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第18話 認めた

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 「あらら?
今日の夕飯は狐鈴君が担当なの?
青葉ちゃんは?」

夕飯時に昨日と同様、フラりと現れたエシュテル神
もちろん、エシュテル神の夕飯はバッチリ準備済みである。
この狐鈴様特製のいなり寿司とおばんざいの数々に舌鼓を打ってもらおうではないか
ニッコリと笑みを浮かべるが、頭の中は常に青葉が心配、青葉の様子を見に行きたい。で、いっぱいだ。

「おいでやすエシュテル様
青葉が熱出して寝込んではるんで、僕が代わりに夕食の準備を整えさせて頂きました。」

「えぇ!?青葉ちゃん熱出してるの!?
あらあら…明日来る時にでもお見舞いに何か果物でも持ってくるわね
この世界に来てから、ずっと頑張ってたから疲れが出ちゃったのかしら…
それにしても、ゴコク君惜しいことしたわね…看病で好感度アップのチャンスだったのに…」

そんなことを言いながら席につくエシュテル神の言葉に、今なんて?と、思わず眼を見開く

「まさか…ゴコクは青葉狙いでこの店に!?」

そう聞きながら氷の入ったグラスをカウンター越しに手渡し、レモンサワーをそのグラスに注ぎ入れていると、エシュテル神がムフフと笑い出す

「そうなのよー!ゴコク君は青葉ちゃんにゾッコンなのよー、でも青葉ちゃんってば鉄壁のガードだからゴコク君が恋心を抱いてることすら気づけてないんじゃ無いかしら?
まぁ、青葉ちゃんがここに来た理由が理由だからね…」

そう言いながらレモンサワーを一気に飲み干し、カァー!!生き返るわー!と、こちらの世界のオッサンのような声を上げる。
なんやて…ゴコクは青葉狙いでこの世界に来ている?
しかも、一つ屋根の下で生活?
いや…だが、哀れなことに青葉に相手にされていないと言う話ではないか、ざまぁ
まぁ…昨日の青葉の様子を見れば寄せ付けぬ感じ、壁を作っているのは何となく察していた。

「そう言えば、青葉がこの世界に来た理由は何なんです?」

お通しの揚げ豆腐をカウンターに置きながら問えば

「あらー、そんな事私の口からペラペラ言えないわよ
青葉ちゃんのプライベートな事だもの」

そう言うと、おいひぃーと満面の笑みで揚げ出し豆腐を頬張っているエシュテル神
口が硬い…
だがしかし、絶対に聞き出したる!
惚れた事を認めたくない葛藤から、惚れたもんはしゃーない!
さっ、切り替えてこーと、あっさり開き直って認めた自分
仕えている主人には大変申し訳ないが、如何にして此処に残るか、そして何よりも青葉に惚れてもらう事に!この狐鈴の嫁になって貰う事に全力を尽くす!
夫婦2人で料理屋とか、めっちゃえぇやんかー
僕も料理するの好きやしー
脳内の青葉は着物を着て旦那様と微笑んでいる。
ンフフ…狐鈴さんって名前で呼ばれるのもえぇーなー
内心でデレデレしながらも、表情には一歳出さず営業スマイルを貼り付けてエシュテル神から情報を引き出すことに専念する。

「流石は創造主様、口が硬くていらっしゃる
あっ、レモンサワーお代わりお継ぎしますねー
次は唐揚げ出すんですけど、ハイボールにしはりますか?」

「あらー、ハイボールも偶にはいいわねー!
狐鈴君も一緒に飲みましょうよー!」

「ほんなら、お言葉に甘えて僕も頂きますー」

かんぱーい!と日本式の音頭で酒を飲み始めた…

2時間後

「でねぇ~、ヒック…青葉ちゃんはそんな辛い思いをしてこっちに来たわけよぉ~
あんなに若いのにヒック、辛かったわよね…グスッこっちでは幸せに過ごしてもらいたいとぉ
私もヒック、思っててねぇ…うううぅっ」

「あぁ~エシュテル様、涙拭いて下さい
そないに他所の世界の人間に心砕いてくださるなんて、僕も感無量で泣けてきますわ…グスッ
僕も青葉には幸せになってもらいたい、いや!幸せにしてやりたい!」

「そうか!!ズビッ、若者よ!!青葉ちゃんを幸せにしてあげてちょうだい!!」

そう言うと、ガタリと立ち上がるエシュテル神が青葉ちゃんに幸あれ!と、日本酒を一気飲みしてのけ反ったまま後ろに倒れるのを慌てて抱き止める。
見れば、ンガァーとすごい寝息を立てて酔い潰れて寝ているエシュテル神

「ちょっ!!重い!!エシュテル様!!ここで寝んといて下さいよ!!」

青葉の話を聞き出したくて、ジャンジャン飲ませすぎたわ…
流石に床に寝かせとくわけにもいかずに、重い!!と言いながら背負って2階へ上がり、キッチン兼ダイニングに置いてあるソファーにエシュテル神を寝かせる。

「だぁー、疲れたわ…」

そのまま、ダイニングテーブルへ突っ伏す
それと同時に頭を抱えて唸る
唸りたくもなるやろ!!!
青葉がこの世界に来た理由が男に振られて、しかも理由が可愛げがないとか1人で生きていけそうとか…
だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
昨日と今朝の自分を張り倒したい!!!
地雷何回踏み抜いたんやぁぁぁぁぁぁ!!!
青葉が怒って出ていった理由もコレやんか…
あかんやん!!マイナスもマイナス!!超絶どん底からのスタート!!
むしろ僕、青葉に嫌われてるのとちゃうの!?
いや…いやいや、せやったら、あんな可愛らしく熱に浮かされながら「もう少しだけここに…」とか僕を引き留めたりせんやろ…
青葉のあの顔を思い出すだけで、ングッと声が出るほど胸がキュンとする自分の重傷具合
女なんて今まで何人も袖にしてきたというのに、クールな狐鈴は何処行きはったんや!?
そんな事を思ってる場合ちゃう!!問題は山積みや!
ゴコクのいぬ間に青葉との距離を詰めなければ…
そんな事を思案していると、リンがテーブルの上に静かに降り立つ

「主人、青葉はんが目を覚ましはって
シューちゃんのご飯が…ってつぶやいてはる」

「何やて?まさか、あの体でエシュテル様の夕飯作るつもりなん?」

慌てて、青葉の部屋に向かい扉の前まで来ると不意に開く扉
もちろん開けたのは、トロンとした目に顔を真っ赤にした青葉
その姿に、またもングッ!と声が出そうになり自分の胸を押さえつつ、頑張り屋さんにも程があるやろ!!僕がこの子のそばに居らなあかんやん!絶対嫁にする!!と内心で叫ぶ

「狐鈴様…すみません…シューちゃんの…」

青葉に名前を呼ばれるだけで、言い知れぬ幸福感に満たされながらも其れを堪えて、青葉を無言で横抱きにすると
ヒャッと可愛らしい声をあげる青葉に、アカン!!可愛すぎて死ねる!
しかも、エシュテル様の時は重く感じたのに、青葉は軽い!軽すぎる!しかも、めっちゃええ匂いするし!!
可愛すぎて死ねる!!✖️2
もしやこれが萌死ぬ!?それとも尊死!?
現代のサブカルに詳しい宇迦之御魂大神が、アニメや乙女ゲーをしながら叫ぶオタ用語を今まさに体感している。

「今は何も心配せんと寝とき、エシュテル様の夕食なら僕が用意したし、何なら酔い潰れて今、キッチンのソファーで寝てはるわ」

平静を装いベットにそっと壊れ物でも置くように青葉を下ろすと、布団をかけてやる。
ベットサイドに置いてあった濡れタオルを桶の水に浸して、しっかり絞り青葉の額に乗せてやると、掠れた声でありがとうございます。と小さく呟き、冷たいタオルが気持ちが良いのか目を細める青葉
ほんま!!!ほんまに!!何しても可愛いんやけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
と、内心で絶叫しつつ平常心を保つ

「これから夕食作るけど、青葉は何か食べたいものないん?
何でも作ったるから言うて」

ベットサイドに腰掛けて、青葉の顔にかかった濡れた前髪をそっと避けてやりながら問えば、寒いのか掛け布団を顔の半分まで引っ張り上げる青葉がモゴモゴと何事かを呟くので、何?と、耳を青葉の顔に寄せれば

「お出汁の効いた…卵粥が食べたいです…」

そう言い終えると、額だけを出して布団で顔を隠す青葉の姿をみて、もしや甘えるのが恥ずかしかったのか…と察する

なんなん?この可愛い生き物?
僕初めて見たんやけど?
僕が保護せな~

って!!
いや、こんなん甘えてるうちに入らんけども!!
もうダメや…僕の身がもたん…この短時間で何回惚れ直さなあかんの?
恋というものはこんなにも神使をアホにするのか?

「任せとき、風邪が一瞬で治るくらい美味いの作ったるわ」

そう言って、青葉の部屋を出る。

汚名返上のチャンス!!
すまんなー、ゴコクはん!!
アンタが居らん間に僕が青葉との距離をガッツリ詰めさせてもらうわ!!!!















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