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第104話『戦後処理』

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「ところで大将。あのベオオルフと傭兵国の民の行為……。見過ごして良いんすか。ギルドマスターとしては。俺たち、下々の人間は問題ないとして。大将は見過ごしたら問題とかにならないんすか?」

「肯定だ。まったく、問題にはならない。ギルドが掲げているのは、秩序、公平、法。――――だが、それが適応されるのはあくまでも王都内のみ」






「なるほど。他国のことにはつべこべ言う権利は、ないと」

「肯定だ。……もちろん例外はあるがな。他国の民と言えど、まったく罪のない無辜の民が私の眼前で……あのような筆舌に尽くしがたい……状態になっていれば、王都の威信にかけ、私も止めに入ろう」

「まぁ。そりゃそっすね。常識的に考えて」






「だが、アレは人の形をしているが。兵器。モノ。他国の民である私がとやかく言う筋のことではない。確かに見るに耐えない、惨状ではあるが。傭兵王も専門家だ。奴にも考えあってのことだろう。放っておくのが最善だ」


「はぁ……なるほどねぇ……。シン、……アイツもおとなしく俺たちに殺されていたらよほど幸せだったろうに……人を苦しませる方法がこんなにあるなんて俺は知りたくなかったぜ。……専門家を敵に回したくはねぇもんだな」





「肯定だ。奴等には今後も極力、関わるな。そして、貴君らがヤツのアレを覚える必要はない。アレは傭兵国の作法。私は、あそこまでの行為を貴君らが行うことを許容しない。貴君ら、執行者権限を持つ者。悪を討つために、悪をなす事をギルドマスターの名において。つまり私が課した、職務だ。…………とはいえだ、……『悪を成して悪を討て』。この言葉にも限度はある。アレは専門家の領域だ。貴君らが、あそこまでの個人への制裁を行うことを、禁ずる」

「そっすね。執行者の所掌ではないっすね。了解っす」





「…………それよりも、大将事態を随分と把握しているみたいっすが、この状況、改めて俺の口から説明は必要っすか?」

「いや、不要だ。私は貴君らの戦いも、シンという存在の脅威も全てを知っている。……思念伝達遺物《シンプレックス》で傭兵王から聞いただろ。戦争は終わった。そして使い魔も貴君らが討伐した。さらには、君たちは蘇った。――――十分過ぎる結果だ」

「そんじゃ今回は、報告書はなしでも、いっすかね?」






「否定だ。――確かに、私は全てっを知っている。とはいえ、それはただ見て、知っているだけのことだ。報告書には君の想いがこもる、君が今回の最終任務にあたって見て、感じたことをいつもどおり報告書にまとめ、提出してくれ」

「はぁ。……報告書かぁ。書くこと多いからなぁ」

「今回は猶予を与えよう。提出日は明日の明朝までで構わない。特例だ」




「いや、……明日の明朝って、十分提出期限短いんですけど? 大将」

「否定だ。ユーリ。最終任務を成し遂げた君なら、できる」

「はいはい。書きますよ」





 漆黒のなかで報告書を書けるのはユーリだけ。
 意外にも最も知識豊富なマルマロが書けない。
 何事も得意分野はあるということだ。






「……戦争責任。ギルドマスターも含め、俺たちどうなるんっすか?」

「採掘都市国家の王の暴走による決起。王都との直接戦争は未然に防がれた。そして王都はこの事態に一切関与していない。……採掘都市国家は、いまは食料、経済的に厳しい状況だ、だから今すぐの賠償は求めない。だが、別の形で王都の有利になるように動いてもらうように、……なっている。根回しも終わっている」

「大将は用意周到過ぎて、言葉がねぇや。王都結界《アイギアス》の件はどう説明するつもりっすか?」






「もとより王都結界《アイギアス》は、予行演習と民に周知していた。だからそれ以上でもそれ以下でもない。王都結界《アイギアス》の展開は、あくまでも予行演習。その間に、採掘都市国家が動いたのは。採掘国と傭兵国の兵は戦争に赴いて、王都の領地の村……つまりユーリの村にて、使い魔と、謎の四人の大悪魔が滅ぼしたことに

、すか。大将にとっては、もう過去形なんすね」





「肯定だ。――――すでに戦後のおおまかな落とし所は決まっている。採掘都市国家の次期国王と王都のギルドマスターの二者で、決めたことだ。目撃者がいくら居ようと、君たちの存在は一切の記録に残らない。……王都は、貴君らを含め、この大規模な災害に関与していない」

「大将にしては随分と、甘い処遇で」

「……まぁ、本来であれば、戦争をけしかけてきた相手に対して賠償金をガッポリともらってもよいところだが、ない袖は振れないだろう。貸しを作っておいた方が、何かと都合がいい」






「いやいや、次期国王と話をつけたって、……ギルドマスターはさすが、仕事早いっすね。まだ一日も経っていないっすけど。まぁ、これ以上俺は聞きません」

「――そうか」





「そうそう。大将の言った通り、二国間で話し合いが済んでいるのであれば、今回の一件は公的な記録には残らないんでしょうぜ。だけど……どんなに事実を捻じ曲げようと、人は自分が見たものを語り継ぎますぜ。完全に隠匿するのは不可能です」


「そうだな。そうかもしれない。人の口に戸は立てられない。公式な記録としては残らないだろう。だから、子供に読み聞かせる、おとぎ話にでもなるかもしれないな」


「おとぎ話というより、大人向けのホラーって感じですけどね?」
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