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第一章 礼服の男・ジョン

同類

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  起床、ジョンは昨日と同じ時間帯に同じ様にワークアウトをする為に森に向かおうと宿の外に出る、昨日と同じく村は暗闇に閉ざされており閑散としている
 森でのトレーニングを終え村に帰る頃には日が出ており大分いつもより遅れている、普段ならこの時点でナイフの手入れをしている頃だ。
 朝日で村が照らされる、村の街道は草や石を退けてあるだけの簡単なもの村の中心には小さな湖がありその湖の隣に自分達が止まっている宿が建っている、そしてその後方に見守る様にドンと緑に覆われた大きな山が立っていた。

 小さな家が何軒が立っている中、この小さな村にはアンバランスな大きな屋敷が建っていた。屋敷の周りにはしっかりと塀で囲まれており、門から覗き見るとそれなりの大きさの庭もあるようだ。ジョンはその屋敷をジロジロと観察し終えると宿に戻って行く
 部屋に戻るとミランダが全裸でジョンを迎えた。どうやら着替え中だったようでミランダは「イヤん」と言い、ジョンは顔を青くし暫く何のやる気も起きなくなり武器のメンテナンスは中止となった。
 村に人がちらほらと姿を現し店も大方開店した頃二人は買い出しに宿を後にする

「最初は野菜を買おう」
「その後は?」
「そうだねぇ、服でも買おうかねぇ」
「必要か?」
「必要に決まっているだろう?」
「あぁ、そうなの」

 ジョンは不機嫌そうに腕を組む


「あなたに祝福を」

 左手に杖を持った金髪の少女が八百屋の主人にそう言って杖を翳す、その後ろにはその護衛であろう腰に剣を刺した女性二人がついている

「ありがとうございます、ネルヒム様」

 ネルヒムと呼ばれた少女は八百屋の主人の傍に寄る、主人は何故ネルヒムが寄って来たか分かっているので笑顔でネルヒムの頭を撫でる
 ネルヒムは嬉しそうに頭を撫でられている時にミランダ達が八百屋にやって来た。

「おやおや、ネルヒム様おはようございます」

 とミランダがネルヒムに挨拶をする

「おはよう、ミランダ!」

 挨拶を満面の笑顔で返すネルヒム

「そちらは?」

 ネルヒムがジョンを見て言う

「俺の名はジョン、ミランダの弟子だ。宜しく」
「ジョン、よろしくね!」
「ミランダ、彼女は?」
「ネルヒム・カランダ、カランダーン様の巫女だよ」
「カランダーン?」
「あの山にいる神様の名前だよ」

 とミランダは村の近くにある大きな山を指差す

「その神様の巫女って訳ね」
「はい! そうです、こう見えても私巫女なんですよ」

 そう言って少女はしたり顔で胸に手をポンッと当てる

「は、はぁ巫女ねぇ」
 巫女である事がすごいのかどうか分からないジョンはそう返すしかなかった。

「貴方、見かけない風貌ですがどちらから?」

 ネルヒムの黒髪の護衛の一人がジョンに言う

「ヴァルガン海のずっと向こうから来たんだよねぇ?」

 ミランダがジョンに言う、ヴァルガン海を知らないジョンだが

「あぁ、その通り」
「ほぉ、と言うとナリギア出身か? 成程あそこの者と言うなら貴方の恰好も頷ける」
「ナリギアは奇抜な恰好の人多いですもんねぇ」

 さっきまで暇そうにしていた桃髪の護衛の一人が口を開く

「奇抜とは言っていない」
「あれれぇ? そうでしたか? そう言っている様に聞こえましたけど? まぁいいか、失礼しました。ミランダの御弟子さん」

 ヘラヘラとジョンに謝罪する、桃髪の護衛

「そちらの黒髪のお嬢さんがナサル・パララグ、で桃毛の小童はエル・ライオット二人共騎士だよ」
「小童なんて酷いなぁ、まぁよろしくね、お弟子さんエルって呼んでいいよ」
「ナサルで良い、宜しくジョン」
「こちらこそよろしく御二方」

