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やばい部活に入る(エロ無し
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毎朝決まった時間に起床し着替えて校舎に向かう。
最初は規則正しい生活に少し慣れないところもあったけれど、1週間もすれば無事適応出来て、
毎日色んな奴らと関わりながら新しい事を学んでいくこの環境をなかなか悪くないと思えるようになった。
「おはよう」
「……っ、お、おは……よう……」
この間精気を吸って以来、俺はたまにノクスに話しかけるようになった。
教室の席は決められている訳ではないのでいつも適当に教室の隅で大人しくしているノクスを見かけては正面に座って挨拶している。
表情に出ない上、教科書の方を見ているのでわかり辛いけれどノクスは小さな声で挨拶を返してくれるので、
なかなかいじらしくてほんわり暖かい気持ちになる。
「そういえば……アロイス……さん、は、もう決めたのか?部活」
「部活?あー、そう言えばそんなのあったっけ」
少し前に担任から、俺たちの所属する高等部は全員1つは部活に入らないといけない、と言われていた気がする。
「荷物整理で忙しくて忘れた」
「そうか。
……今週末が期日だからな、
どこかへ入らないと一旦、強制的に校内清掃部に入る事になる」
「校内清掃かぁ……」
俺が事前に調べた校内生活における「部活」の位置付けは放課後、
青少年たちが自分の才能を伸ばしたり、趣味や打ち込めるものを見つけるために存在していると聞いているが、
いまいち校内清掃に打ち込めと言われても俺の琴線に触れない。
俺が露骨に嫌そうな顔をするとノクスは小さく笑った。
「僕は文学部に入っていてな。
もし、他に興味のある部活が見つからなければ歓迎する」
「ありがとう」
返事をしたところで授業の開始のベルが鳴り、俺は正面を向いて会話が終了した。
====
『脳幹に響く吹奏楽部』や『面白生物創造部』、
『槍術研究部』に『剣術指南部』などいろいろ巡り、いまいちどれもグッと来ず首を傾げる。
俺は緩く、信者集めついでに程よく目立たず束縛されず所属できる部活を探しているのに、
どれもこれも週8で活動とか、大会を目指しているとか、ノクスが紹介してくれた部活含めちょっとハードルが高すぎると思う。
部活の紹介をしている掲示板を眺め、まだ見に行っていない部活の中から目ぼしいものを探していた時、
不意に掲示板の下の方で、4つくらいの宣伝用ポスターの下に埋められほとんど隠れている『魔法料理研究部』の部員募集を発見した。
「へぇ、懐かしい」
邪神時代、信者に紛れ込んだ勇者一味の魔法料理研究家のおっさんに毒魔法のおやつを盛られ死にかけたものだ。
アレが無ければ勇者に勝てたと思うので、俺は魔法料理家には一目置いている。
『魔法料理研究部、部員募集中!
週の活動は0~1、気が向いた時におやつを食べに来よう⭐︎
ノルマ無し、10分からのショート活動OK!
明るくアットホームな部活です、
見学で今ならクッキー1袋プレゼント⭐︎
場所:第3旧校舎第5家庭科室』
「……丁度いい!!」
懐かしさと共にポスターをちゃんと確認して、思わず叫んでしまった。
あまりにちょうど良い入部の要項。
しかも『部室自体は毎日開けているので今からでも見学できる』と何とも味のある太い眉毛のハムスターみたいなどうみても手書きのキャラクターが吹き出しで喋っている。
本当に丁度いい。
俺のやる気のなさにあまりにマッチングした部活だ、
俺は早速部室として書かれている旧校舎の端の端のそのまた端、
第5家庭科室に向かった。
====
「失礼します」
旧校舎は寮からも今の真新しい石造りの新校舎からも遠いせいか、向かっているとどんどん人気が無くなり、
向かっていると廃墟感が強くて不安になった。
それでも10分ほど歩き草を踏みつけ、ようやくたどり着いた第5家庭科室のある校舎は、
一体何年前の建物か聞きたくなるほどボロくて、木造がギシギシうるさい建物とか転生後「アロイス」としては初めて見たので驚いた。
薄暗い廊下を、床を踏み抜いてしまわないか不安になりながら少し歩き、ようやく家庭科室を見つける。
入り口の壁を数回ノックしてから、
ぎし、ぎし、と建て付けの悪い引き戸を無理やりこじ開け室内を見回すと、
「誰も居な……ひっ」
その教室には異様な光景が広がっていた。
部屋の中は外観と違い、料理する部屋にふさわしく案外清潔にされているが、
部屋中がまるでお誕生日会でも開いたのか、と思うようなカラフルな飾りで装飾されている。
部屋の奥、黒板にはまるで俺を待ち構えていたように
「ようこそ新入部員♡」と書かれた垂れ幕がかかっているのに部屋は誰もおらず静まり返っていて、
教室の楽しげな雰囲気と室内に誰もいない、ただチクタクと時計の秒針が進む音だけが響く静けさがアンバランスで?どことなく不気味さを醸し出していた。
「……っ!?」
不意に視線を下にずらすと、ひんやりと隙間風の吹く教室、
真ん中の大きな机に1人の青年が背を向けて座っている事に気づく。
背の高い痩せた背中。
三角のパーティ帽子を被り、大きなケーキを前にして俯いていて、
邪神がいうのも変な話だが男がこの世のものではないように思え、ひゅ、と息が詰まった。
「こ、怖い……」
無数の足を持つ大イカの化け物クラーケンだろうが、ムキムキのおっさんだろうが、
力でねじ伏せられる相手なら恐れを感じる事は無いが、
あの、「おいでませ⭐︎」と書かれたタスキを掛けた青年はそういう次元では無く怖い。
底知れない威圧感を放っている。
逃げようと扉を引く。
クソ、立て付けが悪いので全然開かなかった。
俺が暴れたことで『がこんっ』と木製の扉は大きな音を立てて揺れ、それに反応し、ゆら、と不気味男は立ち上がる。
「……っ!」
「入部、希望者……?」
低くか細い声がした、もうだめだ、気づかれた。
全部の触手を総動員して男を鎮圧しよう。
覚悟を決め、背中からにょろ、と装備の触手の先っちょを出した瞬間、
濁って死んだ目をしていた青年が俺を捉えぱああ、と瞳を輝かせた。
そのまま俺に飛びついて両腕を掴み、俺に向かって笑顔のものすごい饒舌で話しかけて来る。
「え?……えっ?入部希望者!?何を見て来てくれた??先週のバザー?講堂の部活紹介ダンス?
いや、なんでも良いんだけど今後の参考にね?
あー!ごめんごめん先生ってば!……おやつ食べたいよね!?折角来てくれたし!
先生、たくさんクッキー焼いて待ってたからちょっと座って待って……あ、やっぱり先生と一緒に行こうか?
一番良いクッキーを見せてあげるね??」
「い、一番良いクッキーって何……?」
先生を自称しているので、この不審者は先生なのだろう。
先生は激しく興奮している様子で俺に捲し立てて勝手に俺に背中を向けようとしたが、
どうも隙を見せれば俺が逃げると勘づいたらしい。
向き直ると、先に奥の調理室らしきところに入れ、と俺をグイグイ押して促してくる。
「入部希望者く……ふふ違うか、部員くんだよねっ⭐︎
それじゃあ部員くん、早く進んで進んで。
お菓子を食べよう」
「……」
これ以上不審者を刺激しないほうがいい。
触手を使えば完全に制圧できるであろう相手に完全に心が屈している俺は頷き、調理室へ足を踏み入れた。
====
「……あれ意外と、まとも?」
調理室全体も綺麗に清掃されていて、芳醇なバターの香りが充満している。
窓際に置かれた銀の棚の上には4枚の鉄板、そのさらに上に色々な形をした焼き菓子が並んでいて、
どうやらこの美味しそうな匂いの発生源は焼きたてのクッキー達のようだ。
「焼きたてクッキーって美味しいよね、先生も好きだよ
ぶ・い・んくんっ⭐︎」
「アロイスです」
「ふふっお名前まで教えてくれて、さては入部する気満々だなぁアロイス部員くん!
