電光石火の雷術師~聖剣で貫かれ奈落で覚醒しましたが、それはそれとして勇者は自首して下さい~

にゃーにゃ

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第44話『屋根裏部屋の少女』

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「シンに兄妹? いや、初耳だな。そいつも、おまえと同じ腹違いか?」

「いいえ。同じ母から産まれた兄妹。双子の妹ですよ」

「少なくとも、俺は会ったことはねぇな」

シンが妹と一緒に居た姿を見たことはない。それに、シンの口から妹の話を聞いたことがない。

「知らないのは無理がありませんよ。アリアは屋根裏部屋の外に出ることなく。その生涯を屋根裏部屋で終えたのですから」

「それは、……どういうことだ」

「私もクロノさんを、煙に巻くのはやめますよ。ウソもナシです。騙し打ちもしませんよ。安心してください。今、これから私がこの先に語る言葉は、すべて事実です。そう約束しましょう。クロノさんが、信じるかどうかは、ご自由に」

わざわざ人気のない場所にいない場所を選んだ。それは、この話をするためなのだろう。

「アリアは魔眼を持って産まれました。忌み子は天に還せ。赤子の時点で殺さねばならない存在です。ですが、彼女の母は、その教義を破りました。シンの双子の妹、アリアを人目にさらさず、屋根裏部屋で生かすことを選択しました」

シンの家も、決して裕福な家とは言えなかった。シンの母親も悩んでの、苦渋の決断だったのだろう。その、是非を問うことは、俺にはできない。

「アリア。その子が屋根裏部屋で生涯を終えなきゃいけなかった理由か……。一生を屋根裏部屋で過ごす。そりゃ、想像できないくらい辛かっただろうな……」

「違いますよ。誤解がないように、一番先にお伝えします。これから私が話すお話は、不幸な妹アリアの生涯の話、――ではありません。真逆です。満ち足り、幸福に生をまっとうしたアリアのお話です。くれぐれも、勘違いなさらぬよう」

「ああ、わかった。チャチャ入れたりしねぇよ」

「シン。アレは、どこに出しても恥ずかしい、愚かで駄目な弟ですよ。ですが、あの不出来な弟にも一つだけ、心の底から感謝していることがあるんですよ」

「それは、なんだ?」

「アリアとずっと一緒に居てくれたこと。最後の瞬間まで、アリアをひとりぼっちにしなかったこと。恋することの素晴らしさ、女としての喜びを教えてあげたこと。……ともに笑い、ともに怒り、ともに悲しみ、……幸せにしてくれたこと」

「……、……」

「アリアの日記。そこには、喜びに満ちあふれていました。天井が低い薄暗い陰鬱な屋根裏部屋が、彼女にとっての世界のすべてでした。アリアの日記は最初から最後までシンとの思い出が描かれています。絶望のなかで産まれながら、その最後の瞬間まで、アリアの心は絶望に蝕まれることはなかった。アリアの世界を作ったのは、シンなのです」

「私が自ら勇者パーティーに加わろうと思ったのは、回収したアリアの日記の男、弟がどんな人間か興味があったからです」

「で、どうだった。おまえの自慢の弟は?」

「正直、愕然としましたね。アリアの日記と全然印象が違いましたから。とんでもない愚か者でした。優れているのは顔だけです。愚かな父の血を色濃く受け継いでしまったのでしょうね。腹違いとはいえ私の弟が、ヘラヘラしながら、アヒアヒアヒージョ! とか言いだした時は、……さすがに、卒倒しそうになりましたよ」

……。はっ!? アヒアヒアヒージョ? おまっ、いったいどんな文脈で言ったんだよ? シンっ、マジ、……正気か? ! 

「そりゃ、……おまえも、大変だったな。よくわかんが」

「はい。このように愚かな弟ですが、シンが実現しようとしていることは、応援してあげたいんですよ。それはアリアのためになることなので。アリアが生きていたことを世界に示したい。それは、私も同じ気持ちですからね」

「へぇ。おまえ、意外に兄妹思いじゃねぇか」

まあ、……良い感じのことを言ってるが。王都での戦いではどさくさにまぎれて、血のつながった弟のシンを殺そうとしてたけどな?

 槍の雨で。つか、シンもよくかわせたな、アレ。セーラは妹のアリアに感じている肉親の情を、シンには感じていないと見た。

まあ、シンの自業自得だけど。いや、そもそもシンに向けたどさくさ槍の一撃も、大聖女のおちゃぴーなイタズラ。とか、言い出しかねない雰囲気はあるけどな? 

「法、秩序、教義、言語化されていない数え切れない暗黙のルール。それぞれ異なる価値観をもった人族、魔族が共生していくために作った発明。ですがそれは、本当に絶対に守らなければならない物でしょうか? 私には疑問です」

「秩序を司る大聖女様が、ずいぶん冒涜的だな。ま、その方がおまえらしいけど」

「人を幸福にするために作られた物が、人の幸せを奪う。本末転倒です。人の産まれてくる理由は、幸福な生を遂げること。つまるところ、それが成せるのであれば、正しさ、法、秩序、教義、どれも守る価値などはないのですよ」

「あんがとよ、話を聞けて良かったぜ。はじめておまえに好感を持てたぜ」

「あら。クロノさんも、私と同じ考えでしょうか?」

「おまえの考えを、否定も肯定もしねぇさ。だけどよ、おまえが自分以外の人間の幸せを祈っていたこと。おまえが誰かを想う気持ちがあったって、――それが俺には、単純に嬉しかったぜッ!」

「血のつながった兄妹がおぞましいと思いませんでしたか?」

「いいや。思わねぇし、言わねぇさ」

人を好きになるってのは理屈じゃない。ふたりの間に芽生えた感情を否定できない。道ならぬ恋という物もある。時に法や教義に反することもあるだろう。

「ありがとうございます。アリアを認めていただき。これは、ささやかな大聖女の恩返しですよ。千切れ、捻れ、爆ぜ飛び、死ね〈ビーストハンド・666〉」

セーラの右手が瞬時に魔獣の腕に。横薙ぎに豪腕が振るわれる。主祭壇が、――爆散した。圧倒的な殺意をもった一撃。木片が、あたりに飛び散る。――かわせたッ!

 いきなり即死の一撃かよッ! なーにが、大聖女の恩返しだよッ! とんだ仇返しだな? ! つか今、〈ビースト〉とか言ってやがったな?

 教会とか、聖なる物と真逆のモンだぜッ! まあ、……うん。むしろ、イメージ通りだよッ! つか、騙し打ちとかしないっての、ウソだったな?!

 まぁねッ! 知ってたけどさッ!!! 

「っと! おまえは、本当にッ……。だけどよ、おまえの心は伝わった。その是非については、俺は何も言わねぇさ。それにな、こうやって殴り合うなら、何考えてんのか分からねぇ野郎と戦うより、よっぽどその方が燃えるってもんだぜ!」
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