45 / 54
第45話 異変
しおりを挟むタカちゃんとシューちゃんが日本の温泉巡り(酒飲み)に旅立ってから早2日、この世界の唯一神がいない割には大きな天変地異もなく平和そのもの…しかしながら、お店の方はいつもよりもお客さんが少ない…というかラッシュ時間が短かかった。
何時もならお客さんで満席、外にもまだ並んでいるような時間なのだが、すでにまばらだ。
なんでだろう?疑問に思いながら、空いた食器を持ってカウンターに戻れば
「なんか最近、町の中がピリピリしてるよなー」
常連であるソラウさんがデザートのチーズケーキを食べながらポツリと話す。
「相変わらず人攫いの組織の下っ端すら捕まらないんだから仕方ないんじゃないか?
お陰で妹を親父と交代で送り迎えだ。
仕事終わりに飲みにも行けなくて、人攫いどもには全く迷惑してるよ」
レイさんがため息をついて、生クリームのせプリンをパクリと頬張ると、レイさんの感情に忠実な尻尾がご機嫌に揺れる。
「下っ端一人捕まらんなんて、そないな事あるんかいな?」
同じく食器を下げてきた狐鈴さんも会話に加わると、ソラウさんが狐鈴さんの方を見上げる。
「それが、あるんだよ。
あまりにも捕まらないし、行方不明者すら見つからないから、貴族とか権力者が人攫いに関わってるんじゃないかって噂もある。」
「俺も聞いたなその話、誘拐された女子供はみんな顔立ちが良い子ばかりらしいから、貴族とか金持ちに売られてるんじゃないかって…気を付けてね青葉ちゃん!青葉ちゃん可愛いから、そいつらから狙われてないか心配だよ!!」
急にこちらを向いたレイさんに驚いて、一瞬たじろぐが…ないない。
自分で言うのも悲しいが、顔も冴えない、出るとこ出てない。
給仕としてこき使おうにも、この世界の方々よりも体格がヒョロヒョロの私なんてさぞ病弱に見えるだろうし、狙われる要素がまったく見当たらない。
「わっ、私ですか!?いやいや、こんな枯れ枝みたいな女なんて狙う人いませんよーアハハハ」
「青葉ちゃんって、前から思ってたけど自己評価低すぎない?」
ため息をつきながらのソラウさんの言葉に、狐鈴さんとレイさんがウンウンと力強く頷く
「いやー、そんな事はないと思いますけど…」
あぁ、そうか、日本の料理を作れるという点では確かに…飯炊き奴隷として…いや誘拐するほどでもないよな…。
そんな事を話していると、店の扉がカランカランと来客を伝える。
「いらっしゃ……いませー」
と、後ろを振り向けばヘルムを外した騎士が2人店へと入ってきた。
今まで甲冑姿の騎士が店に入ってきたことはなかったので、一瞬驚きで固まってしまった。
すかさず、狐鈴さんがその騎士達の元へと向かう。
よく見れば、ハイル様とソフィリアさんだ。
「堅苦しい姿で入店して申し訳ない。
ゆっくり食事をする時間がないんだが、持ち帰れて簡単に済ませられる食事を作ってもらえないだろうか?」
狐鈴さんにそう話すハイル様にいつもの様な王子様スマイルはなく、少し疲れているようにも見える。
ソフィリアさんも先日来た時よりも、顔色が良くない。
「青葉、どないする?」
困ったように振り返った狐鈴さんの元へと小走りで歩み寄る。
「パンに具材を挟んだ、サンドイッチならお作りできますよ?」
そう言ってハイル様を見上げれば、先ほどの疲れた顔は見間違いでしたか?
と、思うほど何時もの王子様スマイルに戻っている。
ソフィリアさんも、そんなハイル様を穴が開くほど見つめている。
私達は眼中になしですかソフィリアさん!?
「青葉さん、今日もなんて愛らしい…。」
お貴族様は庶民の女にも気遣いを忘れないとは!流石王子様系イケメン!
愛らしいと言われて、社交辞令と分かっていながらも少々照れつつ心の中で拍手する。
横で舌打ちする狐鈴さんに反応するように、ハイル様がコホンと咳ばらいをすると
「そんな青葉さんに、無理を言ってしまうのは忍びないのですが、そのサンドイッチを5人分お願いできないでしょうか?部下の分も、なるべく腹持ちの良いものだと助かります。」
「わかりました。
すぐご用意いたしますので、座ってお待ちください。
狐鈴さん、お水お願いします。」
そう伝えてカウンターへと戻ると、ゴコクさんが食パンの袋をまな板の上に乗せる。
なんてできる男なんだゴコクさん!!
「具材は卵サラダと、デスソース入り照り焼きチキンにする?」
「なんでデスソース!?と言うか、なんでそんな物があるんですか!?」
もはや毒物の容器にしか見えませんが!?
デスソースと書かれた死神とドクロの描かれたドレッシング容器を、何処からともなく真顔で取り出すゴコクさん。
デスソースって、辛いとかじゃなくて…実は本当にDeathの方の意味ですか!?
「狐の駆除に使おうと思って買った。」
「買わないでください!!」
すぐさま取り上げて、ゴミ箱へと叩き込む
ゴコクさんが、あぁ…という顔をしているのを見て見ぬふりをして、流しで手を洗うと早速調理に取り掛かった。
「騎士さん方ずいぶん忙しそうやないですか、町の方も人出が少ないみたいやし、なんやあったんですか?」
水とおしぼりを、席に座った騎士二人の前に出しなが問いかければ、ハイルが狐鈴を見上げる
「実は人攫いを繰り返している組織の一端がようやく捕まってね。
包囲網を一気に狭めているところだ。これで聖女様からの無能呼ばわりを返上したいところだが…。
残念な事に、こんな状況にも関わらず今朝、また一人女性が誘拐されてね…。
その女性の隣の家に住む兄夫婦の元へ、一瞬外に出たそのほんのわずかな時間でだ…。
こんな事を言うのは不本意だが………くれぐれも青葉さんを外に出さないよう、しっかりと目を光らせてくれ、私では四六時中青葉さんと一緒に居て守る事ができない…。」
「はんっ、言われんでも重々気を付けてます。
とは言え、家から一歩も出さんと軟禁状態をいつまでも続けるわけにも行かへん。
はよ自由に青葉が外出歩けるよう気張っておくれやす騎士はん」
「きばっ?よくわからないが、青葉さんの自由の為、国民の安全の為、最善を尽くすさ」
「くっ…さすが私の推し!ハイル様!」
テーブルの下でこぶしを握り締め、推しのセリフに見悶えそうになるのを必死に耐えるソフィリアがぽつりと呟いた。
「はぁ?アンタ今、推しって言うた!?」
「推しとはなんだソフィリア?」
そんな会話がテーブル席で繰り広げられているのも知らずに、せっせとキッチンで卵サラダを作っている青葉の姿を、窓の外から眺めている者達が要るとは誰一人気づいていなかった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
150
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる