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第四章6 『囚人マルコ・ポーロと空飛ぶ船』
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ギルド管轄、対転生者用の収容所にカグラは一人で訪れている。というのも、先日の空襲を行った異世界人、マルコ・ポーロから情報を引き出すためである。
大きな被害が出る前に討伐した実績を評価され、カグラは面会の許可を許されている。目の前には囚人服を着た、青年マルコ・ポーロ。
「捕虜の扱いについては、国際法に則った扱いを求める。ジパングの民よ」
マルコ・ポーロが放った第一声だ。いきなり空から砲撃してきた常識知らずの異世界の人間に国際法などという者があることに驚きである。最も、その国際法とやらも、おそらくカグラが知るようなものとは異なると考えた方が良さそうである。
「まず、ここはジパングとやらじゃないんだけど、説明するのも面倒くさいからその辺りは、ズバッと端折るぞ。マルコ・ポーロ、この世界に何しにやって来たんだ」
「正直、具体的な目的と言われると困るな。何分、ここ最近の記憶が曖昧なのだ。最後の記憶といえばあの船で大陸からジパングへ渡る道中に、やたらと分厚く果ての無い雲の中に入ったこと。………そして、そこで幻のような物をみたこと。そして、気づいたら目の前にこの国が見えていたこと。説明できるのはこの程度のことだが構わないか?」
「おう。ざっくりと状況は理解できた。きっと、その分厚い雲の中とやらが異世界に通じるゲートだったんだと思う。………つまり、やはり残念ながら、マルコ・ポーロ、お前は自分の元居た世界と異なる世界に居るということだ」
「そんな馬鹿なっ、と言いたいところであるが、この状況を顧みるに、君の発現を疑う方が難しいというものだな。君の仲間が見せた魔法や、銃器については私の世界には存在しないものであった。また、この世界は何から何まで私の世界のものとあまりに技術や、理論体系が異なり過ぎている。これをさすがに、未知の国だからと判断するほど、私もお花畑ではないさ」
「うむ。空でのテンションの高さと違って、陸の上では意外に話せる人間で助かった。ここは君の世界と異なる世界だ。そして、俺も別の世界から来た人間だ」
「君も、他の世界から来た人間なのか?」
「そうだ。仲間のソレイユ、セレネもそれぞれ別の異世界から訪れた人間だ」
「ふむ。異世界からの来訪者はこの世界ではさほど珍しいものではないということか。となると、捕虜としての特別待遇はあまり期待できそうにも無いな」
「残念ながら、ね」
「ふぅ………っ元の世界に帰る方法はあるのか?」
「皆目見当が付かない。一応、この世界に住んである程度の時間が経つわけで、多くの人間にも聞いてはみたが手がかりはゼロだ。それに、元の世界に帰りたがるお前のような人間の方が珍しい気がするぜ」
「そんなもんなのか?」
「あんまり意識したことはないけど、この世界に居る異世界出身の人間たちは自分たちのもとの世界の出自を、聞かれない限りは話さないし、暗黙の了解として、元の世界について詮索することは、礼儀知らずの無礼な発言に当たるようだ」
「なるほど。多くの人間が訪れるだけに、多くの価値観を受け入れるためのルールのようなものも整備されているということか。興味深いね」
「必ずしも、前の世界が恵まれているとも限らないからな。逆に、勇者や王族とかいう前の世界で英雄扱いされていた奴は、過去の自分の武勇伝を振り回して、かなり煙たがられている感じだ。まあ、これはどの世界でも共通だろう」
「郷に入っては郷に従え。基本中の基本だな。私の世界の例で例えるのであらば、海賊としては有名な人物であっても、空賊に入れば雑用からやり直し。そういう気概がなきゃ駄目だ」
「良く分かっているじゃないか。転職前の会社でエースだったからといって、転職先の新しい会社で、前社の実績を振りかざしても誰も相手になんかしない。むしろ煙たがられて相手にされなくなるだけさ」
「ふむ。だいたいのことは理解できた。元の世界の帰り方は既知の知識としては無いという訳だな。最も何らかの方法でこの世界に来れたのだから、逆に帰ることもできると考えれるのだとは思うがな」
「そうだな。この世界も一方通行ではねぇと思うぜ」
