電光石火の雷術師~聖剣で貫かれ奈落で覚醒しましたが、それはそれとして勇者は自首して下さい~

にゃーにゃ

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第37話『早業師と手品師』

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「では、ゆくぞ、クロノ」

「ああ。良いとも。来いよ!」

 目の前のクロトカゲが消える。 と、思ったら頭上から。 片手にはナイフ。

「はっ! まるで手品だな!」

「そうさ。これは、手品だからな」

 魔法ともスキルとも異質の力。 この女は確かにその力を持っている。

「あんた、なかなか早いな!」

「それはこちらのセリフなのだがな」

 目の前に居たはずの女が、……後ろに。 頭上にいたと思ったら、目の前に。 目がまわる戦いだ。

「それでは次の場所へ、ご招待。あわせ鏡の間だ」

「いたれりつくせりだな。総支配人さんよッ!」

 ナイフでのつばぜり合いをしながら、進む。 次なる決闘の舞台は、あわせ鏡の間。 

「こちらもまだ一般入場を制限しているエリアだ」

「そりゃ、光栄だ」

 部屋のなかが全て鏡張り。クロトカゲと俺があちこちに写しだされる。

「この部屋は天井も床も壁も鏡張り。ちょっとした迷路になっている」

「はっ! 一般公開の前に、床の鏡だけははがすことをオススメするぜッ!」

「ふむ。興味深い。聞いておこう。――なぜだ?」

「おまえのパンツが見えてるからだよッ!――フリフリなエグいくらいかわいいパンツがなッ!」

「――――ッ!! ッッ!!!!!」

「はっ! やるじゃん、やっぱ意外性は基本だからなッ!」

 なんだ? 意外に乙女か? 微妙にパンツが見えない角度に調整してるな。

「クロノ、貴様にはあわせ鏡の間でこの私を捕まえることができるかな?」

「いいぜ。雷術〈聴覚強化〉」

 光なき奈落。 コイツのおかげで命拾いできた。

(まあ。聖剣で貫かれなければ、死にかける事はなかったがな!)

 鏡の間。視覚情報が膨大。目からはいる情報に頼れば負ける。うしろから近づいて生きているクロトカゲ。 これは、鏡の写した虚像のはず。

「なっ!? 実態だと!」

「音を頼りに私を見破ろうという発想は評価しよう。だが」

 鏡の中に消えた?

「――ここだ」

 鏡から右腕だけが唐突に現れる。
 クロトカゲのナイフが鼻先をかすめる。

「っと! ぶねぇ! やるじゃん」

「やれやれ。これも躱すか。電光石火の早業師、といったところだな」

「あんたは、神速の手品師だ。この島に来る子供でも喜ばせてりゃいい」

「ふっ。貴様を倒したら、検討させてもらうぞ」

 鏡のなかにゆらりと消えた。 攻撃の時にナイフを持っている。 ならば、そのナイフが近づく瞬間さえ分かれば。 

「雷術〈電磁結界〉! みつけたぞクロトカゲッ! そこだッ!!」

 クロトカゲのマントをつかみ。 そのまま、鏡の床に叩きつける。

「ぐっ、かはっ! ならば案内してやろう。黄泉路へとなッ!」

 クロトカゲが横たわる鏡の床が崩れ落ちる。 そして、戦いは次の舞台へと。
第38話『ルル』

 あわせ鏡の間の床が抜けおちる。 俺とクロトカゲは吸い込まれるように下の階層に落ちる。 

「貴様、あの高さから飛び降り、ケガ一つしないとは恐れ入るよ」

「あいにくだったな! 高いとこから飛びおりるのは慣れてるんでな」

 まあ、奈落にみたいな底なしじゃなくて安心したけどな。目測で25メートルといったところだ。 奈落の高さにくらべれば、階段を1段飛び越える程度のモンだ。

「貴様をこの部屋に招待するつもりは、なかったのだがな」

「みたいだな。ずいぶんと殺風景で無機質な場所だ」

 レプリカ美術館、あわせ鏡の間。どこも特殊な部屋だった。ここは、殺風景なだだっ広いだけの部屋。

「私の美学とは反するが、許せ。楽屋裏なのでな。だが、広さは十分にある」

「そうか。なら、続きをやるか!」

 クロトカゲはナイフを片手に構える。手品めいた動きはない。

「くっ。鏡の間で貴様を殺しつくせるはずだったのだがな!」

「はん! 運が悪かったと諦めな!」

 この部屋は殺風景で何もない。壁一面に島全体と近海が映っている。

「気づいたか。この部屋はパノラマ島の全景とその近海を確認することができる場所だ。賊が攻め込む前に先手を打つための防衛の要だよ。先日の賊の襲撃もこの部屋で事前に察知できたから、完璧に対策ができた、という訳だ」

