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私の求めるアイドルを作るまで

02 はい、お嬢様です

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 黒部フネの言葉に、不破ミドリはパソコンがフリーズしたように止まったが――言葉の意味を理解した途端、目をキラキラさせた。

「俳優ですか? なります、超なりたいです!」

 躊躇のない返しだった。

「……即答ね」
「はい! 告白しますけど、私ってアイドルよりも俳優さんの方がすきなんでねすよ! この業界に入ったのも、ドラマの女弁護士みたいなカッコいい系になりたくて!」

 何らかの影響を受けてその世界に足を突っ込んだタイプで合った。

 ……黒部フネが見る限り、明らかにカッコいい系よりも可愛い系で押したほうが売れる成り形であったが、そこを突っ込むのは野暮だと考え言わないで置いた。

 ――それに、本人も気付いてるようだった。

「今の『エンジェリング』も確かに楽しかったですよ」
「……過去形」
「はい。最初のうちだったんです。でも、気づいちゃったんです。ファンは『エンジェリング』を見ていない。を見に来ているんだって」

 沈んだ声で話す不和ミドリ。

「このままでは腐ってしまう感じがするんです」
「腐るわね。確実に」
「やっぱり!!」

 占い師に日常の不運を当てられたときと同じ表情をする不和ミドリに黒部フネは淡々と単純で御しやすい人だと処理した。

 ――そっちの方が都合がいい。それが黒部フネの本心である。

「それで、話の続きなんだけど」
「はい!」
「俳優を続けて貰う際、アイドルは辞めてもらうわ」
「ええ!!」

 不和ミドリの驚きの反応に、黒部フネは困惑の表情をする。

「え?」
「いや、どうして黒部さんが困り顔なんですか? こっちのほうが驚きで困っているのに!」
「いや――不和さんの事務所は不破さんのアイドルから俳優への転身は認めてくれないからよ。アイドルグループ1位なんでしょ? 人気商品に傷をつける商売人なんていないの」
「うっ!!」

 黒部フネは馬鹿を見る目をして、不破ミドリの不安の払拭に計る。

「もちろん、次の事務所は私が提案――もとい、私の下で動いて貰うわ」
「無理です! とても現実的とは思えません!」

 無理無理無理――そう連呼する不和ミドリ。

 当然の反応としか言えない。

「不破さんの気持ちは判っているわ。むしろ、即答されたらどうしようかと思っていた」
「ああ、そこは常識あるんですね」

 ほっとした表情に黒部フネは――自分よりも明らかに中身が低能である不和ミドリに対し、拳骨を入れてやろうと思ったが、話が拗れてしまう可能性を考慮し、苦汁の決断をした。

「ええ。取り合えず、私の家に来なさい。話はそこからよ」


 ◇ ◇ ◇


 不和ミドリは庭付きの豪邸が日本にあることを、今日初めて知った。

 ――本物の、豪邸だ。

「…………」
「どうしたの?」

 口パクパクしている私に――黒部さんが珍獣を見るような目で私を見る。

 ――というか、時折私のことを畜生を見るかのような目をしているので、とても怖いです。

 でも、彼女の力強い言葉と――何といったらいいのでしょうか? オーラ? TVから飛び出してきたヒーローのような雰囲気に惹かれて、ここまで付いてきました。

「あの~」
「はい?」
「不破さんて、お嬢様?」
「そうね。世間一般で言うお嬢様ね」
「失礼ですがー、お父さんはどんな仕事を?」

 私の言葉にチャイムを鳴らしながら、黒部さんは答える。

「官房長よ」

 ――警察の、と付け加える。

「――ええ、そうなの。私のお客様。お茶の準備、お願い」

 インターホンで執事かメイドと話す黒部さん。

「ええええええ!!!」
「ちょっと、うるさいわよ」

 黒部さんが何か言っているみたいだけど、全く耳に入らなかった。

 ――というか、私と話していたこの人って。

「官房長の娘様!?」

 テンパった私の声は大きくなっていた。その証拠に――娘様ってなんだよ、とおかしな発言までしてしまっている。

 そんな私に、黒部さんは悪戯がバレた天使のように、片目ウインクで返す。

 ――絶対わざとだ! しかも、かっこ可愛い!!

 キャラ変かと疑うレベルのあざとさだ。手痛い詐欺にあったようだ。

 だが、ギャップ効果で許しちゃいたい私がいる。

 ちぐはぐな気持ちのまま、私は黒部さんに手を引っ張られて豪邸に入った。
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