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私の求めるアイドルを作るまで
08 友達(強敵と親友は同じ意味で通じる)
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友達には、二種類存在する。
高めあう友達と、支え合う友達。
前者は厳しめ、後者は優しめ。
でも、向ける愛は同じ量。
返すべき愛も同じ量。
それでこそ、友達。
◇ ◇ ◇
不和ミドリの脳内にはモヤモヤが発生していた。
『ミドリー、先帰るからねー』
同じアイドルグループ『エンジェリング』のメンバー、百川トワ。
彼女が声をかけなかれば不和ミドリはフリーズしていたままだった。
その自覚が不和ミドリにはあり――それほど重症であった。
『どうしたの? この前までは調子良かったのに?』
さっきまでやっていた歌の稽古のことだった。
『今日は調子が悪かった』
『アハハ、ミドリ。喋り方がちょっとおかしい? 何か影響受けた?』
フネちゃんの影響だ。
『別に。友達の言葉が移っただけ』
『おお! 友達出来たんだ!』
何故、驚く?
『いやー。私は逆だから。アイドルになってから友達が減ったんだ。減ったというか、友達からファンになっちゃった』
友達がファンになってくれたんでしょ?
悪いことじゃない、むしろ良いこと。
『だと思うでしょ? でも違ったんだ。もう、私のことを『トワちゃん』で呼んでくれない。『トワちゃん(アイドル)』としてしか見れくれなくなったんだ』
そんなの、判らないと思うけど。
『判るよ。だって、友達だったんだから』
…………。
『ミドリの友達ってどんな子なの? ちょっと教えてよ』
えーとね、黒部フネ。私はフネちゃんて呼んでいて――――
◇ ◇ ◇
「もう一回歌わせろ?」
黒部フネは不和ミドリの言葉を復唱した。
「あと微修正を入れて流すだけ。ここまで作業を進めたのに、やり直しがしたいって本気?」
「うん。超本気」
不和ミドリは楽し気に話す。
対して、黒部フネは嫌悪感を出して諭す。
「あのね。ここまで仕上げるのにも結構な時間と労力と使ったのよ。それを一から作り直すなんて面倒なのよ。そもそも、作り直す必要性が判らない。絶対、イヤ。どうせ、次のステップの踏み台作品、あれでいいじゃない」
「ミドリちゃん、聞いて」
不和ミドリは黒部フネの不満を無視して、事実だけを言った。
「ごめん、あのとき本気じゃなかった」
「……は?」
謝罪の言葉だった。
「全然、本気じゃなかった。むしろ、夢遊病みたい感じで歌っていた。歌っていうよりも、声を出していただけだった」
「……歌っていたじゃない」
編集していた黒部フネの記憶には不和ミドリの歌う姿がしっかりと入っている。
しかし、不破ミドリは首を振る。
「あれは違うよ。あれは歌じゃない」
「…………」
「もう一度チャンスを頂戴。今度は、歌ってあげるから」
アイドルらしからぬ、傲慢・不遜な物言いだった。
最後まで不和ミドリの熱弁を理解出来なかった黒部フネは――不和ミドリの言葉に乗ることにした。
自分が理解できないことに、あそこまで熱を入れる理由。
それが自分に欠けているものだと無意識に感じたからだった。
◇ ◇ ◇
『――なるほど。なんだか、とてもSFっぽことしてるね。ゲームの中に入るだなんて、8年ぐらい前にそんなアニメ見た気がするなー。入るのはパソコンだったけど』
私も覚えてる。好きだったから。
『同じ趣味、気があう私たち。――それで、そのゲームをやって自信喪失しちゃった?』
そういうわけじゃない。
『じゃあ、アイドルやっていることに疑問でも感じた?』
疑問じゃないけど、アイドルをやっていることが正しいことか分からなくなっちゃった。
『正しいか、どうか。難しい問題だなー。でも、その世界でもミドリなら『アイドル』やっていそう』
え?
『だって。ミドリが『アイドル』じゃないとき、見たことがないもん。ずーと、好きなアイドルをやっている子なんだって、いつも見ていたよ。ほら、身振り手振りがコミカルで可愛いし!』
違うよ! これ、私の素だよ。
『そう? だったら、根っからの『アイドル』だね』
根っからのアイドルって何?
『判らないけど――ミドリならそのゲームの世界でも『アイドル』やってますってことだね』
ゲームの世界でも――あの犯罪的な町でもアイドルをやっている。
……やっているのかなー、私?
『ほら、否定出来ない」
うぬぬ。
『認めるしかないんじゃない。ミドリは『アイドル』込々のミドリだって』
……認めるしかないかー。
……フネちゃんには、俳優なるって手を取っちゃたんだけどなー。
『それは相手のクジ運が悪かったんだよ。男をスカウトしたつもりが、女をスカウトしてしまったレベルだよ。スカウトする目の問題』
私のアイドルって、性別の次元なの?
『そうだよ? 性別が『アイドル』。そう言えば、仕方がないと納得してくれるよ」
しないよ!
『やってみないと判らないよ? ほら、私も手伝ってあげるから』
手伝うって?
『歌う練習。TV越しのアイドルしか知らない知ったかぶりに教えやるのさ。生アイドルの歌唱力をね。それに――』
それに?
『ミドリはいつも、次よりも今を乗り越えないと気が済まない質だったじゃん。だったら、しっかりと足跡を残して踏み越えないと』
……そうだっけ?
色眼鏡が強い気がするよ、トワちゃん。
『色眼鏡結構! 私のミドリは前に進まないといけないのだ――!!』
キャー、髪をぐちゃぐちゃにするのはヤメテ―!
