12 / 32
私の求めるアイドルを作るまで
05 あのときの景色
しおりを挟む
あのときの景色――美川恵美子の最も光り輝く記憶の景色。
それは、美川恵美子が初めてフルダイブ型VRを行ったときだ。自分の分身であるキャラクターのメイキングを終わったとき、ゲーム操作サポートキャラクターの『それでは、良い旅路を』という言葉とともに、美川恵美子――『エミリー』は空中に放り出される。
地上から10キロメートル。永遠に続くとも思われた入道雲を突き抜け、目から飛び込んできたゲームの世界は――『エミリー』の魂を震わせた。
あの、まるで世界が一個人を歓迎してくれるような――『エミリー』が来るのを待っていてくれたと錯覚させてしまう美しい世界の広がりを――美川恵美子は永遠に忘れない。
それはまるでDNAのように、黒部フネの記憶に宿っていった。
◇ ◇ ◇
黒部フネは不和ミドリに語る。貴方に足りないのは、経験だと。
「経験ですか?」
「そう。人生の経験。経験には大なり小なり価値があると思うけれど、その合計値はその人の魅力に直結する。凡庸な人間が二人いて、生きている人間よりも一度死んで生き返った人の方が魅力的だ。そう答える人は一定層存在する」
「生き返った時点で凡庸ではないと思うけど……」
「揚げ足を取らない。真面目に話している」
黒部フネの打撃に不和ミドリは理不尽だと思いなが自論を出す。
「そうですね。確かに、一度死んで生き返った人間のほうが魅力的だと思います。でも、そんな人は実際にいませんし」
「いるわ」
「いるんですか!?」
「自己破産した人とか」
「比喩ですか」
項垂れる不和ミドリ。黒部フネは自分のことだと言っても面白いと思っているのだが、子どもみたいな冗談だと小ばかにされる可能性を考慮し、口をつぐむ。
「経験はその人の魅力に直結する。だとすると、稀有な経験をした人の魅力は、他とは一線を越えたものになる。肩書を必要としない、自分という一個人を社会的な財産だと主張することが出来る」
「……最後の『一個人が社会的な財産』というのが良く判らないんだけど」
「難しかった? そうね、簡単に言うと、『私が存在してあげているんだから、感謝しなさい!』ってことよ」
「ツンデレだ!」
不和ミドリの嬉しそうな声に黒部フネは鼻を高くする。所詮、プロの声優さんの真似事でしかないが、伊達に美川恵美子の記憶を引き継いでいないことを証明出来た。少なくとも、黒部フネはそう実感している。
「私は私の世界をより強いものにしたい。それこそ、現実よりも人の息遣い・命の鼓動が聞こえてきそうなリアリティーを孕んだ幻想世界を創りたい。そのためには、ミドリちゃんじゃ役不足なの」
「役不足って、酷い!」
「うるさい。だから、それを補填しようって話をしているの」
黒部フネは説明を続けた。『エンジェリング』に自分の将来性を見いだせない不和ミドリ、その原因は『エンジェリング』というアイドルグループが金原優子のコンテンツになっていると。
そこから抜ける――モブからランクアップするには、今の『不和ミドリ』の価値は低すぎると。
「フネちゃん、言葉が鬼だよ。……いや、間違っていないかもだし、私もなんとかしたいと思っているけど」
「だから、レベルアップしなくちゃいけない」
「どうやって?」
不和ミドリの言葉に黒部フネは児童教育に悪いであろう微笑みをする。
「そんなもの決まっている。ひたすら経験するしかないよ」
それは、美川恵美子が初めてフルダイブ型VRを行ったときだ。自分の分身であるキャラクターのメイキングを終わったとき、ゲーム操作サポートキャラクターの『それでは、良い旅路を』という言葉とともに、美川恵美子――『エミリー』は空中に放り出される。
地上から10キロメートル。永遠に続くとも思われた入道雲を突き抜け、目から飛び込んできたゲームの世界は――『エミリー』の魂を震わせた。
あの、まるで世界が一個人を歓迎してくれるような――『エミリー』が来るのを待っていてくれたと錯覚させてしまう美しい世界の広がりを――美川恵美子は永遠に忘れない。
それはまるでDNAのように、黒部フネの記憶に宿っていった。
◇ ◇ ◇
黒部フネは不和ミドリに語る。貴方に足りないのは、経験だと。
「経験ですか?」
「そう。人生の経験。経験には大なり小なり価値があると思うけれど、その合計値はその人の魅力に直結する。凡庸な人間が二人いて、生きている人間よりも一度死んで生き返った人の方が魅力的だ。そう答える人は一定層存在する」
