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第一章 礼服の男・ジョン

歓迎乱舞

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「で? どうだ? 審査委員長さん、合格か?」
「勝ったんだ、当然だよねぇ? ローラ」
 
 とミランダがニヤリと口角を上げてローラを見る

「合否の発表の前にいいかな?」
「なんだ? まだなんかあるのか? ハグでもしてくれるのか?」
「この屋敷に何の用なの? まさか本当に働きたいから此処に来た訳じゃないんでしょう?」
「ほぉ、流石に分かっていたか」
「余り見縊らないで欲しいな」
「嘘を言っても仕方ないな、正直に話すぜ俺はあの山に居る神様に会いたいから此処に来たんだ」

 ローラの顔が険しくなる

「へぇ、なら諦めた方が良いよ」
「そう言うなよ、別に取って食おうとしてる訳じゃない、会ってとある話を聞きたいだけだ」
「その話ってなにかな?」
「聞いて驚いて失禁するなよ話せば長い昔々有るところに――」
「ふざけないで」
「クククッ冗談冗談、人を怒らすのが好きでね」

 ジョンは今自分が置かれている状況を全て話す。

「異世界? 君はそこから来たの?」
「あぁ、そうだ、この服も見覚えが無いだろ? お前のとは違ってかなりシャレオツだろ?」
「まぁ確かに見た事のない服装だけれど……」
「なぁ、頼むよローラすぐに会わせてやれとは言わない、ジョンを此処で働かせてみて信用に足る男か見極めてみておくれよ」
「ミランダ、なんでジョン君にそんな肩入れするの? 貴方らしくないよ」
「そうかい? まぁ、それはいいじゃないか」
「良くは無いと思うけど、まぁいいよ、働くには監視付きになるけどいいかな? ジョン君」
「あぁ構わない……と言ったら嘘になるがその条件を呑まなきゃ働けないんだろ? なら仕方ない隊長さんの言うことに従うぜ」
「じゃあ、ついて来て」

 とローラは屋敷に足を運び始める

「さて、私の役目もここまでだよ、この先はジョンアンタがどうにかしな」
「あぁ、そうさせて貰う、「世話になったな」とは言わないぞ」
「それで良い、これは水遣りの礼なんだからね、頑張んなさい」

 ミランダとジョンはここで別れる
 屋敷に案内されるジョン、屋敷の裏口から入る、先は廊下、真っ赤な絨毯が引かれた廊下を歩く、廊下には茶色い扉が一定の間隔を持ち並んでいる

「で、俺は何をするんだ?」
「まだ、考えてないよ」
「全く楽しみだな」

 その後廊下を暫く歩き、両開きの扉の前で止まる

「ジョン君、一応言って置くね、この扉の先の客間には騎士隊の副隊長ジーク・ガロンダが居るの彼と私が相談して貴方の仕事内容を決める事にするって事にするよ」
「ふ~ん、この騎士隊はどれくらいの人数が属しているんだ?」
「ジョン君が会った事があるのはエル、ナサル、ファング、私の四人だよね?」
「そうだったかもな」
「それにこの先のジーク、他数名と言った所かな」
「数名? 数十名じゃなくて?」
「ここは大きな屋敷だけどそんな中部隊程の人数を入れられる程大きくはないからね」
「良い言い方をすれば少数精鋭という事か」
「そんな所だね」

 そう言いローラは扉を開く

「お待たせ、ジーク」

 ジークと呼ばれた男で目立つのはクシャクシャの深紅色の髪、それが真っ先に目に入るだろう、そして椅子に座り木製のコップを手に持ちながらこちらを見る

「おやおや、ローラ、ナサルから話は聞いた、作戦失敗したんだって?」
「まぁね」
「私もついて行けば良かった。エルが泣いている姿なんて滅多に見れるもんじゃない、君! そこの君が泣かしたんだろう?」

 ジョンを指差す

「どうだかね」
「ははは、よくやった! 巫女を泣かし、今度は内の小生意気な若造まで泣かしたんだ。立派なもんじゃないか」

 ジークは立ち上がりジョンの目の前までフラフラとした足取りで近づく

「ようこそ! 歓迎するよ、ジョン君、私の名前はジーク・ガロンダ副隊長をやらせて貰ってる」

 ジークは右手を差し出す、そしてそれにジョンが答え二人は握手をする、ジークは笑顔でジョンは不満顔で
 そんな時ナサルがジークの持っているコップを見て言う

「ジーク勤務中のはずだけど、その片手に持っている物は何かな?」

 ローラがジークの持っているコップを指差す。

「あぁ、これ? 水だよ、少し腐らせたね」
「お酒だよね」
「あぁ、分かった。認めるよ、これは太陽の暖かな光を浴びながら育った紫の宝石(葡萄)を高い山脈の上に舞い降りた純白の彼女達(雪水)に着け、眠らせ見た目も中身も熟成し今、私を包み込んでいる、あぁ素晴らしい」
「葡萄酒を飲んでいるんだよね」
「君も女性だろう? もう少しロマンといった物を持ったらどうだ?」
「要らないよそんなロマン、それよりこれは没収」