高めあう友達と、支え合う友達。
前者は厳しめ、後者は優しめ。
でも、向ける愛は同じ量。
返すべき愛も同じ量。
それでこそ、友達。
◇ ◇ ◇
不和ミドリの脳内にはモヤモヤが発生していた。
『ミドリー、先帰るからねー』
同じアイドルグループ『エンジェリング』のメンバー、百川トワ。
彼女が声をかけなかれば不和ミドリはフリーズしていたままだった。
その自覚が不和ミドリにはあり――それほど重症であった。
『どうしたの? この前までは調子良かったのに?』
さっきまでやっていた歌の稽古のことだった。
『今日は調子が悪かった』
『アハハ、ミドリ。喋り方がちょっとおかしい? 何か影響受けた?』
フネちゃんの影響だ。
『別に。友達の言葉が移っただけ』
『おお! 友達出来たんだ!』
何故、驚く?
『いやー。私は逆だから。アイドルになってから友達が減ったんだ。減ったというか、友達からファンになっちゃった』
友達がファンになってくれたんでしょ?
悪いことじゃない、むしろ良いこと。
『だと思うでしょ? でも違ったんだ。もう、私のことを『トワちゃん』で呼んでくれない。『トワちゃん(アイドル)』としてしか見れくれなくなったんだ』
そんなの、判らないと思うけど。
『判るよ。だって、友達だったんだから』
…………。
『ミドリの友達ってどんな子なの? ちょっと教えてよ』
えーとね、黒部フネ。私はフネちゃんて呼んでいて――――
◇ ◇ ◇
「もう一回歌わせろ?」
黒部フネは不和ミドリの言葉を復唱した。
「あと微修正を入れて流すだけ。ここまで作業を進めたのに、やり直しがしたいって本気?」
「うん。超本気」
不和ミドリは楽し気に話す。
対して、黒部フネは嫌悪感を出して諭す。
「あのね。ここまで仕上げるのにも結構な時間と労力と使ったのよ。それを一から作り直すなんて面倒なのよ。そもそも、作り直す必要性が判らない。絶対、イヤ。どうせ、次のステップの踏み台作品、あれでいいじゃない」
「ミドリちゃん、聞いて」
不和ミドリは黒部フネの不満を無視して、事実だけを言った。
「ごめん、あのとき本気じゃなかった」
「……は?」
謝罪の言葉だった。
「全然、本気じゃなかった。むしろ、夢遊病みたい感じで歌っていた。歌っていうよりも、声を出していただけだった」
「……歌っていたじゃない」
編集していた黒部フネの記憶には不和ミドリの歌う姿がしっかりと入っている。
しかし、不破ミドリは首を振る。
「あれは違うよ。あれは歌じゃない」
「…………」
「もう一度チャンスを頂戴。今度は、歌ってあげるから」
アイドルらしからぬ、傲慢・不遜な物言いだった。
最後まで不和ミドリの熱弁を理解出来なかった黒部フネは――不和ミドリの言葉に乗ることにした。
自分が理解できないことに、あそこまで熱を入れる理由。
それが自分に欠けているものだと無意識に感じたからだった。
◇ ◇ ◇
『――なるほど。なんだか、とてもSFっぽことしてるね。ゲームの中に入るだなんて、8年ぐらい前にそんなアニメ見た気がするなー。入るのはパソコンだったけど』
私も覚えてる。好きだったから。
『同じ趣味、気があう私たち。――それで、そのゲームをやって自信喪失しちゃった?』
そういうわけじゃない。
『じゃあ、アイドルやっていることに疑問でも感じた?』
疑問じゃないけど、アイドルをやっていることが正しいことか分からなくなっちゃった。
『正しいか、どうか。難しい問題だなー。でも、その世界でもミドリなら『アイドル』やっていそう』
え?
『だって。ミドリが『アイドル』じゃないとき、見たことがないもん。ずーと、好きなアイドルをやっている子なんだって、いつも見ていたよ。ほら、身振り手振りがコミカルで可愛いし!』
違うよ! これ、私の素だよ。
『そう? だったら、根っからの『アイドル』だね』
根っからのアイドルって何?
『判らないけど――ミドリならそのゲームの世界でも『アイドル』やってますってことだね』
ゲームの世界でも――あの犯罪的な町でもアイドルをやっている。
……やっているのかなー、私?
『ほら、否定出来ない」
うぬぬ。
『認めるしかないんじゃない。ミドリは『アイドル』込々のミドリだって』
……認めるしかないかー。
……フネちゃんには、俳優なるって手を取っちゃたんだけどなー。
『それは相手のクジ運が悪かったんだよ。男をスカウトしたつもりが、女をスカウトしてしまったレベルだよ。スカウトする目の問題』
私のアイドルって、性別の次元なの?
『そうだよ? 性別が『アイドル』。そう言えば、仕方がないと納得してくれるよ」
しないよ!
『やってみないと判らないよ? ほら、私も手伝ってあげるから』
手伝うって?
『歌う練習。TV越しのアイドルしか知らない知ったかぶりに教えやるのさ。生アイドルの歌唱力をね。それに――』
それに?
『ミドリはいつも、次よりも今を乗り越えないと気が済まない質だったじゃん。だったら、しっかりと足跡を残して踏み越えないと』
……そうだっけ?
色眼鏡が強い気がするよ、トワちゃん。
『色眼鏡結構! 私のミドリは前に進まないといけないのだ――!!』
キャー、髪をぐちゃぐちゃにするのはヤメテ―!
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