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第19話 特別
しおりを挟む「うぅ…熱は下がったみたいだけど身体がだるい…」
結局、丸2日も熱で寝込んでしまった…。
汗で濡れた体を起こし、はぁーっと盛大なため息をつく
熱で判断力が鈍っていたとはいえ…狐鈴様に子供のように甘えてしまった…
あぁぁ…私はなんて事をしてしまったんだ…
ベットの上で俯き両手で顔を覆う。
狐鈴様に風邪の時くらい甘えたら良いと言われて、狐鈴様の優しさにすっかり甘えてしまい
側にいてだの、アレが食べたいなどと…。
私としたことがっ!!!!!
バカ青葉!!!
相手はあの嫌味の化身の狐鈴様…しかも京都のご出身!!本音と建前で有名な京都!!
いや流石に病気の相手に…大体今時ねぇ…とは思いたいが、狐鈴様は由緒正しい神様の神使で、きっと私なんかよりよっぽど年上…。
治った後にどんな嫌味と仕打ちが待っているのか想像しただけで倒れ込みたくなる。
もう一回熱出ないかな…いや、いい加減!いつまで甘えてんねん!!とか、怒られるかもしれない。
起きよ…お風呂入って朝食の準備しよ…
潔くお叱りと嫌味を受け入れよう…。
ダル重い体に鞭打って、寝入っているリンを避けて部屋を出る。
シャワーを浴びてサッパリしたところで、いざ朝食の準備と思うが発熱後の特有の身体の怠さが抜けない。
まだ、夜明け前で薄暗いキッチンに灯りを付けて立って見れば綺麗に整頓されピカピカのキッチン
狐鈴様が片付けてくれたんだ…。
感謝致します。と、心の中で手を合わせる。
たまご粥すごく美味しかったな…聞いたらお出汁の取り方とか教えてくれるかな?
と、思うが脳内の狐鈴様が嫌そうな顔をして「はぁ?」と言う…。
申し訳ございません。と、脳内の狐鈴様に謝罪する。
大変なご迷惑をおかけしてしまったのだから何かお詫びをしないとな…
狐鈴様の好きな食べ物なんだろうか?
そんな事を思いながら、味噌汁の準備から開始する。
しばらくして、器によそれば完成!
と言うところで、かちゃりと扉の開く音がする。
狐鈴様が起きてきたらしい。
廊下の方を向けば、寝癖のついた寝ぼけ眼の狐鈴様が欠伸をしながらキッチンに入ってくる。
狐鈴様の無防備な姿に、ちょっと可愛い。などと不謹慎なことを思いつつ挨拶をする。
「おはようございます」
「んぁ…おはよ……う…」
狐鈴様の挨拶に不自然な間が開き、寝ぼけ眼から段々と覚醒していくのが見てとれた。
ヒィーーー!!!
いきなり嫌味ですか!?嫌味を仰られるんですか!?
先に看病して頂いた御礼を言わねば!!!
「あの「何で!?熱は!?」」
「えっ…えぇーと…狐鈴様に看病して頂けたお陰で…目が覚めたら下がっていましたので朝食の準備をと思いまして…」
そう答えると、盛大なため息が狐鈴様の口から漏れる
「はぁー…なんで青葉はそない頑張ってしまうん?
熱が下がったゆーて、直ぐに無理したらぶり返すかもしれんし、もう1日くらい寝てなあかんやろ
はよ部屋に戻り」
怒られるのかと思いきや、まるで優しく子供に言い聞かせるような言い方の狐鈴様に、大変ご無礼を承知で思ってしまうのですが…
いっ…嫌味が一言も出てこない!!!?
目の前にいるのは本当に狐鈴様ですか!?
初日にお会いした方と本当に同じ方!?
驚きのあまり固まっていると
「プッ!
いや、その顔何!?
自分どないな感情なん?
朝から笑かさんといて、アハハハハ!」
よく分からないけど、ご機嫌なのかな…?
ここは素直に従っておこう。
朝食も大過多準備は終わったんだし…。
「では、その…お言葉に甘えて…明日からは狐鈴様のご迷惑にならないように、ちゃんとやりますので…」
恐る恐る、そう伝えれば
「迷惑やない」
「えっ…?」
「迷惑なんかや無い
むしろ役得や、甘え下手な青葉が甘える姿は可愛げの塊やったし
可愛い青葉見たさに、もっと甘やかしたなるわ」
そう言ってニヤリと笑う狐鈴様の言葉に、羞恥心で一気に全身の体温が上がる
んなっ!!!!?
あああああああんなに可愛げがないって言ってたくせに!!
ななななななな何を急に!!!
目の前の狐鈴様はやっぱり別人だぁぁぁぁ!!!
「そそそそそんな事言って!!
私に可愛げなんてもの無いです!!
存在しません!!あったらここに居ませんしぃぃぃ!!」
恥ずかしさのあまり、そのまま狐鈴様の横を走り抜けて自分の部屋に逃げ込んだ。
落ち着け青葉…
狐鈴様は寝ぼけていたんだ。
もしくは私はまだ熱でうなされて、これは夢の中とか!!