さーて、アロイス部員は好きな味あるかな、それともかわいいクマさん型のほうが好きかな、ふふ、ふ。
入部すれば毎日クッキーを好きなだけ食べ放題!いくらでも焼いてあげる。
ささ、座って、もちろんお茶も飲み放題だからねっ」
『ほぴー』
先生は俺を椅子に座らせるとデカい角笛を吹く。
なんのつもりかわからないがこの部屋に今、先生を除けば入部希望者の俺しかいない理由は充分なほどに理解できた。
この顧問らしき異様なテンションの不審者先生が怖くてみんな逃げ出したのだろう。
友情の証に引き攣った笑顔を浮かべてくれているのは何よりだが、口の端がピクピクしててこれまた怖い。
「ここはお菓子を食べる部活なのか?魔法料理は?」
「はは、そんなに辛く考えないで、おやつを食べるだけの部活でいいからね!
かるーい気持ちで居てくれれば……あっ!
管理簿つけないといけないし、ここにサインだけしてくれる?」
「あの、先生これ」
「……えっ?……ま、魔法、料理……?!いま魔法料理、って言った……?」
お茶と、可愛い小皿に乗せられたクッキー、
ついでに管理簿と称し「入部届」と書かれた用紙まで渡された。
コイツ、教師のくせに詐欺を働こうとしている。
呆れて先生を睨んだが、先生は堪える様子もなくむしろわしっと肩を突然掴んできた。
「痛っ!?」
「魔法料理!?」
「は?」
怖い。
さっきまでよりさらに先生は興奮している、
瞳孔が完全に開き、声は俺たち2人しかいない部屋に響き渡るほどの大声だ。
「あ、アロイスくんは魔法料理に興味があるの!?本当に!?
おやつ目当てでも無くて!?魔法料理研究目当てで魔法料理研究部に!?
……あっ、おやつ目当てでも嬉しいんだけどね!?」
「ぐええ」
両肩を爪を立てて掴み、細い両腕のどこにそんな力があるのかわからないほどぐわんぐわん首を揺らされ三半規管逝きそう。
「……っ、あ、ご、ごめんね!先生、ちょっと大きい声出しちゃって」
「大きい声だけで片付くと思ってんのか?」
興奮が最高潮まで行ったところで先生のテンションは急に爆下がりし、
なんだか先ほどまでが嘘のように恥じらい自分の頬をペチペチ叩いている、
そんな可愛い動作をしたってタスキに三角帽の浮かれポンチルックは何も誤魔化せないのに。
「先生は昔から魔法料理が大好きで……世界を救った料理人、バルゲルグに憧れてたからこの部活を作ったんだけどね」
「はぁ……?あ、クッキーおいしい」
「っ」
さらに急に語り出した、ちなみにバルゲルグは俺に毒を盛ってきたおっさんの名だ。
「本当にすごいよね、料理で世界平和を掴んだなんて。
……けれど、魔法料理ってやっぱりマイナーなところがあるでしょう、『魔法か料理かでいいでーす』みたいな」
先生は初対面とは思えない至近距離に座り、肩を密着させたままポツポツ悲しげに続ける、
感情の起伏が激しすぎるしずっと勝手に喋っているし、挙句服装は浮かれポンチの変人なのだが、
こうしてすぐ近くで先生が儚げに笑っていると、元の線の細さも相まって、綺麗で薄幸な何かに見えなくもない。
俺はクッキーを褒めると一瞬ぐわってこっちを見て来たのが怖かったが。
「それで、今期『も』部員0ならもう部活は取り潰しって言われて……
ただでさえマイナー部活だからこんな、人のいない第3旧校舎の5番目の家庭科室なんてあてがわれたのに……」
「それでこんな準備を」
「いつ部員が来てくれてもいいよう毎日クッキー焼いたし飾り付けにしてました……」
「頑張るとこおかしくない?」
多分、先生の必死さが俺のよう折角訪ねてきた部員候補も根こそぎ追い出してしまったのだろう、
俺はクッキーを食べ終えると哀れな先生の淹れてくれた香り深い紅茶を少し飲み、入部届を差し返した。
「っ、や、やっぱりダメだよね……。ごめんね、うるさくして。
けど、アロイスくんのおかげで踏ん切りがついたかも。
ありがとう、先生はやっぱり沼魔法部副々々々々々々顧問として頑張、」
「これ入部届、書いたけど?
俺あんまり来れないけどいい?」
先生は勝手に自分に折り合いをつけ、人が折角サインしてやった入部届を見にせずに仕舞おうとするので一応入部の意思を声に出す。
俺が入部届に名前を書いた、そう理解するとぴたっと先生が硬直し、手元の入部届を凝視して目を飛び出そうなほど大きくかっぴらいていた。
「……えっ」
「せんせ、三角帽ズレて……まってなんで地面に座るの土下座しないで靴舐めないで」
かと思えば靴を舐めようとして来やがった、本当になんなのか、
そういう妖怪?
「けど、お礼なんてこれくらいしか……っ」
「怖い。
いらない、ほんっとうに要らない
お前の涎で靴が汚れる」
「ゔぉ……ぐすっ、ありがとう、アロイスくん……っ、嬉しい、本当に良かった……!
僕、やっぱり諦めきれなくて……っ!」
「……」
所属しているだけで感謝される、来ても来なくてもいいゆるい部活な上、部室は人気が全然ないところにあるので何かと人を呼んでも捗りそう。
そんな俺の需要を的確についた部活に入部しない理由がなかったのだが、
もはや渋る理由あったとしたら泣いて、感謝の意で靴を舐めようとしてくるこの先生だけだ。
今ぼろぼろ大粒の涙を流しているのも怖くて真顔で見つめてしまっていたが、
先生は我に返ったのかすく、と立ち上がる俺に手を伸ばして来た。
「……そ、それじゃあ改めて魔法料理顧問、シトリンです。
これからよろしく」
「うん、よろしくお願いします」
急に落ち着いたシトリンと握手を交わす。
これで校内清掃からも逃れられたし、まぁやっぱりこれで良かったのだろう。
ちょっと怖いけれど。
「あ、スマホ(※魔法で動く連絡用の板だが便宜上この世界ではスマホと呼ばれている事にするぞ!)に先生の連絡先入れてくれる?
嫌な事とか、部活を辞めたいとか、もちろんそれ以外も教えてくれたら先生がすぐに対応するし何時でも連絡してね、
あ、あと部室に来る時前日までに連絡貰えれば、先生が作るお菓子が豪華になります!」
「……」
胸を張ってすごい勢いで言われて入部を後悔し始めた。
スマホなんて今まで面倒そうで授業の連絡網くらいにしか使った事なかったが、
こんな、スマホを握って手をぷるぷるさせている先生に連絡先を教えて大丈夫なのだろうか、さらに面倒くさくなりそうだ。
「あの」
「これからよろしく、ね?」
全部を撤回しようと思ったが、シトリン先生はちょっと照れているようで顔が赤くして喜んでいて、
さっきの畳み掛けるような言葉も手の震えも、全部照れから来ていたのかと思うと不覚にも先生がちょっと可愛く見えてしまったので、
精気の供給先はいくらあっても困らないと思い結局連絡先は交換した。
====
エロがないので2話同時公開です
最初は規則正しい生活に少し慣れないところもあったけれど、1週間もすれば無事適応出来て、
毎日色んな奴らと関わりながら新しい事を学んでいくこの環境をなかなか悪くないと思えるようになった。
「おはよう」
「……っ、お、おは……よう……」
この間精気を吸って以来、俺はたまにノクスに話しかけるようになった。
教室の席は決められている訳ではないのでいつも適当に教室の隅で大人しくしているノクスを見かけては正面に座って挨拶している。
表情に出ない上、教科書の方を見ているのでわかり辛いけれどノクスは小さな声で挨拶を返してくれるので、
なかなかいじらしくてほんわり暖かい気持ちになる。
「そういえば……アロイス……さん、は、もう決めたのか?部活」
「部活?あー、そう言えばそんなのあったっけ」
少し前に担任から、俺たちの所属する高等部は全員1つは部活に入らないといけない、と言われていた気がする。
「荷物整理で忙しくて忘れた」
「そうか。
……今週末が期日だからな、
どこかへ入らないと一旦、強制的に校内清掃部に入る事になる」
「校内清掃かぁ……」
俺が事前に調べた校内生活における「部活」の位置付けは放課後、
青少年たちが自分の才能を伸ばしたり、趣味や打ち込めるものを見つけるために存在していると聞いているが、
いまいち校内清掃に打ち込めと言われても俺の琴線に触れない。
俺が露骨に嫌そうな顔をするとノクスは小さく笑った。
「僕は文学部に入っていてな。
もし、他に興味のある部活が見つからなければ歓迎する」
「ありがとう」
返事をしたところで授業の開始のベルが鳴り、俺は正面を向いて会話が終了した。
====
『脳幹に響く吹奏楽部』や『面白生物創造部』、
『槍術研究部』に『剣術指南部』などいろいろ巡り、いまいちどれもグッと来ず首を傾げる。
俺は緩く、信者集めついでに程よく目立たず束縛されず所属できる部活を探しているのに、
どれもこれも週8で活動とか、大会を目指しているとか、ノクスが紹介してくれた部活含めちょっとハードルが高すぎると思う。
部活の紹介をしている掲示板を眺め、まだ見に行っていない部活の中から目ぼしいものを探していた時、
不意に掲示板の下の方で、4つくらいの宣伝用ポスターの下に埋められほとんど隠れている『魔法料理研究部』の部員募集を発見した。
「へぇ、懐かしい」
邪神時代、信者に紛れ込んだ勇者一味の魔法料理研究家のおっさんに毒魔法のおやつを盛られ死にかけたものだ。
アレが無ければ勇者に勝てたと思うので、俺は魔法料理家には一目置いている。
『魔法料理研究部、部員募集中!
週の活動は0~1、気が向いた時におやつを食べに来よう⭐︎
ノルマ無し、10分からのショート活動OK!
