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第7話 白骨化遺体
しおりを挟む鑑識と刑事が忙しなく出入りする2号館、その出入り口でヘルメットを被り、とび職の恰好をした男たちが不安そうに事を見守っている。
「地下の作業くらいなら出入り可能ですかね?」
「申し訳ないですが、建物への立ち入りは禁止です。」
ですよね…。と言う顔をして、分かりました。と現場監督の堀内が後ろを振り返り、作業員達に下がれ下がれと手で合図しながらスマホを耳に当てる。
「お世話になっております。丸島建設の堀内ですが、2号館の事なんですが一体何が…?
昼休憩から戻ったら警察の方がおられまして、はい、はい、えぇぇ!?あぁ…成程…それはお悔やみ申し上げます。はい、はい、こんな時に申し訳ないのですが…そうなると工期の調整のお話をさせて頂きたいのですが、大変な時に申し訳ありません。はい、はい、ではよろしくお願い致します。失礼致します。」
はぁ…と、溜め息をついた堀内が作業員達の方を振り返る
「すまないが今日の午後は休みだ。
見ての通り、この校舎で事件があったらしい。明日、明後日と今後の予定はこれから話し合うので、連絡が行くまで自宅待機だ。あと、SNSなんかでこの事書くなよ!うちの会社は容赦なく裁判するからなー、肝に銘じてよろしく頼む」
そう言うと作業員の1人が、スミマセンと手を挙げる。
どした?と聞けば
「あの、日雇いの俺らの日当は午後分減るって事ですか…」
「あぁ…会社に満額出るか確認するよ、事情が事情だから大丈夫だとは思うけど、それも追って連絡する。」
「分かりました…」
そう言って他の作業員達もゾロゾロと荷物を持って戻っていくが、不安気な顔をした2人の作業員がこちらをチラチラと伺いながら何事か話し合っている。何だ…?訝しむように、堀内は歩き出そうとした足を止めてその2人の方を向く
「何かあるなら言ってくれ、と言っても現状だと返答できない事が多いとは思うが」
「やっぱ言っといた方がいいって…」
「あぁ…」
だから何だ?何をそんなに勿体ぶる?医師が亡くなったと事務の方から聞いたが、この警察の量を見ればおそらく殺人…まさか何か見聞きしたのか?
「実は…地下一階の壁を剥がしていたら…壁の中から骨みたいなのが出てきて、小さいやつなんですけど…」
「はぁ!?それ本当に骨なのか、人の?」
「大正時代の建物だって言うし、入り込んで出れなくなって死んだ猫とか狸かかなって思ったんですけど、空洞になってる壁の間覗きこんだら下の方に他にも骨見たいの見えて…監督がさっき電話でお悔やみをって言ってたから、誰か死んだんですよね?人の骨かは分からないんですけど、何か関係あったらヤバいんじゃないかと思って、念の為に…」
「俺もその骨見たんすけど、動物の骨って言われたらそう見なくもないって言うか…人の指の一部みたいに見えなくもなかったすっ…、壁の空洞の床下に近い部分にあるんでちゃんと見えなかったすけど…、ちょうど警察いるし、見てもらった方が良いんじゃないっすか?」
2人の話に言葉を失う。正直なところ、こう言う仕事をしていると遺体が壁から、建物の下からなんて話を聞いた事がないわけじゃない。
だが、まさか、このタイミングで遭遇してしまうとは…。
「まずは、会社と大学の事務のか「今の話、詳しく聞かせて頂きたいのですが」」
突然かかった声に驚いて振り返れば、黒っぽいスーツを着た白髪がチラホラ混ざった40代後半くらいの男と、30代前半のグレーのスーツを着た五分刈り頭の男が、こちらを睨みつけるとまではいかないが、鋭い眼光で見ていた。うちの作業員にも堅気に見えない奴らがいるが…スーツを着て五分刈り頭にこの目つき、最早ヤの付くご職業の方にしか見えない。
だが、鑑識や警察の制服を着た人々が行き交うこの場所で、この迫力は刑事以外あり得ないだろうな…。
「あぁ…えぇーっと、もしかして警察の方ですかね?」
「はい、この事件を担当させて頂いている中央警察署の三郷と申します。
こっちは小林です。」
「どうも」と言いながら、小林が警察手帳を取り出してこちらに広げて見せる。
ドラマで見るやつ…と不謹慎な事を思いつつ、三郷を見る。
「その骨が見つかったのは地下って仰っていましたっけ、すみませんが案内してもらえますか?
あっ!丁度良いところに!岩田さん!ちょっといい?地下でさー、人骨みたいな物が出たらしいんだわ、ちょっと採取頼みたいんだけど」
規制線を潜って中に入ろうとした鑑識の制服を着た女性を呼び止めた三郷、女性は一瞬眉を寄せるも
「分かりました。
この荷物、ちょっと置いてくるんで少しお待ちください。」
涼やかな声で応えると、中へと入っていった。
マスクして帽子をかぶっているから年齢はわからないが20代か30代前半ってところだろうか?
「さて、お三方には申し訳ないですがお付き合いいただきますよ。」
三郷の言葉に、大の男3人が子供のように素直に頷き、程なくして戻ってきた岩田と共に6人で地下へと向かう。大正時代の建物だけあって、剥き出しのコンクリートの壁に大理石のようなデザインの手すり、そして剥き出しの配管はまるでホラーゲームにでも出てくる廃病院のようだ。地下は全部で20部屋あるが、全ての部屋が書庫や過去の書類などの物置になっていた。昔は、臨床の研究室があったそうだが、湿度が高すぎて研究室向きではないと言うことで上の階へと引っ越し、地下は倉庫となっていたと事務の方からは聞いていた。
今は、耐震工事のため部屋の荷物は全て運び出されて、何十年も積まれたままの段ボールの下はカビだらけだったらしく、そこかしこに黒いカビの跡が残っている。何より空気も悪く、澱んでいてカビ臭い。作業員達はフィルター付きのマスクを使用しているが、とてもじゃないがマスクなしで長時間はいたくない。
皆でマスクをして、作業員2人の案内の元に1番奥の部屋へと入る。電気はついているのに、壁が煤けているせいか何処となく暗く感じてしまう。一歩部屋に入れば、堀内の背筋がゾワリとしてブルリと身体が震えた。怖いと言うより、居たくない。そんな感情が湧き上がる気持ち悪い部屋だ。部屋には崩した壁が床に散らばり、コンクリートの大小様々な破片がそここかしこに転がっている。
「これです」
作業員の1人、鈴木が躊躇う事なく中にスイスイと破片を避けながら入って行き、コンクリの大きな破片の上に乗っていた小さな白い物を指さす。どうやら、骨の思しき物を避けておいたらしい。
すぐさま、岩田がその骨の元に近寄り手袋をはめた手で取り上げると、マジマジと見つめる。
コンクリを「あぶねっ!」と言いながら避けて入って行った小林は、そのまま剥がしていた壁の元まで歩いて行き、三郷は岩田の横で立ち止まる。
「あぁ…こりゃ間違いないね」
「はい。間違いなく指の一部です」
その言葉に出入り口で「えっ…」と、思わず声を上げてしまう。
横にいたもう1人の作業員の野崎も「マジで人の骨…」と呟いて固まっている。
「岩田さん、こっちも採取お願いします。
これも骨ですよ…こりゃ丸っと出てくるかもしれないですね」
壁の穴から身を乗り出し下を覗き込んでいた小林の言葉に、三郷がガシガシと乱暴に頭を掻くと溜め息をつく
「こりゃ参ったね…」
そう呟いた三郷の声が、やけに大きく部屋に響いた。
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