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3月11日 37回目
やっと綾の退院が決まった。
“したいことノート”にはまだ室内の事が書いてあったが、特別に書き換えることにして、その元37個目はまた別の日にする事とした。
新37個目は、水族館に行きたい。だった。
勿論行かない理由がないのですぐにチケットを取って水族館に行った。久しぶりに綾と二人で出かけられたのが嬉しかったし、綾から目が離せなくて正直魚たちより綾を見ていた。彼女が この魚可愛い、と言うけど僕は発見できず もう、ちゃんとみて!と頬を膨らませられた。 ごめん、綾を見てて。と言うと綾は真っ赤になった。僕も何を正直に言ってるんだ、と思い時間差で赤くなっていたと思う。その後も二人は水族館を楽しんだ。イルカショーでは水を沢山かけられたしペンギンにはそっぽを向かれたが、忘れられない思い出ができたねと笑いあった。
「楽しかったね」
「そうだね」
「あ、今度はさ、あの関西にある大きい水族館行きたい、」
「いいね」
「でしょ、旅行がてら行きたいなぁ…」
「行こうね」
「うん」
いつの間にか僕たちは自然に未来の話ができるようになっていた。このまま彼女は元気になってくれるんじゃないか。病気が治るんじゃないか、心の中でそんな風に思っていた。けれど現実はそんなに甘くなかった。
“したいこと”が40個目を迎えてから、綾は次の週の分のノートを見せてくれなくなった。
彼女曰く、「その日に言われた方がドキドキするでしょ?」との事らしい。
急に言われて準備ができるか不安だったが、綾が頑なに見せないと言うので従うことにした。
……
4月8日 41個目
映画を見に行った。
女子は恋愛ものが好きだと勝手に思っていた。まあ僕の女子のサンプルなんて春香しかないからアテにならないのだが。
僕の予想に反して綾が見たがったのはコメディ映画とホラーサスペンス映画だった。コメディ映画はよく分からない芸人がたくさん出ていたが本当に面白く、無い腹筋が割れるんじゃないかと思うぐらい笑ってしまった。お昼ご飯を食べて、その後に見たホラーサスペンス映画の方はデスゲームもので、最初はありがちな展開だな、と思ったのだが段々と世界観に引き込まれていって、主人公に感情移入して見てしまいハラハラドキドキでこちらもとても面白かった。綾は映画より僕の反応を見て楽しんでいたらしい。なんでだよ、と思ったけど水族館の時僕もそんな感じだったな、と思って呑み込んだ。
……
4月15日 42個目。
お花見をしに行った。
例の、そう。僕と綾が出会った公園である。
しかし今日は“いつもの場所”ではなく、公園の開けた所、大きな桜の木の近くにレジャーシートを引いてお弁当を広げた。お互いにお弁当を作りあってきて、半分こして食べた。綾は料理上手で、とても美味しかったのを今でもよく覚えている。一方僕はさっきも言ったけれど器用な方ではない。若干焦げた卵焼き(これでもやり直した)に、どこかが変なタコさん?ウインナー。それでも綾はは可愛い~!!と喜び、美味しそうに食べてくれた。
そして僕たちは人が多い広場を離れ、“いつも”の場所に向かった。勿論、誰もいない。さっきまでの騒がしさが嘘のように静かだ。相変わらず色とりどりの花が咲き乱れている。
「もったいないよね、こんなに綺麗なのにさ」
「そうかもね、けど私は 私と瑞樹くんだけの秘密の場所、って感じで好きだよ」
「…それもいいね」
「でしょ!…よっと、」 彼女はまた軽々と柵を乗り越えた
「懐かしいね」
「そうだね …あのさ、瑞樹くんは何で、死のうとしてたの」
「…つまんない事だよ。両親が離婚するってなって、どっちについてくのか~みたいな争いが始まって、どっちを選んでもどっちかは傷付くし、みたいな感じになって。受験も上手くいかなくて志望校は落ちるし、友達も居なくて毎日退屈だし。生きがいも生きる意味もなくて、何が楽しくて、何のために毎日生きてるのかわかんなくなってた。」
「そっか」
「うん でも綾に出会って、少し変わった。友達だって自分から話してみないと出来ないし、話してみると全然印象が違うこともあるんだなって野々宮で学んだし、僕の悩みなんて小さいもんだなって どこにでもありふれてることだし。」
「…それでも、瑞樹くんは辛かったんでしょ。皆辛いから瑞樹が辛くないわけじゃないよ。ありふれてるからって平気なわけじゃないよ。よく頑張ったね。あの日まで死なないでくれて、私と出会ってくれてありがとう。」
僕は泣いてしまった。あれだけ泣かないと決めていたのに、声を上げて泣いてしまった。綾は何も言わずただ隣にいてくれた。やがて陽は落ちてきて空が真っ赤に染まり、暗くなる。“いつも”の景色なはずなのに、久しぶりに見たせいなのか、それとももっと別の何かなのか。酷く切ない空に感じた。
