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私の求めるアイドルを作るまで
06 仮想経験
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8月某日。黒部フネは国からのシュミレーションゲームの共同制作の話を持ち掛けられ――今日、そのチームを脱退した。
不和ミドリと出会い、4か月後のことだった。
「ねえ、どうしたのよ?」
アイスを口にしながら不和ミドリは答える。彼女は黒部邸に訪れており、その理由は黒部フネが求めるレベル上げの定期的報告のためであった。
提供される小説と、その中に登場する人物を演じるために、どのような経験が必要なのか。感情を殺すのではなく、いかに登場人物の感情を汲むのか。
これを黒部フネは不和ミドリへの宿題としている。
「……失望したんだよ。あいつら、判っていない」
「判っていないって? 研究チームのこと?」
「ああ」
黒部フネはゾンビのように起き上がる。
「自衛隊の仮想空間による訓練・うつ病などのメンタル治療試験・仮想空間がもたらす肉体の影響。ああ、とってもいい研究だとも。私も勉強になったし、社会貢献することが出来て嬉しい。ただね――私はもっとエゴ的なものが好きだったんだよ」
あの四か月は無駄じゃなかった、気付いて良かったと、薄笑いのまま黒部フネは夏の熱さで溶け始めたアイスを口にする。
「いちごがおいしい。――ミドリちゃん、仮想空間なんてものは現代において技術的確立はされていない。夢物語なんだよ。だったら、とことん夢に付き合おう――私は少なくともそう思ってた」
「フネちゃん、ゲームが好きだから研究チームに入ったもんね」
「そう! ゲームのためだった!」
黒部フネはスマートフォンの画面を不和ミドリに向ける。
「チームに入って、その日に熱量が足りないからと私は保険をかけておいた。私の期待が裏切られたようの、成果の保険をね」
黒部フネは、とあるアプリを起動する。アプリはとあるゴーグルと連動し、怪しく緑色の光と起動音を出した。
「テーブル型RPG 。プレイヤーがゲームマスターが用意した舞台・脚本で遊ぶゲームを知ってる?」
「ちょっとだけ、なら」
「なら大丈夫。今までは私の脚本の元、演技練習してきたんだけど、これからはVRの中で練習してもらうよ」
VR――その未来的な言葉に、ゴーグルを触りながら不和ミドリは感心の声を出す。
「VR作ったんだ。凄い!」
「データを軽量化にするのが一番手間だったけど、実体験を積む舞台までには持って行けたわ」
「実体験?」
「覚えてる? 『その人の経験値は、その人の魅力に直結する。稀有な経験であるほど、その魅力も稀有なものになる』――そんな感じのこと言っていたと思うんだけど」
「うん。言ってた」
「その稀有な経験をVRの中でしたもらうのよ。もっと言うなら、VRの中で私執筆のテーブル型RPGをしてもらって、そこで経験を積んでもらうわ。今までの小説にメソッドする仮想経験よりも中身の濃いものだと思ってくれればいい」
黒部フネの手伝いの元、不破ミドリはゴーグルを始めとしたゲーム補助装置を腕や足に装着する。
「少し重いね」
「よりリアルを追求したから。人を殴るときの反動も体感できると思うわ」
「人を殴るの!?」
不和ミドリのショックの声に、黒部フネは冷徹に指摘する。
「ゲームだから。殴ってもいいのよ」
「駄目だよ! 人を殴ったら!」
強い拒否反応を示す不和ミドリに黒部フネは呆れる――呆れるも、少し嬉しい気持ちになる。
「仕方がないわね。だったら、殴らないように済む工夫をしなさい。私もゲームマスターといえど、その前に友達だから、ある程度サービスするわ」
「――うん、そうする! で、どんなゲームをやるの?」
黒部フネが答える。それは、来週配布予定のゲームだった。
