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更なるプロデュース

05 アイドルとゲーマー

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 アイドルになってから、人の視線を気にするようになって――人の目を見ればどのように自分が映っているのか判るようになった。

 才能とかではない。所謂、職業病。

 人に見られる職業に就いた人は、人に見られていることに慣れていく。

 アイドルとして生きていく上で、一生の付き合いになるこの病は治ることはないだろう。


 ◇ ◇ ◇


 
「ミドリちゃん、凄い……」

 膝を付いている円藤さんの呆けた声が聞こえる。

 円藤さんの両腕を切り落とした技――『土蜘蛛』と叫んでいた。その技を私は力が込められる寸で押し殺すことで、鍔上げを防いだ。

 ――どうしてかな? さっきまでとの戦いとは違って、今は謎の高揚感がある。

 ――なんだろう? 気がする。

 不和ミドリは自分に起きている謎の現象に戸惑いながらも、『夜武者』からの剣を避ける。

 さっきまで避けられなかったはずの、人間ではあり得ない筋肉運動による急な切り返しを避ける。

 そして――『歌劇・切り込み』

『…………!!』

 必殺技は『夜武者』の刀で受け止められる。完全に威力を殺された。

 だが、確かな手応えを感じていた。

 こちらが押している――それを不和ミドリは悟っていた。

 不和ミドリは、言葉を発しない『夜武者』から苦悶の声を聴いた。

 耳ではなく、その目から。

「…………」

 相手はのっぺらぼうの鬼。あるはずのない目から声が聞こえたなど、変な頓智みたいだなと、不破ミドリはどこか可笑しく思い――それが顔に出た。

 その表情は少し口が裂けたように錯覚して見え――少し蛇に似ていた。

 そこからは圧倒的だった。

 互いの残り僅かな体力HPが減ってさえいないが、『夜武者』は不和ミドリの応酬を受け止めることで精一杯で足を下げ続けている。反撃や返しの一撃は、当然『夜武者』も繰り出しているのだが、全て完璧に回避されていた。


 ◇ ◇ ◇


 盤上から俯瞰しているはずの黒部フネは、謎の現象に冷や汗を出す。

「……ふざけるなよ」

 黒部フネは自動操縦から手動操縦に切り替える際、最大の敵は円藤桜音だと思っていた。執着心が人の倍ある彼女に勝つには、かなりのゲームセンスが必要となる。

 だから、黒部フネは『全力無双』を80プレイした。必殺技の連続、コマンド入力が難しい小技なども目を瞑って行えるレベルまで持っていった。

 そして、作戦通りに円藤桜音を戦闘不能にした。

 ――なのに。

「……また、避けられた!」

 ――だからこそ、円藤桜音ではなく不和ミドリに押されている現状に納得が出来ない。

「こっちがどれだけゲームしてきたと思ってんのよ、素人の癖に!」

 侮蔑的に言えば、不破ミドリはアイドル馬鹿だ。アイドルにしか脳がない。黒部フネの提案に乗ったのも、所詮アイドルとしてレベルアップするための踏み台としての認識なんだろう。

 黒部フネが最近思ったことだ。それに対して不満はない。こちらも相手を都合よく利用したのだ。不満を言うほうが間違っている。

 だが、ゲーム時間が圧倒的に不足している相手に負けるのは、一人のゲーマーとしてあってはならない。更に、単なるゲーマーではなくゲームそのものを創ったのだ。

 ゲームという舞台で黒部フネゲーマー不和ミドリアイドルに負けるなど、屈辱以外の何でもない。

 負けてはならない――そんな思いで黒部フネはコマンドを押す。
 
「――――あっ」

 『水打ち八つ』――技が発動する直前、不破ミドリの刀と接触し――折れた。

 武器破壊。武器にある一定以上の負荷がかかると発生するシステム。これまでの31回の戦闘で『夜武者』が何度か円藤桜音と不和ミドリに行った妙技の一つだ。

 それが、この土壇場でやり返された。

 不和ミドリは必殺技を繰り出そうとしている。『夜武者』はそれを防ぐ術を失っており、一先ず距離を取ろうとしたが、少し遅かった。

 大きく踏み込んだ不和ミドリの『電演目・核狙い』が『夜武者』の残り体力HPを全損させた。

 『夜武者』黒部フネは不和ミドリに敗北した。
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