「生き返った時点で凡庸ではないと思うけど……」
「揚げ足を取らない。真面目に話している」
黒部フネの打撃に不和ミドリは理不尽だと思いなが自論を出す。
「そうですね。確かに、一度死んで生き返った人間のほうが魅力的だと思います。でも、そんな人は実際にいませんし」
「いるわ」
「いるんですか!?」
「自己破産した人とか」
「比喩ですか」
項垂れる不和ミドリ。黒部フネは自分のことだと言っても面白いと思っているのだが、子どもみたいな冗談だと小ばかにされる可能性を考慮し、口をつぐむ。
「経験はその人の魅力に直結する。だとすると、稀有な経験をした人の魅力は、他とは一線を越えたものになる。肩書を必要としない、自分という一個人を社会的な財産だと主張することが出来る」
「……最後の『一個人が社会的な財産』というのが良く判らないんだけど」
「難しかった? そうね、簡単に言うと、『私が存在してあげているんだから、感謝しなさい!』ってことよ」
「ツンデレだ!」
不和ミドリの嬉しそうな声に黒部フネは鼻を高くする。所詮、プロの声優さんの真似事でしかないが、伊達に美川恵美子の記憶を引き継いでいないことを証明出来た。少なくとも、黒部フネはそう実感している。
「私は私の世界をより強いものにしたい。それこそ、現実よりも人の息遣い・命の鼓動が聞こえてきそうなリアリティーを孕んだ幻想世界を創りたい。そのためには、ミドリちゃんじゃ役不足なの」
「役不足って、酷い!」
「うるさい。だから、それを補填しようって話をしているの」
黒部フネは説明を続けた。『エンジェリング』に自分の将来性を見いだせない不和ミドリ、その原因は『エンジェリング』というアイドルグループが金原優子のコンテンツになっていると。
そこから抜ける――モブからランクアップするには、今の『不和ミドリ』の価値は低すぎると。
「フネちゃん、言葉が鬼だよ。……いや、間違っていないかもだし、私もなんとかしたいと思っているけど」
「だから、レベルアップしなくちゃいけない」
「どうやって?」
不和ミドリの言葉に黒部フネは児童教育に悪いであろう微笑みをする。
「そんなもの決まっている。ひたすら経験するしかないよ」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ああ、本気さ!19歳も年が離れている会社の女子社員と浮気する旦那はいつまでもロマンチストで嫌になる…
白崎アイド
大衆娯楽
19歳も年の差のある会社の女子社員と浮気をしている旦那。
娘ほど離れているその浮気相手への本気度を聞いてみると、かなり本気だと言う。
なら、私は消えてさしあげましょう…
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
アローン・ミラージュ/Alone Mirage
こまちーず
大衆娯楽
悪魔に育てられた最強の傭兵、グレイス・B(ブラッドリー)・ウィルバーホース。彼は特殊部隊を除隊した後、フリーランスの傭兵として危険な任務を請け負い、傭兵稼業の最前線で活躍していた。単独で次々に任務をこなしていくグレイスは、いつしか『単独の蜃気楼/アローン・ミラージュ』と呼ばれるようになった。ある日、自宅を訪れたCIAエージェントのデイビッド・カーターに依頼され、カタールの砂漠に建設されたテロ組織【アル・アドル】のアジトに囚われているアラブの富豪を救出するという内容の任務を請け負う。しかし、その仕事には隠されたもう一つの狙いがあり──。
快適に住めそうだわ!家の中にズカズカ入ってきた夫の浮気相手が家に住むと言い出した!私を倒して…
白崎アイド
大衆娯楽
玄関を開けると夫の浮気相手がアタッシュケースを持って立っていた。
部屋の中にズカズカ入ってくると、部屋の中を物色。
物色した後、えらく部屋を気に入った女は「快適ね」と笑顔を見せて、ここに住むといいだして…
今ここで認知しなさいよ!妊娠8ヶ月の大きなお腹を抱えて私に子供の認知を迫る浮気相手の女が怖い!違和感を感じるので張り込むと…
白崎アイド
大衆娯楽
妊娠8ヶ月という大きなお腹を抱えて、浮気相手が家に来て「認知してよ」と迫ってきた。
その目つきは本気で、私はショックと恐怖で後ずさりをする。
すると妊婦は家族の写真立てを床に投げつけ、激しく「認知しろ!」と叫ぶのだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる