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第39話 感謝祭2

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 「初日は何事もなく終わりそうで良かった。」

 夕食後、戸締り確認のため1階に降りて来たゴコクと狐鈴、朝と変わりない様子の店内に安堵したゴコクは手持ちぶたさにカウンターの中でグラスを磨きながらポツリと呟いた。

すると、窓に張り付いて外を見ていた狐鈴が勢いよく振り返り

「お前!!それフラグやからな!」

「フラグって何だ?」

「かぁー、令和を生きる神使の癖にフラグも知らんのかいな、時代遅れのポンコツがっ」

「そう言うお前は現代かぶれの狐だな」

「なんや…んっ?」

 苛立たし気な声を出したが、何か気になったのか再び窓の外に視線を戻す狐鈴、祭りも終わり広場の灯りも消えているが、夜目のきく狐には関係ないらしい。

「何だ狐、好物のネズミでも居たのか?」

視線をグラスに戻して、グラス磨きを再開する。

「ちょっ、ちょっ、ちょっとゴコクはん…教会の方から修道服を着た女子が、こっ…コッチに向かって来てるんやけど…」

 その言葉を聞いた瞬間、バッと顔を上げすぐさま部屋の明かりを消して、狐鈴の張り付いている窓へと走り寄る。
目を凝らせば、月明かりの中を誰も居なくなった広場を迷いもせずにこちらに向かってくる修道女の姿、少し俯いているので顔は見えないが、妙に早足…もはや競歩…

「顔は見えないが、こんな時間に早足でこの店向かってくる修道女なんて、エリティナ以外いないだろうな…」

「めっちゃ早足!!怖い怖い!!
なんなん!?ホラー映画かいな!?」

「青葉は今…風呂か、降りてくる心配はないが」

「リンに青葉守るように言っとくわ」

「そうしてくれ」

そう伝えると、狐鈴が目を瞑る。
おそらくリンに話しかけているのだろう。

 エシュテル神が結界を張っているし、全ての扉は日本製の鍵と窓も破られないように防犯シートを貼っている。
そう簡単には突破できないだろう。
エシュテル神の神使といえど、自分達とは違いエリティナは生身の人間だ。
慌てる必要はない。
そう思いながら窓の外を見れば、ガラスに両手をついて、その窓ガラスに張り付くようにコチラを覗き込む感情の抜け落ちた様な表情の修道女…エリティナと…目が…合った…。

「…………」

「よっしゃコレで…。
えっ、ちょっ…ゴコクはん…止めてもらってえぇーですか?
普段、表情筋死んでるアンタが、そないな顔して外見て固まってるとか…それこそフラグやん…。
いややぁ…僕っ…外見たない…いややぁ……でも、でも気になるぅ…狐の性の好奇心の強さが恨めしい…絶対後悔するやつぅ……」

泣きそうな声をしながら、ギギギッと錆びついたロボットのようにぎこちなく窓に視線を向ければ

「……イッ…………イヤァァァァァァァァァァ!!
絶対!熱出た時に夢に出るやつぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

狐鈴が叫ぶと2階からガタンという音が響き、ゴコクが正気に戻る。

「バカ狐!!青葉が心配して降りてきたらどうする!!!」

「こここ、こないな妖怪見て!叫ばずにいられるかいな!!」

「いま あおばちゃんって いいました?」

 窓に白い息を吐きつけながら窓越しから響く、こもった様な女の声にゴコクと狐鈴が振り返ると、化け物を見るような目をしながら、首を左右にブンブンと振って否定する。

「いま いいましたよね?
あおばちゃん いるんですよね?」

ハァハァとなぜか呼吸の荒くなる聖女に、思わず日本の神使2人が思わず後ずさる

「ぜっ、前回よりもヤバさが増している…」

「ヤバさて…お前が動揺して今時の言葉使うって、相当やんか…
にしても、ほんにヤバイなこの女…エシュテル様が手を焼くんも納得や…」

「エリティナ、今すぐ教会へ戻れ…。
エシュテル神からも言われているはずだが?」

「せや!あんたさん聖女やろ!!
その姿どっからどう見ても聖女やなくて、化け物か悪質な犯罪者や!
神に使える身として恥ずかしくないんか!!」

「いえまったく おもいません」

「思えや!!!頼むから!!」

「……。」

「黙るな牛!!お前もなんか言うたれ!
あぁぁぁ…エシュテル様が来てくれはったら!
感謝祭の間は来れへんて、何でや!!」

「祭事中の神が忙しいのはお前も知ってるだろ…。
神使も忙しいはずなのに…」

「あおばちゃんに あわせ「るわけないやろ!!」」

そう狐鈴がキレると、聖女の目がスッと細められ狐鈴を睨みつける

「おまえ まさか あおばちゃんのことを…」

そう言うと同時に結界に揺らぎを感じて、思わずゴコクと狐鈴が身構える

「うそやん!?創造神の結界やのに!!?」

「よし!狐!
外行ってお前がエリティナと戦って来い。
将来青葉を僕のお嫁さんにするって、息巻いてただろ相討ちして構わない」

「よし!やない!!構うわ!!!
何しれっと、2人蹴落とそうとしとんねん!
お前が行けや!」

「あおばちゃんと…おなじくうきすってるだけでも にくらしいのに」

「あきませんやんこの女!
病み具合半端ない!
この世界にスマホあったら、今すぐイケ好かんハイルとか言う騎士に通報したるのに!!」

「確かに…あの騎士にも警戒を頼んでおけば…いや、聖女は捕まえられないだろ」

「なに言うてんねん、あの騎士かて上っ面こそ純真無垢な顔しとったけど、あんなのに限ってドエライ重くて黒い物持ってんねん、食事会の時に片鱗出とったしな、アイツなら本気で惚れてる女の為ならド汚い手でも笑顔でやって退けはるわ」

「はいる…あいつも あおばちゃんのことを…あいつが?」

「アカン…意図せず流れ弾が騎士にっ…」

「この世界の人間同士で相討ちしてくれた方が、高御産巣日神に迷惑がかからなくて都合は良い。」

「お前も大概やな…牛…」

「どいつもこいつも わたしの わたしの あおばちゃんを…」

怒りをはらんだ声に、さらに結界の揺らぎが大きくなると同時に、窓ガラスがピシッと、ひび割れるような音を立る。

「本格的にどうするか…」

「万が一の時は青葉のためや…外に出て一戦やり合うしか無いんとちゃう…。」

 最早それしか無いか、人間相手だと言うのに勝てる気がしない…。
気が進まないが、こんな女を青葉の元へ行かせるわけにはいかない。

「覚悟を決めるぞ狐…」

「ほんに罪な女やで青葉は…」

 ガタガタと揺れ始めた結界に康応するかの様に、建物も揺れ始めたのだった。




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