 挨拶を終えた後ネルヒムが

「それではさっそく」

 と言い持っていた杖をミランダとジョンの前で振りかざし

「祝福を」

 と言いミランダのすぐ目の前にネルヒムが寄る、そしてミランダがネルヒムの頭を撫でる、そんな不思議な光景を見てジョンが

「何だ? 何をしている?」

 と質問をする

「ナリギアには『廻り』の習慣は無いのか?」
「無いな、聞いた事も無い」
「その土地の巫女が村の住人にその土地の神の祝福を分け与えるのが廻りだ」
「へぇ、成程ね」

 ジョンは神やら祝福等の引っ掛かるワードを流す。

「それではお願いします」

 そう言ってネルヒムがジョンの前に寄る

「これは撫でろって事か?」

「あぁ、そうだ」

「ふぅ~ん、廻りってのは最後に巫女を撫でるのか」

「いや、何を見返りに求めるかは巫女によって違う金銭や食料を求める者も居れば何も見返りを求めない者も居る」

「それで彼女は撫でる事が見返りという訳か」

「そうです、お願いします」

 ネルヒムが撫でやすいように踵を上げ背を伸ばすそれでも頭はジョンの胸の少し下ぐらいにしか伸びない

「嫌だ」
「え?」
「嫌だ、撫でたく無いと言ったんだ」

 その場に居た全員が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてジョンを見る

「ど、どうしてですか? 髪の毛はちゃんと洗ってますよ!」
「そういう問題じゃない、理由は言わないが兎に角したくないんだ」
「巫女様が君に祝福を与えたのにか?」

 ナサルが口を挟む

「俺は求めてないそっちが一方的に祝福とやらを寄こしたんだ、お前らがやっているのは飢えた子供に食料を一方的に与えて見返りに着ていた衣服を奪い去って行く様なもんだ。それともお前らはそうするのか?」