「ほう、どんな仕掛けだ?」

「たいした物ではないさ。鏡の反射の応用だ」

 壁に映しだされている映像に動きが。

「ちぃ……。あれだけ叩きのめして、まだ諦めぬと言うのか」

「ああいうヤカラはシツコイからな」

「すまぬ。この勝負、私の負けだ」

 クロトカゲが両手を上げている。
 降参のポーズだ。

「このような興ざめな幕切れになってしまったのは、残念だ。だが、私情を優先できる場面ではない。私が、前線に出て、迎え撃つ」

「敵は島の三方向から攻めてきている。全てを防ぐのは、不可能だ」

「そのようなことは、分かっている。だが、やるしかないのだ。この島の民にも、来島者にも血を流させるわけにはいかぬ」

「冷静になれ。おまえらしくも無いぞ、クロトカゲ」

「落ち着いてなどいられるものかッ! もはや、勝負だ美学だのといっている場合ではない! 都合のいい話だと思うが、クロノ、この場は私を見過せ! 全てが終われば、必ず貴様の元に戻り、私の首を差し出すと約束しよう。 だが……今は!」

「クビなんていらねぇ。そんなグロい趣味はねぇ。もう一度言う。冷静になれ。壁に映っている島をよーく見てみろ。 南東と北西、海岸線のあたりをな!」

 シンは今、この館の屋上、野外劇場。島に押し寄せるこの賊の接近に気づけない。いまこの瞬間は島の警備がもっとも薄い。

 賊には美学も矜持もない。 だから、警戒してもし過ぎることはない。そして、案の定だ。

「島に上陸、各国の要人を盾に脅迫、島を占拠。そんなところか」

 狡猾で、しぶとく、執念深い。 だけどな!――それを見越して、こちとら準備は完璧だ!

「俺の最強のカードを切らせてもらうぜ。あんたの大魔術よりスゲェ奴を!」

「ほう。貴様のカードをみせてみせよ」

「いいぜ! これが俺の切り札だ!」

 俺は通信魔法を使う。 通信魔法の先はルルに繋がっている。

「ルル、くわしい説明はあとだ。 俺はいまこの島を超上空から鳥瞰できる場所にいる。予想通り、賊が島に迫っている。ルルは配置に付いているか?」

《うむ! あるじ様の指示通りじゃ、教会と商会の残党がまだ生き残っておった、今度は、一箇所にとどまらず、少数で散らばりながら攻めようとしておるのじゃ》

「さすルルだ。 賊の位置やうごきは、この通信魔法でつたえる。 ルルは一人も残さずブチのめせ。 やれるな?  ルル、おまえの本気はハンパねぇ!」

《もちろんなのじゃっ! 気合も魔力も完全に整っておる! 超規模魔法の準備も整っておるのじゃ! この戦いが終わったら、あるじ様にプロポーズするのじゃ!》 死亡フラグ? んなの、くれてやるかよッ!

「はっ! ルル。 この戦いが終わっても、プロポーズなんてさせてやんねぇよッ! それはなぁ、――それはなぁ、俺のセリフなんだよッ! プロポーズなんていらねぇッ! おまえとあったときから俺のなかで答えは決まってるッ! ルル、いまこの瞬間から俺の妻になれ! 死がふたりを分かつまで毎日マクラ投げ大会だッ! 世界は広い! おまえが千年前に暮らしていたところだって見に行きたい! ふたりでやりたいことがたくさんあんだよ! すっげー愛してるぜッ! ルルッ!!!」

 言葉があふれ出てくる。 言葉が言葉をつむぎ、あふれでる。 途中から自分でも何を言っているのか分からない。 ルルとの友達のようなゆるい関係が心地よ過ぎた。

 いつの日からかその変化をビビるようになってた。 だけど、変わらない関係なんてねぇ。 クソダセェのはもう終わりだ。 この胸の高鳴りこそが、真実だ。

 俺が本当に何をしたかったのか。 ……。ルルとはやりたいことはたくさんある! そりゃまぁ、俺は男だ。清濁あわせ、超超たくさんだッ!

 やりたいことは、たくさんあるぜ! 勢い任せの判断は間違いの元? んなこたぁ、知らねぇさッ! 人生は短い! 立ち止まって迷っている時間なんてねぇ。

 それにな、間違ってたたら、そん時に考えりゃいいだけさッ!

《あるじ様よ……本当にわらわでよいのじゃな……》

 何度だって言ってやる。一万回でも。イエスだッ!

「――ッだがなッ! その前に、やらなきゃいけないことがある。 分かっているな! 俺たちは最強だ。 最強のタッグで、最強の夫婦だ! みせつけてやろうぜッ! おれたちの夫婦としての初めての共同作業をッ!」

《まっ、妻のわらわに、まっかせるのじゃぁぁあああああああッ!!!!》
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