「道理だな。その方法は是非知りたいが、焦っても仕方が無さそうだ。どれ、しばらくこの世界に居る間の出来事や、見聞きしたことを『東方見聞録』として、仮に元の世界に戻れたら、大規模に出版して世界に知らしめようぞ」
「まあ。あまりに突拍子もない話だから、真面目に書いても奇書の類として扱われるだけだとは思うがな」
「はは。まあ……っそうだな。多少の誇張表現も加えて心躍るようなファンタジー異世界冒険譚として売り出せば、娯楽作品としては楽しんでもらえるだろう」
「はは、異世界転生小説が流行るかもな。そうだな。ところで、一つ確認したいことがあるのだけど良いか?」
「私が答えられる範囲であれば答えよう」
「あの空飛ぶ船はどういう理屈で浮かんでいるんだ?」
「一言で言うなら重力制御だ。あの船は一定の高度までであれば重力を反転させることで浮く事が可能だ。進む時の推進力は、海に浮かぶ船と同様に風だ。推進力が落ちた時は、いったん船の高度を下げ、風の強い場所を探したりもする。操作方法は海上の帆船とそう変わらない」
「反重力………。凄い技術だな。宇宙まで飛び立てるんじゃないか?」
「理論上は宇宙まで飛び立つことは可能。ただし、空気の問題など多種多様な問題があるため、現実的には不可能だ。事実として、過去に宇宙に飛び立っていったもので生存している者は一人もいない。だから、この船も地上から高度1000メートルを上限とするように設計が組まれている」
「なるほど。それ以上になると酸素も薄くなるし、現実的に航行不能になるというわけだな。合理的だな」
「そうだな。それ以上となると、大気が薄くなるから推進力を得られなくなり、前にも進むのも困難になる。敵がいない地域であれば、わざわざ高度1000メートルまで上昇しなくても、数百メートルのところで飛んでいるのが負担が最も少ないから、基本はあのような高度までは上昇しない」
「ふむふむ。マルコ・ポーロの居た世界では空飛ぶ船というのは一般的な物なのか?」
「さすがに、私の世界でもこのクラスの大型船は珍しかった。何より、操縦者一人で動かせる半自動運転システムと音声認識システム搭載の船は、この船くらいのものだった。普通の船なら数十の乗組員を少なくとも必要とする。この船は、基本的に一人で長期運航可能だ」
「なるほどね。少人数での運航が可能であれば、食糧問題とかが大きな問題にならないから、未知の新大陸を探すために長距離航海するにはもってこいというわけだな」
「その分、空賊にあった時に一人で対処しなきゃいけないわけだから、航行上の危険性は高まるけどな。それは、ケースバイケースだ。私は白兵戦での実績と、大陸調査の貢献度を評価されて、このような大型船を一人で持つ特例を許可されている」
「なるほどね。ところで、相談なのだけど、あの船を俺らに譲ってくれないか? まだこの世界でも訪れたことの無い地域に行ってみたいんだ」
「ふむ。元より、敗北した側は、勝者に対して命以外の私有財産を譲渡しなければいけないという国際法があるので、そのつもりだが。船の操縦は可能か?」
「無理だろうな。となると、どうしてもお前には舵取りをお願いしなければいけないことになりそうだな。同行をお願いしたいが可能か?」
「助かるよ。ちょっと、この拘置所の中はせまっ苦しくて居心地が悪い。どうにも落ち着かないとい。どうにも、私は狭い部屋でじっとしているのが苦手な性分のようだ。捕虜の待遇について文句を言うつもりはないが、冒険者にとって狭い部屋で閉じ籠っているというのは案外きついものだ」
「まあ、お前は海岸沿いの施設に甚大な被害をもたらした異世界人だからな。ただでさえ異世界の人間はトラブルを引き起こしやすいって評判なのに、まったくもう。死刑にならなかっただけ、ラッキーと思え。幸いにして、今回は物的損害だけで、死人が出なかったからという理由でギルドが下した恩情だ」
「一応は自分の世界の国際法に則った対応ではあったのだが、それは異なる世界においてはエクスキューズにはならないな。私が完全に悪かったと認めよう」
「そうだ。それで良い」
「ところで、私の船を何に使う?」
「次に仕掛けてくる奴に、上空から奇襲を掛けようと思っていてな」
「誤解してもらっては困るぞ。それに、私が君たちにあうようにと勧めたのは夢の中での出来事だ。とはいえ夢とは思えないほどあまりにもリアリティーのある夢ではあったが」
「へぇ。夢とは思えない夢、ね」
「うむ。その夢の中で私は、君たちを殺せとけしかけられた訳ではない。君たちを探して出会うようにと勧められただけだ。そこは勘違いしないで欲しい」