明るくアットホームな部活です、
見学で今ならクッキー1袋プレゼント⭐︎
場所:第3旧校舎第5家庭科室』
「……丁度いい!!」
懐かしさと共にポスターをちゃんと確認して、思わず叫んでしまった。
あまりにちょうど良い入部の要項。
しかも『部室自体は毎日開けているので今からでも見学できる』と何とも味のある太い眉毛のハムスターみたいなどうみても手書きのキャラクターが吹き出しで喋っている。
本当に丁度いい。
俺のやる気のなさにあまりにマッチングした部活だ、
俺は早速部室として書かれている旧校舎の端の端のそのまた端、
第5家庭科室に向かった。
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「失礼します」
旧校舎は寮からも今の真新しい石造りの新校舎からも遠いせいか、向かっているとどんどん人気が無くなり、
向かっていると廃墟感が強くて不安になった。
それでも10分ほど歩き草を踏みつけ、ようやくたどり着いた第5家庭科室のある校舎は、
一体何年前の建物か聞きたくなるほどボロくて、木造がギシギシうるさい建物とか転生後「アロイス」としては初めて見たので驚いた。
薄暗い廊下を、床を踏み抜いてしまわないか不安になりながら少し歩き、ようやく家庭科室を見つける。
入り口の壁を数回ノックしてから、
ぎし、ぎし、と建て付けの悪い引き戸を無理やりこじ開け室内を見回すと、
「誰も居な……ひっ」
その教室には異様な光景が広がっていた。
部屋の中は外観と違い、料理する部屋にふさわしく案外清潔にされているが、
部屋中がまるでお誕生日会でも開いたのか、と思うようなカラフルな飾りで装飾されている。
部屋の奥、黒板にはまるで俺を待ち構えていたように
「ようこそ新入部員♡」と書かれた垂れ幕がかかっているのに部屋は誰もおらず静まり返っていて、
教室の楽しげな雰囲気と室内に誰もいない、ただチクタクと時計の秒針が進む音だけが響く静けさがアンバランスで?どことなく不気味さを醸し出していた。
「……っ!?」
不意に視線を下にずらすと、ひんやりと隙間風の吹く教室、
真ん中の大きな机に1人の青年が背を向けて座っている事に気づく。
背の高い痩せた背中。
三角のパーティ帽子を被り、大きなケーキを前にして俯いていて、
邪神がいうのも変な話だが男がこの世のものではないように思え、ひゅ、と息が詰まった。
「こ、怖い……」
無数の足を持つ大イカの化け物クラーケンだろうが、ムキムキのおっさんだろうが、
力でねじ伏せられる相手なら恐れを感じる事は無いが、
あの、「おいでませ⭐︎」と書かれたタスキを掛けた青年はそういう次元では無く怖い。
底知れない威圧感を放っている。
逃げようと扉を引く。
クソ、立て付けが悪いので全然開かなかった。
俺が暴れたことで『がこんっ』と木製の扉は大きな音を立てて揺れ、それに反応し、ゆら、と不気味男は立ち上がる。
「……っ!」
「入部、希望者……?」
低くか細い声がした、もうだめだ、気づかれた。
全部の触手を総動員して男を鎮圧しよう。
覚悟を決め、背中からにょろ、と装備の触手の先っちょを出した瞬間、
濁って死んだ目をしていた青年が俺を捉えぱああ、と瞳を輝かせた。
そのまま俺に飛びついて両腕を掴み、俺に向かって笑顔のものすごい饒舌で話しかけて来る。
「え?……えっ?入部希望者!?何を見て来てくれた??先週のバザー?講堂の部活紹介ダンス?
いや、なんでも良いんだけど今後の参考にね?
あー!ごめんごめん先生ってば!……おやつ食べたいよね!?折角来てくれたし!
先生、たくさんクッキー焼いて待ってたからちょっと座って待って……あ、やっぱり先生と一緒に行こうか?
一番良いクッキーを見せてあげるね??」
「い、一番良いクッキーって何……?」
先生を自称しているので、この不審者は先生なのだろう。
先生は激しく興奮している様子で俺に捲し立てて勝手に俺に背中を向けようとしたが、
どうも隙を見せれば俺が逃げると勘づいたらしい。
向き直ると、先に奥の調理室らしきところに入れ、と俺をグイグイ押して促してくる。
「入部希望者く……ふふ違うか、部員くんだよねっ⭐︎
それじゃあ部員くん、早く進んで進んで。
お菓子を食べよう」
「……」
これ以上不審者を刺激しないほうがいい。
触手を使えば完全に制圧できるであろう相手に完全に心が屈している俺は頷き、調理室へ足を踏み入れた。
====
「……あれ意外と、まとも?」
調理室全体も綺麗に清掃されていて、芳醇なバターの香りが充満している。
窓際に置かれた銀の棚の上には4枚の鉄板、そのさらに上に色々な形をした焼き菓子が並んでいて、
どうやらこの美味しそうな匂いの発生源は焼きたてのクッキー達のようだ。
「焼きたてクッキーって美味しいよね、先生も好きだよ
ぶ・い・んくんっ⭐︎」
「アロイスです」
「ふふっお名前まで教えてくれて、さては入部する気満々だなぁアロイス部員くん!
