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20 お花のお婆さん

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 お花屋さんは村にはなかった。

 だが、趣味でお花を育てているお婆さんが居た。

 名前をセリーヌ。この村の一番のお金持ちで、少しお鼻が長いお婆さんだ。

 母マザリー経由で事情を説明したら、取り合えず挨拶に来るように言われた。
 
 何でも甘いものが好きらしく、手土産としてマザリーからクッキーを渡された。

 これで、バッチリとのことだ。

「お花、舐めてるね?」

 開口一番の言葉だった。

 なんでもセリーヌさんが言うには、俺には花壇はまだ早いらしい。花が必要とする水と栄養は種類によって細かく分かれており、一緒の花壇に植えては片方、もしくは互いの成長の妨げとなるらしい。

 言われみれば気付きそうなことだが、言われないと一生気付かないことだ。
 
 俺はセリーヌさんから勉強として草花の専門書と花瓶を三つ貰った。

 赤と青と黄色のちっちゃな花瓶だ。

「アンコ。この種を植えなさい?」
「コレ、何の種?」
「ダイナックス、オレレン、シープラージの種だ。全部、紅茶の茶葉に使える」

 ダイナックスはピンクと紫色の花。
 オレレンは酸っぱい黄色の実をつける花。
 シープラージは白い花で、甘くスッキリ感の強い蜜を作る。

「なんで、この種なの?」
「私が飲みたいからだよ。せっかく教えてやるんだから、私にも旨みが欲しいんだよ」

 持ちつ持たれつの関係というが、俺のほうがメリットが大きいのは明白だった。

 辛口なお婆さんだが、子供には甘いのかもしれない。

「ありがとう」
「……素直だね?」

 訝しい目で見られた。

 なんで!?

「私は構わないけど、貴方はえのぐ、とやらを作りたいんだろう」

 そう言われて俺はセリーヌさんが何を言いたいのかが分かった。

 絵具の元となる花を作りたいのに、茶葉を作らせようとして文句はないのかと訊いているのだ。

 普通の子どもなら、文句の一つや二つ吐いてもおかしくはない。

 俺だってそう思う。

 ……なんて、答えよう。

 俺がう~ん、と唸っていると、セリーヌさんはため息を吐いた。

「自分でも分からないのかいようだね。まあ、そんな馬鹿な子は嫌いじゃないから、いいけど」
「? ありがとう」
「なんでお礼を言うんだい?」

 互いに首を傾げていた。

「土とスコップも用意してあげるから、自分の家で花瓶に種を植えるんだよ」
「ここじゃあ、ダメなの?」
「全部持っていけないだろう」
 
 花瓶に土を入れた状態では、器を重ねて持っていけないだろうと説明された。

「土なら、タイガー亭の庭にもあるよ」
「私が持っている土のほうが質が良いんだよ」

 土にもこだわりを持っているらしい。

 なんだろう、プロみたいだ。

 素直に感動してしまう。

「おお、お花博士……!」
「ハカセ……。良いことを言うね、お前は」

 セリーヌさんの琴線にもヒットしたらしい。

 勉強代はタダ。ただし、セリーヌ博士と呼ぶようにと命令された。

 博士と呼ばれるたびに自分の鼻を高くするので、かなり気に入っているご様子だった。
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