上 下
74 / 117

47ー2.双子の奴隷

しおりを挟む
 誰でもいい…

今すぐ俺達を…殺してくれ

そんな願いすら誰にも届かず、無情にも奴隷商人と大男がルナの服へと手を伸ばす。

がっ、突然大男が視界から消えた。

一体何が…

 違和感に気づいた奴隷商人が天を見上げ呆気に取られた様子でそれを眺めている。
次の瞬間、鎖の音が響いたと思えば、今度はドォン!!と言う音と共に、振動が走り砂埃が舞う。

 何が起こってるんだ…朦朧としつつも、何が起きたのか確認しようと頭を動かすが、痛みが強くなり眩暈が酷くなる。

 そんな痛みに耐えていると、路地の奥から女の声が響いた。
静かだが、楽しんでいるようにも思えるその声色に何故かゾワリと悪寒が走る。

「加虐芯が芽生える気持ち、私もよくわかりますよ
戦ってる最中と、人を人とも思わない人以下のクズを目の当たりにした時は、私の加虐心をくすぐります。
頭で思い描いた通りにクズを潰せたら気分爽快じゃないですか?
そう思いませんか?」

「一言一句、タキナ様の仰る通りです。
クズは無様に泣き叫んで命乞いをしながら死ねば良い。とリリーは考えます。」

「リッ、リリーちゃん…」

「弱い奴を踏み潰すのは楽しい」

「グッ…グレンまでっ…」

 子供の声…?少しずつ戻ってきた体の感覚と、意識、視界の端に入るのはローブを着た3人組、見れば石畳の上に這いつくばるように倒れている大男の姿、この3人は大男に一体何をしたんだ…?

「テメェ!!一体何しやがった!!魔術師か!?
商品に何しようが俺の勝手だろ!!!
くっ、口出しすんじゃね!!!」

 奴隷商人が怒鳴り散らすが、まるで恐れる様子のない3人
大男が痛みに呻きながら立ちあがろうと、膝をつく

「ゴミの分際でタキナ様に向かってテメェと言いましたか?
殺すぞカスがっ……タキナ様、このゴミカス2人はリリーが相手をしますのでお下がりください。」

「リリーちゃん…殺さない程度でお願いしますね。」

「善処します。」

 小さいローブが前に出ると、大きい方のローブはこちらへと歩み寄ってくる。
バクバクと心臓の音が速くなり呼吸が荒くなる。

殺される

 いや…先程自分から死を望んだのだ…それが叶うのなら…と、一瞬逃げようと体に力を入れたが、すぐに思い直して体から力を抜いて、地面にべたりと這いつくばる。地面の冷たさが、じわじわと体に伝わる。

できれば苦しまずに死にたい…ルナを見れば、ルナも察しているのか抵抗するそぶりもなく、目線でローブの女を追っている。

ごめんルナ…守れなくて…最早声を出すことも億劫うだ。

目の前で立ち止まったローブの女がしゃがみ込む、死を受け入れるためそっと目を閉じた。

 しかし、訪れたのは冷たい死ではなく、全身を覆うような暖かさだった。
驚いて目を開けば、薄緑のドームの中にいた。

「これは治療用の魔法ですよ、痛みは時期に引いてきますから、もう少しだけ我慢してくださいね。」

 優しい声で、ローブの女が声をかけてきた。
見上げれば、隙間から見えるのは黒い瞳に黒い髪…

「黒髪…」

そうポツリと呟けば、困ったように眉を下げた黒髪の女は

「心配しなくても、危害は加えませんよ」

そっと声をかけてくるその姿は確かに、ドラゴンを落としたと言う恐ろしい噂の主とはかけ離れている。

 優しく包まれるような暖かさと、黒髪…タキナ様と呼ばれていただろうか?そのタキナ様の優しい声に、張り詰めていたものが溶かされていくようで、涙が次々と溢れ出てくる。
 
 妹や女の前で泣くなんて情けないとわかっているのに、涙が止まらない。
あれだけ辛かった頭の痛みと眩暈も嘘のように引いていく、見ればルナも嗚咽を漏らしながら泣きじゃくっている。

 これは恐怖からじゃない。
俺と同じで、恐怖から解放された安心感からだろう。
あまりに泣き止まないルナに、タキナ様が治療の手を止めてルナの頭をそっと撫でてやれば、ルナがタキナ様の顔を見上げるとゆっくりと起き上がり、タキナ様に抱きついて今度は泣き始めた。

 汚い奴隷がそんな事をしたら、流石の命の恩人も激怒するのでは!?と、一瞬焦ったが、タキナ様は怒るどころか優しくルナの頭を撫でる。

「怖かったですね…もう大丈夫ですよ。
私がそばにいる限り、あなた達に危害は決して加えさせません、だからもう心配は入りませんよ」

泣きながら何度も頷くルナに、苦笑いしつつ自分も体を起こす。

「助けていただいて、本当にありがとうございました。
俺はルカ、そっちは双子の妹のルナです。
妹がお召し物を汚してしまってすみません…俺たち見ての通り奴隷で…お返しできる物が何もないんです…このご恩は必ず働いておか「いりませんよ」」

「えっ…」

「そんな物欲しかったら、もっとお金持ちそうな人を助けますよ
私があなた達を助けたのは、あなた達が辛い思いをさせられていたから、そして、このクズをギャフンと言わせたかったからですよ」

 そう言って、タキナ様が後ろを振り返ると、何をどうやったらそうなるのか、奴隷商人と大男は石畳を突き破り固い地面に頭から突き刺さっていた。

「………。」

その光景に言葉を失って、呆然と見つめていると

「タキナ様…」

 グレンと呼ばれた少年が、タキナ様の名を呼び表通りの方を見ると、タキナ様とリリーと呼ばれていた子供も勢いよく表通りの方を振り返った。

 何事か?と、つられてそちらを見れば現れたのはハイランジアの騎士、白髪混じりなので騎士の中でも上の方だろうと咄嗟に思う。

「これは一体…」

 裏通りの有り様を見た騎士がボソリと呟き、そのまま呆然と立ち尽くしていたのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...