さーて、アロイス部員は好きな味あるかな、それともかわいいクマさん型のほうが好きかな、ふふ、ふ。
入部すれば毎日クッキーを好きなだけ食べ放題!いくらでも焼いてあげる。
ささ、座って、もちろんお茶も飲み放題だからねっ」
『ほぴー』
先生は俺を椅子に座らせるとデカい角笛を吹く。
なんのつもりかわからないがこの部屋に今、先生を除けば入部希望者の俺しかいない理由は充分なほどに理解できた。
この顧問らしき異様なテンションの不審者先生が怖くてみんな逃げ出したのだろう。
友情の証に引き攣った笑顔を浮かべてくれているのは何よりだが、口の端がピクピクしててこれまた怖い。
「ここはお菓子を食べる部活なのか?魔法料理は?」
「はは、そんなに辛く考えないで、おやつを食べるだけの部活でいいからね!
かるーい気持ちで居てくれれば……あっ!
管理簿つけないといけないし、ここにサインだけしてくれる?」
「あの、先生これ」
「……えっ?……ま、魔法、料理……?!いま魔法料理、って言った……?」
お茶と、可愛い小皿に乗せられたクッキー、
ついでに管理簿と称し「入部届」と書かれた用紙まで渡された。
コイツ、教師のくせに詐欺を働こうとしている。
呆れて先生を睨んだが、先生は堪える様子もなくむしろわしっと肩を突然掴んできた。
「痛っ!?」
「魔法料理!?」
「は?」
怖い。
さっきまでよりさらに先生は興奮している、
瞳孔が完全に開き、声は俺たち2人しかいない部屋に響き渡るほどの大声だ。
「あ、アロイスくんは魔法料理に興味があるの!?本当に!?
おやつ目当てでも無くて!?魔法料理研究目当てで魔法料理研究部に!?
……あっ、おやつ目当てでも嬉しいんだけどね!?」
「ぐええ」
両肩を爪を立てて掴み、細い両腕のどこにそんな力があるのかわからないほどぐわんぐわん首を揺らされ三半規管逝きそう。
「……っ、あ、ご、ごめんね!先生、ちょっと大きい声出しちゃって」
「大きい声だけで片付くと思ってんのか?」
興奮が最高潮まで行ったところで先生のテンションは急に爆下がりし、
なんだか先ほどまでが嘘のように恥じらい自分の頬をペチペチ叩いている、
そんな可愛い動作をしたってタスキに三角帽の浮かれポンチルックは何も誤魔化せないのに。
「先生は昔から魔法料理が大好きで……世界を救った料理人、バルゲルグに憧れてたからこの部活を作ったんだけどね」
「はぁ……?あ、クッキーおいしい」
「っ」
さらに急に語り出した、ちなみにバルゲルグは俺に毒を盛ってきたおっさんの名だ。
「本当にすごいよね、料理で世界平和を掴んだなんて。
……けれど、魔法料理ってやっぱりマイナーなところがあるでしょう、『魔法か料理かでいいでーす』みたいな」
先生は初対面とは思えない至近距離に座り、肩を密着させたままポツポツ悲しげに続ける、
感情の起伏が激しすぎるしずっと勝手に喋っているし、挙句服装は浮かれポンチの変人なのだが、
こうしてすぐ近くで先生が儚げに笑っていると、元の線の細さも相まって、綺麗で薄幸な何かに見えなくもない。
俺はクッキーを褒めると一瞬ぐわってこっちを見て来たのが怖かったが。
「それで、今期『も』部員0ならもう部活は取り潰しって言われて……
ただでさえマイナー部活だからこんな、人のいない第3旧校舎の5番目の家庭科室なんてあてがわれたのに……」
「それでこんな準備を」
「いつ部員が来てくれてもいいよう毎日クッキー焼いたし飾り付けにしてました……」
「頑張るとこおかしくない?」
多分、先生の必死さが俺のよう折角訪ねてきた部員候補も根こそぎ追い出してしまったのだろう、
俺はクッキーを食べ終えると哀れな先生の淹れてくれた香り深い紅茶を少し飲み、入部届を差し返した。
「っ、や、やっぱりダメだよね……。ごめんね、うるさくして。
けど、アロイスくんのおかげで踏ん切りがついたかも。
ありがとう、先生はやっぱり沼魔法部副々々々々々々顧問として頑張、」
「これ入部届、書いたけど?
