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第43話 女騎士2

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 バッと勢いよく顔を上げたソフィリアが立ち上がると顔を真っ赤にして

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
そんな恐れ多い事思うわけないでしょ!!!!
私は!ハイル様に幸せになってもらいたいだけ!!
あの方の幸せが私の幸せなだけよ!!!
なんなら、ハイル様が将来ご結婚されて産まれて来たそのご子息すら愛でる所存よ!!!
ハイル様は私にとっての神なのよ!!
ハイル様がいかに素晴らしいか!ハイル様教を作りたいくらいハイル様を信仰しているわよ!!!」

 怒鳴り散らしゼェーハァー言っているソフィリアさんの勢いに思わずのけ反ってしまった…。

こっ、これは!!?

完全にオタクが推しのすばらしさを語る際の状況に似ているのですがー!?
てっきり、ハイル様と恋仲になりたくて周りを牽制していると思っていたのに!!

「つっ、つまり…ソフィリア様の推しがハイル様って事なんですね…。」

「推しって何よ…」

息の切れたソフィリアが、すごすごと椅子に座り直しながらコチラを睨みつける。

「推しと言うのは…私の国の言葉なんですが、人によって多少の解釈違いはありますが…。
誰かに強く勧めたいほど愛着のある人物や物を指します。自分がその方とどうこうなると言うよりも、その方の幸せそうな姿をそっと見守ると言いますか、壁になって無機物のように見守りたい。と言う感情と言いますか…尊い。と、崇めたりもします…上手く言えなくてすみません。
まぁ、保護者的な立場で見守ると言う方もいますね。」

推しと言う概念を言葉で表したことがなかったから、意外と言葉にすると難しい…。
伝わったかな?と、恐る恐るソフィリアを見れば

「推し…壁になって見守る…まぁ…言われてみると確かに、アンタの言っていることに近いかもしれないわ…。
そうね…烏滸がましいけど保護者、悪い虫が付かないように追い払いハイル様の幸せを見守っていたい。
まさか、この感情に付ける名前があったとは知らなかったわ…。」

うーん…正解??

「それでその、ハイル様が私にご執心と仰いますけど…ハイル様の恋愛対象は男性と伺っていますので、ソフィリア様が心配なさるような事は何も無いかと…」

「はっ?アンタ、あの噂を本気に…ちょっと待って!
アンタ、ハイル様に気にかけて貰っているのに恋仲になりたいとか思わないわけ!?」

「えぇ!?私がハイル様と!?
無いです!無い無い!私みたいなチンチクリンの異国人がハイル様と恋仲なんて、天と地ほどの差がありすぎて不敬罪で罰せられますよ」

「いや、そこまでは言ってないのだけど…。」

そう言いながら、果実水を飲み干したソフィリアがため息をつく

「マリエッタのお茶会でハイル様とも会っているのでしょ?
そこまで接点があって、それでもハイル様になびかないって逆にどういうことなのよ?
あんたの恋愛対象が女なの?」

やはり、お茶会の件もご存じでしたか…と内心で冷や汗をかきつつ、私としてはそんなことを言われてもである。

「そっ、その…私がこの国に来た理由が、結婚を考えていた方にフラれたからなんです。
理由は…可愛げがないとか…しっかりしすぎてて一人で生きていけそうとか…。
同じ理由で過去にもフラれた事がありまして、もう恋愛には疲れたと言いますか、そのくらいでって思われるかもしれないですけど、私の中では愛した人からそんな理由で捨てられるのが辛くて、もう二度と辛い思いをしたくなくて…だから、恋愛なんて二度としないって決めたんです。
きっと、恋をしたところでまた同じ理由で捨てられるだろうから…」

あぁ…。
私、なんでソフィリアさんにツラツラ恋愛事情を話してしまったんだろう!!?
ウジウジしてる系女とか絶対嫌いなタイプそうなのに…言い訳がましく話してしまった…。
俯いていた顔を恐る恐る上げれば、こちらを鋭い眼光で睨みつけているソフィリアと目が合う

「ヒッ!!」

思わず小さな悲鳴が口から出ると、ソフィリアが右手でこぶしを作りダンッ!!とテーブルを叩いた。

「ウジウジしてるんじゃないわよ!!!
一人で異国に来て店を開くような根性のある女なんて、なかなかいないわ!
私は好きよ!あんたみたいに根性ある女!
そんな度胸を持ってるアンタが、なによそのくらいで!
そんな度胸のある女を捨てる貧弱野郎なんて、むしろあんたから捨ててやったくらいに思いなさいよ!」

「えっ………えぇぇえ!?」

怒りのベクトルそっちー!?