「魔法のファンタジーゲーム、とは全く毛色が違う親戚――魔法世界のサバゲ―よ」
舞台である、とある盗賊都市の説明を黒部フネは始めた。
不和ミドリと出会い、4か月後のことだった。
「ねえ、どうしたのよ?」
アイスを口にしながら不和ミドリは答える。彼女は黒部邸に訪れており、その理由は黒部フネが求めるレベル上げの定期的報告のためであった。
提供される小説と、その中に登場する人物を演じるために、どのような経験が必要なのか。感情を殺すのではなく、いかに登場人物の感情を汲むのか。
これを黒部フネは不和ミドリへの宿題としている。
「……失望したんだよ。あいつら、判っていない」
「判っていないって? 研究チームのこと?」
「ああ」
黒部フネはゾンビのように起き上がる。
「自衛隊の仮想空間による訓練・うつ病などのメンタル治療試験・仮想空間がもたらす肉体の影響。ああ、とってもいい研究だとも。私も勉強になったし、社会貢献することが出来て嬉しい。ただね――私はもっとエゴ的なものが好きだったんだよ」
あの四か月は無駄じゃなかった、気付いて良かったと、薄笑いのまま黒部フネは夏の熱さで溶け始めたアイスを口にする。
「いちごがおいしい。――ミドリちゃん、仮想空間なんてものは現代において技術的確立はされていない。夢物語なんだよ。だったら、とことん夢に付き合おう――私は少なくともそう思ってた」
「フネちゃん、ゲームが好きだから研究チームに入ったもんね」
「そう! ゲームのためだった!」
黒部フネはスマートフォンの画面を不和ミドリに向ける。
「チームに入って、その日に熱量が足りないからと私は保険をかけておいた。私の期待が裏切られたようの、成果の保険をね」
黒部フネは、とあるアプリを起動する。アプリはとあるゴーグルと連動し、怪しく緑色の光と起動音を出した。
「テーブル型RPG 。プレイヤーがゲームマスターが用意した舞台・脚本で遊ぶゲームを知ってる?」
「ちょっとだけ、なら」
「なら大丈夫。今までは私の脚本の元、演技練習してきたんだけど、これからはVRの中で練習してもらうよ」
VR――その未来的な言葉に、ゴーグルを触りながら不和ミドリは感心の声を出す。
「VR作ったんだ。凄い!」
「データを軽量化にするのが一番手間だったけど、実体験を積む舞台までには持って行けたわ」
「実体験?」
「覚えてる? 『その人の経験値は、その人の魅力に直結する。稀有な経験であるほど、その魅力も稀有なものになる』――そんな感じのこと言っていたと思うんだけど」
「うん。言ってた」
「その稀有な経験をVRの中でしたもらうのよ。もっと言うなら、VRの中で私執筆のテーブル型RPGをしてもらって、そこで経験を積んでもらうわ。今までの小説にメソッドする仮想経験よりも中身の濃いものだと思ってくれればいい」
黒部フネの手伝いの元、不破ミドリはゴーグルを始めとしたゲーム補助装置を腕や足に装着する。
「少し重いね」
「よりリアルを追求したから。人を殴るときの反動も体感できると思うわ」
「人を殴るの!?」
不和ミドリのショックの声に、黒部フネは冷徹に指摘する。
「ゲームだから。殴ってもいいのよ」
「駄目だよ! 人を殴ったら!」
強い拒否反応を示す不和ミドリに黒部フネは呆れる――呆れるも、少し嬉しい気持ちになる。
「仕方がないわね。だったら、殴らないように済む工夫をしなさい。私もゲームマスターといえど、その前に友達だから、ある程度サービスするわ」
「――うん、そうする! で、どんなゲームをやるの?」
黒部フネが答える。それは、来週配布予定のゲームだった。
「魔法のファンタジーゲーム、とは全く毛色が違う親戚――魔法世界のサバゲ―よ」
舞台である、とある盗賊都市の説明を黒部フネは始めた。
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