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更なるプロデュース

04 のっぺらぼうの鬼

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 『夜武者ヤムザ』との32回目の戦闘が始まった。

 人間のように刀を振るうのっぺらぼうの鬼に、もうゲームの敵キャラだという認識はない。

 最初に戦ったときは、設定されたプログラム通りに攻撃してきた。それに気づき対処しようしたが、『夜武者』の方が私たちに適応するのが早かった。

 こちらの必殺技を放つ際の、を狙って必殺技を振るってきた。鬼の一撃で両腕を切断され――呆然としている私の頭を鷲掴みにし、膝蹴りを入れられた。

 ゲーム上のHPだけでなく心のHPまで全損させられた気分。あの屈辱がなければ鬼への戦いなんて放棄している自信がある。

 せめて一発――首を切断させなければ気が済まない。

 その気持ちで、私は円藤さん考案の必殺技を振るう。彼女曰く、アイドルを連想させる技名らしい。

「――『舞台・空割れ』」

 重い雲に隙間を開けるイメージで切り上げる必殺技で――まず、その左腕を狙う。

 刀は柄の根本で振るい、柄の根本で支える。刀を振るうための基礎であり、これがないと必殺技も技ではなくなる。そう円藤さんから教えて貰った。

 ならば、その左腕を奪えば『夜武者』の攻撃力を削ぐことが出来る。

 ――バキンッ!

 私の刀は『夜武者』の左腕を切り飛ばした。

『……』

 叫び声でも上げるのかと思ったが、そもそものっぺだぼうの鬼には叫ぶ口がなかった。

 鬼は何事もなかったかのように攻撃を――右腕で技を繰り出した。

 ――『砂のあかぎれ』。

 ノイズ音を無理やり加工しなおしたような、機械の言葉が聞こえる。

 刀で斬るというよりも――その圧で潰すような衝撃はで私を殺しに来る。

「――――セーフゥゥゥゥ!!!」

 それは円藤さん自らに対する鼓舞の声だった。

 衝撃波が私を圧死させる前に、同じように衝撃波を放つ技――『壁飛ばし』で威力を相殺した。

「円藤さん!」
「一度距離を取って、コンビネーションでいくよ!」

 二人一組ツーマンセルを活かした連続攻撃。それでも、本来ならのっぺらぼうの鬼には力負けしていたんだけど――今のあいつは力の元である左腕を失っている。

 力の踏ん張りが効かない。

「はああああああー!!」

 ――『舞踊・踏切りの返し』

 小さな足踏みの連続ステップにより加速した刀による横薙ぎ。それを『夜武者』の空いた胴に浴びせる。

 もちろん、刀で防がれる。しかし、こちらが力押ししている。返される気配が全くない。

「――『新刷・紙切れ』」

 すかさず円藤さんが鋭い刃を当てる。一迅の風を思わせる攻撃は『夜武者』の残りの右腕を傷つける。細く、そして深い傷に『夜武者』が不利になっていく状況に呻いているように見えた。

 私は、今度は円藤さんとタイミングを合わせるため、技名を口に出す。

「――『歌劇・切り込み』」

 大きく回りながらの袈裟切り。技名を出してからの攻撃―ーその意図を汲んでくれた円藤さんは刺突技を放つ。

「――『隙間風穴』」

 袈裟切りを防ごうと動かした右腕――それを縫い留めるかのように円藤さんの刺突技が刺さり、袈裟切りが深く当たる。

 今までの経験的に、もう『夜武者』の体力HP1割レッドラインを切っている。だけど、ここで油断はしない。私たちは一気に畳みかえるため、技を放つ。

「一気に行くからね!」

 言わないでも判っているから。
 好きではない相棒とはいえ、ずっと一緒に剣を振ってきた。考えは同じに決まっているのだ。

 ――『電演目・核狙い』
 ――『返し船・一迅』

 勝った!!