「なるほど。ところで、どんな姿の奴だったんだ?」
「一言で言うなら、女神風幼女といった感じだったか?」
「なんだぁ。マルコ・ポーロお前も、そっちの類の趣味かあ?」
「おいおい。私が好きなのは普通の成人女性だ。お前の、お仲間の二人の様にちんちくりんの女性は私のストライクゾーンには無い。やはり胸の大きいグラマラスな女性が最高だろう」
「お前と、俺とは深い所で分かり合えない中のようだ。俺は今、深い怒りを心の中に燃やしている。セレネと、ソレイユの容姿の悪口は許さん。ああいうのが究極かつ至高というのだ、マルコ・ポーロ、お前は何も分かっていないっ!」
「おう……。お仲間の容姿については失言であった。気にするな、ただの性癖の違いだ。悪気はない、私はグラマラスな熟女系が好きなだけなのだ。話を戻そう、女神風幼女の件であるが、客観的に見てそうとしか形容のできない容貌だったのだ。それにあれが夢でないというのであれば、千子村正という屈強そうな青年もこの国に来ているはずだ。あと、魔女の少女も。夢の中で出会ったのは私を含めて3人だったはずだ。女神を除けば、確か3人で全員だったはずだ」
「ああ、千子村正か、既にこの世界に来ている。そして俺が倒して、今はこの世界で暮らしているぞ。随分と馴染んでいるみたいで、元の世界については特に気にしている様子もなさそうだが」
「なんと、君たちはあの恰幅の良い男を倒したと言うのか? 発する闘気からして、明らかに危険な類な存在だと思っていたが。早撃ちの時に理解したが、君たちも一流の戦士だったということか」
「お世辞はいいさ、確かに千子村正は強かった。危うく殺されかけもしたぜ。だけどいまはチャラだ。お互いに何の遺恨もねえさ。ところで、さっきちらっと魔女の少女と言って行ったが、次に襲撃してくる相手のことを知っているのか?
「ふむ。特に義理立てする必要も隠す必要も無いから話そう。ジャンヌ・ダルクという魔女だ。私があった女神風幼女の言った事を全て信じるのであればという前提になるが、6日後にやってくる。彼女が降り立つ場所も把握はしている」
「ジャンヌ・ダルク。魔女というよりは、俺の住んでいた世界では英雄という印象が強いけどな。魔女っ子かあ」
「ふむ。興味深いが、おそらく、世界によって同一人物であっても、その在りようが異なるということだろう。ちなみに、君のの世界のマルコ・ポーロはどういう存在だったんだ?」
「一言で言うなら、高名な冒険家だ。最も、俺の世界では船は空を飛ばないから、海路で航海していたがな。ジパングにも辿りついたと記されている」
「ふむ。自分の世界とは異なる世界の事とは言え、後世に私の名が残せたというのは喜ぶべきことなのであろうな」
「そうだな。あいにく俺は詳しいことについては知らないから、自分のことを詳しく知りたいようであれば、セレネに聞いてくれ」
「あのメイド風の女の子か」
「うむ。彼女の持つ過去の偉人たちの認知と、俺の世界の英雄像はほぼ一緒だから、もしかしたら、彼女と俺は比較的近い世界の存在なのかもしれない」
「分かった。だが、そのセレネという子にも、自分のことを聞くのはよそう。先の人生の展開をネタバレされるというのも興ざめだ。それに、だ。歴史に名を残しているということは、君たちの世界ではもう俺は死人ということだしな」
「ふーむ。そんなものかねぇ。俺なら絶対に教えてもらうがな」
「ところで、さきほどの魔女ジャンヌ・ダルクの件だがここから距離が離れているので、この船を使って向かうのが良かろう。そこでだ、なんとかこの牢獄から出してもらえるように交渉してはくれんか? 同行したくても、外出許可をもらわない限りここからでることが叶わぬ故な」
「ギルドの方にはそのように掛け合うけど、何分被害が甚大だったから、お前外に出た途端に保険会社の奴らに拉致られかねんぞ。そういう意味では、ここにいる方が身の安全は保証されそうではあるが」
「保険会社の人間が襲ってくるとは、なかなかこの世界も物騒なのだな………。まあ、自分の身くらいは自分で守るさ、それに、私は君の知っての通り冒険者であり、航海者だ。目の前に、まだ見たことのない世界がありながら、見過ごす等と言うことができようはずもない。早く冒険したくてたまらないのだ」
「さすがは、大航海者と言われるだけのことはあるということか。分かった。一定の制約付きになるとは思うが、何とかこの収容所から出してもらえるように交渉してみるさ」
大きな被害が出る前に討伐した実績を評価され、カグラは面会の許可を許されている。目の前には囚人服を着た、青年マルコ・ポーロ。
「捕虜の扱いについては、国際法に則った扱いを求める。ジパングの民よ」
マルコ・ポーロが放った第一声だ。いきなり空から砲撃してきた常識知らずの異世界の人間に国際法などという者があることに驚きである。最も、その国際法とやらも、おそらくカグラが知るようなものとは異なると考えた方が良さそうである。
「まず、ここはジパングとやらじゃないんだけど、説明するのも面倒くさいからその辺りは、ズバッと端折るぞ。マルコ・ポーロ、この世界に何しにやって来たんだ」
「正直、具体的な目的と言われると困るな。何分、ここ最近の記憶が曖昧なのだ。最後の記憶といえばあの船で大陸からジパングへ渡る道中に、やたらと分厚く果ての無い雲の中に入ったこと。………そして、そこで幻のような物をみたこと。そして、気づいたら目の前にこの国が見えていたこと。説明できるのはこの程度のことだが構わないか?」
「おう。ざっくりと状況は理解できた。きっと、その分厚い雲の中とやらが異世界に通じるゲートだったんだと思う。………つまり、やはり残念ながら、マルコ・ポーロ、お前は自分の元居た世界と異なる世界に居るということだ」
「そんな馬鹿なっ、と言いたいところであるが、この状況を顧みるに、君の発現を疑う方が難しいというものだな。君の仲間が見せた魔法や、銃器については私の世界には存在しないものであった。また、この世界は何から何まで私の世界のものとあまりに技術や、理論体系が異なり過ぎている。これをさすがに、未知の国だからと判断するほど、私もお花畑ではないさ」
「うむ。空でのテンションの高さと違って、陸の上では意外に話せる人間で助かった。ここは君の世界と異なる世界だ。そして、俺も別の世界から来た人間だ」
「君も、他の世界から来た人間なのか?」
「そうだ。仲間のソレイユ、セレネもそれぞれ別の異世界から訪れた人間だ」
「ふむ。異世界からの来訪者はこの世界ではさほど珍しいものではないということか。となると、捕虜としての特別待遇はあまり期待できそうにも無いな」
「残念ながら、ね」
「ふぅ………っ元の世界に帰る方法はあるのか?」
「皆目見当が付かない。一応、この世界に住んである程度の時間が経つわけで、多くの人間にも聞いてはみたが手がかりはゼロだ。それに、元の世界に帰りたがるお前のような人間の方が珍しい気がするぜ」
「そんなもんなのか?」
「あんまり意識したことはないけど、この世界に居る異世界出身の人間たちは自分たちのもとの世界の出自を、聞かれない限りは話さないし、暗黙の了解として、元の世界について詮索することは、礼儀知らずの無礼な発言に当たるようだ」
「なるほど。多くの人間が訪れるだけに、多くの価値観を受け入れるためのルールのようなものも整備されているということか。興味深いね」
「必ずしも、前の世界が恵まれているとも限らないからな。逆に、勇者や王族とかいう前の世界で英雄扱いされていた奴は、過去の自分の武勇伝を振り回して、かなり煙たがられている感じだ。まあ、これはどの世界でも共通だろう」
「郷に入っては郷に従え。基本中の基本だな。私の世界の例で例えるのであらば、海賊としては有名な人物であっても、空賊に入れば雑用からやり直し。そういう気概がなきゃ駄目だ」
「良く分かっているじゃないか。転職前の会社でエースだったからといって、転職先の新しい会社で、前社の実績を振りかざしても誰も相手になんかしない。むしろ煙たがられて相手にされなくなるだけさ」
「ふむ。だいたいのことは理解できた。元の世界の帰り方は既知の知識としては無いという訳だな。最も何らかの方法でこの世界に来れたのだから、逆に帰ることもできると考えれるのだとは思うがな」
「そうだな。この世界も一方通行ではねぇと思うぜ」
「道理だな。その方法は是非知りたいが、焦っても仕方が無さそうだ。どれ、しばらくこの世界に居る間の出来事や、見聞きしたことを『東方見聞録』として、仮に元の世界に戻れたら、大規模に出版して世界に知らしめようぞ」
「まあ。あまりに突拍子もない話だから、真面目に書いても奇書の類として扱われるだけだとは思うがな」
「はは。まあ……っそうだな。多少の誇張表現も加えて心躍るようなファンタジー異世界冒険譚として売り出せば、娯楽作品としては楽しんでもらえるだろう」