 ジークからコップを奪うローラ

「女性から逃げられるのは私の性みたいだな、昨日も逃げられた」
「いいから、席に戻って、ジョン君について話し合いをするよ」

 三人は席に座り、ローラがまず最初に口を開く

「ジーク、ジョン君は今日から此処で働く事が決まったんだそれでジョン君の仕事内容なんだけど」
「そういえばジョン君、君異世界から来たんだって?」

 ジークがローラの話を切りジョンに質問をする、内心驚くジョン

「聞いてたのか? 何処で?」

 この人物が何処かで聞き耳を立てていたなら、気配に気が付くはず、しかし気が付かなった。だからジョンは驚く

 (これは魔法を使って聞いたって事か? でなきゃあり得ない、そんな大声で話していた訳でも無い相当近くに寄らなきゃ聞こえなかったはずだそんな近くで聞き耳を立てていたなら俺が気が付かない訳が無い)

「そんな事はどうでもいいじゃないか、それより異世界の話が聞きたいなぁ、私は」

 (流石に話す気は無いか、面倒だ。魔法は諜報活動にも使える訳か、これで秘密裏に結界を破る手段を見つけるのも容易じゃなくなったな)

「ジーク後で私の事務所まで来てね、色々と”お話”しないといけないから」
「告白の時か、これは私もバッチリ決めて行かねばいけないね」
「まぁ、これは置いとこうか、異世界よりも仕事内容だよ」
「夢が無いな」

 ジークが言う

「まずは……」

 とローラが口を開いた時だった。 開いた口を閉じ「はぁ」とため息を吐く

「誰か来るぞ?」

 誰かの足音がこの部屋に向かって来るのである

「あぁ、不味いな」

 ジークの顔も曇り始める

「子供か?」

 足音は軽い、そしてこの強気な足音、ネルヒムでは無いとジョンは感じる

「おいおい、何だ二人してそんな顔して、こっちまで不安になるだろ? 何が起こるんだ?」
「一言で言うと大波乱」
「マジ?」

 そして扉が開く、開いた人物はネルヒムと同じぐらいの身長の栗色の髪の少女、派手な赤色のドレスを着ている、その赤目でジョンを捕えるや否や

「お、お嬢様」
「ネルヒムを泣かしたのってお前の事?」

 とローラを無視し高圧的に質問をする

「いや、違う」

 肯定すれば厄介な事になると本能的に察しジョンは否定する

「黒髪に黒目、服装も黒の男が早々居る訳ないじゃない、お前、何で嘘を付くの?」

 (糞、俺の特徴を誰かから聞いて知ってやがったな)

「嘘じゃない、少し顔を曇らせただけだ」
「ふ~ん、今部屋でわんわん泣いてるけど」

 (あれで泣いたのか? マジ? 少女という者は此処まで繊細な者だったか?)

「まぁそれはどうでもいいわ、それよりお前此処で働くんでしょ?」
「まぁ、そうしようかと」
「それなら丁度良い、お前、この私の下僕になりなさい」
「何を言っているんですか! お嬢様」
「ローラ、口答えする気かしら?」
「そりゃあ口答えの一つも言いますよ、行き成りですからね」

 ジークもローラのフォローに回る

「ふん、そんな事知った事では無いわ、いいからこいつは私の僕になるの!」
「それは出来ません!」
「何でよ」
「ジョン君、君の前では言い難い事だけど、ジョンはまだ信用出来ない人物なんです。だからお嬢様のお傍に置く訳にはいかないのです」
「つまり、私がこんな冴えない男に攫われたり殺されたりすると言うの?」

 少女はほほほと笑う

「もしそんな事しようとして来たら、私の魔法で返り討ちにしてあげるわ」

 そう言ってミランダが出した様な小さな杖を取り出す。
 微妙な顔をする三人

「お嬢様のお手を煩わせるのは心苦しいと言っているんですよ」
「そんな事構わないわ、さ、いらっしゃいジョンお前は今日から私の僕」
「はぁ、まぁいいんじゃないか? 下僕はあれだから使用人って形にすればいい」

 ジークが提案する、そんなジークに耳打ちをするローラ

「彼はエル以上の実力者、もしもの事があったら簡単に止める事は出来ないよ」
「私とナサルで監視していれば良い、二人なら簡単さ」

 暫く考え込むローラ

「マリアお嬢様、これは簡単な話ではありません、お父様とお母様の許可も得なくてはいけません」
「別にあの人達は許可するわよ、だって私に興味無いもの」
「そんな事……」
「無いと言うの? どうせ、深くも考えず許可を出すわ、見てなさいよ」
「……」
「分かりました、今日の所は私がジョンと同行します。ジーク私の後の仕事お願いするね?」
「彼女を奪われた挙句野郎を掴まされるのか」
「まぁ、これをお酒と勝手に魔法を使った懲罰だと思って、頑張ってよ」
「はいはい」
「話は決まった様ね! さぁ行くわよ二人共」

 (俺の意思はどうでもいいのね)

 とため息を吐くジョン


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