? お前が死ねと言った……?」

三人はこれは尋常では無い事態だと次の瞬間理解する

「順を追って説明しよう、何故俺がこの男に死ぬよう言ったか? まずこれから話そう、こいつはあのイロコルーナ広場に転がっていた女性を殺した真犯人だ」

「な、何ぃ!?」
「証拠はあるのかい?」

未だに動揺を隠せないナサルに代わりジークが冷静に質問する

「あの女の衣服には手紙、銀貨の他にもう一枚ある物が入っていたんだ」
「それは何だい?」
「ハンカチさ、花柄の、これと同じ物をザラも持っていた」

そう言いジョンは懐から二枚のハンカチを取り出す。

「まさか……お前の言っていた不倫相手というのは……」
「ザラの事で間違いない」
「馬鹿な……ザラには妻も子も居るんだぞ!?」
「性欲の前では無意味な標識だ。奴は家族を裏切り別の女と恋に燃えた。」
「炎が消え邪魔になった。彼女を……?」
「燃えカスに興味を持つ者なんて極々少数だからな、まぁこいつは最後までそうではないと言っていたが……そしてその事に気が付いた俺はこの男に言ったのさ家族を守りたければ死ねとでなければ恐らくこの男を恨んで出来た悪霊は消えないからな」
「そのハンカチ二つはお前が持っていた物だ。そんな物、不倫の証拠として信用出来るか!」
「そう言うと思ってその男にとある物を持たせた。調べてみな」

ナサルはジークと一緒に木を持ち上げまずは木を退け血塗れになったズボンのポケットから何枚かの手紙を見つける、どれも血に染まり字が読み難くなっている
そしてその手紙を辛うじて見るとそこには愛の詩や言葉がギッシリと書き込まれていた。間違いなく愛の手紙、最後にはミラールよりと書かれている

「妻がそんな手紙を夫に差し出す意味は無い直接言えばいい、つまりその手紙は不倫相手からの手紙という事になる、そしてその手紙を俺はその男の衣服にコッソリと入れる事は出来ない、その手紙は木に潰されているズボンから見つかったんだ。木に潰された後から入れる事は出来ない」
「君が彼を気絶させ木を切り、意図して彼の下半身に落としたのなら出来るだろう?」

ジョンはクククと笑う

「確かに違いない、俺がその男を殺したのなら可能だな、だが俺が殺したのなら……もっと上手くやる、少なくとも俺なら木を下半身では無く頭に落とす」
「……弁明に成っていないように思うが」
「そうか?」
「……だがもし君が犯人だったとしたら私達を此処に連れて来るメリットが無い、死体が見つかるまで黙っているのが賢明」
「かもな」
「君が犯人とは考えにくいかもね」
「そんな簡単に信じて……」

ナサルが不安そうにジークに言う

「考え”にくい”と言っただけさ確定したつもりは無いよ、それにこうしないと話しも進まない、そうだろ? ジョン?」
「何のことだ?」
「私がさっき言った様に私達を此処に連れて来るメリットが無いのだよ、君が命令してザラ君を自殺させたとしてもね、黙っていた方が良い、なのに何で君は私達を此処に連れて来たんだい? 君には何か狙いがあるんじゃないかい?」
「実はその通り、アンタ等に協力して貰いたい事がある」
「何だい?」
「この男の死は事故として扱い、あの女は盗賊に襲われ殺された事にして欲しい」

これがジョンのメリット
そしてマリアの望む良い日は訪れない

「私達に偽装工作をしろと言っているのか!?」

ナサルは驚愕する

「その通り、そうすれば傷が浅くて済む、この村もラルク家もな」
「ふむ、案を聞こうか?」
「ラルク家は夫の死に打ちひしがれてしまうだろうそれに夫の不倫と殺人まで発覚してしまえばあの女は少なくともこの村では生きて行けない、最悪自分の首を自分で落とすことになるだろう、そうならない為にこの男には最後まで良き夫で父親で有って貰う」
「村の方は?」
「この女は外様からやって来た女だ。その女がこの村の男と不倫していて挙句の果てに殺されたなんてこの女が住んでいた村の領主が聞けば黙っていないだろう
間違いなくこの村に何か言って来る、だから盗賊の犯行という事にする、丁度良い事に盗賊の住処もつい最近壊滅させたしなそれを使えばいい、それでも無傷とはいかないだろうがだがずっと良いだろう? この村の人間の犯行だと知られるよりかは」