「はは、異世界転生小説が流行るかもな。そうだな。ところで、一つ確認したいことがあるのだけど良いか?」
「私が答えられる範囲であれば答えよう」
「あの空飛ぶ船はどういう理屈で浮かんでいるんだ?」
「一言で言うなら重力制御だ。あの船は一定の高度までであれば重力を反転させることで浮く事が可能だ。進む時の推進力は、海に浮かぶ船と同様に風だ。推進力が落ちた時は、いったん船の高度を下げ、風の強い場所を探したりもする。操作方法は海上の帆船とそう変わらない」
「反重力………。凄い技術だな。宇宙まで飛び立てるんじゃないか?」
「理論上は宇宙まで飛び立つことは可能。ただし、空気の問題など多種多様な問題があるため、現実的には不可能だ。事実として、過去に宇宙に飛び立っていったもので生存している者は一人もいない。だから、この船も地上から高度1000メートルを上限とするように設計が組まれている」
「なるほど。それ以上になると酸素も薄くなるし、現実的に航行不能になるというわけだな。合理的だな」
「そうだな。それ以上となると、大気が薄くなるから推進力を得られなくなり、前にも進むのも困難になる。敵がいない地域であれば、わざわざ高度1000メートルまで上昇しなくても、数百メートルのところで飛んでいるのが負担が最も少ないから、基本はあのような高度までは上昇しない」
「ふむふむ。マルコ・ポーロの居た世界では空飛ぶ船というのは一般的な物なのか?」
「さすがに、私の世界でもこのクラスの大型船は珍しかった。何より、操縦者一人で動かせる半自動運転システムと音声認識システム搭載の船は、この船くらいのものだった。普通の船なら数十の乗組員を少なくとも必要とする。この船は、基本的に一人で長期運航可能だ」
「なるほどね。少人数での運航が可能であれば、食糧問題とかが大きな問題にならないから、未知の新大陸を探すために長距離航海するにはもってこいというわけだな」
「その分、空賊にあった時に一人で対処しなきゃいけないわけだから、航行上の危険性は高まるけどな。それは、ケースバイケースだ。私は白兵戦での実績と、大陸調査の貢献度を評価されて、このような大型船を一人で持つ特例を許可されている」
「なるほどね。ところで、相談なのだけど、あの船を俺らに譲ってくれないか? まだこの世界でも訪れたことの無い地域に行ってみたいんだ」
「ふむ。元より、敗北した側は、勝者に対して命以外の私有財産を譲渡しなければいけないという国際法があるので、そのつもりだが。船の操縦は可能か?」
「無理だろうな。となると、どうしてもお前には舵取りをお願いしなければいけないことになりそうだな。同行をお願いしたいが可能か?」
「助かるよ。ちょっと、この拘置所の中はせまっ苦しくて居心地が悪い。どうにも落ち着かないとい。どうにも、私は狭い部屋でじっとしているのが苦手な性分のようだ。捕虜の待遇について文句を言うつもりはないが、冒険者にとって狭い部屋で閉じ籠っているというのは案外きついものだ」
「まあ、お前は海岸沿いの施設に甚大な被害をもたらした異世界人だからな。ただでさえ異世界の人間はトラブルを引き起こしやすいって評判なのに、まったくもう。死刑にならなかっただけ、ラッキーと思え。幸いにして、今回は物的損害だけで、死人が出なかったからという理由でギルドが下した恩情だ」
「一応は自分の世界の国際法に則った対応ではあったのだが、それは異なる世界においてはエクスキューズにはならないな。私が完全に悪かったと認めよう」
「そうだ。それで良い」
「ところで、私の船を何に使う?」
「次に仕掛けてくる奴に、上空から奇襲を掛けようと思っていてな」
「誤解してもらっては困るぞ。それに、私が君たちにあうようにと勧めたのは夢の中での出来事だ。とはいえ夢とは思えないほどあまりにもリアリティーのある夢ではあったが」
「へぇ。夢とは思えない夢、ね」
「うむ。その夢の中で私は、君たちを殺せとけしかけられた訳ではない。君たちを探して出会うようにと勧められただけだ。そこは勘違いしないで欲しい」
「なるほど。ところで、どんな姿の奴だったんだ?」
「一言で言うなら、女神風幼女といった感じだったか?」
「なんだぁ。マルコ・ポーロお前も、そっちの類の趣味かあ?」
「おいおい。私が好きなのは普通の成人女性だ。お前の、お仲間の二人の様にちんちくりんの女性は私のストライクゾーンには無い。やはり胸の大きいグラマラスな女性が最高だろう」
