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57.本性
しおりを挟むファグレスが部屋の扉を開くと、騎士らしく?いや紳士らしく?扉を開けて、さぁーどうぞと中へと先に通される。「有り難うございます」と部屋へと入れば、ベッドが二つ置かれた少々手狭な部屋だ。
しかし、綺麗好きなミレットさんの宿なだけあって、部屋はとても綺麗でベッドメイキングも完璧、そんな部屋の窓側のベッドに腰掛ければ、扉を閉めたファグレスが向かいのベッドへと腰掛ける。
そう言えば、今日は非番なのかガチャガチャとうるさい金属製の防具を身に付けておらず。
至ってラフな茶色の革のブーツに、ネイビーのズボンに白シャツだ。
休日に、私がルークス奪還したせいでご迷惑をお掛けして面目ない…。
心の中で頭を抱えていると、ファグレスが早速口を開く
「本題に入る前に…タキナ殿にお聞きしたい事があるのですが、構わないでしょうか?」
「構いませんよ、何が聞きたいのですか?」
見るからに真面目、そんなファグレスが神妙な顔をして問うてくるのであれば、誠心誠意解答せなばなるまい。できる限りだけれど…内心でそんなことを思いつつ、ファグレスの顔を見る。
「タキナ殿はミッドラスを魔獣から救ったと聞いています。
だと言うのに、貴方は何一つ見返りを求めず…それどころか恩賞から逃げるようにミッドラスから去っている。何故なのですか?
私とて、男として生まれたからには武功を立て、栄誉を得たいと言う気持ちが有ったから騎士になったのです。大抵の者…いや、誰しもが得たいと思うことでしょう。
栄誉、権力、金、力、求めるものは違えど…他人よりも秀でた者になりたいと言う欲がある。
ほんの一端でしかありませんが、貴方の情報を集めさせて頂きました。
私がそれらを見て思った事は、貴方には欲がない…。それは、ドラゴンをも従わせる強大な力の余裕からなのですか?人とは違う種族だから故だからなのですか?
騎士という仕事柄、少し言葉を交わせばどの様な者か把握できる。ですが貴方は…貴方の本心、人柄が掴みきれない。まるで…いえ、すみません長々と話しすぎました。」
「まるで、側だけを取り繕って中身は空っぽの様だ。と?」
表情を変えず静かにファグレスへと問い掛ければ、ほんの一瞬だけファグレスの呼吸が乱れた気がした。
少し、意地の悪言い方だったかもしれない。だって、正直…腹立たしい。
ほんの少し、私の情報を聞いただけで知った様な口を聞くなと言ってやりたい…、だが図星なのだ。
私は人として何の厚みもない空っぽで薄っぺらい人間、それどころか、承認欲求の欲に塗れた薄汚い人間だ。神として善行を積んでいるつもりだが、元は小根の腐った私なのだから…言われなくてもわかってる…何度となくその件に関しては、自問自答を繰り返してるんです!!と内心で逆ギレする。
どんなに、神として正しく有ろうとしても…チラつくのは、この行動は全て私のただの自己満足だと言う事、結局他人からの評価で私は決まる。いや、神だって人々から認められているから神として存在している。
神とて他人の評価が必要…違う、神は最初から神なのだ。
私が元が人間だから…。
永遠に繰り返される自分自身の中での堂々巡りの問答、心が伴っている様でいない。
心がついてきていない。
心を、私自身を、どこかに…置き忘れている様な、そんな気がしてならない。
がっ、私の葛藤などファグレスには何一つ関係ないのだ。
これではただの八つ当たり、神とか言う前に大人気ないにも程がある。
「はぁ…、すみません、少し言葉が過ぎましたね。
ファグレスの言う通りです。
欲がない様に見えるのは……私には成すべき事があるからです。
全てが終わった後は、優雅な生活がしたいですから地位もお金も欲しいところですけど、正直、今も旅を続けるのにお金は必要としてますよ…切実に…。
ミッドラスから逃げたの件は、私の力を政治利用されない為です。」
「貴方ほどの力があればミッドラス自体の掌握も可能でしょう…ですが、そういう事にしておきましょう。
それで、なすべき事というのは先日話されていた奴隷の解放でしょうか?」
「それも勿論在りますが、1番はこの世界の救済です。」
「………世界の救済…」
イケオジがポカーンとした顔をしないで頂きたい。
厨二病という言葉はこの世界には無いですが!!!
この世界でも、痛々しい発言であることは間違いないでしょうからね!