ジークはジョンの話を顎髭を摩りながら聞き、聞き終わった後も顎を摩りながら考える

「……この事は隊長に伝えよう、だがお館様には伝えない方が良いだろう、この事はナサル、ジョン、私、ローラだけの秘密にする、その手紙もハンカチも全て処分しよう」

ジョンの提案を呑むジーク

「手紙は上着にも入っているハズだ。木が何処に降りてもいいようにありとあらゆる所に手紙が仕掛けられているハズだからよく見て置けよ、あとあの三人の道化師は適当な理由を付けて釈放するんだな」

と言いジョンはその場を離れて行こうとする

「ま、待て!! 逃げる気か!?」
「お前が凄い形相で睨んでくるからな」
「これはお前が殺したも当然、お前はこの村の村人を殺したんだ。彼が殺人を起こしたにしてもお前が裁く権利は無い!」
「驚いたな、ここが法治国家だとは知らなかった。なら最初からそう言ってくれよ、こんな所じゃ法なんて無いものだと思うぜ」
「ふざけるのもいい加減にしろ」
「俺にふざけさせたくないのなら俺を出し抜けばいい、そうすれば俺も好きには出来なくなる、これはお前らが間抜けだから招いた事態でもある、これからは俺の一挙手一投足を見逃さない事だ。頼むぜ騎士隊さんよ、お前等の行動にこの村の住民の命が掛かっていると言っても過言じゃない」
「貴様……!」
「何だ? 怒ったのか? ならどうする? 此処で殺し合うか? 選択しろ」

緊迫した状況なのにジョンの顔は何処か楽しそうであった。ナサルはこの顔を見て確信する、この男は平和を愛する事の出来ず、法で縛る事の出来ない男だという事を……なので剣に手を掛けようとする、今までジョンには恩が有ったので大目に見て来たが今回はそうはいかない
二人の距離は一歩間合いを詰めればお互い斬り合える程の距離、間違いなく勝負は一瞬で決する

「待ちたまえ!」

そんな状況を吹き飛ばすかのような大声を出し、二人の間に入って二人を止めるジーク

「ナサル、冷静になりなさい、ジョン君もだ。今私達がすべき事は殺し合いじゃない、この状況を丸く収める為行動する事だ。そうだろう?」
「しかし!」
「ナサル、ジョン君だってそこまでの無法者じゃない彼はザラ君に殺された彼女の無念を晴らす為、ザラ君に手を下したんだ。もし彼がとんでもない極悪人で見境の無い男だったら今頃もっと人が死んでいただろう、しかし彼はそうじゃない」
「あの女の無念なんてどうでも良かったがね、俺はこの男に殴られたお返しをしただけ、悪いなおっさん俺を折角庇ったのにそれを台無しにして」

そう言ってジョンはジークの肩をポンポンと叩きその場を去る

頭を抱えるナサルに顎髭を触りながら思考するジーク

「……ジョン君の事は後回しにしてまずは此処を片付けよう、ナサル彼の監視をこれからはもっと強めよう」
「えぇ、分かっています。今までの私は甘すぎた……」

ナサルは盗賊団を対等した時のジョンの姿を思い出す。そうだ、あの男は決して気を許してはいけない男だったんだと思い出す。
そしてナサルは血塗れのザラの遺体に近付き彼の顔を見る、彼の恐怖や涙に溺れた表情を見て悲しくなる彼の元気だった姿を知っているから猶更
彼が不倫をしてその不倫相手を殺したとは未だにナサルは信じられなかった。それにザラの死を彼の妻子に伝えなくてはいけない、それを考えると胸が張り裂けそうになる……昨日の幸せは陰に隠れ絶望の今日が始める

「お前はさっき人からの信頼や好意を態々捨てたんだぞ分かっているのか?」

ジョンがナサル達から離れた後何食わぬ顔でジョンの目の前に現れ唐突に説教を始めるメイヴィス

「元々有って無かった様な信頼や好意なんてなんの意味も成さない、無い方がマシだ」

「別に我は殺人について肯定も否定もしない、あの男は殺されるのに十分な事をした。それは事実それを法に任せよとは言わない、我も無法者そこの考えはお前と似ているのだろう」