やっと綾の退院が決まった。
“したいことノート”にはまだ室内の事が書いてあったが、特別に書き換えることにして、その元37個目はまた別の日にする事とした。
新37個目は、水族館に行きたい。だった。
勿論行かない理由がないのですぐにチケットを取って水族館に行った。久しぶりに綾と二人で出かけられたのが嬉しかったし、綾から目が離せなくて正直魚たちより綾を見ていた。彼女が この魚可愛い、と言うけど僕は発見できず もう、ちゃんとみて!と頬を膨らませられた。 ごめん、綾を見てて。と言うと綾は真っ赤になった。僕も何を正直に言ってるんだ、と思い時間差で赤くなっていたと思う。その後も二人は水族館を楽しんだ。イルカショーでは水を沢山かけられたしペンギンにはそっぽを向かれたが、忘れられない思い出ができたねと笑いあった。
「楽しかったね」
「そうだね」
「あ、今度はさ、あの関西にある大きい水族館行きたい、」
「いいね」
「でしょ、旅行がてら行きたいなぁ…」
「行こうね」
「うん」
いつの間にか僕たちは自然に未来の話ができるようになっていた。このまま彼女は元気になってくれるんじゃないか。病気が治るんじゃないか、心の中でそんな風に思っていた。けれど現実はそんなに甘くなかった。
“したいこと”が40個目を迎えてから、綾は次の週の分のノートを見せてくれなくなった。
彼女曰く、「その日に言われた方がドキドキするでしょ?」との事らしい。
急に言われて準備ができるか不安だったが、綾が頑なに見せないと言うので従うことにした。
……
4月8日 41個目
映画を見に行った。
女子は恋愛ものが好きだと勝手に思っていた。まあ僕の女子のサンプルなんて春香しかないからアテにならないのだが。
僕の予想に反して綾が見たがったのはコメディ映画とホラーサスペンス映画だった。コメディ映画はよく分からない芸人がたくさん出ていたが本当に面白く、無い腹筋が割れるんじゃないかと思うぐらい笑ってしまった。お昼ご飯を食べて、その後に見たホラーサスペンス映画の方はデスゲームもので、最初はありがちな展開だな、と思ったのだが段々と世界観に引き込まれていって、主人公に感情移入して見てしまいハラハラドキドキでこちらもとても面白かった。綾は映画より僕の反応を見て楽しんでいたらしい。なんでだよ、と思ったけど水族館の時僕もそんな感じだったな、と思って呑み込んだ。
……
4月15日 42個目。
お花見をしに行った。
例の、そう。僕と綾が出会った公園である。
しかし今日は“いつもの場所”ではなく、公園の開けた所、大きな桜の木の近くにレジャーシートを引いてお弁当を広げた。お互いにお弁当を作りあってきて、半分こして食べた。綾は料理上手で、とても美味しかったのを今でもよく覚えている。一方僕はさっきも言ったけれど器用な方ではない。若干焦げた卵焼き(これでもやり直した)に、どこかが変なタコさん?ウインナー。それでも綾はは可愛い~!!と喜び、美味しそうに食べてくれた。
そして僕たちは人が多い広場を離れ、“いつも”の場所に向かった。勿論、誰もいない。さっきまでの騒がしさが嘘のように静かだ。相変わらず色とりどりの花が咲き乱れている。
「もったいないよね、こんなに綺麗なのにさ」
「そうかもね、けど私は 私と瑞樹くんだけの秘密の場所、って感じで好きだよ」
「…それもいいね」
「でしょ!…よっと、」 彼女はまた軽々と柵を乗り越えた
「懐かしいね」
「そうだね …あのさ、瑞樹くんは何で、死のうとしてたの」
「…つまんない事だよ。両親が離婚するってなって、どっちについてくのか~みたいな争いが始まって、どっちを選んでもどっちかは傷付くし、みたいな感じになって。受験も上手くいかなくて志望校は落ちるし、友達も居なくて毎日退屈だし。生きがいも生きる意味もなくて、何が楽しくて、何のために毎日生きてるのかわかんなくなってた。」
「そっか」
「うん でも綾に出会って、少し変わった。友達だって自分から話してみないと出来ないし、話してみると全然印象が違うこともあるんだなって野々宮で学んだし、僕の悩みなんて小さいもんだなって どこにでもありふれてることだし。」
「…それでも、瑞樹くんは辛かったんでしょ。皆辛いから瑞樹が辛くないわけじゃないよ。ありふれてるからって平気なわけじゃないよ。よく頑張ったね。あの日まで死なないでくれて、私と出会ってくれてありがとう。」
僕は泣いてしまった。あれだけ泣かないと決めていたのに、声を上げて泣いてしまった。綾は何も言わずただ隣にいてくれた。やがて陽は落ちてきて空が真っ赤に染まり、暗くなる。“いつも”の景色なはずなのに、久しぶりに見たせいなのか、それとももっと別の何かなのか。酷く切ない空に感じた。
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