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第四章 恩返し

洞窟の中の不気味

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 そんな事があり今イロコルーナ広場に向かっている
ナサルそれにアーロックが先行しジョンとエルがその後ろをついている、そしてジョンが小声でエルに話し掛ける

「執務室に潜入した意味無かったな、お前に聞けば全て解決した」
「何で館様の仕事に興味なんて持ったんですか?」
「ただの好奇心さ、暇だったもんでね」
「それにボクを巻き込まないで下さいよ……」
「それより何でアーロック様までついて来たんだ?」
「領主だから責任があるって言ってましたよ」
「ただの足手纏いな気がするが……」
「先生が足手纏いだって言ってたって後でアーロック様に言って置きますね」
「やべぇ、クビになっちゃう」

そんな話をしていると赤色の花が一面に咲いている広場に出る、周りは森に囲まれている

「着いたぞ、此処がイロコルーナ広場だ」
「目が痛くなるな」
「何ですかその感想、綺麗だとか思わないんですか?」
「花は好きじゃないもんでね」
「グロー(悪霊)の声が聞こえたのは広場の北側の森の中だ」
「でも何もありませんでしたよ?」
「いや、まだ分からない、まず行ってみよう」

そうアーロックが言ったので四人はそこに向かう
エルの言った通り何もない只々静かに葉の掠る音がするだけ

「笑い声は聞こえないな」
「もっと奥を探してみよう」
「そういえば今探しているのは悪霊なんだよな? 霊という事は誰かが死んだという事だよな? エーベックで行方不明になった奴とか居ないのか?」
「聞いていない、恐らく村の者ではないだろう」
「盗賊とかでしょうかね?」
「あの盗賊のアジトと此処は逆方向、それは考えにくい」
「ちょっと待て……」

と言いジョンはしゃがみ込み木の元をマジマジと見始める

「どうしたんですか?」
「見ろ、血痕の後だ」
「何!?」

ナサルは驚きジョンの隣でしゃがみジョンの指差す所を見る

「本当だな……」
「しかもこの血痕見つからない様にか分からないが拭き取られた跡がある、完璧には拭き取れなかった様だが」
「誰かが此処で血を流したという訳か」
「しかもその後その血を拭き取った奴が居る」
「……殺人か?」
「それは今の状況だけじゃ断言出来ないだろう」
「この草を見ろ、折れて道が出来てる」

ナサルはエルを睨む

「どういう事だ! 調査をしたのはお前だろう?」
「……見逃してました、御免なさい」
「それにジークもこれを見逃したという事だろう? 二人共何をしていたんだ?」
「べ、別に遊んでいた訳じゃないんですよ!? ちょっと気を抜いていただけで……」
「気を抜いていたで済む話か! この事は隊長に報告する」
「……先生、助けて下さい」
「俺もローラには睨まれている、一緒に堕ちようぜ堕ちる所までな」
「嫌ですよ!」

そんな小話があり、その後、折れた草の道を四人で追う
その先には人が一人通れる程の小さな洞窟が有った、中は勿論真っ暗、真っ暗の中を恐る恐る覗く四人

「松明が有る、これを使うぞ」

ナサルが松明を用意していたので火をつけ、暗闇を照らす、洞窟の岩肌はテカテカと松明の光に照らされ怪しく光る

「湿ってるな」
「先に進むぞ、アーロック様は私達から離れないで下さい」
「分かった」

ナサルが先行して洞窟を進む
洞窟は冷たく、ナサル達の足音が木霊する

「此処、足元が滑りますお気を付けて」
「ありがとう、ナサル」
「おーおーお熱いね」
「ヒゥーヒゥー!」
「後で引っ叩くぞ」
「冗談だっつーの……」

洞窟は深い、十分程歩いても最深部には着かない
今は何処か? 何処まで歩けば良いのか? 分からない、そして前も後ろも暗闇で何も見えない、ナサルの周りのみ照らされているだけ
そんな宙を歩いているような状況である物音が聞こえる、笑い声、高い女性の様な笑い声だ。それが木霊して聞こえる、四人は顔を合わせる

「……グローだ」
「結構先に居るみたいだな」
「ジョンにエル、気を引き締めろ、アーロック様を何が有っても守るんだ。いいな?」
「嫌だと言っても無駄だろ?」
「当たり前だ」

笑い声を追い、悪霊では無く、死体と道化師と出会う
死体は女性の死体、腐敗が既に始まっている、道化師とは白い不気味なメイクに奇抜な赤い衣装を着た女性の事である、その道化師が死体を抱いて眠っている
そんな状況の所に四人が遭遇し唖然としている

「な、なんじゃこりゃ!? こいつ何してやがる……」
「ひぇ~!!」

ナサルは剣を抜き、道化師に向かって剣の先を少し刺し激痛を使い起こす。 道化師はすぐ飛び起きる

「痛い!! 何だ! 何だ!! 奇襲か!? 何者だ!!」

道化師は騒がしく驚く

「私のチャーミングな鼻をそんな乱暴な物で突いたのは君か! 何を考えている!!」
「それは私の言葉だ!!」
「お前は何者だ? 何故死体を抱いて寝ていた?」
「私の名を聞きたいのか? 仕方ない教えてしんぜよう、我が名はクァイケット・エリミレブン、とあるサーカス団の団長をやっている」
「サーカス?」
「クァイケット……? まさかファントムのクァイケットか!?」
「えぇ!?」
「あの有名な?」