「勝手に一緒にしないでくれないか?」

「お前が問題なのはその後だ。何故お前は自分の正当性を主張しない? それをするのとしないでは大きな違いがあるハズだ」

「俺は他人に自分が正当な奴なんて思われたいが為に時間を使うつもりは無い、そんな事はどうだって良いそれよりも問題なのはこれからだ」

「これから? どうするつもりだ?」

「まず屋敷に戻って遺体の所へ行き悪霊が消えたか確認しその後ザラの家族の元に向かいあの男の死を伝える、もしあの女が半狂乱になって俺に襲い掛かって来ても俺なら止められるしな、あの女があの男のあの死に顔を見たらほぼ間違いなく気をおかしくするだろう」

此処でメイヴィスはザラの苦渋に満ちた顔を思い出し気分が暗くなる

「ザラと言う男の死に顔を見たか? あの顔即死出来ず苦しんで死んだんだろう」

「俺はあいつに忠告したんだがな、木を落とす時は頭に落とせとな……まぁ奴は木が落ちる瞬間死ぬのが恐ろしくなって逃げ出そうとしたんだろうな、だが間に合わず木は奴の下半身に落ちた。即死も出来ずそのまま痛みに苦しみ悶えながら死んだ……俺を殴ったんだ当然の末路だな」

ジョン達は屋敷の地下に移動し女性の遺体が保管されている部屋に向かった。その遺体の横には悪霊が佇んでいたが消えている
ジョンは遺体の傍に寄り女性の顔を見る、彼女は無念を完全に晴らせたのかどうかは分からない、彼女の願いはザラへの復讐だったのかそれとも別か

「悪霊は消えている、彼女の無念は晴らせた様だな」
「無念を晴らしたねぇ……彼女の願いはあの男と末永く共に過ごす事だった。それがいつの間にかにあの男を殺す事に挿げ替わった。それがこの女にとっての一番の無念だろうよ」
「……かもしれんな、幸せを願っていたに違いない、復讐なんていうものはあくまでも幸せになる為の踏み台でしかない……最終目的にするようなものじゃない」
「どうだかねぇ、復讐の為、幸せも財産も全て投げ出し生きる事それも一興、これもいいだろう、幸せになる事が終着点じゃない人間も居る、自分が納得する事が最優先の人間も居る、何が良くて悪いのかそんなものは本人が決める事、俺達が決める事じゃない」

メイヴィスは遺体の冷たく硬い頬に触れる

「やりきれんよな、お前も、あの男の死がお前に救いを与えたと願いたい」
「そういえばお前に聞きたい事があったんだ」
「何だ?」
「何故俺以外の奴と頑なに会おうとしない? そもそも何故こんな所にずっと誰にも話し掛けず過ごしていたんだ? 楽しいお喋りがしたいならドンドン人に話し掛ければいいだろ?」
「話し掛けてしまえば情が移ってしまうじゃないか……そんな事になったらどうするつもりだ? そいつが死んだらどれだけ悲しまねばならないか知っているか? なら一人で誰にも情を移さず生きて行った方がマシだ」
「カランダーンじゃ駄目なのか? あの女も死なないんだろ? なんせ神なんだからな」
「神とは会話が合わん、話していてもちっとも楽しく無い」
「俺に話し掛けたのは神に命令されたから仕方なくやったという訳か」
「そうだ。折角話し掛けるなら精一杯楽しくした方がいいじゃないかと思ってその心構えでお前達に話し掛けたんだが遭えなく撃退されてしまった……はぁ、これでお前達四人に情が移ってしまったんだぞ? どうしてくれる!」
「知るか、それは災難だった、話し掛けた奴が悪かったな、それにそんな簡単に人に情が移ってしまうお前も悪い」
「うるさい、これは我の性質なんだ。少しでも人と接点を持ってしまうとどうしても情が移ってしまう……お前たちが死んだ時我は泣くぞ、間違いなくな」

ジョンは馬鹿らしいと頭を掻く

「どうでも良い話で時間を潰したな、次はラルク家に向かうだからお前は何処かに隠れてろどっかの誰かに情が移る前にな」
「お前、我を馬鹿にしているだろ?」
「馬鹿にもそれぐらい分かるようだな」
「……覚えとれよ」
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