上 下
1 / 32
転生する――そして、準備するまで

01 赤子に転生、そして5歳。

しおりを挟む
 超大手ゲーム会社社長である美川恵美子はパソコンの前でワキワキと指を動かしていた。全てがデジタル機器が超小型化されており、キーボードがなくなった。代わりに、ARパネルという指の神経によって操作される機器を使っている。

 AI爆発という社会現象が約30年前にあった。AI技術が急上昇したことにより社会変化を指している。これにより、社会はARを前提として動くこととなった。

 全てがARにより電子機器の画面が三次元へとなったのだ。

 だが、これほど進んだAI社会――いや、AR社会であるが、娯楽を求める大衆はARよりもVRに興味を集めていた。

 なかでもVRゲーム、それもフルダイブ型VRゲームは盛り上がりを見せていた。

 そのフルダイブ型VRゲームを作っている会社の社長が、美川恵美子だった。

「やっぱり、武士道キャラを作るんだったら殺陣を勉強させるべきだったわ。存在しない架空剣術たったとしても、動きに違和感を感じるもの」

 社長でありながら現場主義である美川恵美子。今日も暇な時間を見つけては試験テストをしようとしていた。

 ――だが、その日が出来なかった。

 美川恵美子の心臓は突発的に痛みを訴え、助けを呼ぶ暇もなく死亡してしまう。

 享年、42歳だった。


 ◇ ◇ ◇


 時は2000年。

 世界崩壊、ハルマゲドンが起こるか起こらないかで盛り上がったその年に、美川恵美子は黒部フネとして転生した。

 目が覚めた時、何も分からなかった。

 何も出来ない0歳から前世ともいえる記憶と持っていた美川恵美子は、現状を理解するまで時間はかからなかった。そのようなネタはゲーム業界の人間にとって時事そのものだからだ――と本人は思っていた。

 これから黒部フネとして生きることになった美川恵美子。せっかくの二度目の人生をどうするか考える日々が続く。

 そして――5歳。

 黒部フネは美川恵美子と同じようにゲームを作りたいと思った。

 2005年、過去に転生してしまった黒部フネがフルダイブ型VRゲームをこの世界で作ることは不可能――もし叶ったとしても黒部フネが望むスペックまでには届かないことを知っている。

 だが、ゲームはVRだけではない。

 黒部フネは携帯ゲーム機に目を付けた。美川恵美子として生きていた時代にはないものだった。ゲームといえばVRかARの二つに一つだったのだ。

 TV越しに見た。偶々話題のゲームについてニュースになっており、そこには子どもだけではなく、大人までもが小さいゲームの機械にのめり込んでいる姿が撮影されていた。

 集中して遊んでいる。ズラリと映される人、人、人。その誰もがゲームを行っている光景に、黒部フネは言い得ぬ多幸感に満ちていた。

 ああ、ゲームしている。それも、楽しそう。

 自分たちの世界で、ヒーローしているんだろうな――母親が楽しそうな子どもを見ているときの微笑ましい目をしていることに、黒部フネは気が付くことはなかった。

 そのニュースが終わった後、黒部フネは計画を立てた。

 ゲームを作る計画である。5歳の自分がゲームを作るために何が出来、そして最も効率的なやり方は何なのか?

 ゲームを作る力はある。時間がかかるが、一人でも作れる。

 アイデアも問題はない。未来のゲーム業界で人気競争を常に上位で争っていた経験は、この世界でもダイレクトに結果となる。

 問題はプロデュース力。それがなけらば資金調達も難しく、人材・機械さえも準備することが出来ない。

 プロデューサーが必要だ。若輩ものがゲームを売るために、まず名前を売らなければならない。

 黒部フネはゲームプロデューサーが最も必要であり、それが計画の根幹となる理由から、自分がゲームプロデューサーになることを決める。

 そのために、まず名前を売ることだ。

 名前が売れている子ども・中学生・高校生――どれも、俳優と言われる人たちだった。

 黒部フネには名前を売るため、俳優になる方法を選んだ。ゲームを作り売り出すためならば、他にも方法があったのかもしれない。だが、黒部フネにとって俳優になるという方法が最も近道であり、そして面白そうだった。

 ゲームを作る上で、良い体験が出来るかも。

 現場主義である美川恵美子は、行動しなければ気が済まない人間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

喜劇・魔切の渡し

多谷昇太
大衆娯楽
これは演劇の舞台用に書いたシナリオです。時は現代で場所はあの「矢切の渡し」で有名な葛飾・柴又となります。ヒロインは和子。チャキチャキの江戸っ子娘で、某商事会社のOLです。一方で和子はお米という名の年配の女性が起こした某新興宗教にかぶれていてその教団の熱心な信者でもあります。50年配の父・良夫と母・為子がおり和子はその一人娘です。教団の教え通りにまっすぐ生きようと常日頃から努力しているのですが、何しろ江戸っ子なものですから自分を云うのに「あちし」とか云い、どうかすると「べらんめえ」調子までもが出てしまいます。ところで、いきなりの設定で恐縮ですがこの正しいことに生一本な和子を何とか鬱屈させよう、悪の道に誘い込もうとする〝悪魔〟がなぜか登場致します。和子のような純な魂は悪魔にとっては非常に垂涎を誘われるようで、色々な仕掛けをしては何とか悪の道に誘おうと躍起になる分けです。ところが…です。この悪魔を常日頃から監視し、もし和子のような善なる、光指向の人間を悪魔がたぶらかそうとするならば、その事あるごとに〝天使〟が現れてこれを邪魔(邪天?)致します。天使、悪魔とも年齢は4、50ぐらいですがなぜか悪魔が都会風で、天使はかっぺ丸出しの田舎者という設定となります。あ、そうだ。申し遅れましたがこれは「喜劇」です。随所に笑いを誘うような趣向を凝らしており、お楽しみいただけると思いますが、しかし作者の指向としましては単なる喜劇に留まらず、現代社会における諸々の問題点とシビアなる諸相をそこに込めて、これを弾劾し、正してみようと、大それたことを考えてもいるのです。さあ、それでは「喜劇・魔切の渡し」をお楽しみください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

徹夜でレポート間に合わせて寝落ちしたら……

紫藤百零
大衆娯楽
トイレに間に合いませんでしたorz 徹夜で書き上げたレポートを提出し、そのまま眠りについた澪理。目覚めた時には尿意が限界ギリギリに。少しでも動けば漏らしてしまう大ピンチ! 望む場所はすぐ側なのになかなか辿り着けないジレンマ。 刻一刻と高まる尿意と戦う澪理の結末はいかに。

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

魔法少女は特別製

紫藤百零
大衆娯楽
魔法少女ティアドロップこと星降雫は、1日かけてしぶとい敵をようやく倒し終わったところ。気が抜けた彼女を襲うのは、日中気にも留めなかった生理的欲求ーー尿意だ。ここで負けたら乙女失格! 雫は乙女としても勝利を手にすることができるのか!?

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...