俺あんまり来れないけどいい?」
先生は勝手に自分に折り合いをつけ、人が折角サインしてやった入部届を見にせずに仕舞おうとするので一応入部の意思を声に出す。
俺が入部届に名前を書いた、そう理解するとぴたっと先生が硬直し、手元の入部届を凝視して目を飛び出そうなほど大きくかっぴらいていた。
「……えっ」
「せんせ、三角帽ズレて……まってなんで地面に座るの土下座しないで靴舐めないで」
かと思えば靴を舐めようとして来やがった、本当になんなのか、
そういう妖怪?
「けど、お礼なんてこれくらいしか……っ」
「怖い。
いらない、ほんっとうに要らない
お前の涎で靴が汚れる」
「ゔぉ……ぐすっ、ありがとう、アロイスくん……っ、嬉しい、本当に良かった……!
僕、やっぱり諦めきれなくて……っ!」
「……」
所属しているだけで感謝される、来ても来なくてもいいゆるい部活な上、部室は人気が全然ないところにあるので何かと人を呼んでも捗りそう。
そんな俺の需要を的確についた部活に入部しない理由がなかったのだが、
もはや渋る理由あったとしたら泣いて、感謝の意で靴を舐めようとしてくるこの先生だけだ。
今ぼろぼろ大粒の涙を流しているのも怖くて真顔で見つめてしまっていたが、
先生は我に返ったのかすく、と立ち上がる俺に手を伸ばして来た。
「……そ、それじゃあ改めて魔法料理顧問、シトリンです。
これからよろしく」
「うん、よろしくお願いします」
急に落ち着いたシトリンと握手を交わす。
これで校内清掃からも逃れられたし、まぁやっぱりこれで良かったのだろう。
ちょっと怖いけれど。
「あ、スマホ(※魔法で動く連絡用の板だが便宜上この世界ではスマホと呼ばれている事にするぞ!)に先生の連絡先入れてくれる?
嫌な事とか、部活を辞めたいとか、もちろんそれ以外も教えてくれたら先生がすぐに対応するし何時でも連絡してね、
あ、あと部室に来る時前日までに連絡貰えれば、先生が作るお菓子が豪華になります!」
「……」
胸を張ってすごい勢いで言われて入部を後悔し始めた。
スマホなんて今まで面倒そうで授業の連絡網くらいにしか使った事なかったが、
こんな、スマホを握って手をぷるぷるさせている先生に連絡先を教えて大丈夫なのだろうか、さらに面倒くさくなりそうだ。
「あの」
「これからよろしく、ね?」
全部を撤回しようと思ったが、シトリン先生はちょっと照れているようで顔が赤くして喜んでいて、
さっきの畳み掛けるような言葉も手の震えも、全部照れから来ていたのかと思うと不覚にも先生がちょっと可愛く見えてしまったので、
精気の供給先はいくらあっても困らないと思い結局連絡先は交換した。
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エロがないので2話同時公開です
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それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
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