そうだ!寝よう!もう一回寝よう!
そう言い聞かせて、布団の中に潜り込んで目を瞑る。
羞恥心で寝れない!!と、思っていたが病み上がりの体には、やはり睡眠が必要だったらしくあっという間に寝入ってしまった。
そんな青葉の姿をリンはベットサイドから眺めると、扉下の隙間から這い出て主人の元へ向かう。
「主人、青葉はんに何かしはったん?
顔真っ赤にして部屋戻ってきはったよ」
顔を洗っている主人にそう伝えれば
「青葉は可愛いなーって、言うただけや
照れる姿も可愛いかったわー、恋すると好きな相手の全部が可愛らしく見えるし、なんやキラキラ見えるしほんま凄いわー、ほんで幸せー言うもんを日々噛み締めてる。」
顔を拭きながら話す主人の言葉に、何それー?と可愛らしく小首を傾げるリン
「そんな事よりもリン、青葉が起きた事なんで教えに来んかったん?」
洗面台の端にちょこんと座っているリンに視線を向ければ
「ごめんね主人
青葉はんは、えぇー匂いするから寝入ってしまったんよ
起きはったの気づかんかった」
「その、ごめんね主人がマウントに聞こえるほど今の僕は重症や…
リンはえぇーな…青葉と同じ布団に寝れるんやから羨ましいわー」
「一緒に寝はったらえぇーのに、いつも主人は色んな女子とムグッ「リン!その女共と青葉は全く別!あれはただの遊びどころか一晩だけや!後で好きなだけ美味いもん食わせたるから、その話は絶対に!!ぜぇーったいに!!青葉の前でしたらあかんよ」」
リンの小さな口を指で摘んで黙らせると、コクリと頷いたリンを見て指を離すと
リンは掴まれた口周りの毛並みを前脚で整えながら狐鈴を見上げる。
「青葉はんは主人の特別なん?」
「そうやー特別も特別、青葉とは1日だけやなくて毎日ずーっと死ぬまで一緒におりたいんやから」
そう伝えれば、目を輝かせるリン
「主人と青葉はんが一緒にならはったら、リンも嬉しい」
「せやろせやろー!うちの式神はホンマにいい子やわー」
ヨシヨシとリンの体を撫でてやれば、それに擦り寄るリンに引き続き青葉の事を頼めば嬉しそうに青葉の部屋に戻っていくリン、ほんまに僕の式神は優秀や
そう思いつつ、キッチンに戻れば味噌汁とタラの煮付けの良い匂いが漂う。
初日と翌日は何とも思っていなかったくせに、今は青葉の手料理…と感動している自分がいる。
そんな事を思っていると、不意に気配を感じて後ろを振り向けば狐面をしたタカちゃん事、高御産巣日神が立っていた。
その手にある袋には、袋一杯に何かが詰め込まれているようだ。
「おはようございます高御産巣日神様、本日は随分とお早いですね」
「狐鈴も早いのー
いやな、青葉に美味いものを食べさせてやりたくてな、向こうの旬の物を色々と持ってきたんじゃ、それとアイスとゼリーもあるぞ、あと風邪薬と冷えピタとやらとー」
ごそごそと、袋の中身を確認しながら品名を挙げていく高御産巣日神様を見て思う。
青葉は神タラシなのではないかと…罪深い子やな青葉…っく…流石は僕の嫁やと内心思いつつ、高御産巣日神様から手渡された青葉へのお見舞いグッズを受け取る。
「青葉なら、もう熱は下がった言うて今朝の朝食は青葉が作りはったんです。
けど、病み上がりやからまだ寝とくように言うて部屋に戻したところです。」
「相変わらず青葉は無理をする子じゃな…
顔を見れんのは残念じゃったが明日は顔を見れそうじゃな、今日の所は青葉の朝食をありがたく頂くかのー
ゴコクにも伝えてやらんとな、彼奴め青葉が寝込んでおると聞いたら今すぐ帰ると子供のように駄々を捏ねおって大変じゃった。
相変わらず青葉の事になると、なりふり構わんから困ったもんじゃ」
その言葉に、ゴコクの青葉への執着ぶりが伺えイラっとする。
一生帰ってくんなやー!と、心の中で叫びつつ、さて…どうやってこちらに残ろうかと思考を巡らせるのだった。
その日の昼
「今日もお休み!?
青葉ちゃぁぁぁぁあぁぁん!!!!」
「うるさいぞ不審者!!
来週から営業って書いてあるだろうが!
毎日お前は!!迷惑だろっ!!さっさと昼飯食いにいくぞ!」
「青葉ちゃんの手作りご飯が食べたい!
青葉ちゃんに一目会いたいぃぃぃぃ!!」
ドアにへばりつくレイの首根っこを引っ掴み、ソラウが溜め息をつきながら引きずって行ったのだった。
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