とクァイケットと聞いた瞬間、盛り上がる三人、そんな三人に着いて行けず置いて行かれるジョン

『ファントム』 世界一のサーカス団と評されるサーカス団、その団長を務めていると彼女は言うのだ。

「何でそんな所の団長さんがこんな所で死体を抱いていたんだ? お前が殺したのか?」
「そんな訳が無いだろう? 私は偶々偶然彼女を見つけただけなんだ」
「偶然見つけた死体を何故抱いた?」
「彼女のゴーストに魅了されてしまったんだ。彼女を我がサーカス団に迎えたい私はそう思ってる」
「……何言ってんだ」

困惑し顔を歪めるジョン

「君はまだ見ていないのか? 彼女のゴーストを彼女の儚さを知らないのか? 素晴らしいぞ! スランプ気味だった私を救ってくれた。彼女は我がサーカスのスターになれる」
「悪霊をサーカスに出す気なのか?」
「悪霊とは人聞きの悪い、ゴーストと呼んでくれ、兎に角私は彼女の遺体を持ち帰らせて貰うぞ」

悪霊は元の遺体が塵になり消えない限りその死体の傍にしか存在出来ない、クァイケットはそれを利用してサーカス団に連れて帰ろうと企んでいるのだ。

「彼女がこの死体を持ち帰ったら、悪霊の件は一応解決する訳だな? ならいいんじゃないか? 持ち帰らせても」
「そうはいかない! 悪霊をコントロール出来るとは思えない、危険過ぎるそれに本当にこいつがクァイケットかどうかも定かでは無いんだぞ! もしかしたら悪霊を何か悪い事に利用する事だって考えられる!」
「ゴーストだ。それに偽物でも無いぞ」
「この女がそれで死んだって俺達に関係無い」
「彼女が死んだら多くの子供達が悲しむ、本物のクァイケットかどうかも分からんしな」
「お前は世界全ての子の母という訳か泣けるね」
「私の心配はご無用、子供達も大人達も悲しませないさ、その為に今調教を施している」
「ちょ、調教だと……?」
「彼女は私と初めて出会った時私の事を襲おうとして来たからね」
「そこは聞いていない、霊にどうやって調教を施してる」
「何だそんな事か、簡単さ、話し掛け時には触れ合い心を通わせれば良い」

そんな事を笑顔で語るクァイケット
そんなクァイケットを呆れた様な様子で見るジョン

「こいつどうにかしてるぞ」

とジョンはクァイケットを指差す。

「失敬な、この遺体を持ち帰る許可は貰ったんだがな」
「何だと? 誰にだ?」
「名前は知らない、クシャクシャの赤っぽい髪のおじさんだよ」
「ジークだ……」
「ふーん、君等のお知り合いなんだ。なら彼に聞いてみてよ、確かに許可は貰いましたからね」

引く気配のないクァイケットそんな彼女を見てナサルは作戦会議だと言いジョン、エル、アーロットをクァイケットの耳が届かない所まで呼び四人で囲み作戦会議を行う

「無理矢理にでも引き離すべきかな?」
「奴の情報は? どの程度の実力者なのか? 魔法は使えるのか? 使えるとしたらどんな属性か? 奴について俺達は何も知らな過ぎる迂闊に攻撃するのはどうかと思うがな」
「説得するしかないか」
「あの様子だと根気と時間が多く掛かりそうだな」
「それにしたって副隊長も何を考えているんだ」

ナサルは腕を組み、苛立ち始める

「俺と同じ考えだったんだろうよ、厄介事を持って行ってくれるならそうして貰おうという話さ」
「無責任すぎる」
「無責任ねぇ、そんなの知ったこっちゃないって事だろうよ」
「放って置く事は私は反対だ。だから私は説得を試みようと思う、それで奴が本物のクァイケットかどうかも確認する、アーロック様、私にこの件任せて貰えないでしょうか?」
「……分かった、ナサルに任せよう」

作戦会議は此処で終了、ナサルはクァイケットの説得に向かい、他の三人はナサルの少し遠くでナサルの様子を伺う

「説得上手く行くと思います?」
「無駄だろうな」

ジョンはそう言って湿った岩壁に凭れ掛かり、何かを考え始める

「そう言えば悪霊の姿を見たか?」
「見てませんね」
「私も見ていない」
「洞窟に入った時、笑い声は聞こえたよな……だが出る時は聞こえなかった……」
「まさか……逃げちゃったとか?」
「それは有り得ないよ、遺体が有る限り遠くへは行けないはずだ」

アーロックがエルにそう教える

「館様はどう考える? 何故悪霊は姿を消した?」
「除霊されたと普通は考えるんだろうが……除霊されたとは考えにくい」
「除霊は無い遠くへ逃げたとも考えられないとなると……クァイケット、奴が意図的にあの遺体の悪霊を隠した」
「どうやってですか?」
「魔法なんじゃないのか? 奴は魔法が使える、そう考えれば通るだろ?」



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