世界の救済?はぁ?それって具体的にどう言うこと、どうやって?プロセスは?って、私だったら聞いちゃう。
「申し訳ありません…あまりに大きな話だったもので…。」
「いえ、そういう反応になるのが普通かと…その話に関しては少々説明が長くなってしまうので、本題を聞いた後に時間があればゆっくりお話ししますよ、ファグレスの納得のいくような解答ができなくて申し訳ありません。」
「いえ…、その解答こそがタキナ殿の人となりを表しているのかもしれません…。
タキナ殿が悪い方では無いという事は分かっているつもりです。
お時間をとらせてしまい申し訳ない。」
そう言うと、両手を膝の上に置いて頭を下げるファグレスに一瞬たじろいでしまう。
潔いイケオジ!!カッコイイイ!!などとくだらない事を考えている間に、頭を上げたファグレスがこちらを見る。
「私がここに来た理由をお話しさせて頂きますが、その後に、是非タキナ殿の言う世界の救済の話をお聞かせください。」
静かに微笑むファグレスは、何故だか…お父さん!!!と、言いたくなるような安心感があった。
ファグレスとの話し合いを終え、部屋に戻ると一同勢揃い。
アレイナが双子に文字を教え、リリーちゃんは何事かグレンに小言を言っている様子、このざわ付いた空間でよく寝てられるな!と言いたくなる状況で、ベッドでグースカ寝ているルークス、ロメーヌはこれから出かけます!と言わんばかりに髪の手入れをしていた。
広々としていた部屋と思っていたが、これだけの人数がいると狭いし、なんか暑苦しい…。
そんな一堂を見回すと、皆もこちらを見つめているので、都合が良いと口を開く
「私は2日後、ハイランジアの城へと向かいます。」
そう言い放つと、すかさずリリーちゃんがこちらに駆け寄り
「承知いたしましたタキナ様、リリーも同行いたします。」
「戦うなら僕も行きたいです。」
ウキウキとした声でグレンが手を挙げるが、「戦う予定はないですよ、話し合いに行くだけです」と告げれば、ションボリして手を下げるグレン
「…………えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?城!?
何故そんな話になるんですか!?
なんで、あっさり納得してらっしゃるんですかリリーさん!?」
常識人、アレイナの絶叫が部屋に響き渡ると流石に煩かったのか、ルークスが目をこすりながら起き上がる。
「あぁ…スミマセン、寝てました…何かありましたか…?」
寝癖のついた頭をポリポリと掻きながら、寝ぼけ眼のルークスの横にロメーヌがそっと座ると、ルークスの髪を櫛で梳かし始める。
「なんで急に城だなんてぇー、そんな話になってるんですぅー?
殴り込みぃーってやつですかぁー?」
「殴り込みじゃありませんよ、国王と話をするだけです。」
「え〝ぇっ!?国王!?
はっ!?城に行くならそれはそうか!!…とは言え!!え〝ぇぇっ!?」
再びアレイナの絶叫が響く
「落ち着いてくださいアレイナ、実は先程この国の騎士団長のファグレスと話をしまして…そのファグレスから、この国の政治家、貴族、騎士に至るまで国王から御達しがあったそうなんです。
黒髪の女を見つけたら、城へ連れて来るようにと…ファグレスからはハイランジアから出た方が良いと言われたのですが、奴隷について話すには又とないチャンスだと思いまして、国王と話をしに城へ行く事にしたんです。」
「タキナ様ってぇー、思慮深くて優しいと思わせてぇー、意外と拳で解決する事多いですよねぇー」
「ロメーヌ!!相手国王!殴らない!殴らないから!!!殴り込みじゃないから!!フラグやめて下さい!!」
「殴り込み?戦うってこと?やっぱり僕も行く!」
「戦いませんって!!!」
「リリーは常々思っておりました。
一々タキナ様のお手を煩わせずとも、リリーが国ごと消し飛ばせば、負の感情も生まれないし話は楽なのではないかと」
「ヤメテ!!!リリーちゃん!私がこの世界に来た意味!!」
「ナニモキコエナイ、コレハユメ…」
「あらぁー、じゃぁ、お姉さんが添い寝してあげてちゃうぅー♡」
目を瞑りベッドに戻っていくルークスの布団に、潜り込もうとする18禁エルフの腕をアレイナがガシリと掴むと、ベッドから引きずりだし、ロメーヌが「いやぁ~ん♡」と声をあげる。
「ちょっ!ロメーヌさん!!子供達のいる前で不謹慎ですよ!!!」
そんな状況を遠目から眺める双子
「なぁー、ルナ…やっぱりタキナ様について行くのは止めた方がいい気がしないか?」
「そう?戦うタキナ様は絶対カッコ良いと思うからルナは一緒に行きたいな、偉そうな権力者がタキナ様にボコボコにされるところ見たいもの」
「…ルッ…ルナ!!おっ、お前!!まさかドS!!?」
「ルカ煩い。」
数分後、ミレットが「うるさぁぁぁぁぁぁぁい!!」と怒鳴り込みに来るまで、タキナ一行の阿鼻叫喚は続いたのだった。
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