「まぁ、でも…あんたが恋愛に逃げ腰なのはそういう理由なのね。
他の騎士達もアンタにアプローチしてるって聞いたから、てっきり思わせぶりな態度をとってあらゆる男を手玉に取るクソ女なのかと思ったら、全然違ったわ、本当に恋愛する気がないのね。」

 えぇ…私そんな風に思われてたんですか!?って、ソフィリアさん貴族なのでは?
貴族がクソなんてお下品な言葉遣いをしちゃうんですか!?

「思わせぶりに見えるんですかね…角か立たないよう出来る限り贈り物もお誘いも、お断りしてるんですけど…。
客商売ゆえに、強く断れないというのは確かにありますけど…えぇ…断ってたんだけどな…」

「この国の女はハッキリ、キッパリ断るもの、アンタを見てわかったわ
察するに、アンタに断られても押せばどうにかなりそうとか思われてるのかもね。」

「そんなぁ…」

ガックリと項垂れる。
私ってそんなチョロそうな女に見えるのか、押しに弱いとか!?
確かに自分でも否定しきれないけど、可愛げはないがチョロい女とかもう、本当に救いようの無い女じゃないか!!
シクシクと心の中で涙を流す。

「ハイル様がアンタを気に入った理由が分かった気がするわ、ハイル様も難儀なお方ね。
新しい一面を見れたようで、少しうれしいけれど」

頬杖をついたソフィリアが、こちらを見てニヤリと笑う。
今までずっとしかめっ面だったソフィリア、しかし笑った顔はいたずらを思いついたような悪い笑顔だ。

「決めたわ、私もこの店に通わせてもらう事にする。
ハイル様が諦めるのか、アンタが折れるのか見守ることにするわ」

「えっ!?いやいや、推しの周りに私がいたら鬱陶しいのでは!?
というか、牽制するために私に会いに来たのでは!?」

「そのつもりだったけど、アンタならハイル様を利用しないってわかったし、何よりハイル様の新しい一面を色々と見れそうだなって思ったのよ、だから簡単に落ちないで頂戴ね青葉」

「え”っ!?いやいや、ハイル様の恋愛対象は男の人ですよね!?」

「アハハ、まぁ、勝手にそう思ってたら?
ハイル様ったら前途多難、先は長いですわ~」

ちゃかしたように言うと、立ち上がるソフィリア

「ご馳走様、噂通りとてもおいしい料理だったわ
また来るわね青葉、これは仕事の手を止めさせちゃった謝礼よ、取っといて」

そういうと、テーブルにパチリと音を立てて金色のコインを置いた。
金…金貨!?

「ちょっ!!ソフィリアさん!多すぎます!!」

「はぁ…青葉は欲がないわね。
普通は小躍りして懐にしまうでしょ、青葉の真面目さは筋金入りね。
騎士である前に貴族なのよ私は、貴族が出したお金を引っ込めるなんてそんな恥ずかしい真似するわけないでしょ、そこは受け取っておきなさいよ」

「えっ、あっ…はいっ!ありがとうございます!」

「フッ、アハハハ!
本当に真面目でまっすぐ、騙されないか心配になってきたわ
なんかあったら直ぐに言いなさいよ、私かハイル様にでも、じゃぁね!
ご馳走様」

 そう言ってヘルムを掴むと、ヒラヒラと片手を振りながら店を出て行ったソフィリアさん、ずっと睨んだ顔ばかり見ていたけど、笑うとあんなに可愛いんだな…。
不機嫌騎士の不意打ち笑顔、ギャップ萌え!!などと、心の中でガッツポーズをしつつ、ぽけーっと、金貨を握りしめたまま扉を見つめてしまったのだった。


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