「お前と、俺とは深い所で分かり合えない中のようだ。俺は今、深い怒りを心の中に燃やしている。セレネと、ソレイユの容姿の悪口は許さん。ああいうのが究極かつ至高というのだ、マルコ・ポーロ、お前は何も分かっていないっ!」
「おう……。お仲間の容姿については失言であった。気にするな、ただの性癖の違いだ。悪気はない、私はグラマラスな熟女系が好きなだけなのだ。話を戻そう、女神風幼女の件であるが、客観的に見てそうとしか形容のできない容貌だったのだ。それにあれが夢でないというのであれば、千子村正という屈強そうな青年もこの国に来ているはずだ。あと、魔女の少女も。夢の中で出会ったのは私を含めて3人だったはずだ。女神を除けば、確か3人で全員だったはずだ」
「ああ、千子村正か、既にこの世界に来ている。そして俺が倒して、今はこの世界で暮らしているぞ。随分と馴染んでいるみたいで、元の世界については特に気にしている様子もなさそうだが」
「なんと、君たちはあの恰幅の良い男を倒したと言うのか? 発する闘気からして、明らかに危険な類な存在だと思っていたが。早撃ちの時に理解したが、君たちも一流の戦士だったということか」
「お世辞はいいさ、確かに千子村正は強かった。危うく殺されかけもしたぜ。だけどいまはチャラだ。お互いに何の遺恨もねえさ。ところで、さっきちらっと魔女の少女と言って行ったが、次に襲撃してくる相手のことを知っているのか?
「ふむ。特に義理立てする必要も隠す必要も無いから話そう。ジャンヌ・ダルクという魔女だ。私があった女神風幼女の言った事を全て信じるのであればという前提になるが、6日後にやってくる。彼女が降り立つ場所も把握はしている」
「ジャンヌ・ダルク。魔女というよりは、俺の住んでいた世界では英雄という印象が強いけどな。魔女っ子かあ」
「ふむ。興味深いが、おそらく、世界によって同一人物であっても、その在りようが異なるということだろう。ちなみに、君のの世界のマルコ・ポーロはどういう存在だったんだ?」
「一言で言うなら、高名な冒険家だ。最も、俺の世界では船は空を飛ばないから、海路で航海していたがな。ジパングにも辿りついたと記されている」
「ふむ。自分の世界とは異なる世界の事とは言え、後世に私の名が残せたというのは喜ぶべきことなのであろうな」
「そうだな。あいにく俺は詳しいことについては知らないから、自分のことを詳しく知りたいようであれば、セレネに聞いてくれ」
「あのメイド風の女の子か」
「うむ。彼女の持つ過去の偉人たちの認知と、俺の世界の英雄像はほぼ一緒だから、もしかしたら、彼女と俺は比較的近い世界の存在なのかもしれない」
「分かった。だが、そのセレネという子にも、自分のことを聞くのはよそう。先の人生の展開をネタバレされるというのも興ざめだ。それに、だ。歴史に名を残しているということは、君たちの世界ではもう俺は死人ということだしな」
「ふーむ。そんなものかねぇ。俺なら絶対に教えてもらうがな」
「ところで、さきほどの魔女ジャンヌ・ダルクの件だがここから距離が離れているので、この船を使って向かうのが良かろう。そこでだ、なんとかこの牢獄から出してもらえるように交渉してはくれんか? 同行したくても、外出許可をもらわない限りここからでることが叶わぬ故な」
「ギルドの方にはそのように掛け合うけど、何分被害が甚大だったから、お前外に出た途端に保険会社の奴らに拉致られかねんぞ。そういう意味では、ここにいる方が身の安全は保証されそうではあるが」
「保険会社の人間が襲ってくるとは、なかなかこの世界も物騒なのだな………。まあ、自分の身くらいは自分で守るさ、それに、私は君の知っての通り冒険者であり、航海者だ。目の前に、まだ見たことのない世界がありながら、見過ごす等と言うことができようはずもない。早く冒険したくてたまらないのだ」
「さすがは、大航海者と言われるだけのことはあるということか。分かった。一定の制約付きになるとは思うが、何とかこの収容所から出してもらえるように交渉してみるさ」
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※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています
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