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更なるプロデュース
01 最初の友達
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黒部フネは美川恵美子という人間の魂を持った転生者であり――過去にサヴァン症候群を疑われていた。この時代の大人を超える知能を持っていることを黒部フネは自覚しており、それが不気味とされることも予見できていた。
だが、黒部フネには周囲の大人たちから、その知能を隠せるほどの技術を持っていなかった。子どもらしからぬ態度、所作の節々にその異常性は露見する。
知能の異常発達――その研究・医療機関であった『おやまえん』で黒部フネは二か月間過ごした。当時5歳の頃である。
両親と離れ離れになってしまった事実よりも、稀有な経験が出来ることに黒部フネは感動していた。大人たちは自分たちの判断を正しいと思った。
黒部フネは好奇心のままに施設内の行けるとことは全て見て回った。
多くの子どもたちと触れ合った。サヴァン症候群の子ども、サヴァン症候群の親を持つ子ども、とある特殊な血を持つ一族の末裔などもいた。
そして、その施設で黒部フネは絵描きの老人出会った。
何かを探しているらしい。
『何を探しているかって? 私のライバルさ』
どうやら競う相手がいなくて寂しいらしい。
可哀そうにと黒部フネは思い、そのお願いが叶うといいねと応援の言葉を送った。
『ああ。叶うととっても嬉しいけど、たぶん叶わないと思うな』
どうして?
『僕も歳だからね』
その言葉にとっても悲しくなった黒部フネは、その老人と友達になってあげることを決めた。
不覚にも、一番得をしたのは黒部フネ自身だった。
◇ ◇ ◇
季節は秋。
夏に始まった『ユダ』の音楽配信から2か月が経った。
不和ミドリは黒部フネに紹介された、とある少女に対しどう対応すればいいのか判断に迷っていた。
「こんにちはー!」
元気よく挨拶を求めてくる円藤桜音に、不和ミドリは『エンジェリング』の自分より年の低いメンバーと同じ距離感を意識し、勢いだけで返事をする。
上手く声を張れなかったが、それでも円藤桜音は嬉しそうに微笑む。
「……ねえ、この人が私の師匠なの?」
「そうよ」
黒部フネから次のステップアップには先生をつけると聞かされていた不和ミドリ。彼女曰く、その先生は鬼のように厳しいので覚悟するようにと真剣な顔で言われていた。
声のトーンの低さから冗談ではないと悟っていたが――もしかして冗談の類だったのではないかと不和ミドリは疑い始めていた。
「……そんなに鬼みたいな人には見えないんだけど。というか、私よりも年下じゃない」
「ミドリちゃんと同じ15歳よ」
「15歳」
確認の復唱をする。
15歳――もう少し落ち着きを持っても良い年齢なのだが、そこは性格にも左右されるものなので何とも言い難いと、不破ミドリは円藤桜音を見つめていた。
「えーと、先生なんだよね?」
「さっきから、何か言いたそうね?」
「いや!? そんなことないけど?」
「顔に出てるわよ。アイドルなんだから、もう少しポーカーフェイスの練習でもしたら?」
図星を刺されてショックを受ける不和ミドリ。
「ほら、桜音。あなたも先生なんだから、生徒の前ではシャッキとしないと」
「判ってますよ~」
そう言いながらも猫のように黒部フネにすり寄り、不破ミドリに指を刺す。
「私が先生になってあげるから、覚悟しておくことね! ――で、何の先生なの?」
「ゲームの先生よ。対人ゲームの」
「そうそれ!」
円藤桜音から渡された機械――二か月前のVR機械の改良版を手にした不和ミドリは言われるままにゲームを起動させる。
――不和ミドリの手には刀が握られていた。
だが、黒部フネには周囲の大人たちから、その知能を隠せるほどの技術を持っていなかった。子どもらしからぬ態度、所作の節々にその異常性は露見する。
知能の異常発達――その研究・医療機関であった『おやまえん』で黒部フネは二か月間過ごした。当時5歳の頃である。
両親と離れ離れになってしまった事実よりも、稀有な経験が出来ることに黒部フネは感動していた。大人たちは自分たちの判断を正しいと思った。
黒部フネは好奇心のままに施設内の行けるとことは全て見て回った。
多くの子どもたちと触れ合った。サヴァン症候群の子ども、サヴァン症候群の親を持つ子ども、とある特殊な血を持つ一族の末裔などもいた。
そして、その施設で黒部フネは絵描きの老人出会った。
何かを探しているらしい。
『何を探しているかって? 私のライバルさ』
どうやら競う相手がいなくて寂しいらしい。
可哀そうにと黒部フネは思い、そのお願いが叶うといいねと応援の言葉を送った。
『ああ。叶うととっても嬉しいけど、たぶん叶わないと思うな』
どうして?
『僕も歳だからね』
その言葉にとっても悲しくなった黒部フネは、その老人と友達になってあげることを決めた。
不覚にも、一番得をしたのは黒部フネ自身だった。
◇ ◇ ◇
季節は秋。
夏に始まった『ユダ』の音楽配信から2か月が経った。
不和ミドリは黒部フネに紹介された、とある少女に対しどう対応すればいいのか判断に迷っていた。
「こんにちはー!」
元気よく挨拶を求めてくる円藤桜音に、不和ミドリは『エンジェリング』の自分より年の低いメンバーと同じ距離感を意識し、勢いだけで返事をする。
上手く声を張れなかったが、それでも円藤桜音は嬉しそうに微笑む。
「……ねえ、この人が私の師匠なの?」
「そうよ」
黒部フネから次のステップアップには先生をつけると聞かされていた不和ミドリ。彼女曰く、その先生は鬼のように厳しいので覚悟するようにと真剣な顔で言われていた。
声のトーンの低さから冗談ではないと悟っていたが――もしかして冗談の類だったのではないかと不和ミドリは疑い始めていた。
「……そんなに鬼みたいな人には見えないんだけど。というか、私よりも年下じゃない」
「ミドリちゃんと同じ15歳よ」
「15歳」
確認の復唱をする。
15歳――もう少し落ち着きを持っても良い年齢なのだが、そこは性格にも左右されるものなので何とも言い難いと、不破ミドリは円藤桜音を見つめていた。
「えーと、先生なんだよね?」
「さっきから、何か言いたそうね?」
「いや!? そんなことないけど?」
「顔に出てるわよ。アイドルなんだから、もう少しポーカーフェイスの練習でもしたら?」
図星を刺されてショックを受ける不和ミドリ。
「ほら、桜音。あなたも先生なんだから、生徒の前ではシャッキとしないと」
「判ってますよ~」
そう言いながらも猫のように黒部フネにすり寄り、不破ミドリに指を刺す。
「私が先生になってあげるから、覚悟しておくことね! ――で、何の先生なの?」
「ゲームの先生よ。対人ゲームの」
「そうそれ!」
円藤桜音から渡された機械――二か月前のVR機械の改良版を手にした不和ミドリは言われるままにゲームを起動させる。
――不和ミドリの手には刀が握られていた。
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