 ◇ ◇ ◇


 のっぺらぼうの鬼『夜武者』をオートモードからマニュアルに変更する。

 コントローラを持っているのは、もちろん黒部フネだ。

「――『水打ち八つ』」

 コマンドを入力し――技が発動した。

 水切りの波紋が八個連なる様子をイメージした技。人間では故障してしまう筋肉の連続運動が生み出す連続の衝撃波は、容易く二人の少女を吹き飛ばす。

 ……困惑した友達二人を見ながら違うことを考えてしまった。

 どうして技名を口にしながらボタンを押すと、上手く発動するのだろう――と。

 美川恵美子前世のときからのジンクスみたいなものだけど、それは黒部フネとなった今では変わらない。いや、より願掛けがの効果が表れている気がする。

 私は動揺する友達二人を画面越しに見ながら、必殺技を呪文のように唱え始める。

「――『蒸爆のたきぎ』」
「――『裏の錆切り』」
「――『重き一刀』

 天秤が一気に傾く音が大きく聞こえた。

 そして――

「――『土蜘蛛』」

 強烈な鍔迫り合いに持ち込んでからの鍔上げ――そして、無理やりな切り上げ動作を展開させる大技。確実に懐を切り裂くその技は――桜音の両腕を切り落とした。

 桜音の両眼は見開いている。これまで一度も『夜武者』が見せなかった技。初見で防ぐことは、まず出来ない。

 その威力と効果は、桜音にかなりの衝撃を与えているのは目に見えて判った。

「――『蒸爆の薪』

 その隙を見過ごすわけもなく――私は振り下ろし技を発動。

 だが――それは、ミドリちゃんの刀で防がれた。

 ミドリちゃんの体力は既に一割を切っている。桜音はまだ3割残っているけど、両腕欠損のバッドステータスがかけられている。

 ――勝負は決まった。『夜武者』の勝ちだ。

 そう思いながら、ボタンを押したのが間違いだった。

 別に油断をしていたわけじゃない。しっかり『砂のあかぎれ』の必殺技を発動していた。

 だが、画面の中のミドリちゃんは何かの隙を見つけたように――舞った。

 技が相殺され――それどころか『夜武者』の方が削られた。

 横長の体力ゲージを見ると、あと一ミリしか残っていない。

 ギリギリのギリギリ、というものなのだろう。

「ふー」

 深呼吸をし、集中力を上げる。

 私はゲームを創りたい、そのためにミドリちゃんを勧誘した。『夜武者』を操作しているのは、ミドリちゃんの限界の可能性を追求するべきだと思ったからだ。

 人間は乗り越える壁を明確にしなければ、乗り越える努力はしない。それを、より鮮明にミドリちゃんに伝えるための『夜武者』だ。

 そして、その限界を超えた人間は――人間としてワンランク上に上がる。用は魅力的に光ることが出来る。目の輝きはの根となる自信へとなる。

 ――力になる。

 NPCオートモードのままそれを手に入れて貰うのが一番だったけど、それは難しそうだったからマニュアルが戦うことにした。

 そして、今――ミドリちゃんが限界を超えた。無理だと思われた『夜武者』の隙を見出し、技を跳ね返した。

 これで十分だろう――理性の私が囁いている。

「…………答えは、NO」

 確かにミドリちゃんは限界を超えてくれた。今までの努力に敬意を表してのが最良なんだろう。

 けど――私がゲームクリエイターの前に、ゲーマーだった。

 ゲーマーだったから、こんな面白いゲームを自分の手でも創りたいと思うことが出来た。

 とどのつまり――根はゲーマーなんだ、私は。

 昔の、小4の美川恵美子の記憶が思い出す、叫び出す。

 熱い気持ちが、勝ちたいと。

 半端なゲームはしない、したくないと。

「…………」

 私は手に汗を感じながら、コントローラを強く握り――コマンドを入力した。

 そのタイミングは、画面の中のミドリちゃんの出鼻を挫く――完璧なタイミングだった。

「――――勝った」
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