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第63話『ステラとアッシュ』【二人の娘編】

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「アッシュ、また考えごと?」

 妻のステラだ。サムライ詐欺のゴザルマンからもらった世界樹の木の実の影響で、妻の容姿は今も十代のように若々しく、美しい。

 俺も無数の呪いの装備の影響か、老化が遅くなっている。そのため、初対面の人には20代とまちがわれることも多い。

「むぅ、すまない。ポルカのことが心配で」

「大丈夫。ポルカちゃんも、もう14歳。私もそのくらいの頃には冒険者をしていたんだから」

 でも、最初に出会った時ってお互い無職だっったよね?そんな言葉が喉まで出かけたが、グッと我慢した。今や、俺もポークルの里の里長だ。人族である俺が、長につくことにちょっとした申し訳なさはあった。

 だけど、里の人間は俺が何者かと気にする者は居なかった。

(きっと、ステラのご両親が信頼を築いていたからだろうな)

 外から入ってきた俺が10年以上も里の長を続けられているのは、妻……。ステラの献身的なサポートがあってのこと。

 俺が出来ることと言えば、害獣の邪竜バハムートを叩き殺したり、スタンピードで里に襲いかかった数千体の魔物を肉塊に変じたり、魔界から突如現れたグレーターデーモンの群れが襲撃してきた時に皆殺しにしたくらい……。

(……里長ともあろうものが、この程度しか出来ないとは。こんなことは誰でもできることだ)

 自分の不甲斐なさを恥ずかしい。そんな俺をステラが後ろから優しく抱きしめる。

「アッシュ、あなたは頑張っているわ」

 ほっとしたと同時に、申し訳ないが、少しムラっとした。いや、他意はないのだが……。これは、脳と異なる部分で行われる生理現象なので許して欲しい。

「やはり、ポルカが心配だ」

「そうね。あなたの言うことも一理あるはね」

 親が子供に過度な干渉をするのはあまりよくないことだ。それは理屈では分かっている。
 
(……分かってはいるのだ)

 家を出て、冒険者になった娘の勇気を誇りに思っている。父親としては、娘の成長をもっと見たかったというエゴはある。だがこの世界においてはそれは、過保護が過ぎるというものだ。

「寂しくないように、ねこすけを転移させてみたらどうかしら?」

 ねこすけは、ポルカの飼っていた猫だ。転移の魔法を使えばこっちとあっちを行ったり来たりさせることもできる。距離こそ離れているが、猫くらいを送るくらいは造作もない。

「でも……。さすがに怪しまれるのでは?」

「大丈夫よ。ポルカちゃんは、あなたに似ていてぼんやりしたところがあるから」

(……ぼんやり、とは?)

 妻に「ぼんやり」と思われていたことに少しショックをおぼえるも、一理はある。ポルカはあまり細かいことは気にしない性格だ。

「さすがはステラだ。ありがとう」

「いえいえ、どういいたしまして」

 そう言って頬に軽く口づけをしてくれた。
 ……好きだ、ステラ。愛している。
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