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第37話 急な連休

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 「えっ、お店に結界!?
それじゃぁ、お祭り行けないんですか…」

 明後日から始まる感謝祭、感謝祭の間は何処も店を休むと聞いて、それに倣い私達も5日間の連休に入る。
この国に来て初めての大きなお祭り、きっとゴコクさんと狐鈴さんと一緒ならお祭りを見て回れるんじゃないかと思っていたのだが、あっさりと打ち砕かれた。

「ゴメン、青葉…お祭りに行きたいとは思うけど、青葉の身の安全のためだから…」

「ほんにすまんなぁー青葉…、僕かて青葉とお祭りデートしたかったんやけど、エシュテル様が心配するほどの治安の悪さやねん」

 そう言って、2人は申し訳なさそうに眉を下げた。
非常に残念ではあるが、子供のように駄々をこねるわけにもいかないし、めんどくさい女と思われたくないし…。
ここは大人しく店で過ごす他あるまい。残念だけど…。

 シューちゃんや2人がここまで心配するのだから、よほどの事なのだろう。
ハイル様からも、人攫いが頻発していると聞いているし…。

 まぁ、皆が心配するのもの無理はない。
私のような標準的な日本人サイズの女であれば、この国の男性ならばいとも簡単にヒョイと攫えるだろう。
自分が首根っこ掴まれて、麻袋に放り込まれるまでの一連の動作が目に浮かぶ、非常に簡単そうだ…。

「いえ、気にしないでください。
私はこの世界に永住するんですから、チャンスは今年だけじゃありませんしね!」

「青葉…」

「青葉ほんにえぇー子過ぎる」

 ゴコクさんが感極まった顔をして、狐鈴さんは泣いてないのに涙を拭う動作をする。
狐鈴さん、京都ご出身なのでは無く大阪出身なのでは?と、思う今日この頃である。

「でも…5日間も家に居るとなると…こう言う時に映画とかドラマとかサブスクで観れたら良いんですけど、コチラには無いですから…すごく暇になりそう…」

うーん、っと私が唸っていると、ふと狐鈴さんが顔をあげる。

「いや、青葉…こっちでも観れるんとちゃう?
電気あるなら、ネットは無理でもテレビとBlu-rayのデッキさえあれば映画もドラマも観れるやろ?
何やったら、ゲームかてできるわ」

その言葉に、私とゴコクさんの目が見開かれる。

「狐鈴さん天才ですか!?」

「狐、お前たまには役に立つんだな」

「せやろー、もっと褒めてー青葉ー♡
クソ牛!お前は後で捌いたるからな!
と言うか、電気きとるんやから何で今まで気づかへんかったんや!?
普通気づくやろ…」

「確かに…でも!そうと決まれば!
何観ましょうか!?
向こうで今人気の映画って何ですかね?
うわぁー!急に引きこもり生活が楽しみになって来ました!
この際、ゲームもやってみようかなー
どうぶつの森ってゲームずっと気になってたんですよねー
ゲームってやった事なかったから、手を出せずにYouTube眺めてただけで、ふふふ」

「青葉、嬉しそう。
でも、5日じゃ足らないんじゃない?」

「せやなー、5日じゃ足らんかもなー
あつ森が発売された時も、宇迦様は1年くらいやり込んでたわ」

「えっ!?神様もゲームやるんですか!?」

「そりゃーゲームくらいやるやろ、うちの神様は事のほか日本のサブカル大好きやからな、アニメかて観てるし漫画なんて江戸時代から買うて集めてはるわ」

「江戸時代に漫画ってあったんですか!?」

「鳥獣戯画的な感じの物やけどな、牛んところはどないなん?」

「うちは一時期、B O N E Sって海外ドラマにハマってた。
人の死体が毎回出てくるから、神使は嫌がってたけど…」

「えっ…神様って死を嫌うものでは!?」

「まぁ、ドラマだし本当に死んでるわけじゃないから見てたんだと思うけど、Blu-ray全巻買ってたよ」

「思いもよらぬ情報を聞いて驚きです…」

 考えてみれば、タカちゃんに会うまで神様が本当に実在するとは思ってなかったし、人々の心の中に住む拠り所的なふわっとした感じで思っていたけれど、本当にあの社に存在している以上、現代の事にも詳しくて不思議はないか…。

 そんなことを考えていると、フワリとお香の香りがしたと思うと狐鈴さんが肩をくっ付けるようにピタリと私の横にく付く

「青葉、僕と一緒に映画鑑賞しよなー、やっぱり王道の恋愛ものがえぇーと思わん?」

 私の顔を上から見下ろす狐鈴さんは満面の笑みを浮かべている。
狐鈴さんがウキウキしちゃうのも分かる。
なんか、夏休みとか、合宿みたいでちょっと…いや、かなり私もワクワクしています!!