「そ、そんな事しません」

「違う話だろう」

「同じ様なもんだ、それに今から何を言われても絶対に撫でないぞ」

「アッハハ、君面白いねぇ」

「ふん、ネルヒム様諦めましょう」

「はい……ナサル、それでは三人方さようなら」

 さっきまでの元気は何処へやら顔に曇りを乗せネルヒム一行は八百屋を去って行く、姿が見えなくなったのを見計らってジョンの尻を抓るミランダと八百屋の主人

「イデデ!! 二人で抓るな!」

「酷い事を言うんじゃないよ、巫女とは言え小さな女の子なんだよ」

「アンタみたいな酷い奴初めて見たよ」

「暴力反対、この野蛮人共め何考えてる」

「何考えてるか分かんないのはあんただろ」

「撫でる事が嫌いでね、この話はもういいだろう」

「はぁ、分かったよ、それじゃあエルコン、カブと玉葱を貰えるかい」

「お、おう」

 困惑ながら八百屋の主人・エルコンがカブと玉葱を取り出しミランダの手提げカゴの中に入れる

「次は服屋か?」
「のつもりだったけどジョン歩こうか、昨日ジョンが知りたがっていた事について話そう」

 つまり元の世界に戻る術を知る者についてという事である

「お待ちかねだな」

 ミランダは八百屋を出て村を歩くその後をついて行くジョン、十歩程歩いた所でミランダが口を開く

「カランダーン、彼女なら知っているかもしれない」

「それって神様の事だろ? 神様と対話なんて出来るのか?」

「出来るよ、巫女様にも一緒に行って貰わなくてはイケないだろうがね」

「おい、ちょっと待てよなんだ神様ってのは動物なのか? 石や木を彫って作られた人形とかじゃなく?」

「なんだいそれはそんなんじゃないよ、実際生きているよ、なかなか会えないけどねぇ」

 ジョンは目を丸くする、彼の世界では神は姿を現さないからだ。

「こいつは驚いたな、確かに神様なら何でも知っていそうではあるな」

「だろう?」

「どうやったら会える、巫女が必要だとは言っていたが」

「カランダーン様はあの山に居られるしかし近づくにはあの山に張られている結界を通過しなくてはいけない、そして通過出来るのは巫女と巫女に認められた三人の人間のみ」

「それってつまり巫女に気に入られなくちゃならないという事か?」

「巫女に気に入られるだけじゃ駄目だね、巫女を守っている騎士隊の隊長に許可して貰わないといくら巫女に気に入られたからといって山には入れて貰えないだろうね」

「騎士隊? あの巫女の後ろに居た二人がそうか?」

「あの二人も騎士隊の一員だよ、今日は隊長居なかったけどねぇ」

「隊長はどんな奴だ。疑い深い?」

「綺麗な金の髪を持った美しい女性だよ、隊長をやっているだけあってなかなか人の事は信用しないよ」

「聞けば聞くほど俺に不利な事しか返って来ないな」

「あんたがあんな事巫女様に言うからだよ」

「他には方法無いのか?」

「さぁねぇ、結界なんて簡単には破れないし、無理じゃないかね」

「結界はそんなに固い物なのか? ぶつかったらどうなる?」

「見えない壁と言えば分かるかね、結界を破るには斬ったり殴ったりじゃいけないよ、結界にもよるが基本特殊な方法でしか開かない」

「勉強する必要があるみたいだな」

「神が張っている結界だ。勉強すればいいってものでも無いと思うけれどねぇ」

「しないよりマシだろ、結界に詳しい奴を知ってるか? あんたも詳しそうだが」

「あたしよりもよく魔法に詳しい知り合いなら知っている」

「ほぉ、誰だ?」

「バーング・ワルピス、あの屋敷に住んでる騎士隊の一員だよ、もっとも最近では研究にお熱で騎士らしい事はなにもしていないようだけど」

 ジョンはミランダを睨む

「結界にもあの屋敷の騎士隊にも詳しい……随分怪しい奴だよな、あんた、詳しい詮索はすまいといままでは黙っていたがそうもいかなくなったなぁ」

 ジョンは自分の懐に手を伸ばす。

「正直に全てを答えた方が賢明だぜ、お前は何者で何故俺を庇う? 全部教えて頂けると嬉しいんだが……さもないと」

 ミランダはジョンに微笑み

「さもなくば?」

 ジョンは懐からミランダにしか見えない様に暗く怪しく光るナイフを見せつける

「首を斬る……のは可哀想だから胃を突き刺そう、激痛でのた打ち回る事になるだろうがまぁ良いだろ?」

 ミランダは周りの村人に聞こえないよう小さく笑うこの状況で奇怪な行動だがジョンは取り乱さない

「クククッあんたからは此処に居る奴等とは全く別の臭いがするな、水遣りなんてやり始めたのは何時からだ?」

「さてねぇ去年からだったか?、初めてやったよ、やっぱ分かるかい?」

「隠しきれてねぇな、こっちの人間は全員あんたみたいなのかとも思ったがこの村の住人を見る限り違うみたいだしな」

「クククッ精進が足らなかったみたいだねぇ、さてあんたが聞きたかったのはどうしてここに詳しいのか? それと何故庇ったのかだったかい?」

「そんな所だな」

「最初の質問から答えようあたしの正体、元エスカルド魔法隊、第一部隊隊長、ミラオルク・サラインダだからあの騎士隊の子らも知っている、まぁ引退しちまったから”よく”は知らんがね」

「エスカルドはここら辺を治めてる国だったか? それの第一部隊なんて任されてたんだからさもすごいんだろうが俺には凄さがイマイチ伝わらない、それにそんな事簡単に話していいのか?」

「あんたがナイフを使って脅しているから話したんだろう?」

「だからってな元隊長さんが脅されてるからって何の抵抗も無くはい、どうぞと教えるのは違和感があると言っているんだ」

「小さな事を気にする男だねぇ、モテないよ」

「これ以上モテても困っちゃうからな、それでいいんだよ」

「あんたからは同種の匂いがする、だからかねぇ、あんたを庇ったりしちまったり余計な事を話しちまったりしたのは」

 ジョンは自分の腕の匂いを嗅ぐ

「俺から加齢臭が漂ってたのか?」

「違うよ、血の匂いさ、アンタも分かるだろ、私を異常と嗅ぎ分けられたんだから」

「血の匂いを漂わせた男が家に現れても驚かなかった理由を聞こうか? 二度目だが今回は前回とは違う慎重に答えてくれよ」

「実はねアンタがあの時花の水遣りを手伝ってくれなきゃ即始末するつもりだった。だけど手伝ってくれただろう? だからアンタは”いい奴”だとそう思ったのさだから信用した」

「そんな事で? マジ? 単純だな」

「何言ってるんだい、あんな面倒な事最後まで手伝う人間なんてなかなか居ないよ」

 ジョンは半分呆れ

「まぁ……いいか……良いのか?」

「納得してくれたかい?」

「……まぁ納得したという事にしておこう、最後にいいか? さっき俺を即始末するつもりだった、と言っていたがどうやって?」

 ミラオルクが懐に手を伸ばし、小さな木製の杖を取り出す。

「こいつでアンタを雷で貫くつもりだった」

「そんな棒切れで雷なんて出せるのか? イカすね」

「ジョンの世界には魔法は無いのかい?」

「無いな、聞いた事はあるが、この村の住人も全員使えるのか?」

「全員使えるが訓練しなくては使えないよ、その訓練をしているのは騎士隊のメンバーぐらいかねぇ」

「騎士隊には要注意だな」

「甘く見ていると痛い目を見るよ」

「ふ~ん、それで? 今でも”即”始末なんて出来そうだと思っているか?」

「私はそう思ってるけど、杖先もアンタを既に指してるしね、勝ち目は無いよジョン」

「どうかな? 試してみないか? アンタが俺を貫くのが先か俺がアンタの首を斬るのが先か」

「それは面白そうだ、水遣りよりもずっとね」

 ミラオルクの眼は今までに無い程生き生きとしている、ジョンも同様
 二人はゆっくりと村を歩いている、端から見ていれば何の変哲も無い老人と男性だろう、だがその時、二人の間には百獣の王でも当てられれば逃げ出すであろう殺気が二人を結びつけていた。
 だがそれは一瞬、次の瞬間二人は笑い出す、周りには数人、人が居たが全員二人を見る

「同類ってのは間違い無いな、お互い気持ち悪いぜ」

「そうだろう? さて行こう、屋敷でアンタが働ける様言ってみようかね、それからはジョン、アンタがどうにかするんだよ」

「花に水遣りしただけにしちゃやり過ぎってぐらいだ。いいのか?」

「問題無いよ、記念さアンタと出会えたね」

「婆さんに言われてもね、鏡を見てからそういう台詞は言って欲しいね」

「おやおや、着いたらキスでもしてあげようかね」

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