「青葉に触れるなゴミ
青葉、狐が邪魔するから観るなら俺の部屋で一緒にドラマでも観よう?
オススメを主人から聞いておくから」

「へっ、部屋ですか!?」

それは、いくら何でも…とドギマギしていると案の定、狐鈴さんの方から舌打ちが響く

「はぁー?ほんに嫌やわー、キッショい牛や!
青葉を部屋に連れ込もうとすんなやクソ牛!
お前こそ犯罪者や、お前も一緒にエシュテル様の結界に弾かれとけ変態」

「なんだと、狐…」

「喧嘩しないでください!
3人で観たら良いじゃないですか!
お泊まり会みたいで楽しいですよきっと!
そうだ!
テレビとかゲームとか許されるなら、向こうのお菓子も取り寄せられるのでは!?
久しぶりにポテトチップスとかジャンクなお菓子を食べたくないですか?」

「あぁー!それえぇーな!
僕、ピザポテトとハーゲンダッツのストロベリー味がえぇーわ!」

「かりん糖「ジャンクやないやろ」…あれも油で揚げてるだろ」

「まぁ、まぁー、かりん糖と、他には無いんですか?
あまり今時のお菓子って好きじゃないとかですか?」

「食べる機会が少ないだけ…菓子ではないけど、久しぶりに三ツ矢サイダーが飲みたい。
できれば瓶のやつ」

「あぁー!悔しいけど、それ僕も好きや!
瓶の三ツ矢サイダーって何であんな美味しいんやろな?
コンビニで気軽に買えへんのが悔しいわ、缶なんかよりよっぽど美味いのになー」

 えっ!?神使はコンビニ行くの!?人に見えないんじゃなかった!?と内心で反応しつつも、近くにあった仕入れ用紙に記入していく、今回の仕入用紙見た担当の神使さんが何事かと思うだろうな…。
コイツら!って、思われそう…。ちゃんとタカちゃんには後で私のお財布から補填で払っておこう。

 んふふ、お祭りは残念だったけど、お休み楽しみだなー!
自然と笑みが溢れてしまいワクワクとした気分で、仕入用紙に追加文を記入するのだった。






「ンフフフ、えへへへ、青葉ちゃーん待っててねー」

「神の話を聞きなさい!この罰当たり聖女!!
自分の役割放棄して、青葉ちゃんのとこ行ったら来年から感謝祭の間も教会から出さないわよ!!」

「もぉー、そんなに怒らないでくださいな、我が神
ちゃんとお仕事してから青葉ちゃんの処にぃー、えへへへ…はっ!?もしかしたら青葉ちゃんから会いに来て「ないない、絶対に無いから、向こうの神使にも変態聖女が来たら追い返してって念を押して頼んでるんだから」」

 相変わらずのエリティナに、思わず解雇したくなるのを何とか堪えて米神を抑える。

「はぁー、エリティナ、絶対に向こうの世界の方々に迷惑をかけないでちょうだい。
この世界の子なら百歩…千歩譲って許すけれど、あなたみたいな変態が青葉ちゃんに近寄るだけでも、タカちゃんに土下座ものよ…はぁ…」

「心配は要りませんわ、我が神!
向こうの世界の神使如き、私の青葉ちゃんへの愛があれば!うへへ、容易く超え「超えるな!手を出すな!近寄るなぁぁ!!!
あぁぁぁぁ…やっぱり教会から出したく無いわぁー」」

そう言いながら、ベルベット調の青い床にヘタリ込めば

「大丈夫ですか?我が神?お疲れですか?」

「誰のせいよ!分かってやってんのかしら!?もぉーーーーーー!!!」

 ヒステリーな声を上げながら、どうしたの?と言わんばかりの顔をした聖女を睨み上げるのだった。
頼んだわよ、ゴコク君!狐鈴君!!!





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